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第百五十二話  第一回全世界連携合同協議会 本番後編

 まずは工場の説明と、魔族領で行われる全世界合同のダンジョン掃討作戦を取り付けた。

 「次にですが、工場内部にはこれがいます」

 フューラが画面に映し出したシャシンには、四足の機械と、そしてあの機械の手。

 ざわつく周囲。声の中には本当に勝てるのかという不安の反応が多い。

 「アイシャさん」

 おっと、こういうのは私の出番だよね。


 壇上から見ると、やっぱり皆さん不安な顔してる。

 「こいつらの倒し方ですけど、機械には雷です。ただ……えーっと、リサさんちょっと」

 不安になってきちゃった。あはは……。

 リサさんはこっちには来ないで立っただけ。

 「雷属性は当てるのが難しい魔法として有名です。しかしですね、先に水で濡らしてやると、その水に沿って雷が走るのです。ここでは実演出来ませんけどね」

 あっさりとした説明で座って、次はフューラ。

 「これには理由があります。水は空気よりも雷を通しやすいんです。電気抵抗なんて言っても分からないと思いますが、木よりも油のほうが燃えるのと同じだと考えてください」

 あー、なるほどー……って私が感心してどうするんだ。


 「この雷で、四足の機械は倒せます。でもこっちの手の化け物は違う。こいつの弱点は無属性です」

 困惑の声が一斉に発せられた。

 まーね、無属性が弱点のモンスターなんていなかったから当然なんだ。だから私も違和感を覚えつつも、中々その答えにたどり着けなかった。

 「無属性での攻撃魔法なんて、聞いた事がないぞ」

 「でしょうね。私だってシアやリサさんと出会って、実際に見るまで知らなかったもん。……私自身が実際に習得するとも思わなかったし」

 小さな村出身の小人族の不良少女がだよ? なんでこんな化け物を倒して、こんな場所でこんな連中を相手に話してるんだか。


 「んじゃ次。この機械の手は大量にストックされています。私が対峙した時は部屋には最高で四つしか出てこなかったんだけど、壊しても壊しても次の手が出てきました。だから工場襲撃時には、まず人を切り刻む機械を破壊し、手のストックされている部屋を見つけて破壊してください。そうすれば危険を最小限に抑えられる」

 「機械を壊すだけでは駄目なのか?」

 これはフューラにお任せ。

 「たとえ機械を破壊しても、工場自体を停止させなければ意味がありません。その停止方法は機械を操作するしかないんですが、文字が読めないとどうにもなりません。なので工場襲撃班にはこの文字を覚えてもらいます」


 「勇者たちが止めるのではないのか?」

 「あのねー、私たちの体はひとつだけなんですよ?」

 なんて言ったら笑いが起きて、さっきの人は恥ずかしそうに頭を下げてくれた。

 「作戦開始までに最低限のマニュアルは用意しますので、それを確認しながらになります。相当な突貫作業になりますから、なるべく実力者を用意してください。もしも失敗したら、多大な被害が出ますからね」

 無表情で脅すフューラを見て、あーフューラもちょっと楽しんでるんだなーって、思った。



 「ここまでで質問のある人ー?」

 わらわらと手が挙がったから、私が指を差して指名。

 「機械の手を倒せば工場は止まるのか?」

 「違います。機械の手は……兵団長みたいな感じ。倒さないと奥に進めないし、倒すのはすごく大変。私の左手が証拠ね」」

 包帯ぐるぐる巻きだから分かりやすいよね。


 「工場を停止すると、ダンジョンはどうなる?」

 これはフューラだね。

 「モンスターの生産と出荷が止まりますから、今までは倒しても湯水のように湧いてきたモンスターが出てこなくなります。そしてダンジョンの保持も工場の役割のひとつなので、時が経てばダンジョン自体も崩壊します。しかしこの崩壊は厄災に繋がるほどの大規模なものではありません。ただし町の真ん中にダンジョンがある、というような場合には、事前に避難をすべきです」

 「我がラフリエにあるマシンワナダンジョンこそが、この工場の所在地です。そして現在、ラフリエに存在する八つのダンジョンにて、モンスターの消失とダンジョンの崩壊を捉えております。さらにはマシンワナはダンジョンを中心に形成された町なので、現在は町民の避難を行っている最中です」

 実例があるから一番だね。そしてザワザワとして、反対の声がちらほら。

 「つまりはダンジョン由来の収益は全てなくなると?」

 「人間を細切れにして得た収益の事ですよね? 当然なくなりますよ」

 「………………」

 フューラのきっつい一言に全員沈黙。


 「ではこの工場を作ったのは一体誰なのだ?」

 核心の質問が来たね。でもこれまたフューラ頼み。

 「この人体をモンスターのコアとしてしまう技術は、この星の技術ではありません」

 また画面に絵が出てきた。相変わらず下手だけど。

 真ん中にギザギザの付いたまん丸ニコニコ笑顔があって、幾つかの丸いのがその周りに散らばってる。それぞれに名前が振ってあって、簡単な説明もついてる。私たちの星はチキュウだって。

 「夜、空を見上げるとキラキラと光る星々がありますよね。あれは絵でも幻でもなく、僕たちの住むこの大地と同じものが浮かんでいるんです。はるか遠く、光の速さでも何万年もかかる彼方ですが」

 一応聞いた事がある。そして私は半分くらいしか理解してない。

 「そしてこの技術は、僕たちのお隣の星、火星からもたらされた技術です。つまり火星には僕たち以外の生命が存在している」

 余計に分からないっていう声がちらほら。こういう時はこの時代出身の私の出番。

 「今は理解出来なくてもいいですよ。私も半分程度しか理解してないから。とにかくあれは、私たち以外の技術って事」


 「その目的は? 何故ダンジョンのモンスターを倒すと貴重品を落とすのだ?」

 「僕は当初、あれは死刑囚の処理施設であると踏んでいました。そして囚人がモンスターと戦う様子を観衆が見守る、一種の巨大な賭博場であると」

 「我々はそんなものを糧にしていたというのか!?」

 さっきまで反対してた人たちすらも、顔色を変えた。

 「……ですが、あの技術が火星由来のものである場合、別の可能性も出てくるんですよ。それが、僕たち地球人類を絶滅させるための罠」

 これは私も初耳。でも確かに、希少で高額なドロップアイテムっていう甘い匂いに誘われた私たちを殺すための兵器だと思えば、あんな工場があるのも頷ける。



 次に手を挙げたのは……ジリーだ。でもモーリスはその手を下げようとしてる。

 「……ジリーさん、本当にいいんですね?」

 「いいよ」

 この一言でモーリスは諦めた。そしてジリーは立ち上がって私の横へ。

 「あたしはジリー・エイス。勇者の仲間ね。あたしはずーっと自分が何者なのか知らなかった。知ろうともしなかったし。んだけど、今回の事であたしの正体が判明した。あたしは、火星人だ」

 「………………ええええええっ!?」

 私が一番びっくりだよ!!


 「僕から少し訂正を。ジリーさんは恐らく僕よりも先、それこそ十万年以上先の未来から来た存在です。そして火星人とは言っても火星で生まれてこちらに来たのではなく、この地球生まれです」

 「んだけど、詳しくは分からない。なんたってあたしにその知識がないからね。どうだい? 魔族や小人族を差別してきた皆さん方は、この馬鹿げた夢を作った火星人種であるあたしも差別するのかい?」

 これが言いたかったんだ。わざと自分が異なる存在だってのを明かして、改めてそれを問おうとしたんだ。

 ……だからモーリスはそれを嫌った。ジリーが全世界から目の敵にされる事を恐れた。

 「……私はそうは思わないよ。だってジリーはジリーだもん」

 だからこそ、まずは私が道を示す。


 「……どうと言われても正直困る。我々の持ちうる知識の外なのだ」

 「二種族に対する差別という事柄については、確かに再考すべき案件ではある。しかし貴女が別人種であるとしても、我々にはそれを判断する術が無い」

 「あったとしても……勇者の言うとおり一個人だ」

 皆さんすっかり声のトーンが下がってる。知らない事が一杯過ぎて考えが追いついていないんだ。

 「んだったらそれを明確にしてくれねーかな? 魔族も小人族も、そしてあたしも、人種だけで差別するなんてのは馬鹿げてる。それにな、魔族だって小人族だって、劣ってる訳じゃねーんだよ。あんたらが使い道ってのを見出せてないだけだ」

 あはは、そう繋げちゃうんだ。


 でもさすがにこれだけの人数が一致団結なんて夢物語で、チラホラと嫌な言葉も聞こえる。……劣等種っていう言葉も聞こえた。

 「よーしよしわーった。アイシャ、あんたは小人族だけどこいつら全員よりも強いし、なによりも世界を救った勇者様だ。こいつら全員を差別してやってもいいぞー」

 ……あはは、まるでレイアみたいな事言っちゃって。

 「それじゃあ、今から私が皆さんの事を差別しちゃいまーす」

 「ま、待て!」「差別はよくない事だぞ!」「そうだ! 勇者にあるまじき所業だ!」

 ………………ブチッ!

 「……てめーらなぁ、自分が散々やっておいてやり返されるのが嫌だぁ? 甘い事言ってんじゃねーよ! こっちは生まれる前から差別受けてんだぞ! どんだけ心に傷負ってると思ってんだ!! 張り倒すぞゴラァ!!」


 結局はいつも通りジリーに羽交い絞めにされるオチだったんだけど、言葉をぶつけたのは正解だったみたい。

 「確かに……一方的であったのは……」

 「認める?」

 「……認めざるを得ない……かなぁ」

 皆さんも同様の反応。少しでも心が動かせたのならば、後は流れに任せよう。



 私たちは一旦着席。ジリーはモーリスの膨れた頬を突付いてる。

 ダート・ミップ首相はオムさんを手招きして、並んだ。

 「我々が散々差別し侮辱し続けてきた彼ら魔族は、魔法を失い技術を得て、今や我々よりも先を歩み、次の時代へと到達しているのです。そして我々も否応なしに次の時代へと進まなければならない。未来を知った我々は、まず彼らに追いつかなければならない。六千年もの遠い先を歩む彼らに追いつくためには、差別などという前時代的発想はただの枷でしかないのです」

 よしっ、言い切ったよ。

 「今回の事態は一個人、一種族、一国家で済む問題ではありません。この世界全体で考えなければいけない問題なのです。そしてこの難題をクリアしなければ、我々は次の時代へと進む事が出来ない。さあ、まずは一歩を踏み出しましょう。全世界に眠る悪夢を消し去り、皆が手を携え、新しき時代へと邁進いたしましょう!」

 スタンディングオベーション。


 「……これって、小人族も含まれてるのかな?」

 ちょっと……どころじゃなく不安になった。

 するとそんな私の表情を見てたのか、オムさんが続けた。

 「悪の象徴とされた我々魔族は、正しい知識により誤解が解けました。そして劣等種と軽侮されてきた小人族からは、世界を救った英雄が現れました。上辺ではなく、本当の小人族を知ってください。そして皆様のその拍手を、是非世界の小人族へも向けてください」

 「当然だ」「自身の見識の狭さを詫びよう」「小さいの最高!」

 所々絶対に違うのが混ざってるけど、でもトムの目論んだ、私を人柱に差別を無くすっていう作戦は、ちゃんと芽が出たみたい。


 横を見ると、私の顔を見て、私以上に笑顔な奴がいる。

 「これもアイシャの功績だ」

 「……そう?」

 「ははは、アイシャ自身の顔が一番雄弁に語っているではないか」

 あー、感情が不安から一気にひっくり返ったせいかな、思わずうるっと来ちゃってる。

 「小人族に怒鳴られたという事実は、今まで小人族を下に見ていた連中にとってはとても大きな衝撃だったのだ。それこそ自身の常識が崩れ去るほどに大きな衝撃だ。それが呼び水となり、二人のスピーチにより心が動いたのだ。これぞ勇者の……いや、英雄の功績だ」

 「あはは、私は英雄じゃないよ。だってまだ死んでないもん」

 「はっはっはっ! 確かに!」

 でもおかげでようやく実感が持てた。



 盛り上がりも一旦落ち着いて、フューラが壇上に立って質疑応答再開。

 「この工場はいつ頃に作られたのでしょうか?」

 「相当な過去に作られている事は判明していますが、具体的な年数は不明です。というのも、現在この時代で使われている暦と、資料で出てきた暦とが違うんです。ちなみにですが、魔王プロトシアの現役時代とも違います」

 「という事は少なくとも六千年以上昔の産物なのだな?」

 これシアね。

 「六千年どころか……僕たちには分かりますけど、カナタさんの時代辺りですよ、きっと」

 「古代の文明時代という事か。ならば一万年は前のものと考えても良さそうだな」

 知れば知るほど、よく私あれに勝てたなぁって不思議に思っちゃう。シアが来なかったら私死んでたんだけどね。


 「カセイジンについての情報は?」

 「ある事はあるんですが、憶測の域を脱しないので今は控えさせていただきます」

 おや、すごく気になる。

 と、次はホランのハレル首相。

 「……私の稚拙な推測ですみませんが、六千年前、魔王プロトシアという存在を作り上げた黒幕と、そして魔王を討ち取った英雄イリクス。この二名はもしやそのカセイジンでは?」

 いやいやいやいや、さすがにそれはないでしょ。ね? って感じでシアを見ると、顔が固まってる。

 「……アイシャさん、シアさん、ハレル首相。こちらへ」

 まさかぁ……。


 私たち三人が壇上を降りてきたフューラと合流して、ヒソヒソ話。

 「まさかでしょ?」

 「……そのまさかの可能性が非常に高いんです。もしも六千年前の黒幕と英雄イリクスが裏で繋がり、魔族を貶めるために魔王プロトシアを作って負けるための戦争をさせ、その報酬として火種の貿易都市を作り、最終的に魔族殲滅を狙ったと仮定すると、辻褄が合っちゃいます。そしてもうひとつ。シアさんは魔族の魔力を一点に集中してもイリクスには傷ひとつ付けられなかった。……まるで火星の技術で作られた、あの機械の手のように」

 シアとハレル首相が顔を見合わせた。両者とも驚き困惑で真顔のまま表情が固まってる。

 「ハレル首相。シアはイリクスに関して一つ隠してます」

 「アイシャ!」「今だから言わなきゃ駄目。ですよね? ハレル首相」


 「……私はこれでもイリクスの研究を長年行ってきました。両親は誰か、どこで生まれ、どのような幼少期を過ごし、何故剣を携えたか。……不明なんです。我がホランがイリクスの生まれ故郷であるとなっていますが、私は独自研究によって、それが同姓同名の別人であると確信を持ちました。もちろんこのような事をホラン国民に話す事など出来ませんから、お三方もこの話は忘れてください」

 余計にびっくり。だけどこれを聞いて、シアも話す覚悟をした様子。

 「はぁ。……あの時、私は何重にも結界の張られた屋敷で寝ていたのだ。しかしイリクスはそんな事お構いなしに私を夜襲した。名もなき荒野に連れ去られ、魔族の力を集めぶつけても無傷のイリクスは、確かに私を嘲笑したのだ。まるで……最初から私の攻撃が効かない事を分かっていたようだった。その時になって私は、自身が操られていた事に気付き、後悔と絶望の中ズーの若鳥へと姿を変えられ、封印された」

 話を総合した時、私にはひとつ不安が過ぎった。

 「もしも全部の話が本当だとするならば、魔族はカセイジンに抹殺されるはずだったって事だよね。……今も?」

 フューラに確認。

 「今も、という事はないと断言出来ます。シアさんの復活、チカの戦争、そして魔族領との和解。火星人が今もなお魔族を殲滅しようとしているのであれば、チカにアプローチするはずです。でも何もなかったと聞いていますから」

 「……イリクスと黒幕の暴走だった?」

 「それが一番合理的な答えです」

 分かった。


 だけどイリクスを貶める事は出来ない。

 「口裏合わせて」

 一応三人に確認を取る。

 「はい。えーっと、分かりませーんって事です。シアみたいに本物がいるのならば別ですけど、六千年も前の話ですからね」

 「ならば何故そこで話していた?」

 「私と勇者様は確認のため。プロトシア様は六千年前の生き証人ですのでお話を伺ったのです。しかし情報はありませんでした」

 「そもそも私がイリクスと相対したのは一度きりであり、私はあっさりと倒されたのだ。彼が何者であったかという話は、それこそ六千年後の現在に来てから知ったほどだ」

 嘘も方便。ハレル首相もシアも合わせてくれて、これで皆さん納得してくれた。

 ……カナタだったら真実を知ってるのかな? そんな気がした。



 ある程度のところでお昼休憩。そしてさっきまで人を劣等種だ何だって言ってたお偉い方がやってきた。

 「勇者殿」

 「はい?」

 「……申し訳なかった。先の非礼や失言、全て謝罪いたします」

 やった。だけど私は極悪勇者様だもんね。

 「それは、私個人に対して? それとも小人族全体に対して?」

 「……それは……その……」

 目を逸らした。

 「あーはいはい上辺だけの謝罪ですね。腹の中では小人族風情がーなんて思ってるんだ。そんな謝罪願い下げですから。シッシッ!」

 頬を膨らませたけど、ほんとは結構嬉しいです。だって、国の偉い人が小人族に頭を下げるだなんて、なかった事だから。歴史的な事だから。


 ふと見ると、モーリスがこっちを見て笑ってる。……んにししーっ。

 「皆さん、あの白い魔族。私の仲間なんですけどね、心が読める能力を持ってるんですよ。皆さんが何を考えてるのかなんてお見通しですからね」

 ザワザワーっとして、モーリスがこっちに来た。

 「……それじゃあぼくもアイシャも納得しない」

 「ほらね? ……って、魔族に対してもなんだ」

 モーリスはキッチリ頷いた。

 「うん。この部屋にいる……七勢力以外全員かな? 兵隊さんを魔族領に持ってきたら、そのまま盗むつもり」

 「わー、人間側こそ戦争する気満々だー」

 ってな感じでジトーっと睨んだら、皆さん苦い顔で目線が泳いだ。


 「あ、ちなみにですけどね、皆さんの目の前にいるこのモーリスこそが、魔王プロトシアが推す次期魔族領の当主ですよ」

 「……へっ!?」

 あはは、驚いた驚いた。一方モーリスは頷いた。もう腹は括ったって感じ。

 「ぜーんぶ聞いちゃいました。心の中も丸ごとぜーんぶ。七勢力の兵隊さんだけを迎えて、皆さんは帰ってもらっちゃおうかなー?」

 「せっかくの技術が七勢力にだけ渡って、皆さんは貧乏まっしぐら。欲をかくとろくな事にならないっていういい例になるね」

 「んねー」「んねー」

 ってやったらモーリスの視線が一人に集中。

 「……それ、口で言ってもいいですよ」

 おやおや、一転お怒りモードですよ。


 「何をしているのだ?」

 シアとトムも来た。

 「実際には何の反省もしてなかったんだってさ。それどころか魔族領で戦争起こすつもり。七勢力以外全員だって」

 って、モーリスが放送魔法使ってる! うわー部屋全体に聞こえちゃったよ。

 それを聞いてトムが一歩前へ。

 「……そうですか。それはつまり魔族領と我々大陸七勢力、合わせて八つの勢力に対し、真正面から喧嘩をするという事になります。よろしいのですね?」

 と、わらわらとフューラたちに貴族さんたちに七勢力も集まってきた。

 「随分と楽しそうな話が聞こえたぞ。我々に潰されたいと言うな」

 「さぁーて、どの国家から潰して差し上げましょうか」

 「両手で足りない数の戦争をする覚悟ならば、とっくに出来ていますよ」

 「愚かな方々を神の身元に導いて差し上げましょう」

 「こうやって新しい時代を築くのも一興ですね」

 「小競り合いならば大得意ですよ」

 みんなノリノリ。


 「はいはい。これ以上の意地悪は駄目。でもいいですか? 少なくとも私は本気ですから。小さな国の一つや二つ、潰したっていいんですからね?」

 「……ぷっはははは!!」

 あーぁあ、シアが大笑いしちゃった。まあ私たちも笑ってるんだけど。

 「あなた方にこやつは倒せない。なにせこの小人族の娘は、その身一つで全魔族と七勢力の心を鷲掴みにするのだ。諦めろ。それが元魔王たる私からのささやかなアドバイスだ」

 微笑み優しく諭すようなシア。一方それを聞いていた周囲の皆さんは、どうやら諦めた様子。

 「確かにこれでは戦争どころか勝負にもなりませんね。七勢力が本気を出せばこちらは週単位で国が消える。……ははは、完敗です」

 ふっふーん。

 「でも?」

 っとさすがはモーリス。じゃあ答えは私が。

 「心はそうは変わらない。ですよね? 私だってそれくらい分かってます。でも、変えようという意識は持ってください。皆さんは国の元首なんですからね?」

 ぽつぽつと頷く。今はこれでいいんだ。



 その後は私たちには直接的な関係のない、国と国との話し合い。

 印象深いのは、モーリスが一番真剣に聞いていたってところ。ジリーがイタズラすると、その手を払いのけるくらい。きっと自分の知識として取り込もうと必死なんだ。

 っと、笑顔のフューラにツンツンされて、小声で感謝された。

 「ありがとうございます」

 「何が?」

 「これで大厄災が回避出来れば、僕のいる未来にも変化があると思います。どうなるかは分かりませんが、何かの作用で僕が消えてしまう可能性もあるので、その前にお礼を言っておきます」

 ……考えてなかった。そして私には、これがフューラの別れの挨拶に聞こえた。


 今日の会議が終わるまで、私は周りの声が耳に入らなくなっていた。

 後で聞けば、椅子に座ったまま呆然としてて、シアに揺すられて、軽く頬を叩かれて、ようやく動いたらしい。そしてその頃はもう会議室には私たちだけ。

 「どうした? 体調が悪いのならば我々は切り上げてもいいのだぞ?」

 「……うん……いや……うん……」

 それでも上の空だった。モーリスが私の心を読んで、それをみんなに伝えた事すら気付かなかった。


 「アイシャさん」

 「……ん?」

 「僕はまだ帰りませんよ」

 「……ん?」

 「ぼーくーは、まーだー、かーえーりーまーせーんーよっ」

 ……何度かまばたきをして、ふいに涙がこぼれた。

 その涙がくすぐったくて、袖で拭いて、ようやく意識が戻ってきた。

 そしたら全部理解して、みんなに不安がらせちゃった事が無性に恥ずかしくなってきちゃった。


 「あー、あはは、ごめんごめん。難しい話だらけで寝ちゃってたのかな? あはははは」

 照れ隠しに頭をポリポリ掻いちゃった。

 「アイシ」「全く貴様という奴は、このような大切な会議で寝ていただと? それでも勇者か?」

 「あはは、ごめんって」

 「あの」「あたしだって眠かったけど頑張ったんだからな?」

 「分かった分かった」

 「……」

 考えてる事はみんな同じ。

 みんな、その時がそう遠くないっていうのを感じてる。

 ……フューラは鈍感。



 ――その後。

 私たちは三日滞在して、ノルデールさんから図書館へのポストキーをもらって、最終日にはフューラとリサさんの二人は別行動になった。

 グラティアに戻ったのは夕方。シアの用事を先に済ませ帰宅したら、もう二人は帰ってきていた。

 あと少し――。



相変わらずの会議回でした。

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