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第百六話   私は弱い。だけど強い。

 ――あれから一週間。

 私は自分自身の心を整理するために、一旦みんなとは離れて実家に戻っています。もちろん全部両親には話してあります。

 ……正直、ずるいなって、思っちゃっています。

 だって、私には両親がいて、逃げられる場所があるから。でもシアやみんなはそれがない。


 「すみませーん」

 「はーい」

 朝一番に誰か来た。お母さんが出たけど、すぐ私を手招きしてきた。

 「あーすみません、役所の者なんですが、王宮から緊急の依頼が来ました」

 「王宮から? 見せてください」

 内容は……王都北西のダンジョン、二十四階層のセーフスペースに負傷者が四名。エスケープリングを紛失していて自力での脱出は不可能……ってこれ、リックさんたちだ!

 「アイシャ……」

 不安そうな表情でお父さんも来た。

 「私行かなきゃ。これはきっと私が招いた事態。だから私が解決しないと」


 お父さんは、今までで一番真剣な表情になった。こんな表情……あの時、私が勇者認定された時以来だ。

 「……いいかい? アイシャ。アイシャのそれは、思い上がりだよ。切り替えなさい。でなければ今度はアイシャが危険な目に遭う。それは僕もお母さんも、そしてシアさんたちやカナタさんも、誰も望まない」

 「でも!」「それが思い上がりだと言っているんだよ。アイシャは強くはない。それを自覚して、ならばどうすればいいのかを考えなさい」

 ………………。

 気付けば目線を床に向けていた。図星だった。

 ……でも、今私はそれを自覚した。だから私は、弱い事を逆手に取ってやる。じゃないと私の今までが無駄になるって、そう思ったから。

 「分かった。だけどこの依頼は受けるよ。だって、私は自分で勇者やってるんだもん」

 覚悟をしていなかった訳じゃない。覚悟に胡坐をかいていただけ。そんな数分前の私なんて切り捨ててやる。



 ――王都コロスの我が家。

 「ただいま」

 「おかえり。……何があった?」

 シアが驚いた表情で私を見てきた。多分今の私の表情は、真剣そのもの。

 「ちょっとね。みんな揃ってー……るね。これ見て」

 私は例の依頼書をみんなに見せた。


 「これは多分、私たちがダンジョンで出会ったリックさんたち。あの時怪我したのが響いたんだと思う。だから、これは私のせい。だから、これは私が解決する」

 みんな一斉に不安そうな目線を私に向けた。

 「……だけど、私は弱い。一人では無理。だから、みんなに助けてもらう。みんながいる私はね、誰よりも強いんだよ」

 ……なんでだろう、みんな驚いてる。それだけ今までの私は駄目だったって事だね。反省してなかったって事。

 「目標は今日中の救出だよ」

 たたみかける私。これは焦ってるってのもあるけど、それよりも自覚出来た事への喜びが大きい。この喜びを忘れる前に、この依頼を完遂させる。

 「……それは、えーっと……」

 「準備して。全員で行くよ」

 「全員、ですか? ……アイシャさん、熱でもあるんじゃ?」

 「ああん!?」「いやいやいやいや」

 思わずフューラに凄んじゃった。あはは。


 みんなに同意の目線を送った。私一人だけが舞い上がってるんじゃないかって、ちょっと不安。

 ……だったんだけど、杞憂だった。

 「ふふっ、そろそろ魔法を乱発したいと思っていたところなので、暴れるには丁度いい機会ですね」

 最初はリサさん。尻尾が揺れるから本当に分かりやすい。

 「そうだねー。この指輪も試したいし、あたしもひと暴れしたかったところだよ。いっちょこの階層までの最短記録作ってやろうじゃねーか」

 ジリーだったら出来そうだから面白い。

 (……――。――――――――)

 今度こそ守るって。モーリスは本当に強い。私も見習わなくちゃ。

 「ならば僕も行かなければ。皆さんを守るのが、僕が僕自身に課した役割ですから」

 フューラは相変わらず。だけどそれが信頼へと繋がってる。

 「……はあ。一つ約束してくれ。もうあのような取った取らないでの喧嘩はしない。勇者と魔王という関係以前に、一つの命として頼む」

 「分かった。あんたとのいざこざ口喧嘩は安全な場所でやる。約束」

 溜め息をついて苦い表情だったシアだけど、私の約束に笑顔になった。


 そうだ。これは一つの命なんだ。勇者だ魔王だなんて話以前の部分。

 自分で散々命がどうこう言ってたのに、こんなものが抜け落ちるんだから、本当に私は弱くて愚かだ。

 でも、それを自覚した。

 それこそが、私の強み。



 ――王都北西ダンジョン。第一階層~第六階層。

 手続きは迅速に済ませて、早速突入。

 「今日中の救出ですよね? つまり残りあと十四時間。一階層三十分程度で突破しなければいけません」

 「となると走っていては間に合いそうにありませんね。……シアさん、ジリーさん」

 リサさんは二人に乗り物を要求した。

 「こんな場所で? 二人ともまだ素人だよ?」

 「くっくっくっ」「ふっふっふっ」

 ……何?

 「こんな事もあろうかと!」「アイシャがいない間、猛特訓してたんだよ!」

 「……マジ?」

 「マジ!」「マジ!」

 おー。

 ……でも分かったでしょ? これが私の強みなんだって。

 うん、これは自分に言い聞かせてる。あはは。


 シアのスクーターには私が、ジリーのサイドカーにはモーリスが、リサさんとフューラは自前で飛行。

 「フューラが先陣を切ってくれ。私が続き、ジリーが三番手。リサさんが殿で後方の警戒を頼む」

 「アイシャさんはそれでいいですか?」

 シアの提案に、フューラが私に確認を取ってきた。

 「私は任せる側ー」

 「……本当にあなたアイシャさんですか?」

 「あっはははは!」



 地下二十四階層を目指し出発した私たち六人は、最初のセーフスペースである第六階層まで、予定三時間を大幅に短縮した、たった一時間で到着した。

 セーフスペースで休憩に入ったんだけど、結構疲れる。

 「ふひぃー……目が回りそう……」

 「荒い運転ですまない。やはりカナタほど上手く扱えてはいないのだ」

 「ううん。結構いい線行ってるよ」

 「……そうか」

 相変わらず褒められると本当に嬉しそうなんだから。でもこれは本音だから、素直に喜んでもらうほうが私としても嬉しい。


 「そっちは?」

 ってジリーモーリス組に聞いたら、モーリスがグッと親指を立てた。すこぶる上機嫌みたい。

 「本当にそちらは不思議だな。まあ私とアイシャともなのだが」

 「それを言ったらフューラとリサさんも不思議だよ。私たちはバラバラだけど繋がってんの。それを実現させたのは、今はいない誰かさん」

 「……取り戻さなければな。我々は七人で一つの家族なのだ」

 多分だけど、一番カナタに会いたがってるのはシア。あの告白話もあるけど、そもそもシアはこの姿では現実のカナタに会えてないからね。


 十分くらいで、そろそろ休憩も終わりーっと思ったら、ジリーからリサさんへの質問。

 「そうだリサさんさ、千年後この世界って地形が変わってんだよね? だったらモンスターどもってどうなんだい? それくらの大きな変化だと、やっぱり人類は魔物に蹂躙されてーって展開?」

 「いえ、逆です。ここのようなダンジョンは世界でも数箇所しかなく、またモンスターの数もこれほど多くはありません。なので剣士や魔法使いは対人用途へと移っていますし、銃や機械があるので剣も魔法も用途はかなり限られています。フューラさんの時代ではいかがですか?」

 「もうモンスターは一体もいません。それどころか魔法という概念も存在しません。なので僕の回復能力が魔法によるものだとは考えなかったんです。……それでもあるんですから、もしかしたら魔法が完全に機械文明と融合を果たしたのかもしれませんね。僕としてはジリーさんの時代も気になりますが、どうですか?」

 「あたし? モンスターも魔法もないよ。っていうか小人族とか獣人族とか魔族とか、あとエルフ? そういうのもない。ただ父親の持ってた本から、あたしらが”Nの種族”って呼ばれていたってのは知ってる」

 N? えぬー……分かんない。

 「んさて、話はこれくらいにするよ。二十四階の人たちが干からびちゃう」



 ――第七階層~第十二階層。

 みんな準備は万端。エンジンにも火が入って、シアもジリーもやる気充分。

 「フューラ、分かってると思うけど敵が強くなってるし、他の人たちもいるかもしれないから、気を付けてね」

 「了解です。それではぶっ飛ばしますよー」

 やっぱりフューラは相変わらず。

 ここの区間では十一階層の橋がメイン。もちろん敵もバランスよく強くなるからね。


 スタートしたらこれが驚くほどスムーズに進む。でもその理由は明白で、フューラが見える敵を片っ端から一撃粉砕してるから。

 「……あれとは正対したくないな」

 「あはは、あんたもそう思うんだ」

 「アイシャとならばやりあっても構わないが?」

 ……これは私を試してるんだね。自分を弱いって言って、みんなに助けを求めた事の本音を探るつもり。

 「それは最後に取っておく。あんたの力って結構重要だからね」

 「なっ!? ……そうか」

 一瞬軸がぶれたよ。



 そして十一階層。例の橋だね。

 「って、またかぁ」

 橋の手前で人だかり。今回は……なんかすごく多いんですけど。三十人近い?

 「すみませーん」

 「ん? おっ! 勇者様! あの依頼で?」

 「っていう事はそっちもなんですね。……んで、あれに阻まれていると」

 前回は確か十体だったかな。そして今回は倍の二十体。種類はリリパッドが一体だけな以外は同じ。

 「こちらは寄せ集めなもんで、どうしようか計画を練っていたんですよ」

 「……みんな二十四階での救出が目的?」

 「はぁーい」「うぃーっす」「せやで」「もちのろん」

 やる気があるのはいいんだけど、どう見てもここの全員が束になっても二十二階を突破出来るとは思えない。それくらい烏合の衆だよ、これ。


 「ちょっとみんな」

 一旦集合して話し合い。

 「どう考えてもあの面子じゃ無理だよ」「でしょうね。僕でも分かります」「二次被害になるでしょうね」「あたしらだけのほうが安全だね」「彼らには帰ってもらうか」(うん)

 あっさりと意見が一致。

 「んじゃここは私が」

 一応リーダーですから。


 「すみません、ここから先は私たちだけで進みます。なので皆さんは申し訳ないんですが、帰ってください」

 ざわざわーっとしてる。まあこうなるよね。

 「いいですか? これは、私から皆さんへの戦力外通告です。皆さんがこのまま進めば、棺桶が増えるだけです。人を助けたいのならば、まずは自分が人の迷惑になる可能性を考える事。勢いだけのボランティアスピリットなんてクソ食らえですからね!」

 「クソ食らえって……」「いやーでもな……」「確かに実力を考えると……」

 これは折れそうだね。

 「……分かりました。勇者様にお任せします。こっちは……十二階から帰る事にします。みんな! それでいいな!?」

 一人が強引に決めて、みんなも仕方なしにバラバラに頷いた。

 はい、これで三十もの棺桶を引きずってダンジョン徘徊なんて光景はなくなりました。


 「さて……」

 「ここはわたくしにお任せを。たまにはいいところを見せたいのですよ」

 リサさんかぁ……。って思ってたらジリーが肩を叩いてきた。

 「わたくし”たち”ならいいだろ?」

 「うん。でもジリーにわたくしは似合わないなー」

 「うっせ!」

 あはは、照れてる。

 「んじゃここはリサさんとあたしに任せな。リサさんもそれでいいね?」

 「ええ。では早速行きますよ」

 この二人の共闘はあんまり見た事がないなぁ。どうなんだろう?


 ――強過ぎ!

 リサさんが初手で敵陣の中央を爆破したと思ったらもうジリーが近接攻撃開始してて、一分と経たずに終わっちゃった!

 「……ますます私の存在意義が薄れるよ……」

 「ははは。しかし本気を出したアイシャならば、あの二人相手でも勝てると、私はそう予想するぞ」

 「大げさ。あんたも含めてみんな八割程度しか実力出してないもん。残りの二割で逆転される事は充分に考えられるし、そもそも八割っていう見立てから間違ってる事も考えられる。そうなったら私は一回戦敗退だよ」

 シアはやっぱり意外そうな顔してる。


 「ならばアイシャから見て、一番は誰なのだ?」

 「そんなの言わなくても決まってんじゃん。ね? フューラ」

 「ははは」

 フューラに話を振ると、ただ笑った。謙遜の笑いじゃなくて、もう少し複雑な感情が見える笑い方。

 でもそれは仕方ないかなって思う。人だった頃に病気で死んでいれば世界は救えていたけど、生きる道を選んだ副産物として力を得て、そして世界を壊してしまった。普通だったら自分の全てを否定したいはずだよ。

 「フューラ、その力はこれから世界を救うための力だからね。そこ、勘違いしちゃ駄目だよ」

 「……ははは、バレてましたか」

 やっぱり。

 今の、そしてこれからの世界には、フューラの力はとっても重要になる。勇者じゃなくても分かるよ。



 橋を突破後は、三十人を引き連れて、歩いて十二階層のセーフスペースへ。

 「はーい、皆さんにしつもーん。二十二階を突破した事のある人ー?」

 しーーーん。うん、知ってた。

 「あそこは人数が多けりゃ突破出来るような甘い場所じゃないんだから、そんな考えじゃ全員死ぬよ」

 「はぁーい」

 理解してくれているならばいいんだけどね。

 セーフスペースに着いたら、改めてみんなに軽く怒ってさっさとご退場願いました。

 そして私たちは軽い昼食。



 ――第十三階層~第十八階層。

 まずはあの肉壁の十三階。

 (……うへぇ……)

 ははは、モーリス顔に出てるよ。

 「うへぇ、気持ちわりーな……」

 ジリーは口に出てます。

 っていう事で、いつものアレ、いってみよー。

 「ジリー壁触ってみて」

 「……残念だけど知ってる。用心棒の依頼でここまでは来た事があるんだよ。依頼者が気分悪くして引き返したけどね」

 「へえ、なんか意外。ジリーってあんまり用心棒とかそういう系統の依頼は受けそうにないのに」

 「気の迷いだよ」

 ふーん。


 一方この壁に一番興味を示したのはリサさん。しげしげと観察しては突っついてる。

 「そろそろ行くよー」

 「はぁーい。しかしここはすごいですね。この壁、全て高度な魔法で作られた幻影ですよ」

 「えっ!? ……って事は、本当の姿は?」

 「さあ? ここまでの物ですと、わたくしの力を以ってしても、打ち破る事は不可能です。なので真の姿は誰にも明かされないでしょうね」

 ……これが幻? だったらあの人形の洞窟も? 何のために?

 「あたしが殴ったら戻らないかなー?」

 「やめておけ。何が起こるか分からないのだから軽率な行動を取るべきではない」

 意外。シアが止めた。って言ってもシア自身、興味ありそうな表情だけど。

 「わーってるよー。んじゃ、行きますか」

 観察も済んだから、再び乗り物を出して一気に移動開始。



 十四階はスムーズに通過。まあフューラが無双を繰り広げてくれているからね。

 そして十五階。ここは妙に狭いから、一旦乗り物を降りて歩きにした。

 「おっ、金ピカが出てきた」

 ジリーが一番に見つけた。やっぱり色々と感性が鋭いのかな?

 「ゴールドアーマーね。……そういえばシアがあれを撃ったら弾が私に飛んで来たんだけど、フューラなら理由分かる?」

 「跳弾ですね。水由来の弾丸とは言っても一応は実体弾ですから、当たり所次第では軌道が曲げられてしまいます。それが偶然にアイシャさんに飛んで来たという訳です。どれ、僕が撃って実演しますよ」

 それは楽しみ。


 「行きますよー」

 ライフルを構えて一発。真っ黒い弾丸が一直線に飛んで行って……。

 「っておいっ!」「あはは……」

 皆さんの想像通り、弾かれる以前に一撃で倒しちゃいました。

 「これでも威力をかなり下げたんですけどね。次出てきたらシアさんが撃ってみてください」

 「分かった。……という事で早速撃つぞ」

 フューラが倒したゴールドの後ろにもう一体いました。

 パパパパパと何発か連射したら、フューラの言ってた通り、一発の弾丸が弾かれて壁に水のシミを作った。

 「という事で私は無実でいいな?」

 「あはは。うん、納得。んじゃ最後まで責任取って倒してね」


 「はっはっはっ。ではアイシャも知らない新しい力を見せよう。バレットセラフ!」

 シアの持つ銃、スフィアに付いている丸い球が白く輝いた。

 「あはは! やってくれたね!」

 「魔王なのに光属性だぞ? 滑稽極まりなかろう! はっはっは!」

 そう笑いながらもしっかりと狙いを定めて、眩く輝く弾丸はゴールドアーマーを……あ。

 「あっははははは!! さすがはあんただわ!! あははは!! お、お腹痛いっ、あはははは!!」

 ドヤ顔大失敗! ゴールドアーマーには光属性は効かないんだもん。あはは!

 「うう……はあ、しかしこれもまた私らしいな。すまない、時間を取らせた。後はフューラに任せる」

 「あはは、分かりました」



 十六階はすぐ目の前に階段がある階層だからスルー。この面子ならば奥にも行けるとは思うけど、今は遊んでる暇はないからね。

 十七階も目の前に階段。

 「あれ、こっちじゃねーの?」

 「それニセモノ。っていうか引っかかった人初めて見た」

 「……ちっ」

 あはは。


 「うわー出たー……」

 乗り物に乗って出発、と思ったら土のゴーレム登場。あの虫を吐いてくる奴ね。

 前回はムカデが背中に入って散々な目にあったから、今回はご遠慮願いたい。

 「強いんですか?」

 「虫を吐いてきて、それが背中に入ったの。もう、背中がぞわぞわする……」

 「あはは」

 フューラに笑われたー。がっくし。

 「あれはあたしがやる。見とけよ、一撃で終わらせっから!」

 多分だけど、フューラがゴールドアーマーを一撃瞬殺した事に嫉妬してるんじゃないかな?

 (あはは、うん)

 だって。


 指の骨をポキポキ鳴らしつつ一歩前に出たジリー。

 そしてクラウチングスタートの姿勢になって、スタート! そして一気に加速してゴーレムに一直線!

 「おうるぁっ!」

 わー、有言実行! でも拳じゃなくて足だった。軽く跳ねてくるっと横回転しての回し蹴り!

 「私もあれやりたい!」

 「足が届きませんよ?」

 「あうっ……」

 リサさんに痛いところを突かれました。

 「おっし、行くかー」

 んで戻ってきたジリーは、さっさとバイクのエンジンを掛けました。



 ――第十八階層のセーフスペース。

 到着してまずは時計の確認。

 「今……四時かぁ。結構ギリギリかも」

 「え? あと六階下がるだけなのに八時間もかかんの?」

 「さすがにそこまではかからないはずだけど、二十階からは全く違う世界に入るし、二十二階が、ね。シアは分かってるけど」

 「ああ。地底湖の周囲を周る一本道なのだ。垂直に降りられるのならば早いのだがな」

 ……その発想はなかった。なんでだろう?

 「ジリーさんのバイクにもフライトモードがあるので、出来ますよ」

 「出来るの? だったらあそこすぐクリア出来るじゃん!」

 一泊する選択肢も一応考えてはいたんだけど、それならば問題なく行けそう。


 (―――――――……ううん)

 モーリスがブラックアーマーって書いてすぐ消した。うーん、その手もあるなぁ。

 (ううん。――――)

 「でも欲しいんでしょ?」

 (…………うん)

 あはは。

 「二十四階に着いて、それから考える」

 (うん)



 ――第十九階層~第二十四階層。

 十九階は特記事項なし。んで二十階。

 「ここからはグラスワームに注意ね」

 「どんな奴なんだい?」

 「……あんな奴」

 また出待ちしてるし。

 「あれがアイシャさんのパンツに触手を突っ込んだ奴ですか」

 「うん。……えっ!? 何でそれをリサさんが? ……あ」

 (……そろーり……)

 「待て」

 ゆっくり逃げようとした白兎をとっ捕まえました。

 「おーい白兎ぃー、背は小さくても私の方が年上なんだぞぉー」

 ネットリと笑顔で叱っていまーす。

 (ごめんなさいごめんなさいごめんなさい)


 んであれを倒してから詳しく聞いたら、私のいない間に話の流れで、私が一番嫌がっていた敵とその理由を教えろって全員から脅されて、仕方がなく吐いたんだって。

 「おぉーい諸君ー。これはどーいう事なのかなぁー?」

 「あははー」「ちょ、ちょっと」「落ち着けってな」「待て待て待て待て」

 「今私の手にはぁー、剣が握られているんだぞぉー?」

 「怖い怖い」「分かりましたから!」「やっ、やるかぁ?」

 ……あれ? シアは……って逃げて先行ってるし! いよーし追いかける!

 「あっ、ちょっ! アイシャさん!」


 「プロトシアくぅーん!」「ひええぇぇ」

 って追い掛け回そうかと思ったんだけどやめた。

 「はい、そこまで。それ以上は危ないよ」

 って言って止まったら、シアも止まった。そしてゆっくりと振り向いた。

 「……怒って……?」

 「これ以上続けるならば本気で怒る」

 「……わ、分かった」

 はあ。どんだけこいつは私が怖いのさ? 実力で言ったら多分私よりも上だよ?



 そんなこんなで二十二階。

 「綺麗ですねー」「聞いていた以上ですよ」「こりゃ落ちたら死ぬね」

 反応はバラバラ。個人的にはフューラとリサさんの反応が想像と逆なのが面白い。

 「出口は……あそこ。見える?」

 半身乗り出して、ほぼ真下を指を差したらみんな頷いた。

 「うん。だからほんと真っ直ぐ降りるのが一番早いんだ」

 「そして繋がる道はこの一本道のみと。僕としてはこのまま進んでも構いませんよ?」

 「時間短縮が出来るならば、やるべき。でもフライトモードって二人ともちゃんと扱えるの?」

 私の疑問に、二人ともニヤリ。

 「それも含めての」「猛特訓だったんだよ」

 あ、あははは……。


 早速乗り物に乗り込み……。

 「って、え? このままダイブうううわああああ!!」

 心の準備も何もない状態でいきなり崖へとダイブ!

 「いいいい……うー……飛んでるね」

 「ああ。では一気に行くぞ!」

 「えっ!? えええおおおおおお!!!」

 急角度で落ちるように降下!

 「ひゃっほーい!」(ひゃっほおおおい!)

 先に下りたジリーとモーリスはすんごい楽しそうだけど、私はそんな余裕ない!


 ……って、あーれれー? スクーターとシアが、私を置いて先に下りて行っちゃってるー……やばっ!!



一時帰宅したので一話だけ。

これ、地震の一週間ほど前には書き終えてました。

被災した方々には一刻も早く普通の生活が戻るようお祈りしています。


では私は再度入院をば……。

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