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第十三話   決意

 ――時間を巻き戻し、フューラ視点。

 マロードの領主様に近付くために、港にいたよろしくない方々の依頼を受けたカナタさん。僕たちは早速その依頼の下見のために道具屋へと来ました。ターゲットはここの一人娘さん。

 僕はあくまで買い物を装い、娘さんにもカナタさんにも気付かれないように周囲を監視しています。というのも、やはり尾行されていますから。僕には機械らしくレーダーが搭載されているので相手の動きはきっちりと把握していまして、相手は現在、お店から四十八メートルほど離れた木の影からこちらを監視しています。

 買い物である事を装うためと、ついでに幾つか興味を引かれた品を買ってお店を後に。僕たちがお店から出ると、尾行は逆方向へ。どうやらこれ以上は追わない様子。


 「あのー、一旦持ち物を置きに工房に帰りたいんですけど、いいですか?」

 「考えて買えよ、全く」

 いえ、僕の狙いはそこではありませんよ、カナタさん。

 「フューラ、ついでだからおつかいだ」

 それを待っていました。

 「おつかいですか。持てるものにしてくださいね」

 「当たり前だ。魚のホネ焼き食堂分かるだろう? あの娘さんをあそこにかくまう事にする。だからあそこの船長に話をつけてきてもらいたいんだ。これくらいのおつかい出来るだろう?」

 「はい、ご命令の通りに」

 「そういうのやめろよ」

 僕にとっては、命令受諾の定型文。だからこそそれを否定されるのは、嬉しいんです。



 ――魚のホネ焼き食堂へ。

 「こんにちは」

 「はいいらっしゃい……って、見た事のある顔だね。カナタのお連れさんだったかな?」

 「はい、そうです」

 正直、覚えていてもらえて嬉しかったです。……この服装にして正解でした。

 「今日は食事ではなくて、とあるお願いをしに来ました」

 「お願い? まあそこに座りな」

 お店は幸いお客さん少なめ、なんて言ったら怒られそうですけど。しかしおかげで人に聞かれずに事を進められます。


 「現在カナタさんと僕は次の依頼を受けているんですが、その途中でとある方を保護する事になりそうなんです。しかし王宮にかくまってもらう訳にも行かない事案でして、なのでご迷惑でなければと……」

 「うーん、話は何となく分かったよ。でもそれだけじゃ、あたしの安全が確保されないよね? もう少し詳しく聞かせておくれ」

 そう来る事は予測済みです。

 「とある町にある道具屋の一人娘さんを預かっていただきたいんです。年齢は……三十代後半から四十代。悪漢に命を狙われているので、ほとぼりが冷めるまでは置いていただきたいなと。もちろん彼女を追って誰かが来るという事はないようにしますし、船長さんと、このお店の安全は、僕が保証します。もしもの場合には王宮からお金を出させますよ」

 難しい顔で考え込んでいる船長さんですが、僕の予測では受諾していただける確率は99%です。


 「……楽しそうだね。いいよ、その娘さんはあたしが預かろう。それにあたしは船長と呼ばれる女だからね。店で飲んだくれ暴れたバカどもを何人締め上げたと思ってるんだい? 腕っ節には自身ありだよ」

 自慢げに力こぶを見せる船長さんに、なんだか僕まで力を頂いた気分。

 「それでは、恐らくは二日後の夜遅くにお邪魔する事になると思いますが、よろしくお願いします」

 「はいよ、ご注文承りました、ってね。あっはっはっ!」

 これでカナタさんからのおつかいは完了ですね。



 ――そして当日夜。

 「いるか?」

 「……いますね」

 監視役が二人。高度から考えてどちらも屋根の上からの監視。すぐに降りられないのならば、これはこれで好都合です、

 「……出てきた。挟むぞ」

 その後はカナタさんの悪役演技を拝聴しつつ道具屋の娘さんを転送屋さんまでエスコートします。もちろん逃げられないようにというのもありますが、別の存在に襲撃される可能性も考えての事です。

 「……どこに連れて行くつもりですか?」

 「いい所だよ」

 不安そうな娘さんにこの返し。さすがカナタさん、ミスリードでギリギリまで安心させないつもりですね。


 転送した先は魚のホネ焼き食堂……ではなく、僕の知らない町でした。

 「ここは?」

 娘さんと同時にカナタさんに尋ねてしまいました。

 「ここはシエレっていう町だ。一旦ここで少し時間を潰して尾行がないか確認後、改めて移動だ。すまないがもう少しお付き合い願うよ」

 「……殺すならばさっさと殺せばいいでしょうに」

 「まあまあ。後で食事を奢りますから」

 その後僕たちはシエレの町をぐるっと一周。後に聞いたところ、この町はカナタさんがこの世界に到着して、二つ目の町だそうですね。僕にも言わなかったのは、敵を騙すにはまず味方からだそうで、しかし悪意ではないのは分かりました。


 二度目の転送でようやく魚のホネ焼き食堂に到着。

 「お、来たね。その娘さんが?」

 「ええ、そうです。俺たちの事なのに巻き込んじゃってすみません」

 「あっはっはっ、構わないさ」

 その後僕たちの正体を明かすと、道具屋の一人娘さんはテーブルに倒れこむようにヘタってしまいました。仕方がないとはいえ、罪悪感を感じます。

 カナタさんの奢りで娘さんは遅い夕食。娘さんも料理は得意だそうです。

 「それで、何故あなたが狙われたのか、理由を教えてもらえるかな? 場合によっては王様に直訴してもらう必要もある」

 「……私、本当に命を狙われていたんですね。分かりました、全てをお話します」


 「数週間前、売り上げの計算ミスで帰宅が大きく遅れた日がありました。私の家はお店とは結構離れていて、港の横を通る道が一番近いんです。でもその日、領主様が魔族の男性を連れて港に入って行くのをお見かけして、こんな夜中に領主様が港に何の用事なんだろうと、やめておけばいいのに少し興味を持ってしまって」

 カナタさんは軽く微笑みながら、時おり頷きながら話を聞いています。まるで娘さんを安心させるかのように。

 「私が聞いたのは断片的で、誰かが何処かへ荷物を運ぶ予定だというくらいしか分かりませんでした。それ自体はありふれた事なので私はそのまま帰宅。でも翌日お店に妙なやからが来て、昨日の事は忘れろ、さもないと……って。聞こえなかったから忘れるも何もないって言ったんですけど、信じてはもらえなかったみたいですね。私から話せるのはこんなものです」

 「それでも領主様が夜遅くに港に入って行くところは目撃したんだよね? ならば充分だよ」

 小さく頷く娘さん。カナタさんの言う充分だとは、伯爵に対する証拠としても、そして娘さんが命を狙われる要因としても充分だという意味でしょう。

 「そうだ、最後にそのペンダントを貸してもらえるかな? 連中に証拠を持って来いと言われているからね。もちろんこの件が終われば返しますよ」

 「……分かりました。よろしくお願いします」

 こうして道具屋の一人娘さんは、開放されるまではこのまま魚のホネ焼き食堂の従業員として働く事になりました。



 ――現在時刻、カナタ視点。

 あれから俺たちは丸一日町に滞在し、尾行がないのを確認後、王都へと飛んだ。正確には王宮内だ。事前に王様からポストキーをもらっていて助かった。

 「それで、どうでしたか?」

 と聞かれても、あの事を話すべきか迷っている。……まずは総括を先に出すか。

 「限りなく黒に近いグレーですね。というのも、大っぴらにしっぽを出す事がなかった。真夜中に港に出入りしていたり、チンピラとつるんでいる事は確認出来ました。けれど、それだけです」

 「うーん、さすがにそう簡単には行かないか」

 落胆というよりは、予想通りといった感じのトム王。


 「他には何かないかい?」

 やはり追加で情報を要求してきたか。一応は最低限で済ませよう。

 「ふたつありますが、まずひとつ。俺の知り合いにとある女性をかくまってもらっています。領主の秘密を知ったという疑いで命を狙われていたところを、俺たちが演技で悪人を装う事で移送しました」

 「それじゃあ王宮で」「いえ、それは駄目です」

 そう来ると思っていた。だからこそ、俺はそのまま王宮に移送する事をしなかった。

 「王宮内が安全だとは限りませんよ。なにせ相手は領主だ。この王宮内にも手を潜り込ませていたって何も不思議じゃないんですよ」

 この王様ならば俺の懸念はすぐ理解するはず。

 「……分かった。確かに国の関係者ならばその可能性は大いにある。その女性の事はカナタさんにお任せするよ」

 話の分かるトム王。若いからこそ切り替えも早いんだろうか?


 「次が一番の問題です。領主は素性のよく分からない魔族の男性とも一緒にいた。領主の話では貴族出身らしい。よく調べるべきですよ」

 「魔族の……貴族? 名のある人物ならばこちらでも調べられるが……しかし何故その人物を懸念としたのか、詳しく聞かせてもらえるかな?」

 ……さすがは一国の王。俺が何かを隠している事を見抜いている。

 「今のところは、詳しく調べて素性を把握すべきだとしか言えません。ただ、もう気付いているようなので言ってしまいますが、この二人は危険です。国にとっても、王様にとってもね」

 悩んでいる様子のトム王。当然だな。


 「あ、いたいた」

 後ろから声がしたので振り返ると、アイシャたちだった。そしてアイシャは俺の表情を見るなり、笑顔から真剣な表情へと変わった。

 「なにかあったの?」

 短い一言。しかしその一言だけで、俺の懸念に気付いていると、直接に言う以上に分かりやすく語っている。

 「……王様には悪いけど、先に俺たちだけで話をつけます。報告は後ほどで」



 ――俺の家に集合。

 みんな俺の深刻な表情につられ、無言だ。

 「まず最初に、この話は嘘やはったりである可能性が大きい。だが、本当である可能性も捨てきれない。そういう話だ」

 やはりみんな無言で頷く。シアやリサさんまでもだ。

 「――俺とフューラはマロードという港町の領主の内定調査に向かった。詳細は省くが、そこで領主は魔族の男性と一緒にいたんだ。貴族出身らしいが、詳しくは俺は分からん。そしてそいつから聞いた話が、本題だ」

 恐らくは嫌な予感がしたんだろう。まるで自分が守るとでも言いたげに、アイシャはシアを抱え上げ、自分の膝に乗せた。

 「その魔族の話では……魔王プロトシアが復活した、らしい」

 「らしいって?」

 やはり最初に反応したのはアイシャだ。

 「らしいというのは、そこのプロトシアの事を指しているのではないと思われる、という事だ」



 ――その場面へ。

 「ここからは本当に口外禁止だ。港の連中にすらも言ってはいけない。ここにいる僕と、彼と、そして君しか知らない。いいね?」

 「分かりましたよ」

 話の詳細は、魔族の男性が語った。

 「六千年前の女性魔王プロトシア様の事は、君も知っているだろう?」

 「ええ、まあ。英雄イリクスに負けて鳥の姿になって消えたと」

 「そうだ。そのプロトシア様が復活した。鳥の姿ではなく、封印を解かれ人の姿としてだ。そしてプロトシア様は、まず手始めにここグラティア王国の王都コロスを欲したのだ」

 シアの事が外部に? と思ったが、何かが違う。あいつはまだ鳥の姿のはずだ。

 「……いつ頃復活したのでしょうか?」

 「一ヶ月ほど前だな。角がなく子供の姿だったので皆最初は疑ったが、あの魔力は本物だ。見た事のない魔法を用いて、数千の兵を一瞬にしてひれ伏させたのだからな」

 子供の姿? ……これは騙されているのか? 分からん。


 「そこでだ。君には王都にて手段を問わず兵を混乱に陥れてもらいたい。君の相棒ならばそれが出来るだろう? それに君はどうやら頭が切れるようだからな。王都が混乱のうちに、プロトシア様に忠誠を誓う我らが王宮を制圧、王都を奪取する」

 これは笑ってなどいられないな。プロトシアが復活していようといまいと、このままでは王都へのテロ行為が発生するのは確実だ。ならばまずは、この男性の素性だけでも知っておかなければ。

 「つまり、あなた様は王都を制圧出来るほどの兵を持つ方であるという事ですか?」

 しかし俺の質問には男性ではなく、領主が答えた。

 「彼は魔族の中でも貴族出身の方でね、これは僕からと言うよりも、彼からの依頼なんだ。どうだい?」



 ――再び俺の家。

 「これが、俺の聞いた話だ」

 誰よりも一番驚いているのはシア自身だ。俺に背を向け小さく縮こまるその姿は、勇者に助けを求める弱者そのものだ。

 「話は分かった。分かったけど……ねえ、あの本に書かれていた歴史、今だからこそシアにも教えるべきだと思うんだ。私は言葉が通じないから、悪いけどカナタ、お願い」

 余計に傷口を広げる事になりかねないと思ったのだが、アイシャの要望ならば断れない。俺は覚えている限り、シアがいなくなってからの六千年間を話した。

 英雄イリクスの尽力によって魔族も人類側に土地を手に入れた事。しかし再び戦争が起こり、魔族側は絶滅の寸前まで行った事。そして今やその事は魔族しか知らず、人類側にいたっては歴史書の中にすらその真実が存在していない事を。


 シアは全てを悟ったようだ。鳥の、魔王の目にも涙。アイシャに抱かれ、静かに涙を流している。

 自分が良かれと思ってやってきた事がことごとく裏目に出て、仕舞いには同族を滅亡の危機にまで追い込んだのだ。深く後悔して当然だ。

 「……私の口から言葉を掛けてあげたい。リサさん。シアにあの翻訳魔法を掛けてあげて。きっと効くから」

 リサさんはこちらに来てから翻訳魔法を使い、言葉をたった三日で覚えたと言っていた。アイシャはそれを使ってシアに直接語りかけるつもりだ。

 どう魔法を使うのかと思ったが、リサさんの足にしてある刺青がほんのり青白く光ったのだ。それだけで終わった様子。

 「――はい、出来上がり。シアさん、わたくしの言葉が分かりますか?」

 (……うん)

 「私の言葉は分かる?」

 (うん)

 成功のようだな。


 「じゃあね、シア。私は最初、勇者にさせられたと思っていた。英雄の生まれ変わりだなんて言われてね。まだ勇者が義務だと思ってる時にカナタやシアと出会って、シアの正体を知った」

 (うん)

 シアはアイシャの目をしっかりと見て言葉を聞いている。

 「私ね、勇者っていうのは勧善懲悪だと思っていたんだ。だから六千年前の女魔王プロトシアを受け入れる事は出来なかった。だって、学校で散々プロトシアは悪だって学んだから」

 (うん)

 「……でも、ふたつの出来事があって、その考えが変わり始めた。ひとつは王立図書館で三千年前の歴史書を見つけて、自分の学んだ知識に疑問を持った事。もうひとつが学生時代の友達と再会した事。今の私はね、自分から勇者をしようって決めたんだ」

 (……うん)

 何故かここでシアは目を逸らし頷いた。

 「私の事、羨ましい?」

 (……うん)

 何故シアが羨ましがったと分かったのだろうか? 何故シアは羨ましがったのだろうか? 後で聞いてみるかな。

 「私、決めた。魔王プロトシア、あなたを信じる。個人としても、そして勇者としても。歴史に載るほどの有名な魔王からすれば、私なんてまだまだひよっこだけどね、少なくとも私は勇者なんだよ。その私がシアを信じると決めたんだから、シアも私を信じて」

 当のシアは、その言葉を聞き自らアイシャにくっ付きに行った。

 「うん」

 優しく魔王を抱きしめる勇者。アイシャは本物だと、そう思う事に何の疑問もなかった。



 ――それから。

 「私から指示を出してもいいかな? カナタはトムに、王都が狙われている事だけを話して。フューラは開発第一。カナタの武器もまだだから、工房に缶詰になる事を私が許可します。リサさんは……今は自由行動かな」

 各々に返事をする。

 「それじゃあひとつ聞いてもいいかな? アイシャはさっきシアに羨ましいかと聞いた。何故そう思ったんだ?」

 「まずね、本当に悪の魔王ならば、鳥になったとしても帰ってきた時点で何か行動を起すと思うんだ。でもその素振りは一度もなかった。それどころか私たちを助けてもくれた。だからシアは、本当は魔王になるような性格じゃないと思ったんだ」

 確かにシアは魔王にしては優し過ぎる。

 「そして私が自分で自分の道を決めたと言った時に目を背けた。これって、自分はそうじゃなかったっていう事だと思ったんだよね。つまりは最初の私と同じように、誰かに魔王にさせられた。だから、そこから脱した私を羨ましく思ったんじゃないかって、そういう事」

 (うん)

 素直に頷いたシア。ひとつの可能性が俺の中で浮かんだ。

 「もしかして、シアは誰かの策略で魔王にさせられたのかもな。それが六千年前の戦争を始めさせた黒幕」

 (うん!)

 俺のあっさりとした推理に、きっちり大きく頷いたシア。


 「シアを魔王にさせた挙句に戦争を始めさせて、その責任を擦り付けて……許せない。私が六千年前に生きていれば、そんな事は絶対にさせなかったのに」

 (ううん)

 「え? ……もう気にしてないって?」

 (うん)

 すっかりシアの心が読めるようになっているアイシャ。時代や立場が違えば、きっと二人は良き友になっていただろうな。

 「シアが気にしなくてもね、私は気にするよ。だからこそ、六千年前の女魔王プロトシアの名誉を守るために、今現れた偽魔王にはきっちりと落とし前をつけてもらう! これは私が決めた、誰にも譲らない私だけの勇者の道!」

 すごいなと、素直にそう思った。助けを求める者があれは、例えそれが魔王であろうとも助ける。ミスヒスという小人族のこの娘が、今はすごく大きく見える。

 「……負けていられないな。俺たちも覚悟を決めるぞ」

 「はい」「ええ」

 俺たちは、この小さな勇者を支えきってみせる。友達として、仲間として。



 ――王宮、玉座。

 アイシャの決意の後、俺たちはその指示に従った。俺は王様に謁見。

 「話せる事だけ話します。あの領主と魔族は、一ヵ月後に王都を襲撃するつもりです」

 「……やっぱりですか。私が聞きたかったのはその一言なんですよ。何かを企んでいるという情報は手に入れていましたから。おかげで事前の用意も出来る」

 緊迫する訳でなく、むしろ安心した表情を見せるトム王。

 「それで、その理由は?」

 「それは言えません。アイシャにも口止めされていますから」

 「ならば仕方がないな」

 あっさりと引いたトム王。それだけアイシャを信頼しているという事かな。


 「では先手を打って、伯爵とその魔族を捕らえよう」

 「いや、それは駄目ですよ。正しいのは俺たちが捕まって作戦が失敗したという話を流す事です。これで相手は自分たちの事が王宮に察知されたと思い、作戦を放棄せざるを得なくなる」

 「うーん……」

 俺の作戦に理解を示しつつも難しい表情のトム王。

 「必要ならば本当に捕まりますよ。もう捕まり慣れてますから。あはは」

 冗談めかして言ってみたが、余計に難しい表情になった。

 「そうだ、先にこれを。伯爵から準備資金としてもらったお金です。そのまま国庫にでも入れちゃってください」

 「……あはは、しっかりしていますね。そのまま横領しても気付かなかったのに」

 「さすがにそれはいかんでしょ」

 その後、領主の話は完全に王様任せにして、俺は百シルバーもの大金を手に入れ帰宅した。これで年単位でこちらで暮らせそうだ。

 ……気付けば俺も、この世界に骨を埋める決意をしているようだ。



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