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第百七十三話  カナタ、ブチギレる

 ――あれから数日。セプテンブリオス船上。

 本日、ついに俺が直々に”海底都市東京”へと乗り込む。

 「見えたよー!」というミア船長の声に、船室から顔を出した俺。遠くには確かに白い鉄塔の、その先端だけが顔を出している。

 ちなみに今回の船旅、なんとリサさんが酔っていない。最後のロイヤルリバースを期待したのだが、少々残念。


 「二回目だね」

 「ああ」

 柄にもなく緊張している……のかな? 意識せず生返事が出てしまった。

 それから数分、静かに停船し、縄梯子が下ろされた。

 溜め息をひとつして、アイシャが緩く気合を入れた。

 「よしっ、それじゃあ行こうか。ミアさん、今回こそ時間かかるかもしれないから、三日待って戻ってこなかったら、港に戻っちゃっていいよ」

 「あいよー分かってるよ。それじゃあ気を付けて行っといで」

 「はーい」

 俺たちが全員顔を見合わせ頷き、いざ水中へ。


 はしごを降りる途中、「あたっ!?」とすごい声がしたら、ジリーの尻が降ってきたのは内緒。巻き込まれて一緒に海中に落ちたのも内緒。

 「……はぁ」

 「ご、ごめん……」

 「怪我がなかったからいいけど、気を付けろよ」

 ジリーの平謝りを仕方なく受け止めつつ、さて海中へと進む。水中呼吸の魔法は三人が使えるので問題なく進行中。



 日の光が少しずつ届かなくなり、それに恐怖を覚えるかのように全員が手を取り沈んでゆく。

 「大分見えてきたな」

 「うん。あ、ちょっと止まって」

 というアイシャの言葉に、全員一旦停止。

 「シア、鳥に変身したままでもこの魔法って使える?」

 「問題ない。というか封印される訳ではないので、鳥のままでも全ての魔法が通常通り使える。一部人の姿でないと危険な魔法はあるがな」

 「分かった。んじゃシアはカナタの肩にとまって、カナタとジリーは乗り物の準備。フューラとリサさんも飛ぶ準備ね」

 そういえば前回は、記憶ではいきなり床が抜けたように落下したんだった。……この時代に来た時も床が抜けたっけ。


 全員準備完了し、シアは俺の肩……ではなく、自ら前カゴの中に入った。挨拶回りの時には肩に乗せていたんだが、バランスが悪かったからこちらのほうが楽だ。

 「あ、そういえばお前、自転車で移動した時そうしてたな」

 (うん)と嬉しそうに頷いている。ならば今度からはこの方法だ。

 「思い出す?」と人の後ろでニヤニヤしている女の子。だが俺はあえて反応しなかった。

 「……着く前にみんなに言っておく事がある」

 何だと全員が俺の顔を見た。俺はその全員の顔をしっかりと見返す。

 「俺はもう初代だ二代目だという細かい事は捨てる。一人の折地彼方として存在する事にした」

 「完全に吹っ切れた!」とモーリスが笑顔で喜び、それでみんなも笑顔になった。


 「そろそろ落ちるよ」というアイシャの言葉どおり、突然に空高くに放り出された俺たち。

 しかし事前にアイシャが策を講じたおかげで、余裕の降下だ。



 ――東京。

 上空から見た海底都市の光景は、確かに俺の知る東京だ。遠くには新宿のビル群も見える。……あれが都庁かな?

 「まずは……あそこの上に降りて」

 「はいよ」

 アイシャが指をさしたのは、周囲よりも頭ひとつ高いビル。看板には……ここからじゃ見えないな。


 到着し、スクーターは一旦仕舞った。

 「さーてと、ここは……あ、これ雷門か。っつー事は……」

 なんとなく場所を把握。雷門がここという事は西を向けば上野駅がある……はずなんだけど、障害物で見えない。しかし大体の位置は把握した。

 「今回はカナタの家まで一直線だね」

 「ここが本当に俺の知る東京ならな。しっかし皇居を挟んだ真逆だから時間かかるぞ」

 「んー、具体的にどこら辺なの?」

 「国立。って言っても分からんか。ここから電車で一時間くらいだ。……ってどっちにしろ分からないか。んー……」

 ちなみに自宅は中央線のすぐ近くであり、会社は中野だったので中央線一本で済んでいた。人身で遅延? 毎日の事じゃないか。

 「空からだったらどれくらいかかる?」

 「空からでも一時間近くかな。ま、考えても仕方ないから行くか」

 「うん」


 空から移動中。結構な高度を取っているので気付かれる事はあまりない様子。

 「私やっぱりこの動き苦手」

 「んー、運転下手になったかなぁ」

 「あはは、そうじゃなくて、人の動き。二分経ったら戻るの繰り返してるでしょ? それに酔う感じ。前の時も気分悪くしたんだ」

 「なるほどな」

 ちなみに現在は皇居の北側かな。首都高環状線が見えている。

 「あ、ねえ。そこの森って何? 他は建物がぎっしりだけど、そこだけ緑だよね?」

 「ああ。そこがこの国の……王ではないか。国の象徴が住んでる場所。ほら、魔族領だとオムケルヒトさんが実質上のトップだけど、シアには頭が上がらないだろ? だけどシアは実権を持っていない。そんな感じ」

 「……やっぱり私には政治は分かんないや。あはは」

 「一番お前らしい答えだな。ははは」


 それから三十分ほど。

 「あー飽きたーねーまだー?」

 「今……調布かな。だからもう少しだよ」

 「ちょーふー……ふぅ」「やめいっ! 人の耳に息吹きかけてんじゃねーよ! 落とすぞ!」「あははは!」

 ったくこのガキは。

 それからしばらく。左手に多摩川が見えてきた。そろそろだな。

 「一旦河川敷に降りるぞ」



 俺たちが降りたのは、京王線の橋梁が架かる場所。

 「見覚えあるだろ?」

 「うん。カナタとシアが私たちの時代に飛んだ場所だよね」

 「正解。ここは堤防が高くて外からは見えないし、周りが住宅地で昼間は人通りもないし、橋脚の下なら音が出ても気付かれないと踏んだんだよ」

 事実素晴らしく静かである。

 「さて、ちょっと待ってろ。住所確認してくる」

 「一人で大丈夫?」

 「少なくともお前らの中では一番大丈夫だ」

 全員これでもかと心配そうだが、俺は髪の色がビューティフルな事以外はこの時代の人間だ。人間じゃないけど。


 堤防を上り、近くの道路を横断し、林を抜けて住宅街へ。

 んー……あった。あ、ここ四谷か。よし、分かった。

 また林を抜けて近くの道路を横断し堤防を超えて連中の元へ。

 「え、早っ!?」

 「すぐ分かったからな。移動するぞー」

 ちなみにシアはカゴに入ったままで、リサさんは再度魔力の痕跡を探っていた様子。


 自宅までの移動中、モーリスからこんな質問。

 「お兄ちゃんは本当に戻る気ないの?」

 「何だ、お前なら俺の心の中覗けるだろ」

 「そうだけど、言葉で聞きたい」

 すると全員が頷いた。ここで俺が心変わりするんじゃないかと不安に思ったか。

 「……確かにこっちのほうが馴染みがあるけど、今更戻るつもりはない。全く無いっ! 理由を挙げるとすれば、お前らの面倒を見なきゃいかん事と、こいつの事だな」

 手を伸ばし、こっちに背を向けてるシアの頭を人差し指で軽く弾いた。

 「お前だったらきっと鳥になってでも俺についてくるだろ」(うん)と即答。

 「二度脱走して俺のところに戻ってきた時、とんでもない奴に懐かれたものだと呆れたけど、本当に呆れるべきは俺自身だったな。……だから、俺はもうここに戻るつもりはない。ここは俺の住んでいい世界じゃない」


 しばらくすると我が家が見えてきた。赤い屋根のボロアパート。国立という街には似つかわしくないが、それは守銭奴の大家が外壁工事を渋っているせいだ。

 「ねえ、カナタいた?」

 「ここにいるぞ?」

 「あ、あはは。そうじゃなくって、こっちの時代のカナタ。ほら、前の時は私たち鉢合わせしたから」

 あー。しかし見回した感じ、俺はいない。

 「大丈夫だろ。それじゃあ降りるぞ」

 正直、それが起こったらどうなるのかと我ながら興味がある。もちろん危険性があるのは目に見えているので、無理はしない。



 ――東京の自宅。

 ボロい鉄階段を上がり、一番奥の部屋へ。

 「この扉、鉄に木の絵が描いてあるんでしょ? オシャレだよね」

 ……俺はその感性を疑おう。

 さて少々興味があったので、玄関の横にある電気メーターを確認してみた。しっかり動いているが、二分後には……っと戻った。つまり電気使い放題だ! いや、違うか。

 「何?」

 「ちょっとした確認。お前には言っても絶対に分からない」

 「ぶーぶー」

 頬を膨らませる世界を救った勇者様。


 ドアノブに手を伸ばし、鍵がかかっている事も覚悟しつつ捻る。

 「本当に無用心だなおい」

 あっさりと開きやがった。

 「……あ」

 玄関ドアを開けた瞬間に、その理由が俺の視界に飛び込んできた。そりゃ鍵かけないなと我ながら納得。それもそのはず、テレビが点いており、それを俺が見ていた。

 って、いいのか?? いきなり全部の並行世界が繋がって崩壊なんてバッドエンド厨二展開にならねーだろーな?? さすがに俺のせいで世界が強制終了とか笑えないぞ。

 「リサさん」「異変はありません」即答っ! そして一安心っ!

 「……よし、それじゃーおじゃ……まじゃねーな俺の家だもん。ただいまー」

 と言った瞬間、あっちの俺が俺を見た。一瞬で固まる俺。あっちの俺が立ち上がり、俺のほうへ。

 「……っておいっ!」とあっちの俺にツッコミを入れてしまった。あっちの俺、トイレに行きました。

 しかし三十……今八歳か? 随分老けたな俺。ちょっと髪の毛が薄くなってきてたし、白髪もチラホラ。


 まあいいや。とりあえず部屋へ。

 「あ、カナタ!」とアイシャに呼び止められたので「ん?」と振り向くと、俺の足元を指差している。

 「靴脱がないと!」

 ……うわぁ、俺そこまであっちの世界に染まってたのか。自分でもびっくり、というか凹む。

 「はぁ、どっちにしろもう戻れないなこれ」

 決めた。これが最後の東京旅行。



 「カナタの記憶どおり?」

 「んー……まずは粗探ししてからだな。みんなの記憶からも変わってるものを探せ」

 という事で、一種の間違い探しスタート……と思ったらトイレの水が流れる音がして、俺が出てきた。

 「先にこっち。おりゃっ!」とあっちの俺の手を叩いてみたんだが、触れられなかった。感触も何もなくただ通過しただけ。

 「こりゃーホログラムだと思ったほうがいいな。すこぶる心臓に悪いけど」

 なにせ俺がそこに居るんだから、幽体離脱しているような気分になる。

 ちなみにあっちの俺は、今日は休日のようでソファに座って悠々とテレビを見ている。


 お、テレビの横に新聞発見。どれどれ?

 「んー……十五年前の危機……? そんな事件なかったけどなぁ」

 「何?」と何事にも頭を突っ込みたがる小さい子が来た。

 「新聞ではこの時代の十五年前に、世界が滅びかけたんだとさ。だけど俺はそんな事知らん」

 「んー、それじゃあカナタはそういう事がなかった世界の人なんだね。そしてあっちのカナタはそういう事があった世界の……折地彼方」

 あえて呼称を変えたか。しかしアイシャのこの考えがもっとも答えに近いだろう。

 ……しかし世界滅亡の危機って何があったんだ? こういう時こその新聞なのに、何も書いていない。


 気を取り直して間違い探し再開。

 ……これさ、テレビを見ている中年の周りで家を漁る変な格好の連中っていう、とんでもなくシュールな光景になっちゃってるんだけど。

 「ぶふーっ!」

 皆々様の想像通り、モーリスが盛大に吹きました。


 「そうだカナタさん。パソコン動かせますか?」

 「出来るけど、大丈夫なのかは保証しないぞ」

 とりあえずフューラの提案に乗るが、さてどうなる事か。

 ……普通に起動した。あっちの俺は……無反応。もしかして狭間にあるこういうのは、共有はされてるけど元世界には影響しないのかも。どういう原理かは当然知らん。

 「とりあえず適当にフォルダ漁るかなー」と呟くと同時に全て立ち上がりデスクトップ画面が表示されたのだが、間違いなく俺の使っていた壁紙ではなくなっている。

 俺が使っていた壁紙は、2003年にこの星を旅立ち、満身創痍になりながらも2010年に無事帰還した、小惑星探査機「はやぶさ」の、最期のシーンだ。しかしこちらはオレンジ色した妙にファンシーな壁紙。プロパティを開いてはやぶさの壁紙があるか見てみると……無い。

 「はぁ、少なくともこれは俺の使ってたパソコンじゃねーな」

 「それじゃあ遠慮なくデータを探れますね」

 「……お前は鬼か」

 「僕は機械で」「そのネタ飽きた」「はぅっ!」


 さてさて、まずはお仕事フォルダをご開帳。

 「んー、さすが俺。中々の仕事量だ」

 最新のファイルを開き、今は何のお仕事中なのかなー?

 「……んげ……」「どうしました?」

 「こいつ、俺とは違う会社に就職してやがる。俺の取引先でな、結構いい会社だ。出版取次って言って、平たく言えば本の卸売業者。……しかもこいつ、課長になってんのか! っはー、俺が床に頭こすり付けて謝ったあの馬鹿課長が、別の世界では俺だったとはなぁ。畜生羨ましい」


 「カナタの会社ってどんなだったの?」

 アイシャの声に振り向くと、全員こっちを覗きに来ていた。お前ら粗探しはどうした?

 「一言、ブラック」

 「……何?」

 「あー、そもそもブラック企業っての自体が分からないか。シアなら知ってるはずだが、俺は六時出勤の翌日二時三時に帰宅していた。つまり睡眠時間三時間程度。しかも八時間労働の分しか給料が出ず、残業代ゼロ」

 「は!?」

 ははは、シアは苦笑いして、他全員が絶句している。


 「……ぼくよりもひどい」と申し訳なさそうに呟いたモーリス。

 「んあっはっはっ! マジで奴隷のお前のほうが健康生活してたよ。俺が作り物の人間じゃなけりゃ、とっくに死んでただろうな」

 ちなみにだが、これは最終盤の一ヶ月ほどでの事であって、俺が二十代の頃はもっと普通の会社だった。……いや、入社一ヶ月で終電残業が当たり前な時点で普通じゃないな。しかし残業代は出ていた。

 「だから……って訳でもないんだが、俺はこの時代に来られてよかったと思ってる。フューラ。お前は自分が機械になり切る事で過去を無価値にしようとした。その気持ち、よぉぉぉく分かるぞ。はっはっはっ」

 「あ、えっと、なんと言えば……」

 その表情が面白いので、放置しておこう。



 それでは次にマイドキュメントの画像フォルダを漁ってまいりましょう。

 「んふふーん、人のパソコンを漁るのってこんなにも楽しいんだなー」

 「僕はそこまで見てませんからね?」

 「見ててもいいけど、どうせろくな物入ってないぞ。エロフォルダなんて持ってなかったし、そういう事考えられるような余裕のある仕事じゃなかったからな。大体少子化だなんだって騒ぐなら、まずは出会いの時間と子供作って育てられる環境を整備しろって話でだなー」「カナタさん話が脱線してます」「おっと」

 苦笑いするフューラを横目に、さらに探る。

 「……ん? ……は!? え、何こいつ……なっ………………はあああ!?」

 とんでもない画像を発見してしまい、俺の怒りが一気に天井をぶち破った。


 「ってめー! 俺がこんだけ悲惨な人生歩んでるってのに、てめーはこん……こんな……ちくしょーめえええっ!」

 こいつ、この、あいつ! あいつ、結婚してやがった!! しかも嫁さん美人で五歳くらいの女の子までいる!!

 「くぉーんの野郎ぁっ!!」

 思わず近くにあった雑誌を掴み丸め、あっちの俺を思いっきりぶっ叩いた! んがっ! すり抜けるっ!

 この……この敗北感ッッ!!


 「まあまあカナタ」「うっせっ!」

 シアに止められたが、もう俺の怒りは収まらんぞ! 

 「あーもう畜生こうなったら是が非でもてめーに勝ってやろうじゃねーか! シア!」「あ、はいっ!」「お前俺と結婚して子供産め!」「えっ!?」「こいつ女の子だからこっちは二人作るぞ二人! 男と女! 一姫二太郎っていうから最初女産め! んでこいつよりも幸せな家庭築くぞ! よし、決めた!」

 「か、カナタ……あの、その……こ、告白されたのは嬉しいのだが、いいのか?」「何が!?」「ひいっ……いや、その、怒りに任せて勢いでの告白は、その、なんというか、動機が不純というか……」

 「動機なんぞ気にすんな! 世の中ぁ一目惚れっていう一番訳分からん動機が蔓延ってんだぞ! 大体な、そこの小さいのと王様なんてただの幼馴染だからだぞ? じゃなけりゃ誰が好き好んでこんな扱いづらいのを嫁にもらうかっての!」「あうっ……」「それにそこの不幸夫婦! 元を辿れば動機が恐怖心じゃねーか! 不純以前の問題だろうが!」「はうっ」「うぅ……」

 「そんなのと動機が怒りな事に、なんの違いもありゃしねぇだろうが!!」


 「あ、あの、カナタさん本当に落ち着いてください。ね? ねっ?」

 ぐぬぬぬぬーっ!

 「そ、そうです、わたくしのしっぽ触らせて差し上げますからね?」

 「んーっ!」モフモフモフモフーっ!

 ……あれ?

 「あれ? 触り心地が良くなってる」

 「えっ!? え、ええ。えへへー」

 ……この感じ、まさか……。


 リサさんの口元に鼻を近づけてみた。クンクン……あーぁあ。逃げるリサさんだけど、その前に俺の鼻はしっかりと”あのにおい”をキャッチ。

 「はいギルティ。酒飲んでるせいですね」

 「はうっ……」

 「全く、ただでさえ酔う船旅中に酒飲んでるって、どういう神経してるんですか」

 「えー……あ、ほら。酒は百薬の長と申しまして……」

 「だーめ。本当にこの王女様は、酒の事となると目の色変えるんだから」

 まあ、おかげで俺の怒りが別方向に向いちゃったんだけどモフモフ。


 「はーぁあ。さー粗探し再開するぞー」

 「あのっ、その……前に、だな……」

 赤面しつつ目が泳いでいるシア。はいはい分かってますとも。

 「俺はな、少なくともこいつと、あいつらと、そいつには負けたくない」

 丁寧にこいつ”王様の嫁”と、あいつら”不幸夫婦”と、そいつ”異世界の俺”を指差してやった。

 「俺は男だ。男に二言はないし、男としての意地もプライドもある。いいか? お前は、俺の告白にただ頷けばいいんだ」

 「……はい……」

 「ぃよーし、もう文句言うなよ」「……あー」「返事!」「はいっ!」

 ははは。



 暴走したのは認めよう。

 しかし、それは単にゴールまでアクセルをぶん回したという意味に過ぎない。

 何も変わってなどいないのだ。



※折地彼方は架空の人物であり、筆者をモデルとして投影したキャラクターではありません。


そして、最終回執筆完了をご報告。

これからは一日一話ずつ(時間は不定期で)投稿しますので、のんびりお待ちくださいませませ。

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