第百五話 黒鎧
――引き続き第二十四階層のセーフスペース。
八人でカニ鍋をつついて、お腹一杯になりました。
「さーて、私たちはここからだよ。最初はここまで潜るつもりじゃなかったし、私自身ここから先は未踏だから、正直言って不安。レイア、そういう事だから覚悟しておいて」
「……命の覚悟だよね。分かった……って簡単には言えないなぁ。まだ死にたくないから。でもここまで来て収穫なしでは帰りたくないから……二十五階からブラックアーマー出てくるんだよね? だったら何度か戦って、それで無理だと思ったらダマスクスを手に入れてなくても帰ろう」
「うん。それじゃあそういう事なんで、改めて協力お願いします」
私とレイアに、シアとモーリスも頭を下げてくれた。
「こちらこそだよ。俺らだけじゃ二十二階で死んでただろうからね。本当ならば三十階まで行って攻略したかったんだけど、それは諦めるのが賢明だな」
「ワイらかて死にとうないもんな。っちゅーか、二十二階ではホンマ死んだと思うたわ。命あっての物種とも言うやろ。せやからワイらも無理はせん」
「……うん。お日様、また拝みたいから……」
「そうですね。三十階にあるという謎の扉は見てみたかったのですが、それよりも青空の下でランチを楽しみたいですから」
みんな意見が一致。
こういうところまで潜ると、みんな思う事なんだ。もう一度青い空を眺めたいって。そして日の光を二度と浴びられない事を想像して、恐怖心を抱いて、脱落していく。
でもそれは悪い事じゃない。だって、その一線は命の境界線だから。
(ねえ)
「ん?」
(――――――?)
「謎の扉? うーん……謎。本当に謎。普通ダンジョンには最下層に一体しかいない強力な敵、いわゆるボスがいるんだけど、幾つかのダンジョンではそのボスが謎の扉を守護してるの。でもボスは倒せても扉の先は誰も知らない」
リックさんとアキさんの二人は頷いたから知ってるみたい。でもシアを含めて他は初耳だったようで、興味津々。
最年長のリックさんがその続きを話してくれた。
「一説には異世界への扉だとか、ダンジョンのモンスターを生み出す工場があるって噂もある。もちろんただの噂だから誰も信じないけどな。俺は入った人がいるって話は聞いた事があるけど、”自分が入った”って証言する奴がいないから、それも含めて眉唾だと思ってるぜ」
誰も知らない。これが結論。だって扉の向こうに本当にそんな物があるなら、今頃もっとしっかりと話が回ってるはずだもん。
「……今の面子では不可能であろうが、フューラたちとならばどうにか行けそうではあるな」
「行けるかもしれないけど……多分ジリーなら扉も破れるだろうけど、やらないよ。無理に押し通して、結果世界が崩壊したらあんたの責任にするからね」
「ははは」
苦笑いしてるけど、それで済めばいいんだけどね。
「あ、そういえばグラティアにはもうひとつ開かずの扉があったな。王立図書館地下の扉」
「え、なにそれ!」「何だ面白そうな話じゃねーか!」「ワイにも聞かせてーな!」「うん!」「それは初耳です!」
あーぁあ。レイアとあっちの四人全員が食いついちゃった。でも減るものじゃないからいいかな。
――という事で説明しました。
「へえー。っていうか王立図書館に地下なんてあったんだ」
「俺は地下があるって話は知っていたけど、そんな謎の扉があるとはなぁ」
結局みんな興味津々。
「はい、それじゃあ世間話も終わりにして、そろそろひと狩り行きましょう」
このままだったら話が終わりそうにないんだもん。
――再出発。現在は変わらず第二十四階層、その後半。
出発して早々、シアの表情が険しくなった。
「先ほどとは空気が違う……」
「うん。私も前に来た時は空気の違いに命の危険を感じて、すぐに引き返した。だからもう私に何かを聞かれても答えられないよ」
今になって思えば、よくこんな場所まで一人で来たなーって。本当、命があってよかったよ。
「おっ? 後半になった途端あんなのがお出迎えしてくれるのか」
リックさんが見つけたのは、あのローズワーム。
「ここは俺らの出番だな!」
「待った。ここからは一戦一戦死ぬ気でかからないとだよ。だから全員で行く」
「お話中悪いんやけど、あちらさんは待つ気ないみたいやで!」
見るとローズワームは完全にこっちを狙っていて、そして物凄い勢いで這って来た。
「火だよ! 火!」
「火? 火!?」
今までが悠長だったのもあって、全員ちょっとしたパニックを起こしてる。これはまずい。
「赤き炎よ宿れ! シアも!」
「あ、ああ。バレットイフリート!」
「あとはモーリス頼んだ!」
こっちはともかくあれの突進を止める事に集中。
今回は私から突っ込む事はなく、あっちから来るのを待ってタイミングを合わせる。
「先に撃つぞ!」
シアが私の頭越しに銃を連射。これが効いてローズワームが若干速度を落とした。これならば行ける!
どうせシアは合わせてくるだろうから無言でスタート。ローズワームも茨のツルを伸ばしてきたけど、これはモーリスが火球を飛ばして処理してくれた。
「いよっ!」
剣を振り上げて跳び、ローズワームの頭を飛び越した。そして私は剣ごとローズワームの胴体へと垂直降下!
ブスッ! っといい感じの手ごたえと、そのまま地面まで突き刺さった固い感覚を得た。そして速度の出ていたローズワームの胴体は、自ら私の剣に真っ二つにされた。
「頭下げろ!」
シアからの指示。今更言うまでもないほど信頼関係が出来てるから、しっかりと従うよ。
んで頭を下げた瞬間、頭上ギリギリの位置を弾丸が通過して、後ろで砂がこぼれる音がした。
「シア、おつかれー」「アイシャもな」
私の側から軽くハイタッチ。
「あーははは、なんか笑いが出るほど見事だったな」
「せやな。さすがは勇者と魔王や」
「……勝てる気がしない」
「レベルが違うという以上の差を感じますね」
シアと目を合わせて二人してえへへーって笑っちゃった。
「しかし私とアイシャとは、一朝一夕でこうなったのではない。それに我々は同じ屋根の下で暮らしているからこそ、しっかりとした信頼関係で繋がっている」
「といってもあんたの側から合わせてくれてるのは分かってるよ」
「なあに、アイシャがそれを分かってくれているからこそ、こちらも遠慮なく行けるのだ。お互い様だ」
んでまた二人してえへへーって。
――第二十五階層。
「っふーんだ!」「ふーん!」
はい、現在シアと喧嘩中です。
「ははは、笑い合っとったのが嘘みたいやな」
「ねえ二人とも機嫌直したら? 強い敵の前で協力出来ないのは危ないよ? って言ってるそばからなんか出てきたし!」
見ると出てきたのはストーンゴーレム。
土のゴーレムが石になった奴。別名岩男。動きが遅くなって、土と虫を吐く代わりに小石を吐き飛ばしてくるけど、はっきり言って普通のゴーレムのほうが厄介。
って事でストレス解消の道具になってもらう!
「っしゃ。それじゃあ陣形を組んで……っておい勇者!」「あれくらい私一人で充分だっての!」
みんなの横をすり抜けて単身突っ込む。
――レイア視点。
あーぁあ。
「シアさん援護!」
「必要ない。大体何だあいつは、せっかくこちらが気を遣ってやったのにあの態度。あんな事をしているから極悪勇者などというけったいなあだ名をつけられるのだ。ああもう腹が立つ!」
「まあまあ……ってもう一体来ちゃったし!」
シアさんをなだめてたら、後ろからもう一体石のゴーレムが来ちゃった。
「っしゃ、それじゃあ今度こそ陣形を組んで……っておい魔王!」「ここは一人でやらせてもらう!」
二人してこれ!?
「……あー頭痛くなってきた……」
「ははは、俺もだ……」
似たもの同士っていうか瓜二つっていうか……。
「……間違いなく私たちの出番ないね」
「ほんまやね。っちゅーか、あの二人だけでもこのダンジョン攻略出来るんちゃうか?」
二人の動きが、何ていうのか、人間じゃない動きしてる。アイシャは私の頭よりも高く跳んでるし、シアさんも直接は見てないのに紙一重で避けてる。
「終わり!」
「終わりだ!」
それで二人ほぼ同時に倒しちゃった。
「私のほうが先に倒したもん」「経過時間では私のほうが早く倒している」
「ギリギリで避けてたくせに」「そっちこそ動きが大きくて隙だらけだったぞ」
「隙を見せる余裕があるって事だよ貧乳魔王」「ひんっ……なんだとこのちんちくりん!」「誰がちんちくりんだって!? この胸なしお化け!」「お化けとは何だ! この暴走エシャロットが!」「エシャロット言うな!!」
「……はあ」
低レベルないがみ合いを見せてる二人に、みんなで呆れて溜め息を漏らした。
(……――――。――?)
モーリス君が二人に向けて赤い文字で”おこるよ。いい?”だって。まーここはモーリス君にお任せだよね。
「これは私とこいつとの問題!」「そうだ。モーリスは黙っていろ!」
こういうところはしっかりと噛み合うんだから、変なの。
っと、モーリス君は私たちには見えないように、二人だけに見えるように赤い文字で何かを書いた。
「それはカンベンして」「仕方あるまい」
……え? 収まったの? 一瞬で?
「でも元はといえばこいつが悪いんだから」「感謝はされても、悪者扱いされる筋合いはない」
「ああん!? 人の獲物横取りしたのはそっちでしょうが!」「後ろからの攻撃を牽制してやっただけではないか!」
「でも結局は倒したんだから同じ事でしょ!」「一体や二体でギャアギャア騒ぐなみっともない!」
「はあ!? みっともないのは横取りを正当化してるあんたでしょうが!」「だから横取りしたつもりではないと言っているだろうが!」
あーこれは長そうだなー……なんて呆れて見てたら、モーリス君が黒い文字で一言(もう知らない)だって。
そして私とリックさんの腕を掴んで、本当に二人を置いて歩き始めちゃった。
私たちが仕方なく引きずられてると、口論の声が遠くなっていった。あの二人全くこっちに気付いてないんだ。なんだかなぁ……。
「モーリス君、本当にいいの?」
(うん)
「……カナタさん、よくあんなのをまとめてたなぁ。ははは」
乾いた笑いが出ちゃう。
「っと、お目当てさんが来なすったぜ」
「あれがブラックアーマー? ……だね。黒い鎧だもん」
見た目は鉄や金と同じだけど、何ていうかな、殺気が違う。
「……げ、目が合った……気がする」
鎧だけのモンスターだから中身がないはずだけど、確実に私は”見られた”。つまりあれは私をターゲットにしたって事。
……あー、あはは。足震えてる。やばいなぁ、逃げたい。死ぬかも。
(――――!)
護るよ、って。なんか、惚れちゃいそう。これが吊り橋効果? あはは……。
モーリス君は私を護る態勢になってくれて、あっちの四人も臨戦態勢。
「行くぜっ!」「おうっ!」
リックさんとバザードさんがスタート! バザードさんのほうが体格がいいから盾役みたい。
ブラックアーマーの剣を抑えて……あ、駄目だ。完全に押されてる。リックさんも攻撃はしてるけど、あの剣じゃ有効なダメージとまでは行かないみたい。
「援護します!」
アキさんとエルリアさんの援護射撃開始。
「……全然効いてない……」「……こっちも」
二人とも攻撃は当たってるんだけど、ブラックアーマーは意に介さない。
「モーリス君、私はいいから」
(……ううん)
「だって!」って言った瞬間、バザードさんが跳ね飛ばされた! そしてブラックアーマーは私目がけて一直線!
モーリス君は片手で防壁を、もう片手で風の刃を放った。けど、効いてない。
「グルォオオオォ!!」
中身がないのに雄叫びを上げるブラックアーマーは、大きく剣を振り上げて、アキさんとエルリアさんを無視して跳ね飛ばし、完全に私一人にだけ狙いを定めてる……。
……動けない……。
怖くて、足が震えて、逃げたいけど、足が動かない。まるで深く地面に刺さった杭みたい……。あー、人って極限まで怖いと、本当に動けなくなるんだなぁ……。
モーリス君が防壁魔法で必死に剣を止めてはくれているんだけど、いつ防壁が破られてもおかしくない感じ。
剣が何度か振り下ろされて、バリンッ! っていう低い音で防壁が割られた。そしてモーリス君が蹴り飛ばされた。
「……あ、私死ぬんだ……」
……死ぬと分かった時って、嫌になるくらい冷静になっちゃうんだね……。走馬灯って、本当は見えないんだね……。
私の意識は死んで途切れるより先に飛びそうになってる。大きな黒い鎧が腕を振り上げて、私の目の前が黒くなって、音も聞こえなくなって……。
「おるぅあああっ!!」 ガンッ!! ドスン!!
……あんな太い剣で切られると、すごい鈍い音がするんだね……。
……ん? え? ちょっと待って。今のって? 何か赤いのが物凄い勢いで飛んで来たような?
大きな音で意識が戻ってきて、ブラックアーマーが倒れてる光景が目に飛び込んできた。
「テメェ私の友達に手ぇ出したら、ダンジョンごと埋めんぞ!」
え、アイシャ? ……あれ? 私、死んでない? えっ? あれっ??
「……あっ、そういう事」
って理解したら、安心したせいか、意識が飛びました……。おやすみなさーい……。
――アイシャ視点。
「レイア!?」
ブラックアーマーに飛び蹴りを食らわせて張り倒したと思ったら、レイアまで倒れちゃった。
倒れる前にシアがキャッチしたから頭を打ちはしなかったけど、肝が冷えたよ……。
「こちらは私が見る! いいからそやつを血祭りに上げろ!」
「指図すんな貧乳魔王!」
ったく、言われなくたって分かってるっての!
「テメェ、私をマジで怒らせたの後悔しな! 白き光よ我が力と成せ!」
黒い奴に効くといえば光属性しかないでしょ。
まずは剣を持つ右腕を切り落としてやる。幸いあっちは起き上がる途中だから、隙だらけ。剣を支えに起き上がろうとしてるせいで、肝心の右腕なんてピンと張ったロープみたいなもんだよ。
「もらった!」
飛び上がり、思いっきり振り落として右腕を一刀両断!
「これ使いな!」
ブラックアーマーの剣は地面に軽く刺さったままだから、一番体格がよくてそのまま使えそうなバザードさん目がけて、回し蹴りで飛ばしてあげた。
「ひいいっ!」
あ、バザードさんを狙い過ぎて左耳をかすって壁に刺さっちゃった。
……ま、いっか。
ブラックアーマーが起き上がろうと体を捻って、今度は左腕を地面に突いてる。
「料理はまだ終わっちゃいねーんだよ!」
もちろんその左腕、頂く!
地面に手を突いてるんだから、もちろんその腕は突っ張ってる。って事は切りやすいって事!
後ろを回って捻り水平切り! ちょっと固かったけど、これも一撃で切って捨ててやった! これでもうこいつは起き上がれない。
あとはもがくブラックアーマーの兜に剣を突き刺して終了!
「一丁あがり!」
「レイア、大丈夫?」
「気は失っているが、怪我はない様子だ。それよりも今はモーリスだ」
蹴り飛ばされたのは見えたけど、意識はあって、壁にもたれながらこっちを……睨んでる。それと左に蹴り飛ばされたから、右腕を怪我してるね。
「手を貸すよ」
って手を伸ばしたら、軽く払われた。……失態だ。
あっちの四人は……怪我はしてるけど、動けるみたい。
「……ん……んん……」
よかった、レイアが目を覚ました。
「レイア、分かる?」
「……最悪」
うっ……何も言い返せません……。
「はーぁあっと」
あっちの四人も、溜め息交じりにこっちに来た。
「まずは安全を確保したい。こっちは四人とも怪我してるんだ」
リックさんの冷静な表情と静かな口調が怖い。というか、間違いなく怒られます……。
――第二十四階層のセーフスペース。
道中は謝罪の意味も込めて、手が空けばシアは治療に、モンスターが出れば私とシアだけで片付けました。
セーフスペースに到着すると、六人は座ったものの、こちらは針のむしろで小さく立ちすくんでるだけ。
「はあ、さて。各々言いたい事はあるんだが、最年長者の俺が代表して言わせてもらう」
「はい……」「はい……」
「まず何よりも、こんな下層まで来てるのに、何で周りが見えなくなるほどの喧嘩してんだよ? しかも一旦止めたのにまた始めやがって。勇者様よ、あんた年齢や種族っての差し引いてもプロだろ? 何やってんだよ!」
「申し訳ございません……」
「魔王様、あんたもだ。一応……なんだ、勇者と魔王は犬猿の仲だってのは分かる。けれども! 空気を読んで仲良く喧嘩しろ! こっちに迷惑かけたら伝説のそれと変わらない!」
「返す言葉もございません……」
「はあ、全く。ほら、全員に頭下げる!」
「申し訳ございませんでした」「申し訳ございませんでした」
これは勇者と魔王以前に、こういう場所にいる人としての失態。重く受け止めないと。
一旦休憩して、私とシアとのいざこざを話し合って解決。って言っても、モーリスに物凄く睨まれ続けてるから、お互い謝って終わりなんだけど。
「うっし、改めてブラックアーマーちゃんを狩りに行こうや」
「はい」
バザードさんの号令で、レイア以外は立ち上がった。
「レイアは待ってて」
「……」
実は、あの「最悪」っていう一言以来、ずっとレイアは黙ったまま。
あんなのに狙われたんだからトラウマを持って当然で、きっとレイアはあれを見る事が出来ない。つまりは完全な戦力外。
レイアには申し訳ないけど、レイアにも、そして私たちにも荷が重い。だったら一番はレイアをここに置いて行く事。
でも、セーフスペースの扉を出て少ししたら、レイアが泣きながら走って私のところに来た。
「一人に……しないで……」
その消え入りそうな一言で、私はまた後悔をして、そして決めた。
「……分かった。皆さん、申し訳ないんだけどブラックアーマー狩りは中止。私たちはここで帰ります。モーリスもごめんね。これは全部私とシアの失態だから、あとで二人で埋め合わせする」
「ああ。そうしよう」
シアもすぐ同意した。
「……分かった。正直俺らも、あれとまた剣を交えるのは気が重い。ここは素直に二十三階層でレベル上げに励むよ」
「せやな。っちゅーかこの剣、ワイそのまんま貰ってもええんやろか? 消えないって事はええんやろな」
「……ちょっと安心」
「あれには弓では歯が立ちませんでしたからね。身の安全を優先です」
やっぱりあっちの四人も私の力をあてにしてる部分があったんだね。
……はあ。罪悪感がぶり返す……。
――地上。
こうして私たちはレイアを連れて、地上へと帰還。
「ふう。二日ぶりの青空……ではないのが残念。雨模様だな」
「んんーっと。それでも空は空」
私もシアもモーリスも、体を伸ばして深呼吸。シャバの空気は美味いぜ、なんちゃって。
……だけど、レイアはずっと暗い顔。
「先にすべき事を終わらせよう。コノサーはどこだ?」
「あっち」
「すみません、いいですか?」
「はいはい。あ、勇者様だね。んふーん、どれどれー」
目新しいものはない、はず。
「……ん? これは珍しいね」
コノサーが指差したのは、白い指輪。確かスカルリベンジャーの落し物。
「どういう指輪なんですか?」
「ちょっと待ってね。……まず呪いはかかってないね。それと体が軽くなる魔法が込められてる。浮くっていう事じゃなくて動きが軽くなるって意味。近接特化の、例えば格闘家なんかにはいいかもしれないよ」
心当たり約一名発見。でもガイコツからの贈り物って言ったらどういう顔するんだろう?
その後も戦利品を見てもらったけど、白い指輪以外は目新しいものはなくて、武器屋で使えそうなものは全部レイアにあげた。ちょっとだけ罪滅ぼしの気持ち。
「レベルは……勇者様は89だね。そろそろ100も見えてきたんじゃないかな」
「よしっ」
あと11だから、私も二十三階で三日くらい粘ればいけるかな。
「そっちの魔族さんは……おっ、同じく89だ。でもすごい魔力の保有量だね。私じゃ計測が出来ないよ」
「まあ、これでも昔は魔王と呼ばれていたので」
「あはは、プロトシアの後代ってかい? ……ん? 噂じゃ勇者様が……まあいいや」
一瞬冷や汗が吹き出たけど、コノサーから話を切ってくれた。
「次にその子ね。んー……レベル35だね。でも魔法には適性が強いみたいだから、実力ではもっと上かもね」
(やった)
素直に喜んでるモーリス。
「剣術ではどうですか?」
「うーん……頭脳派だけど素早い動きは得意みたいだから、力押しではない分野ならば才能があるんじゃないかな」
(よしっ!)
あはは、さすがモーリス。
「最後にあなただね。……これはこれは驚いた、武器職人なんだね。職人レベルで47だよ。ここまで上がればクリスタル系の鉱物や特殊な金属も扱えるだろうね。しかしその年齢で47かい。すごいね」
「……はい」
作り笑顔。コノサーも察してくれたみたいでそれ以上は突っ込んで聞く事はしないでくれた。
荷物の整理もついたから、帰る事に。
「私はレイアを送るから、そっちはそっちで帰って」
「分かった。……レイアさん、改めてだが、申し訳なかった。金輪際このような事がないようにするので、……私はともかく、せめてアイシャは嫌わないようにしてあげてくれ。それでは」
あいつ……。
――武器屋リコール。
「ただいま」「……」
「おうようやく帰ってきたかー……って、レイア?」
一目散に階段を上がって行っちゃった。
だから、ここからは私の仕事。私一人でやらなければいけない事。
「あの、おばさん呼んでもらっていいですか?」
――ご両親が揃ったところで、事の顛末を全て話しました。
先に話を始めたのはおばさん。
「……まず、そんな深いところからでも無事に帰らせてくれた事には感謝するよ。だけどね、あの子は剣士じゃないんだ。どうして案内所で階層を聞いた時点で止めなかったのさ?」
「目的が先行して、状況判断を疎かにしました。……それと、シアとモーリスが」「あんたリーダーだろ!」
私は、ただその譴責を受けるしかない。
「まあまあアンネ」「あんた!」「その事はこの中の誰よりも、アイシャちゃんが分かってるんだ。だからこそ、こうやって一人で謝りに来たんじゃないか」
「……はあ。相変わらずだね、あんたは」
おばさんは、おじさんのなだめる言葉に応じた。
「でもいいかい? 二度はないよ。はあ……」
深い溜め息をついて、おばさんは階段を上がっていった。
二度はない。私がみんなに言った言葉。それが返ってきた。……私、最悪だ。
「……正直に言うと、俺も怒りたい。だけどとっくにアイシャちゃんは反省しているからね。それでも……すまないけど、あの子の整理がつくまでは、近寄らないでいてもらえると助かる」
「はい……申し訳ありませんでした……」
そうとしか言えなかった……。




