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第百二十三話  魔王・王女・破壊王

 ――シア視点。

 兵士のローブを拝借して早速外苑へ。

 一応顔は隠れるようにしてあるのだが、あまり自信がない。このような大切な時にこそ、ジョーカーを引いてしまうのが私なのだ。

 ……お、あれが橋渡し役の兵かな?

 「お疲れ様です」

 「ああお疲れ様」

 「中央府へ渡りたいのですが、よろしいでしょうか?」

 「……あんた新人かい? ハシケに対してそんな腰の低い奴なんていないよ」

 「あ……はい。今日が初仕事なので……」

 こちらの緊張はいざ知らず、いつもの事といった様子で淡々と橋を渡してくれた。

 「ありがとうございます」

 「はいはい」

 恐らくは出世街道から外れ、この仕事にやり甲斐を持てず、淡々と歯車を演じているが、そのような境遇にも慣れてしまっているのであろう。

 ……そんな事よりも早く渡ってしまおう。


 しかし長い橋だな。一キロくらいはあるのではないか?

 ……ん? 後方で何か音が……って! 橋が沈んでいってるんですけど!

 もしや気付かれたのか? それとも何か自動的に侵入者を感知する魔法が? ともかく心臓に悪いので早歩きで行こう。

 って明らかに橋が沈む速度が上がっているのだが!

 ……あ、私が早足になったからか。



 ――中央府。

 冷や汗か水しぶきか分からないが、結構ローブが濡れた。……汗であるはずないか。

 えーと水路の管理場所は……。

 「お帰りなさいませ」「わっ!? と、びっくりした」

 「はははこれは失礼しました」

 入っていきなりだったので飛び跳ねてしまった……。

 「という事は新人さんですか?」

 「あ、ああ。はい。水路の管理部署に行きたいのですが、場所を覚えていなくて、ははは……」

 「水路管理局ならば一旦出て右に曲がり、そのまま水路沿いに進んでください」

 「右ですね。分かりました。ありがとうございます」

 柔らかな笑顔で応対してくれるのはよいのだが、どうやら驚かすのが趣味になっているようだ。うむ、悪趣味だ。


 教えてもらったとおり水路を左手に見ながら進むと、どう考えてもこの景観には似合わない掘っ立て小屋があった。薄汚れて落ちかけている看板にも確かに水路管理局とある。

 ……色々思うところはあるが、ともかく入ろう。

 「失礼します」「ああぁあんっ!?」

 いきなりこれか。小屋の中はタバコの煙で充満しており、その中にはかなりお年を召した恰幅のよい女性が一名のみ。

 「すみません、地下水路の地図をお借り出来ないかと。見せてもらえるだけでも構いませんので」

 「あー!」

 火の着いたタバコで指し示されたのは、入り口すぐ横の壁。


 ……これはひどい。経年劣化とヤニのせいでほとんど判別不可能だ。

 「……お借り出来ますか?」

 「あー」

 「それでは失礼して拝借します」

 画鋲を外し、今にも破れてただのゴミと化しそうなその地図を……魔法で仕舞うのはやめよう。慎重に丸め、これでよし。

 「お忙しいところ失礼しました」

 「待った」

 ひぃっ……。背中を見せた途端呼び止められてしまった……。


 「あんた、魔族か?」

 「あ、はい。今日からの新人なんです」

 「名前は?」

 うっ……逃げる訳にも行かないし……こ、こういう時は知り合いの名前を拝借だ。

 「シオンと言います」

 「女でシオン? ……タイケの家か?」

 うわっ……運の悪さがここで出てしまったかっ……。ここは……ここは……。

 「いえ、私はシオン・フレティッヒなので」

 「ちっ、なんだい……」

 彼女はシッシッといった感じで手を振ったので、どうにか誤魔化せたようだ。

 しかしシオン・タイケさんを知っているのか? ただの同姓同名であろうか? うーむ……。



 ――合流。

 尾行もなく皆と合流するために路地へ。確かここのはず……ああ目印の木箱があった。

 「おーい」

 「はーい」「はーい」

 返事があった。覗けば二人とまだ眠っている兵士を確認。これで一つほっと出来る。

 「いかがでしたか?」

 「地図は手に入れた。……今はもっと安全な場所に移動しよう」

 「そうですね」

 兵士の縄を解き、ローブを着せ直して……。

 「これでよし」

 あとは木箱を転がしておけば、勝手に都合のいいように解釈するであろう。


 我々は郊外に移動し、空き家を拝借する事に。

 私は鳥でなくても空間接続魔法が使えるので、ドアに穴を空け、手だけを突っ込んで開錠した。

 室内だが、空き家とはいえ最近まで人のいた形跡がある、綺麗な状態だ。

 まずは床に地図を広げ、そして我々も床にそのまま座った。

 「さて問題の地図なのだが、見てのとおり酷い状態だ」

 「これはまた凄まじいですね。紙はボロボロで線は消えかけ、しかもこれはタバコのヤニですか。……どうしましょ?」

 「リサさんがお手上げなのか……」「ううん。まかせて」

 っと、モーリスは地図に手をかざし、なにやら無音で魔法を詠唱。


 「……ほう、さすがはモーリス」

 消えかけていた線が黒く浮き上がりはじめ、ヤニの汚れも徐々にだが落ちてきた。紙の破れはそのままだが、これは仕方がなかろう。

 「リサさんはこのような魔法は持っていないのだったな?」

 「ええ。わたくしの持つ日用魔法はチェスト以外、どれもが副次的なものですから」

 「私も王であったので分かるが、身の回りはメイドがやってくれるのだものな」

 私は冗談交じりに明るくだったのだが、リサさんは一段表情が暗くなってしまった。

 「今に思えば本当にだらけた甘々な生活でした。わたくしの時代では奴隷制度は最早過去のものでしたが、この時代であれば、わたくしも命を命と思わない性格になっていたと思います。本当、わたくしは恵まれています」

 悲しそうな笑顔だ。


 「……できた」

 「おっ、どれどれ?」

 覗き込んでみると、これが見事に……という劇的な形ではなくボロで茶色い紙ではあるが、間違いなく地図として見られる状態に戻った。

 「リサさん、要所の位置は?」

 「この地図ですと……」

 とリサさんが目印に取り出したのは、小さな円柱形のコルク。どう見てもワインのビンに使っていたものだ。


 ……待て、私が知るのは一本のみだが、どう数えても片手以上のコルクが転がっているのだが。

 「……リサさん、あなた隠れて呑みまくってますね?」

 「いえいえいえいえいえ、これはそのー……あー……あっ、もらったのです」

 満面の笑顔だが、誰がどう見ても嘘なのがバレバレである。

 「うそ、いくないよー。モーリスにはぜんぶわかるもーん」

 最大の口撃に笑顔の引きつるリサさん。はあ……本当にこの王女様は……。

 「よくもまあそのような体たらくで、昔のほうが甘々だったと、まるで今のほうが節制に努めてるとでも言いたげな言葉が吐けたものだ。帰ったら皆に怒られたまえ」

 「ごめんなさい……」

 呆れ声にもなってしまうが、しかし今はやる事があるので、叱るのはこれだけで済ませた。



 さて肝心の要所の位置であるが、見事に中央府を中心とした正三角形を描いており、そして水路もしっかりと繋がっている。

 「複写しますね」

 リサさんは紙を三枚取り出し、それを地図の上に乗せ、魔法を使用。見事に地図の黒い線のみが複写された。私の頃にはこのような実用的な魔法は少なかったので、驚き通しだ。

 「全員水中呼吸の魔法は使えるので問題はないな。今は……十三時か。ならば先に水路を通り各自位置につき、十四時になったら襲撃を開始だ」

 と、モーリスが小さく手を上げた。

 「はい。どうやるの?」

 「……壊せ。だが人はなるべく傷つけるな。我々の目的はあくまでもこの魔法の停止と、アクビ教皇の退位だ。それに、もしモーリスに人を殺させなどしたら、我々が無事では済まなくなる」

 「あはは。うん、わかった」

 我々が今一番恐れる人物は、ジリーだ。


 また見つからないように外苑へ。兵はいるが、皆眠そうだ。

 「……あっち」

 モーリスはやる気満々で我々を誘導。

 着いてみると、柵で囲われたちょっとしたプールがあった。

 「なるほど、貯水槽か」

 「ちずにあったよ」

 「よく気が付くな。さすがモーリス」

 「えへへー」

 主人公でないのが勿体ないほどだな。


 「では行くか。私は南西」「わたくしは南東を」「モーリスはうえ……きた」

 地図では上だが、それを理解し北と訂正。こういう事が出来るのがモーリスなのだ。

 そして我々三人は、メセルスタンの首府バルサレツカに広がる地下水路へと潜った――。



 ――南西、変わらずシア視点。

 汚く狭くて真っ暗かと思っていたのだが、壁が石のレンガ製なので綺麗であり、手を広げてもまだ余裕がありそうなほど広い。そして所々に雨水を流すための穴が開いているので意外と明るい。

 地図では……ここから真っ直ぐ進み、突き当りを右、その後はまた真っ直ぐ進めばいいだけのようだ。覚えるのが簡単で助かる。


 「ひぃっ……」

 思わず声が出てしまった。今私は目線が丁度水面と同じほどの水深の場所にいるのだが、目の前に虫の死骸が流れてきたのだ。

 それもそうだな。ここは地下の水路、虫の住処。……んんーっ、背中がムズムズっとぉぉっ……。

 どうにか目の前の死骸は避けたのだが、この先このような事が散見されると予想出来る。……失敗したなぁ……。しかし進まないとどうにもならないので、覚悟を決めるか!



 ――南東。リサさん視点。

 こちらは途中までモーリスさんと一緒です。

 「んぎゃあぁぁぁぁ」

 今のはシアさんの悲鳴ですね。あちらは楽しくやっているようで結構な事です。

 さてこちらは十字路を左・右・右と進み、突き当たったら丁字路を左で到着のようです。結構距離がありますよ。

 しかしここは下水道とは違うようですね。最初は汚物が流れているかと思っていたのですがそうではなく、水はかなり綺麗ですから、恐らくは上水道なのでしょう。

 あーそれでも虫の死骸は浮いていますから、この水をこのまま飲む気にはなれません。


 さて最初の十字路を左へと曲がり……おや、鉄格子。仕掛けはなさそうなので、切ってしまいましょう。

 「ウインドカッター」

 はい、簡単ですね。

 「モーリスもできるよ」

 「あまり大げさには使わないようにしてくださいね。あくまでも見つからないようにですよ」

 「うん。だいじょぶ」


 二つ目の十字路を発見。わたくしはここを右に曲がり、モーリスさんは直進です。

 「ここでお別れですね。モーリスさん、くれぐれも気をつけてくださいよ?」

 「はーい。……あ、えーと……」

 と、モーリスさんはわたくしの右手を両手で軽く握り、なにかを詠唱した後、軽く息を吹きかけました。

 「おまじない。ジリーにおしえてもらったー」

 「ふふっ、これはよく効きそうですね。それでは後ほど」

 「うん。ばいばーい」

 なんとなく勿体なくて、左手を振ってお別れです。


 ふふっ。おまじない、ですか。

 ……嘘おっしゃいな。これは歴とした光属性の魔よけ魔法です。

 あれ? でもそうすると、モーリスさんは何時どこでこの魔法を? もしも本当にジリーさんに教えてもらったのならば、ジリーさんはそれをどこで? というか、ジリーさんが魔法を??

 これはしっかりと聞き出さなければ。

 そして右折して少し歩くと左カーブがあり、その先また右折。……ひとつの右折で済みましたね、これ。



 ――モーリス視点。

 はーい。喋るのはまだだけど、考えるだけならばバッチリだよ。

 えーっとー、最初を左、そこから二つ目の十字路を左だから……あ、あった。ここを左で、みみなりに進ん……? 道なりに進んで、突き当たったら左、すぐ右曲がって……なんだっけ?

 ともかく曲がって道なりー。


 ……って、鉄格子だらけなんだけどーっ!?

 えー……こんな事あるの? んもう……。僕は魔法の使える魔族ってだけだから、あんまり魔力は持ってないし、なるべく使いたくないんだけどなぁ……。

 「ういんどかったー」

 ……切れにゃい。傷は入ったけど、これじゃーあと三回は使わないと。でもこれ以上魔力を込めると、途中で息切れするかも。どうしよう……。

 うーん……うん? あ、鍵穴がある。だったら開錠の魔法持ってるもーん!

 (おーぷんせさみー)

 カチッと開錠。あとは……開いた。これきっと、牢屋の鉄格子をそのまま使ってるんだよ。だったらもう僕には効きませーん。

 (おーぷんせさみ、おーぷんせさみー、おーぷんせっさみーん)



 ――シア視点。

 もう嫌だ……おうち帰りたい……。

 右折はしたのだが、ここからさらに倍近く歩かなければいけないのだ。……あー考えるだけでも気が滅入る。

 ……ん? 気付けば左右に歩道が。はしごは……あった! よし、水から上がってしまおう。


 と、思ったのだが! はしごに虫の死骸が複数絡みついており地獄絵図である。

 ……仕方がない。私も浮遊魔法は使えるので、それで済ませよう。

 ただ……私は浮遊魔法が下手なのだ。まあここでは誰にも見られないので構わないのだが、しかしバランスを失って虫の上に落ちるなど……ううっ、鳥肌が……。

 「……よし。フライト」

 私の体はふわりと浮き上がり、水中から歩道へ。そして……無事着地っ! ふう……。

 「んなっ!?」

 一難去ってまた一難! 蜘蛛の巣だらけ! ううおおおっ……と、鳥肌があああっ!



 ――リサさん視点。

 ここを左に折れれば目的地に到着のはずです。

 距離的にはシアさんが一番近いはすなのですが、あの様子ではわたくしのほうが早く着きそうですね。

 さてさて? ……ここ、のはずです。

 地図上ではこの真上に第三魔力増幅炉というものがあるとの事ですが、水は水路一杯まで満たされており、何かしらの看板や目印は一切見られません。

 ……ああ、確かに魔力が発生しています。種類は……ビンゴ。地図は正しかったという事です。

 次にわたくしのすべき事は、時間まで待機ですね。



 ――モーリス視点。

 (おーぷんせさみぃー)

 ふう、結構疲れたけど道の突き当りまで来たよ。ここを左に曲がって、次を右ー。

 でもすぐに鉄格子がありそうな予感。……あれ? なかった。あはは、アイシャみたいにはいかないね。

 左に曲がって、すぐ右に曲がれる道が……ない。地図ではここのはずなんだけど?

 んー……あっ! 右から滝みたいに水が流れてきてるから、この上に道があるんだ。

 (ふらいんぐー)で飛んでみたら、やっぱり水路があった。そしたら鉄格子が……なぁーい。あそこの場所にだけ一杯なのかな?

 上の水路はあんまり深くなくて、僕のくるぶしくらいしか水がないよ。でも天井は少し低いから、リサさんとかプロトシア様だったら頭が引っかかるかも。

 えーっと次は……二つ目を右。あーとーはー……道なりで到着するはず!


 ……前から嫌な気配。言葉にはなってない感じの、唸りにも似た声……これ、心の声だ。それが聞こえる。

 迷ってたら声の正体が見えた。でっかい虫! あ、えーっと……イモムシ! 白くて、赤い斑点模様で、すっごくヤバい感じ! それが水路にみっしり詰まってる!

 あー、どうしよう。なんかこれピンチだよ? ……急いで到着するほうがいいのかな? それとも退治する? えーでも僕一人で出来るのかな……。

 ……あー、倒さないと駄目みたい。行きたい道があのイモムシで塞がっちゃってる。

 (――――タ)

 うん? これは……あのイモムシの声、かな。

 (―――キタ)

 …………。

 (エサガ、キタ)

 ひいっ……。


 (オレサマ、オマエ、マルノミダ!)

 「いやあああっ!」

 来たあああっ!! 猛然と突っ込んできたあああっ!!

 えーとえーとえーとえーと! あっ! あのサイズだったら段差降りられないかも!!

 急いで戻って、段差を飛び降り水中に逃げた。それで……止まった!

 「ふう……」

 (エサガ、キタ)

 ……え?

 来たのとは別の方向から、ゆっくりと別のが出てきた! でっっっかい四角い体の魚! 上が青くて下が黄色と白!

 (エサガ、キタ)

 今度は後ろから!? なんか平たくて鋭い姿のでかいのが出てきた! 上が黒くて下が白いの! いやいやいやいやいや!! 完全に囲まれた!!


 どうするどうするどうするどうする???

 もうもうもうもうっ! 迷ってる暇ないっ!



 ……あ。

 そうだ。守るって、言ったんだ。待ってるって、言ったんだ。

 ここで終わったら、守れない。待てない。……もう会えない……。

 ……だったら、やるしかないよね! 切り抜けるしかないよね! 会いに行くから!!


 深呼吸。

 リサさんやプロトシア様の言いつけを破る事にはなるけど、でも死んじゃったら怒ってももらえない。

 だから怒ってもらうために……上の建物ごとぶっ飛ばしますっ!

 「いくよっ! ばーすとふれあっ!」

 護身用程度の攻撃魔法しか知らない僕の持つ、一番強い魔法! ……だけど、あれ? 思ったよりも威力が出てる!?

 ってやり過ぎて瓦礫が! うあっ……。



 ――シア視点。

 小さく叫び通しながらも、どうにか到着だ。地上へのはしごがあり、第二魔力増殖炉の看板もある。

 ……ん? 遠くで爆発音だ! 予定時間には……まだ十分以上早い。

 これは……モーリスか。しかしあのモーリスがここまで轟くほどの魔法を、予定時間よりも前に発動するか? という事は、緊急事態か。

 ……敵兵に見つかったか、あるいは予期せぬモノと遭遇してしまったか。どちらにせよこれほどの爆発だ、予定よりも早くはあるが、破壊作戦へと移行しよう!


 しかし私はあくまでもスマートに行きたい。これでも元魔王なので、私が人を傷つけたとなれば、それは大陸にある魔族への差別感情に跳ね返る事になってしまうのだ。

 まずははしごを上り地上へ……げっ! 蜘蛛の巣に蜘蛛がいるっ! しかも大物だ!

 「うひぃぃ……って降りてきたああっ!!」

 下に飛び降りて、思わず水路の反対側まで飛んでしまった。急がなければいけない時に限ってこのような……ひいいっ!! 背中に虫入ったああっ!!

 「ああああああっ!!!」

 

 叫んで騒いでのた打ち回っていたら、気付いたら虫は自ら出て行ってくれていた。もう……あれ? どれくらい経った?

 仕方がない、一寸の虫にも五分の魂とは言うが、ここは炎でご退散願おう。

 「ファイアボール」

 今更ではあるが、見つかるのもまずいので小声で詠唱。ゆっくりと火の玉が昇って行き、はしごは綺麗になった。


 一安心してはしごを上る。

 おっ、鉄製と思われる蓋があった。鍵は……かかっていない。随分と無用心だ。

 音のしないようにゆっくりと開け、目だけで周囲を確認……したかったのだが、角が引っかかった。私の角は魔王らしく無駄に立派なので、たまに邪魔に思う時がある。

 「誰だっ!」「げっ!」

 ええい、こうなれば仕方がないっ!


 蓋を魔法で吹き飛ばし、建物内へ侵入! 突然に蓋が吹き飛んだので、私の侵入を察知し集まっていた兵は、皆驚き固まっている。

 「貴様らに用はない! 命が惜しくば逃げるがいい!」

 「……んわっはっはっはっ!! 魔族が一人で、なにが出来るって?」

 魔族が一人で、か。グラティアでの差別意識は薄れてくれたようだが、こちらは未だに強いままだな。だが。

 「出来るさ。軽く見積もってもここにいる兵を皆殺しにする事くらいはな!」

 銃を取り出し、命を奪わないように足や手を狙って撃つ!

 「うわっ!」「あ、足がっ!」「な、なんだこいつ!?」

 「再度警告する。命が惜しくば去れ!」

 と言った丁度のそのタイミングで遠くで二度目の爆発。これはリサさんかな?

 「畜生何だってんだよ!」「あんな教皇に構ってられるか!」「退却だ! 退却!」

 この一人の命令により、わらわらと兵は逃げていった。


 さて、改めて建物の構造だが、どうやら複数階構造であり、四角錐、つまりピラミッド型になっているようだ。一階はほぼワンフロアであり、さしずめ休憩室といったところか。恐らくは周囲の兵も利用する、詰め所としても使われているのであろう。

 この階に用事はないのでさっさと上の階に上がってしまおう。


 そして二階だが……あったぞ。巨大なクリスタルの正八面体だ。恐らくはこれもアーティファクト。正八面体とはピラミッドの底同士をくっ付けたような形状だな。そしてここは三階もあり、クリスタルを囲うように吹き抜けの構造になっているのだ。

 人は……いるいる。魔法を詠唱し続けている魔術師が四名、上の階にも何名か見える。

 私は銃を構えておき、こやつらに退去を促す事にした。

 「貴様ら! 命が惜しくはここから去れ!」

 「――――――」

 無視されました……。


 仕方がない。モーリスもリサさんも動いたのだ、ならば私も派手に爆発音を轟かせてやろうではないか。

 「いいか、もう一度言うぞ。ここから去れ。聞こえぬ振りをするのであれば、それは自らの命と引き換えの愚行に他ならない。私とて貴様らの血を流したくはないのだ」

 「――――――」

 「はあ……そうか。残念だ」

 とはいえ、なるべく傷つけないように努力はするぞ。


 「火傷程度は文句を言うなよ。エクスプロード!」

 自分を中心とした半径二十メートル程度を爆風により吹き飛ばす。リサさんはこの系列の最上級魔法を使い、地形に大穴を空けたな。

 まあ私は自称手加減の出来る人なので、そこまでの被害にはならない。

 ……爆風が収まり、クリスタルの破壊を確認。ついでに魔術師たちも息があるのを確認。

 「恨むならば、貴様らにこのような仕事を与えたアクビ教皇を恨め」

 さあ、次の段階へと進もう。



ネタ1:地下水路の構造はとあるワンダフォーなゲームのものを拝借しました。

ネタ2:四角い魚はギョギョッと鳴きます。

ネタ3:平たい魚はエイッと動きます。

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