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第十八話   縛られる者、打ち破る者

 ――アイシャ視点。夜、街外れ。

 「来たね」

 呼び出された場所で待っていたのは、金髪に赤い帽子の女。そしてこの声……。

 「あんた、もしかして何日か前に昼に見た人?」

 「気付くの早いねー。あいつの言った通り、優秀みたいだね」

 帽子を脱いだそれはやはりあの時の女だ。まさか目標本人に話を聞いていただなんて。それに気が付かなかっただなんて。まざまざとカナタを奪われただなんて……。私の一生の恥だ!


 「カナタは?」

 「……どっちだと思う?」

 「聞いてるのは私だ! さっさと吐かないと本気で殺すぞ!」

 「あはは! 怖いねー」

 大袈裟なリアクションをする女。挑発だ。乗せられるな私。冷静に。


 息を整え剣を構える私。女もようやく話をする気になったようだ。

 「あの男は無事だよ。とは言ってもそう簡単には渡さないけれどね。どうだい? あたしに勝てたら返してやるよ。ついでに捕まってやる。でもあたしが勝ったら見逃してもらうよ。そしてあの男は殺させてもらう」

 「そうは行きません」

 「ええ。こちらは三人ですよ」

 女の斜め後方から囲むようにフューラとリサさんが来た。ここまでは作戦通り。後はこの女の武器をフューラが破壊し無力化、リサさんが身動きを封じ、私が気を失わせるだけ。


 「……ふふっ……あっはっはっ! それくらい読んでたっつーの! あたしが誰を拉致ったと思ってんだ? あんたらの動きは全部あいつに読まれてんだよ!」

 嘘だと思いたい。カナタがこいつに味方している? 裏切った私たちを裏切り返した?

 ……でもなんだろう、少し嬉しいんだ。カナタは私たちの動きを読めている。それはつまり、私たちをよく見ていてくれていた証拠だ。

 「あんたらは、あいつの考えを読めるか?」

 挑発するように投げかけられた言葉に、返答が出来ない自分がいる。それこそが答えだ。私は本当にカナタを裏切ってしまったんだ。

 気付けば私は戦意を失い剣を下ろしていた。私だけじゃないな。ここにいる三人ともが、あの女が出した質問に答えられないんだ。それを強く悔やんでいる。

 「アイシャさん!」

 リサさんの声が響いた。目の前にはあの女。私は急ぎ剣で防御するが、同じ人間だとは到底思えないとんでもなく重い拳を食らい、跳ね飛ばされた。

 「っ……たいなぁ! あんた本当に人間かよ!」

 「あっはっはっ! それにしては見事に着地したじゃないか」

 当たり前だ。これでも結構モンスターに弾き飛ばされているんだから! ……自慢にはならないけど。


 「青いのは武器を壊すしか出来ない。狐は人に向けて魔法が撃てない。そして小さいのは挑発に弱くてすぐ動揺する。あいつの言っていた通りか」

 カナタの奴……いや、元はといえば私たちのせいだ。

 「フューラ!」

 「む、無理です。だって、僕は人を傷付けられません」

 「リサさん!」

 「……わたくしは……人を殺めて……」

 駄目だ。二人ともカナタの予想したとおりになってる。過去に縛られて動けなくなってる。

 ならば私が過去を打ち破るまで。カナタはきっと、この女を通して私に弱点を教えたんだ。挑発に乗らず冷静に。動揺せず鋼の心で対峙する。

 ……出来るか? いや、出来なくちゃいけない。これはカナタが用意した試験なんだ。

 「おー、雰囲気が変わった。ここからが本番って訳だ」

 女は手に持っていた帽子を深くかぶり直した。あいつの戦闘スイッチみたいなものか。

 「一応聞いておくけど、カナタにはこの先何だって言われた?」

 「……少なくとも、そんな質問が来るとは聞いてないね」

 そうあっさりと手の内は明かさないか。


 息を整え、改めて剣を強く握る。本気を出す!

 「その腕もらう!」

 「やってみな!」

 全速力で駆け出した私。奴は体術使いだ。リーチの分こちらが有利……けど、それは間違いなく読まれている。

 右からの袈裟切り一発目。かなり手前から避けられてしまった。やっぱりか。

 切り返し左から右への横一直線。ギリギリで避けられた。

 「甘いね!」

 奴からの拳が飛んで来た。これは避けられない。

 「うあっ!」

 私は一か八か強引に体を反転させ、鞘で拳を受け止めた。それでも尋常じゃなく重い一撃は、私の全身に衝撃を与え、痛みとして駆け回った。

 「へぇー、鞘で防ぐか。これは、あいつが言っていた以上に鋭い動きをするね」

 「っ……称賛どうもっ!」

 かなり痛かったが、気にせず体ごと剣を振り回す私。

 「うおっ! と。へへっ、それじゃー次はこっちの番だ!」


 今の一撃でこいつが並の体術使いじゃない事は分かった。最大限の警戒。一瞬を見逃すと負ける。

 「っしゃあっ!」

 「なっ!?」

 並の体術使いじゃない? いや全然違う! こいつは私から見ても分かるほどに、体術なんてどこにもないんだ。とにかく馬鹿正直に一直線のパワープレイ。素人でももっとフェイントとか、そういう小細工をするよ? それでも繰り出される一撃はどれもが逸級の破壊力。

 私は足が速いから避けられているけど、普通の人間が食らえば間違いなく一発で骨がへし折られる強さだ。

 「うおるぁっ!」

 今だ!

 大振りになったタイミングを見計らい、私は動作魔法で風を起こし、奴の動きを封じると同時に風に乗り一気に後退。


 「アイシャさん!」

 「大丈夫!」

 リサさんの声だ。土煙が上がって視界から私が消えたのを心配したんだろう。

 「……何なんだよあんた。体術の達人かと思ったら素人みたいな、戦略も何もあったものじゃない力任せ一辺倒。それもカナタの入れ知恵?」

 「あー……いや。あはは、あたしこういう戦い方しか知らないんだよ。体術ってよりも喧嘩スタイルだね」

 土煙の向こうの声が、妙に気の抜けた普通の声になった。

 「……だからってナメてるとっ!」

 と思ったら土煙が収まらないうちに突っ込んできやがった! そして私が拳を避けると、そのまま背後にあった空き家の壁を粉砕し、衝撃波が家を貫通した!

 冗談じゃない、あんなのまともに食らったら私だって死ぬよ!?

 「ま、あいつには”俺を殺してもあいつらは殺すな”って言われちゃったからね。手加減はするよ」

 ……カナタの奴、あんたが死んだら私たちが謝れないじゃないか。それだけは絶対に許さない!


 「フューラ! 命令する! こいつを攻撃!」

 「いや、それは」「あの棒で殴るなりしなさい! そういう裏口どこかにあるでしょ!」

 自分で言っておいてとんでもない注文だ。でも、こいつは私だけでは止められない。何よりもカナタの予想を私たちが超えなくちゃいけないんだ。

 「リサさんも! トラウマ増やしたくなけりゃ何かして!」

 「そんな……ええ、何かしらお手伝いします!」

 リサさんは賢明だなあ。……と思ったら顔を背けている。見ずにどうにかするつもり? 本当、世間知らずの王女様なんだから。


 「作戦会議は終わりかい? じゃー再開だ!」

 今までのが前哨戦だったと思い知らされるラッシュが始まった。これは一度でも足を止めると負ける!

 こいつの攻撃はとにかく豪快だ。衝撃波で近所の空き家の壁などどんどん撃ち抜かれているし、私が土煙に隠れても、その土煙ごと吹き飛ばす。そういう戦い方だ。

 それでも私はまだ冷静。まだこいつの動きを見れる。……いや、最初よりも動きが分かるようになっている。そうか、あいつは短期決戦型なんだ。このまま体力切れを狙えば、あるいは……。

 「遅いっ!」

 一瞬の事だった。土煙を利用して逃げたつもりが、逆に回りこまれていた。どうやった? 瞬間移動されたような感覚だ。

 「っ!」

 私は剣で攻撃を防いだが、しかし張り付けにされてしまった。一発一発が異常なほど重い拳に、私よりも剣が先に折れそうだ。……というか、普通折れていてもおかしくはないのに、そんな気配は全くない。これがアーティファクトの力なのかな?


 ヒューー! と聞いた事のない甲高い音がしたと思ったら、シアが急降下し奴へと突っ込んできた。まさかシアが来るとは思っていなかった。

 「んなっ、なんだよこいつ! あ、あいつの言ってた鳥ってこいつか! おい、ちょっ、やめっ!」

 奴の頭を突付き始めたシア。おかげで私は一旦離脱。

 「シアもういい!」

 私の声を聞き、シアは近くの木に止まった。そして再度ヒューー! という音。これ、シアの鳴き声なんだ。初めて聞いた。

 「ったく……ってあたしの帽子は? あっ! お前返せよ!」

 シアは意地悪がてらまた飛び、帽子を木の頂点に引っ掛けた。

 「あーもー! あれ気に入ってたのにっ!」

 地団太を踏み悔しがってる。なんというか、根は可愛い人なんだな、と思ってしまった。


 「……いいよ、もうっ!」

 防御に徹していて結構体力を使ったのも事実。ここは言葉攻めで少しでも体力を回復させよう。

 「帽子がなくて力が出ない?」

 「残念そーいうのじゃねーから。ってかあの鳥あんたらのだろ? 帽子返せって言ってよ!」

 「私が勝ったら返してやるよ」

 すると奴は帽子の引っかかっている木に近付き、思いっきり蹴りを入れた。折る気!? と思ったら折れずに痛がっている。帽子も落ちてくる気配なし。

 「あはは! 馬っ鹿じゃないの?」

 しかしこのからかった一言が、奴に火をつけてしまったみたい。……私、結局愚かなままだ。


 無言で戦闘再開。でもこいつ、明らかに動きが良くなってる。帽子がないから? それとも本気で怒らせちゃった? どちらにしろ、こうなったのは私の馬鹿な言動のせいだ。

 私も攻撃を加えるが、近付けば拳が飛んでくる。剣を出せば足が飛んでくる。仕舞いには炎の魔法を衝撃波で消されてしまった。

 防戦一方ながらも身軽なのを利用して、壁蹴りや無理な方向転換を織り交ぜはするものの、やはり有効打が出ない。

 「ちっ」

 と奴が舌打ち。状況は私が劣勢のはず。なのに舌打ち?

 「うあっ」

 しまった! 舌打ちに気を取られ、石に引っかかって転んでしまった! 今のはわざとか!?

 「終わりだあっ!」

 奴はあっさりと家の屋根よりも高く跳ね飛び、勢いをつけて拳を振るう。

 「……んなところで負けられっかああああっ!!」

 私は、自分でもよく分からない動きをした。片手片足だけで自分の体を跳ね上げ、空中で半身捻り、その勢いのまま剣を振り回す。普通に考えたらまず出来ない動きだけど、何故か無意識に出来てしまった。


 「やべっ!」

 奴は防御体勢を取るが、空中なので身動きは出来ない。後は私の剣の錆となれ!

 「うおぁっ……んえ!?」

 私の剣を止めたのはフューラだった。そして自由落下を始める私を抱きかかえて、静かに降りてくれた。

 「ごめんなさい。でもこのままアイシャさんが振り切っていたら、この人を殺していました。アイシャさんには人殺しになってもらいたくありません」

 一方奴はリサさんが魔法で受け止めていた。

 「あのままだと体勢が崩れて頭から落下していたところです。いくら力があっても、あの高さで頭から落ちれば死にますよ?」

 「お、おう……あんがと」


 興醒めというのとは違うけれど、熱くなっていた自分を冷やす。冷静に、冷静に……。

 「……第二ラウンド、するの?」

 「あー……」

 と奴が迷った瞬間、フューラがライフルを奴の頭に向けた。リサさんも手のひらを向け、いつでも魔法は撃てる状態。

 「これだけは使いたくなかったんですけど、僕も人を殺せます。実際過去に大勢殺しました。だから僕はこの引き金を引く事が出来ます。僕は機械です。この距離で外す可能性は万に一つもありません」

 「わたくしも大勢の人を殺めた経験があります。あれ以来人に向かって魔法を使う事はしてきませんでしたが、しかしあなた一人を殺す事で助かる命があるのならば、躊躇なくその身を灰にして差し上げます」

 私が見た事のない二人の表情。フューラは声も表情も、まるで感情のない、本当に機械そのものになっている。リサさんは険しい表情で、いつものほんわかした雰囲気など微塵もない、まるで狩人だ。

 ……私だったら、こんな二人は相手にしたくない。


 「……あーわーったよ。降参します。あたしの負け。素直に捕まりますよ」

 両手を軽く上げ、そして膝をついた。

 リサさんは手を下ろしたが、フューラはより強くライフルを頭に押し付けた。まるで弾の出る一瞬すらも惜しむようだ。

 私は事前にシアに持たせていた縄を受け取り、後ろ手に縛り上げた。これで戦闘は終わりだ。そしてシアは約束どおり帽子を持ってきて、器用に奴の頭にかぶせた。

 「さて、次はカナタのところまで案内してもらうよ」

 「わーってるよ。ここから歩いて数分の場所。付いてきな」


 隠れ家に向かう最中、こんな事を言われた。

 「あいつ、あたしが勝つ事はないって断言したんだ。小さいのは追い込まれるほど強くなるってね。当たってたよ」

 「……いいから案内しなさいよ」

 「これでも最後本気出したんだけどなー。あんた戦う傍から強くなるんだもん。イラついて舌打ちしちゃったよ。あっはっはっ」

 あれって、そういう事だったんだ。……カナタ、そこまで読んでいたのかな?



 ――隠れ家。

 「空き家を勝手に使ってるんだよ。……これも罪になるのか?」

 「私に聞かないでよ。重犯罪の裁量は王様が決めるの」

 「なるほどね。……そこ、床に地下室への入り口があるから、そこにいるよ」

 床には大人一人がどうにか通れそうな入り口がある。奴の事はフューラに任せて、私とリサさんとで降りてみる。

 階段はあるが、明かりがなくて何も見えないな。

 「ホーリーライト」

 「あ、ありがとう」

 「いえいえ」

 いつものリサさんに戻ってる。その表情にほっとしている私。やっぱりリサさんは優しい笑顔じゃないと。


 地下室は中央に壁があり、コの字型になっていた。

 「カナター? 助けに来たよー?」

 「……」

 声がしない。物音もしない。奥まで来たけど人影なんてない。あいつ、まさか全部嘘でカナタを殺してから……。

 「ぅわっ!」

 「きゃあっ!! ……って、驚かさないでよ!」

 「あっはっはっ、ようやく来たな」

 カナタの奴驚かせやがって! とはいうものの、そういう冗談が出来るんだから安心した。


 地下室から出てくると、奴の警備など放り出して一目散にフューラがカナタに抱きついた。

 「ごめんなさい! 僕のせいで……こんな……こんなっ……」

 「鬼の目にも涙ならぬ、アンドロイドの目にも涙か。反省は家に帰ってからたっぷり聞いてやる。今はジリーを連れて帰る事が先決だ」

 「はい。ご命令の通りに! えへへ」

 泣きながらも本当にほっとした表情のフューラ。よかった。それを見て私も安心した。

 「あー、名前が出たから一応自己紹介しておくよ。あたしはジリー・エイス。お察しの通り、こことは違うところから来た人間だよ。大まかな話はカナタから聞いてる。……でも罪を犯したのは事実だ。この国の法に則って裁きを受けるつもり」

 やっぱり。だったらあの異様な強さも説明が付く。

 「えーっと……ごめんなさい! すみませんでした! 申し訳ありませんでした! 成り行きとはいえ、あんたらを巻き込んでしまった。謝って済む事じゃないけれど、それでも――」


 「見つけたぞー!」

 唐突に家の外から声が上がった。松明やランタンを持った連中がわらわらと集まり、瞬く間に包囲された。

 「まずいね、警備隊だ。このままじゃあんた諸とも私たちまで焼き殺されかねない」

 「僕が行きます。せめてもの罪滅ぼしをさせてください」

 私たちはカナタの合図を待った。

 「……分かった。だが誰一人として傷つけるなよ。それが条件だ」

 「はい。ご命令の通りに」

 「それはやめろっての」

 緊張感の漂う状況でこの二人の戯れを見ちゃうと、それだけで気が抜ける。

 「待て。あたしのせいでこうなったんだ、あたしが罰を受ければ済む」

 「違うよ。あいつらは法に則った罰を与えに来たんじゃない。法を無視してあんたを殺しに来たんだ。私に負けたあんたは、私に従え」

 「……はあ、分かったよ。勇者様」

 カナタから聞いていたんだ。そして分かってくれたという事は、少なくとも私たちが敵ではないと分かってくれている。


 「それでは、ネリデスール警備隊の無力化及び制圧を開始します」

 さっきも聞いた、機械そのものといった感じの感情のない声。私は嫌いだな。

 割れたガラス窓から外を確認。一見して五十人以上に囲まれている。剣や斧や槍に弓もいる。フューラはどうやってこれを制圧するんだろう?

 「警告します。武装を解除して大人しく帰ってください。さもなくば――」

 「あっ!」

 フューラの警告が終わる前に弓矢が飛んできて、フューラの胸に突き刺さった。痛そう……どころじゃないよね。普通ならば致命傷になりかねない。

 「……再度警告します。武装を解除して、大人しく帰ってください。さもなくば、強制的に無力化、制圧します」

 全く引かないフューラ。そして今度は数本の弓矢が飛んで来た。次々にフューラに突き刺さる弓矢。


 「武装解除の意思なしと判断し、強制無力化を実行します」

 宣言と同時にいつか見た黒い球体が何個も空に浮かんだ。夜空に黒い球体なので見分けが付きづらく、何個あるのかは分からない。だけど大量なのは確実。

 「な、なんだあれ?」

 警備隊もそれに気付いて一斉に空を見上げている。

 と、次の瞬間、球体から黒い矢が放たれた。一瞬だった。一瞬で五十人以上いた警備隊の武器が全て破壊された。剣は柄が溶かされ、斧は根元からもがれ、槍は真ん中から折れ、弓は糸の部分だけがきれいに切れている。しかも全員の武器が正確に同じ場所を射抜かれている。

 「フューラの奴、とんでもないな」

 「うん。……王都を一分で制圧出来るって言ってたの、あれ本当だったんだ」

 呆気に取られる私たち。警備隊も何が起こったのか理解出来ていない様子。

 「……でもフューラさん、悲しそうですよ」

 リサさんの一言でフューラに目が行った。そして、私の感想も同じだった。

 きっとフューラは死にたがっている。今回の事で私が出した結論だ。


 「あなたたちは無力化されました。これ以上手を出すのであれば、少々の怪我を覚悟してください」

 フューラの再度の警告だ。フューラは自分に刺さっている弓矢を何事もなかったかのように引き抜き捨てる。フューラの言ったとおり、すぐに傷が塞がった。

 「おやおや、これは穏やかではないね」

 誰? ……あ、最初のカジノのオーナーだ。そして後ろには更に数人。増援?

 「……なんだ賭博屋風情が! 我々の邪魔をするな!」

 「残念ながら、彼女たちは我がカジノの大切な客だ。この街の力関係、改めて教えてやろうか?」

 「……ちっ、覚えておけ。引くぞ!」

 あっさりと警備隊は引き上げた。それを見てフューラも普段の白衣に着替えた。全て終わった……というのはまだ早いけど、一安心。


 「どうして助けてくれたのさ?」

 食ってかかる気はないけど、どうしてもちょっと口調が強くなっちゃった。

 「はっはっはっ。私は言ったぞ? お前の事は知っていると。私たちは確かに悪役だ。だがな、客をないがしろにはしないんだよ。勇者様は先日私のカジノで散在しただろう? その礼だよ。そして――」

 後ろにいる部下からなにやら箱を受け取ったオーナー。開けるとお金が入っている。

 「君たちが散在したお金だ。返すよ」

 「えっ!? でもそれは正しく使ったお金だよ?」

 するとオーナーは私に小声で耳打ち。

 「正しくない勝ち方もあるんだよ」

 「……イカサマ、ね」

 全てが繋がった。リサさんはともかく、フューラですら全く当たりを引けなかった理由がこれか。

 「そういう事だ。昼に君たちの顔は見ていて知っていたんだが、私が指示を出す前に部下が搾り取っていた。だから正しくないんだよ」

 全てはこいつのせいか。……とはいえ、ある意味では感謝しなくちゃ。カナタがどれだけ私たちを見てくれていたのか、嫌というほどよく分かったから。


 「そうだ、これ。少ないけど今回の勉強代」

 私は布袋をカジノオーナーに渡した。

 「いや、そういうものは……」

 「これね、私たちが悪い事して儲けた汚れたお金なんだ。だからオーナーさん、あなたにあげる」

 さっきから黙って私に行く先を預けているカナタに目が行った。睨まれた。当然だよね。

 「あ、一ブロンズだけ抜かせてもらうね。今回の失態を忘れないようにしないと」

 すると隣で大きく溜め息を吐くカナタ。帰ったら、これでもかと謝ろう。

 「それじゃあこれはありがたく頂くよ。どうだ? 明日は真剣勝負で遊んでいかないか?」

 「あはは、やめておく。それ絶対真剣勝負じゃないもん」

 「おっと、信用されていないな」


 こうして私たちは無事に宿へと戻り、翌日には新しいテレポーターも来たので、王都へと帰る事が出来た。



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