第十一話 王女様的な庶民生活
リサ王女救出から二日後。俺とアイシャは王様に呼び出された。
「報酬をと思ってね。今回は伯爵の失態、つまり国の失態でもある。慰謝料や口止め料という訳ではないが、少々上乗せさせてもらったよ。たーだーし! アイシャには無しだ」
「う、うん。えっと、ごめんなさい」
幼馴染とは言ってもやはり王様には頭が上がらないアイシャ。あの後アイシャだけが残され、こってり絞られたそうな。
「それでカナタさんにはだけど、六十シルバーを出す事にしたよ。受け取ってくれ」
つまり六十万円だ。かなり大きいぞ。
「ありがとうございます。っていうかアイシャは普段どれだけ受け取ってるんだ?」
「私? 一概には言えないけど、多くて三十シルバーくらいかな? カナタと出会ったペロ村の案件で二十五シルバーだよ」
数日間でそれだけと考えると、かなりの高額報酬だな。それだけ命の危険があるという事にもなるのだろうけど。
「ここからが本題だ。これからはカナタさんにも王宮からの依頼を受けてもらいたいんだ。もちろん普通の依頼よりも報酬額は高い。実はアイシャでは対処出来ないし、国の力を向かわせる訳にも行かない微妙な案件というのがあって、普段は斡旋所での評判のいい者に頼むんだが、カナタさんが担当になってもらえればこちらとしても安心出来るんだ。どうだろう?」
「うーん、でも俺の家遠いですよ?」
「それは分かっているよ。丁度あそこらへんは移動の便が悪いから、近々あの地区にテレポーターを配置する予定なんだ。これはカナタさんが家を決める以前から決定していた事だよ」
つまり移動時間の問題点は解消される訳か。
「内容次第ですけど、戦闘の可能性のないものならばお受けしますよ。俺だって生活費を稼がなきゃいけませんから。それと、俺からアイシャやフューラを巻き込む事を許可してもらいたい。状況次第では一人ではどうにもならない事もありますからね」
「それは依頼を受けたカナタさん自身に一任するよ」
こうして俺は斡旋所での仕事依頼の他に、トム王直々の依頼も受ける事になった。
「それとアイシャにも一つ頼みがある。例のリサ王女だけど、君の家で預かってもらえないかな?」
「えっ!? い、いや待ってよ! 異世界から来たって言っても王女様だよ!? 私の家狭いし、あんまりいい食事も出せないよ?」
すると当人登場。しっぽモフモフしたい……っと、願望が漏れ出てしまった。
「えっと、それについてはわたくしから。えー……お恥ずかしながら、わたくしは庶民の生活というものに憧れがあります。こちらの世界では誰もわたくしの事を知りませんし、そうそう戻れないのであれば、この際いっそ庶民として暮らしてみたいなと。……あ! えっと、もちろん無理なお願いである事は承知の上ですよ」
押し付けにならないように焦って最後に付け足してきたな。さてアイシャはどうする?
「って、お前が頼まれてるんだから俺を見るんじゃねーよ」
完全に人頼りの目線。
「だよね。うーん……分かりました。でもお試しで三日だけ。本決めはその後で。それでよろしいですか?」
「ええ、寛大なご決断に感謝いたします」
――アイシャの家。
さて帰るか、と思ったら捕まった。そのままリサ王女を引き連れ俺ごとアイシャの家へ。
「どうすればいいの?」
小声で耳打ちしてきたアイシャ。
「そんなの俺が知るかよ。そもそも俺は普通のサラリーマンだ」
今まで接待した偉い人といっても、精々町工場のハゲ社長くらいだ。こっちの世界に来て王様というものと出会ったが、そんな俺に頼られてもどうしようもないのだ。
「うーん、フューラも呼んでみようか」
「この家に四人と鳥一羽か? まあいいや。ならば俺が連れてくるよ」
困った時のフューラさん。ここからならばテレポーターを使えば十分とかからずに工房まで行ける。身軽になっておきたいのでシアはアイシャに任せた。
――フューラの工房。
「おーい」
「はあーい」
あっさりと出てきた。ついでなので進捗状況も聞いておくか。
「あの王女様がアイシャの家に同居する事になって、不安だからと何故かフューラも呼ばれたぞ。それと、ついでだから中見せて」
「あはは、どうぞ」
さて中を覗いたのだが、なんと既に蒸気機関が完成していた。使用方法は不明だが、パイプが屋根まで伸びて野外に煙を排出している。
「本当はここまで百年以上を予定していたんですけどね。本当にカナタさんには感謝しています。……って、どうしましたか?」
「どうしたじゃねーよ。室温何度だよ?」
「えーと……四十三度ですね。僕は問題ないですけど、生身の人間には耐えられませんよね。準備をしますので、外でお待ちください」
もうね、熱くてヘロヘロ。蒸気機関なんて水を沸騰させてエネルギーを得るんだから熱くて当然だけど、フューラは自分さえ良ければ、という部分があって危なっかしくて困る。
――再びアイシャの家。
「来たぞー」「おじゃまします」
「いらっしゃいませー」
と、出迎えたのは大輪の花が咲いたようなニコニコ笑顔のリサ王女だった。
「ど、どしたの?」
「えへへ、もう馴染んじゃった」「はい。馴染みましたぁー」
すげーよ、この王女様引っ込み思案かと思ったら結構大胆だ。
「改めて自己紹介をさせていただきます。わたくしはチェリノス連合王国第十三王女、リサと申します。本名はとても長いので、民にも省略して呼ばせております。年齢は十九歳。王国では魔法研究家も兼任しておりました」
という事で俺たちも改めて自己紹介。一人ごとに「まあ!」とか「すごい!」とか、なんというか気の抜ける王女様だ。
「王女様、ご教授願いたいのですが……」
「あ、その前にひとつよろしいでしょうか。わたくしはもっと、皆様とお友達のようにお付き合いしたいと思っておりまして、なので王女様ではなく、単にリサとお呼びください。堅苦しい言葉も必要ありませんよ」
圧倒的王女様オーラを放ちながらも嫌味がないリサ王女。いや、リサさん。その理由はきっと放つオーラが”ほんわかぽわぽわ”だからだろう。
「それじゃあリサさん。リサさんの世界はどういう感じだったのか、そして何で俺たちの言葉が分かるのか、教えてもらえますか?」
「はい。わたくしの国チェリノス連合王国は、十六の小国家が集まって出来た連合制を採用しております。十六の小国家のうち、元から資金力に余裕のあった三つの王国が統制を執り、わたくしのような王の後代が残り十三の小国家の代表となる形で運営されております。そして三人の王それぞれに子供がおりまして、わたくしは十三番目の子供という事になります」
連合国と聞くと俺の中では崩壊した赤い旗の国が浮かぶ。そういえば何かで読んだがギンギツネの原産国も……まあ偶然だな。
「国家規模は大きいものの、農村が多数を占める牧歌的な風景が続いておりまして、わたくしの治めていた地域など、兵はたった三万、民も二十万人ほどしかおりません。特に冬は厳しく、毎年のようにマイナス四十度を記録しております」
聞けば聞くほど赤い旗がちらつく。一方やはり自国の話なのでリサさんは楽しそうだ。
「言葉についでは、翻訳の魔法を使い、幽閉される以前に覚えました。わたくしの言語と近かったので、三日で覚えきれました」
すんなり言ってくれるリサさん。そういえばフューラも似た言語だから三日で覚えたと言っていたな。まあ偶然偶然。
次はフューラが手を挙げた。
「はい。先ほどの通り僕は機械なのですが、リサ様の世界での技術レベルはどれほどのものだったのでしょうか?」
やはりフューラはそれか。まあ俺も気になってはいた。
「そうですね……わたくしが生まれる少し前に、機械馬車というものが発明されております。馬が荷車を引くのではなく荷車自体が動く機械です」
「すごい!」
と驚いているアイシャ。そして俺とフューラの表情を見て固まった。こちらとしては驚きもしないからな。
「俺の世界の暦で言えば1900年代だろうな。俺のいた百年ほど前だ。空を機械が飛んだ事は?」
「いいえ。噂はありましたが、なにせ魔法でも飛べますから」
「リサさんも飛べるのか! 畜生うらやましいっ!」
と思わず声に出てしまい、みんなから笑われてしまった。
「あ、ひとついい事を思いつきました」
とフューラ。なんですかなんですかー?
「リサ様は魔法研究家でいらっしゃるのですよね? ならばもちろん魔法には長けておられる。一方アイシャさんは魔法が苦手で、今でも暴発が絶えないと」
つまりリサさんに、アイシャの魔法の先生になってもらおうという事か。
「何か言い方が気に食わないけど、でもそれいいかも。リサさん、私の魔法の教官になっていただけませんか? お願いします」
「え、き、教官……ですか。わ、わたくしは人に教える行為は経験がありませんので、えっと……」
途端におどおどし始めるリサさん。自分から行動するならばともかく、頼まれ事には引っ込み思案か。そしてアイシャはかなり本気の様子で、しっかりと頭を下げている。
「教官をする事で見えてくる事もあるかもしれませんよ。自身の成長のためとも思って、受けてみるべきじゃないですかね?」
こういう時に背中を押すのが年長者の役割だ。
「……確かに、そうですね。分かりました。アイシャさんの魔法教官、お受けいたします」
「やったっ!」
本当に嬉しそうなアイシャを見るに、自分の弱点を理解しているのだろうな。
その後もリサさんや出身国の話は続いた。
リサさんはいわゆる神童であり、自身が足で立つよりも先に魔法で浮いていたほどだという。しかし現在は自ら攻撃系の魔法は使わないと決めているらしい。
「――わたくしが十一歳の頃、とある戦争でわたくしの統治する小国にも大勢の兵が押し寄せ、戦闘へと突入してしまいました。そこで幼いわたくしは、ただ新たな魔法を試してみたいというだけで、乱戦の中何も考えずに魔法を使ってしまった。結果わたくしを中心とした円状に風の刃が飛び、大量の血が広がり、敵味方共に多大な損害を被ってしまいました。その血の広がりがまるで薔薇の花びらのようであった事から、わたくしは別名”ローザクローフィ”血の薔薇姫と呼ばれるようになってしまいます。以降わたくしは、人を傷つける魔法を自ら封印し、人を助ける魔法の研究を中心とするようになりました」
精神的に発達していない時期から強力な魔法が使えてしまったからこその失敗か。
「――わたくしが最後に研究をしていた魔法なのですが、時間を巻き戻す事で傷を治せないかという研究なのです。しかし失敗し、気が付けばこちらの世界へ……」
「ん? 似たような話を聞いたな。フューラも過去に飛ぼうとして失敗したんじゃなかったか?」
「そうですね。僕の場合は魔法ではなく、科学的にですけど。もしかしたら色々な世界で同時に時空に干渉したせいで、時ではなく世界を超えてしまい、僕たちが集まる事になったもかもしれませんね」
可能性としてはある。しかしそれは砂漠から一粒の砂を見つけるような可能性だ。
――お昼。
お腹も空いたので誰が食事を作るかという話に。まー結果は言わずもがな。
「備蓄は悲しいほどないな。ついでだから少し買い物してくるよ」
「あ、それならばわたくしも」
マジか。まあ身なりからして出歩いてもおかしくはないが、正直不安。
市場に着けば案の定王女様は目をキラキラさせ、あっちこっちへちょろちょろ動き回り、危なっかしいったらありゃしない。一方すっかりこの世界に馴染んでいる俺は、市場で必要なものも分かるようになっている。
「こらこら、勝手に売り物には触らない!」
「これは、申し訳ございません。つい好奇心が勝ってしまいまして……あれはなんですか!?」
言ったそばからこれかよ! こりゃー首輪付けておくんだったな。
「そういえばリサさんの本名って、どれくらい長いんですか?」
「ねえねえあれ美味しそう!」
全然聞いてねーし! 仕方がない、帰ってから改めて聞こう。
ある程度食料も買ったところで、面白いものを発見。この地方にある唐辛子で、かなり辛い奴だ。ここは一つ、この王女様にきつい洗礼を浴びせてあげようではないか。
「王女様、これあげる」
我ながらニヤつきが止まらん。さー……えっ、一気に行ったぞ!?
「んー……んー? ……んああああっ! んがああああっ!!」
「あっはっはっ! それ本来は細かく刻んで少量だけ料理に混ぜるんですよ。一気に行くとは……あっはっはっ!」
笑いが止まらん。一方リサ王女は涙目。これ後で文句言われるなー、あっはっはっ!
――数分後。
「謝りますから機嫌直してくださいよ。ね?」
「ふんっ!」
完全に怒っております。お、いいもの発見。
「これあげますから」
「……また騙すおつもりでしょう? わたくしが世間知らずだからといって、ひどいです!」
「いやいや、これは果物ですから。お詫びです」
ここいらでよく採れる果物で、味も見た目もマンゴーに近い。さて王女様のご機嫌は?
「……美味しい! カナタ、もう一つ買ってくださる?」
「あーはいはい。じゃあみんなの分も買っちゃうか」
あっさりと機嫌を直してくれた。リサ王女、チョロイ。なんて言うとぶっ飛ばされそうである。
――再びアイシャの家。
「ただいまー」「帰りました」
「おかえりなさい」
「あれ? フューラだけ?」
「はい。アイシャさんとシアさんは用事が出来たとかでどこかへ。すぐ戻ってくるそうですよ」
ふーん。まーいいや、元魔王と現役勇者のコンビだ。何があっても問題なかろう。そして案の定料理中に仲良く帰ってきた。
「何やってたんだ?」
「えへへー、これ」
と差し出したのは木の実。確かくるみのような食感の実だな。
「雑木林になってる場所があるんだけど、手が届かないからシアに手伝ってもらったんだ。ねー」
(うん)
なんだかな、言葉が分からないはずなのに、すっかり意思疎通出来てるじゃないか。
さて料理はボンゴレパスタにした。もちろんあくまでそれっぽいだけ。しかし見事にそれらしい食材が揃うものだ。案外どの世界でも食べられる食材というのは共通しているのかも。
「出来たぞー……って、何だ険悪だな」
フューラとリサさんが目も合わせず、フューラはともかくリサさんはすっかり頬が膨れていらっしゃる。
「仲直りしない限り昼食はお預けな」
「え! それは困る!」
アイシャが反応するのかよ。
「んで? 何があってこうなったんだ?」
「フューラさんが悪いんですっ!」
「僕は無理だって言ったんですけど、聞く耳を持たないというか、分かってもらえないというか……」
呆れた理由の予感がビンビンである。説明はアイシャがした。
「んと、リサさんはフューラにももっと友達のように話してもらいたいんだけど、フューラがそれは出来ないって」
呆れた。
「あのねリサさん、フューラはこう見えても機械なんですよ。機械は設計どおりにしか動かない。分かりますよね? フューラの設計図には、人には敬語で話すっていうようになっていますから、リサさんがどうお願いしたとしても敬語になります。俺だって敬称や敬語はいらないって言ったけど、それは設計上出来ないって突っ撥ねられているんですからね。分かりましたか?」
「……じゃ、じゃあせめて”様”はやめていただけますか? あと、かしこまった敬語もやめてください。わたくしは本当に友達としてのお付き合いをしたいのです」
フューラは大きく溜め息。
「分かりました。あー……リサさん、これでいいですか?」
「ええ。これで仲直りですね」
「……いえ、僕からもひとつ要求を出したいと思います。僕たちに敬語はいらないと言うのならば、リサさんも僕たちに敬語は不要です。今のままではリサさんの側から友達になるのを拒否しているように聞こえてしまいますよ」
おーフューラにしては言ったな。まあ言った後になってまずいという焦りの感情が、表情ににじみ出ている訳だが
「……そう、ですね。確かにフューラさんのおっしゃる……言うとおりです。わたくしも変らなければ!」
フューラとリサさん、案外いい関係になれそうだ。
――昼食。
「ちょっと冷めちゃったけど、元はといえば自分たちのせいなんだから、文句言わずに食べる事」
「はあーい」
さてお味はいかがかな?
「美味しいー」「さすがカナタさんですね」
庶民二人には好評。さて舌の肥えた王女様はいかがかな?
「……失礼を承知で申し……も……ごめん、なさい。えっと……」
「あはは、慣れるまでは自分の言葉で構いませんよ」
しどろもどろのリサ王女。砕けた言い方が出来ないのだろうな。
「失礼しました。あ、えっと、失礼を重ねてしまうのですが、食前酒などはないのですよね?」
「庶民に夢見過ぎです」
アイシャもフューラも大笑い。リサ王女は改めて自分の見聞の狭さを恥じている様子。まあこれからだな。
「とても美味しゅうございます。……でもこれは特別だと考えておくべきなのでしょうね。アイシャさんはお料理は出来るのですか?」
「一応程度ですよ。私たちの中で一番料理上手なのがカナタですから」
羨望の目で見られたが、これでも付け焼刃だぞ。
食事が終わり、リサさんの本名の話になった。
「本当にすごく長いのですが……言わなければ駄目でしょうか?」
「参考までに、どれくらい長いんですか?」
「……原稿用紙一枚分は」
メタい。そして長い。さすがにみんな苦笑いしてしまった。
「そうだ、カナタの本名も教えてあげなよ」
「またそれか。まあそうそう続く事もないだろうからいいか。俺の本名、折地彼方って言います」
一瞬の静寂。そしてリサさんは、静かに頭を下げた。
「……それは、ご愁傷様です」
「えっ! 何俺死んだの!? また変な風に聞こえてるの!?」
まあもちろんアイシャは噴出す寸前ですよ。フューラも顔を背けている辺り、笑いを堪えているんだろうな。一応リサさんにも二人にとってはどう聞こえるのかを説明し、さて王女様の番。
「それで? どういう意味になるんですか?」
「お気を悪くしないでくださいね。わたくしの国の言葉では”才能なし”と聞こえてしまうのです。名前が才能なしですから……その……」
「あーはいはいもういいですよ」
もうやだこの異世界。
――そして解散、の前に少し。
フューラもそろそろ帰ると言い、俺も家に帰りたいのでお開きに。
「それじゃあまた今度遊びに来ますね」
「あ、ちょっと待った。アイシャもフューラもリサさんも戦闘には出られるけど、俺だけお荷物ってのはさすがに嫌だ。何かいい武器ないか?」
この世界にはいわゆるモンスターがいる。そろそろ丸腰での生活から脱却したいのだ。王様には戦闘のない依頼ならばと注文をつけたが、それでも何かがあった場合には自分で自分の身を守らなければいけない。
「カナタに似合いそうな武器かー……なら私の今まで使ってた剣あげるよ。……あ、鞘がないから駄目だ。武器は仕舞えない状態で持ち歩くのは禁止されてるんだ」
そこらへんはしっかりしているんだな。
「剣以外は?」
「うーん、斧に槍に弓に、あと格闘術を使う人もいるけれど、どれも昨日今日で扱える代物じゃないよ」
確かにある程度の鍛錬がないと無理だろう。
「じゃあ魔法はどうなんだ?」
「失礼ながら、名前の通りカナタさんには魔法の才能はないように思えます」
「結構な事を言ってのけてくれますね。まあ期待はしていなかったけど」
アイシャとリサさんを見ると、魔法には才能が深く関わっているのがよく分かる。その上で魔法の専門家に才能がないと言われたのだ。あっさり諦めてやるさ。
「あ、話の途中ですみません。ひとつカナタさんがいる間に聞いておきたい事がありました。電化製品の中に、使用用途の分からないものがあります。ずっと気になっていたんですけど、ついでなので教えてください」
と、フューラが取り出したのは……あーその手があった。
「それはゲーム機だよ。そうか、この手があったな。フューラ、銃は作れるか?」
「はい、可能ですよ。……なるほど、そういう事ですか。承知しました」
「察しが良くて助かるよ。頼んだよ」
俺が言いたかったのは、FPSゲームをやっていたので銃についての技術が少しは備わっているのではないかという事。フューラもそれをしっかり察してくれた。電化製品に疎い二名はよく分かっていない様子だが、これで俺も戦える可能性が出てきた。
こうしてこの日は解散。三日後、アイシャは正式にリサさんを同居人として迎え入れたのだった。




