第九話 主従契約の変更手続きについて
家も決まったので、このまま二人でフューラの工房に行ってみる事に。
「あ、あれシアだ」
「んー? 手を振ってみるか」
丁度俺たちの上空を旋回する鳥がいる。アイシャにはシアに見えているようだが、俺は分からん。アイシャは目がいいのか?
手を振ると、その鳥は一気に急降下しこちらへ。腕を上げておくと、格好よく着地してきた。確かにシアだ。
「アイシャすげーな。俺は全く分からなかったよ」
「昔から視力はいいんだよねー」
と自慢げ。
――フューラの工房。
「私初めて」「俺も」
フューラの工房はかなり敷地が広く、四分の一区画も使っていた。建物はさすがに年季が入っており再利用なのだろう。赤レンガで造られており、規模も大きく、まるでどこぞの講堂のようでもある。
「あいつ、どんな交渉術を使って手に入れたんだ!?」
「あはは……」
ドアをノックしたが反応なし。あいつ倒れているんじゃないだろうな? 鍵は掛かっていないので勝手に入っちゃおうか。
「おーいフューラー! 来たぞー!」
「はあーい、ちょっと待っててくださあーい」
反応あり。工房内は二階まで吹き抜け。火の入った釜などが置かれており、結構暑い。天井窓が開いており、そこから熱気や煙が逃げている様子。中を見て改めて確信。これは改築だ。当たり前だが、これだけの規模の建物を一週間やそこいらで作り上げるのは不可能だ。
さてフューラは……と思ったら奥から出てきた。すすで顔が真っ黒だ。
「ごめんなさい、ちょっと手が離せませんでした」
「それより自分の顔見たほうがいいぞ。真っ黒」
「あはは、すごい顔」
その後奥に通されると、普通に休憩室があった。広さは結構なものだ。借りた我が家よりも広いかも。
「ちょっと待っててくださいね。顔洗ってきます」
あのまま真っ黒い顔でいられたらこちらとしても反応に困る。
数分後、ようやくすっきりした顔でフューラがやってきた。という事でまずは現状を聞いてみるか。
「進捗どうですか?」
「停滞中です。一歩までが厳しいですね。そちらは?」
「家が見つかった。さっき契約したところだよ」
「おー! それはおめでとうございます」
なんて会話をしていると、ふくれている女の子が一名。
「ねえ、私にも分かるように話してくれない? 二人だけで通じる会話って、ちょっとずるい」
「それは妬いて」「るなんてないからね。勘違いしないでよ」
人の言葉を遮りつつ繋いできた。そしてツンデレ。いや、デレている訳ではないな。
「そうだな。俺も工業畑じゃないから詳しくは分からん。段階として現在どこら辺にいて、フューラがどうにかなるレベルまでどれくらいかかるんだ?」
「そうですね。ちょっと説明します」
フューラは白チョークと黒板を用意。それはあるんだな。
「まず僕とカナタさんとの共通概念として、蒸気機関というものが存在します。これはお湯を沸かし、その蒸気で歯車を回す事でエネルギーを得る機関です。しかしこの世界、小さく言い直せばこの国においては、その蒸気機関すら未だに存在していません」
俺は一応分かる話だが、隣の子は不勉強な様子。
「先生、いきなりアイシャさんが付いて来れていません」
「なっ!? ……認める」
あっさり認めた。俺が見なかった一週間で、勇者としての決意だけではなく、素直さも手に入れていたか。
「じゃあ数字に直しますね。現在この世界での科学技術を1と仮定して、蒸気機関の発明を10とします。するとカナタさんの元いた世界での科学技術は……どれくらいだと思いますか?」
あえてアイシャに答えさせるか。
「あの四角い奴だよね? ……15くらい?」
「残念。正解は1000を超えます」
アイシャが一瞬で固まった。どうやらこの世界の科学技術の幼さを理解した様子。
「ちなみに僕は更に高高度の科学技術を有していまして……数十億でしょうか。それほどの違いがあります」
「ああああーついていけなあーい」
アイシャさん壊れました。
「これは本当に小さな概念の縮図なので、そう難しく考えなくてもいいですよ。問題はですね、今の1という数字が階段の段数を示していて、そしてここにはまだ時間軸の概念が……これはカナタさんのほうが説明が上手いかもしれませんね」
唐突にフューラが俺にバトンタッチ。フューラは説明が苦手なのかな?
「そうだなー……例えばだ、シアが暴れた六千年前と現在とでは、科学技術にどれほど差がある?」
「見た事がないから分からないよ。でもあまり変わらないんじゃない?」
「シアは? 変わらないと思うか?」
(うん。うん)
二度返事という事は、それだけ強く、何も変っていないと言いたいのだな。
「つまりこの世界の科学技術は、六千年経っても進歩しなかった訳だ」
アイシャもシアも、ついでにフューラも頷いた。
「じゃあな、俺の世界で産業革命、蒸気機関が発明されてから俺のいた年まで、どれくらいだと思う?」
「えっと、シアから私のところまで六千年でしょ……十万年くらい?」
「残念。たった二百五十年だ」
「えっ!?」
先生役は楽しいな。生徒役の反応がいいからだろうか。
「フューラの数字を用いた場合、六千年経っても1から変わらなかったこの世界。一方俺の世界では10になってからたった二百五十年で1000を超えた訳だな。これが技術の進歩に時間の概念を追加したグラフだ」
大まかに右肩上がりに加速するグラフを描いてやると、アイシャも理解した様子。
「あ、つまりどんどん数字の上がる幅が大きくなるんだ」
「正解。実際にはこんな明確には上がらないけれどな」
次はフューラだな。ここからは俺も知らない領域だ。
「僕が今やっている事はですね、1を2にする事なんですよ。何せ僕は数十億を知っていますから、すごく早い速度で技術を発展させられます」
「えっと、いきなり10や1000にはならないの?」
「なりません。もちろんここに1000という数字を持つ物体があれば、更に加速して発展は可能です。でもそれはありませんよね。なので僕は現在、この世界にある1という技術を駆使して、2を作り出そうと必死なんです」
アイシャも徐々に話に乗ってきた。
「ねえ、それがさっき言っていた、進捗が厳しいっていう話? 1が2にならないっていう事?」
「そうです。六千年かけても出来なかった一歩というのは、どうすれば進めるのか知っている僕ですらまだ進められないほどに、難しい一歩なんです」
「……そんなになんだ」
理解した様子のアイシャ。
「そうだフューラ、俺のところまでどれくらいの時間が掛かりそうなんだ?」
「今のペースですと……数百年でしょうか。僕のところまではそこから数ヶ月ですけど」
「そうか。長いな」
「長いです……」
さっきまでの講義でこの言葉の意味も分かったアイシャは、その年数に絶句中。
「ちょっと待って! 今まで不眠不休でも1のままなのに、もしかしてこの先もずっと不眠不休で働き続けるつもり!? 数百年も!?」
「あはは、僕は機械ですから。それに、その道しかないんです」
「駄目! それは私が許さない! いくら機械でも、そんな事をしてると壊れちゃうよ! 体もだけど、心も壊れちゃう!」
アイシャのあまりの必死さに驚いてしまった。なにせその瞳には涙が滲んでいるのだ。
「……初めてですよ。機械である僕に、そんな言葉を掛けてくれた人は。涙を流してくれた人は。……メモリに保存しておきました」
「私、許さないからね!」
フューラがとても人間臭く感じる。それはきっと、その笑顔が憂いを帯びているからだろう。数百年の孤独を覚悟しているからだろう。
そんな二人を眺めつつ、ポケットに手を突っ込む。手にはスマホの感触。……あ、そうだ、面白い事を思いついた。
「そうだそうだ。フューラにまだ工房完成のお祝いを渡していなかったなー」
「なに! 雰囲気ぶち壊すんじゃないよ!」
軽いノリだったので八つ当たりのようにアイシャに怒られた。その感情がひっくり返るのに期待しよう。
「フューラ、これやる」
「えっ? でもこれはカナタさんの……」
「もう充電切れちゃったし、こっちの世界にはまだ電気がないから、持っていても無意味なんだよ。だからお祝いとして持っていけ。分解してもいいぞ」
驚きの表情から微妙な笑顔になるフューラ。
「あ、ありがとうございます。嬉しいけれど……えっと……」
「言いたい事は分かる。スマホだけじゃ足りないんだろう? しかしな、俺がいつそれで終わりだと言った? シア、俺の部屋の家電製品全部出せるか?」
(……あ! うん!)
シアも俺の言わんとしている事を理解し、次々と黒い球体から俺の家電製品が現れる。中にはゲーム機やノートパソコン、白物家電の冷蔵庫や洗濯機もある。数々の見た事のない物体にアイシャも目を丸くして驚いており、これが存外可愛い。
「さあフューラ、これら全てが俺からの大臣就任と工房の完成祝いだ。受け取れ」
――数分後。
アイシャとフューラは揃って家電を触っており、アイシャの質問に片っ端からフューラが答えている。こう見るとまるで歳の離れた姉妹だな。
「これは?」「冷蔵庫。食品を冷やして長期保存出来ます」
「じゃあこれは?」「電子レンジですね。短時間で食べ物を温められます」
「じゃあ?」「洗濯機。衣類を自動で洗ってくれます」
「えっと」「テレビですね。行かなくても遠くの情報を入手出来ます」
これはフューラ、骨が折れるぞ……。
更に数分後、一息ついてフューラが来た。
「これ……本当に全部、ですか?」
「そうだよ。全部フューラのものだ」
するとフューラは何かを決めたように大きく深呼吸し、俺に対してひざまずいた。
「……オーナーとの連絡が取れずに三十日間経過したアンドロイドは、自ら新たなオーナーを選ぶ権利を有します」
物凄い勢いで嫌な予感がしてきた。
「僕、局所停戦用戦闘アンドロイド製造ナンバー54は権利を行使し、折地彼方を新たなオーナーに選択いたします。僕はあなたの血となり肉となり、力となり盾となり、知識となり記憶となり、人形となり機械となる事を誓います」
そう来るんじゃないかと思ったんだよなー。参ったな。
「俺に拒否権は?」
「ありますし、拒否していただいても構いません」
先ほどから一切微動だにせず、声も真剣そのもののフューラ。
「じゃあ条件を。俺としてはフューラをオーナーとして扱いたくないし、扱われたくない。だからフューラもオーナーと機械という立場で接するのはやめてくれ。そういうのは嫌いだ」
「はい、カナタ様の申します通りに」
「それからその言葉遣いもやめてくれないかな。俺は友達として接したいんだ」
「……はい。カナタ様の言うとおりにします」
ギリギリだな。
「だからな、様なんて付けるのはやめてくれ。敬称はいらないし、そもそもタメ口のほうが俺としても楽なんだよ」
「ごめんなさい。僕は人に対して常に下位であるので、敬称を省いたり生意気な口を利く事は出来ません。これはプログラム設計上の制約であり、僕自身の意思での変更は不可能です」
さてどうしようかな、と迷っていると、シアに髪を引っ張られた。更にはアイシャにも袖を引っ張られ、早く返事をしろと言いたげ。
「……元魔王と現役勇者に頼まれちゃ断れないな。えーっと……ナンバー54の権利を受け入れるよ。ただし名前はフェムティフューラ、通称はフューラで変更なし」
フューラは更に深く頭を下げた。まるでお礼を言っているようだ。
「僕、フェムティフューラは権利の行使を確認しました。以上で主従契約の変更手続きを完了します」
そうしてゆっくり立ち上がるフューラ。
「……ははは、何泣いてるんだよ」
「ごめんなさい。……僕の今までの中で、一番嬉しいので。何ていうのかな……幸せを感じちゃいました」
幸せを感じるか。そんなフューラの純真さに、俺は羨ましさを感じてしまう。
「カナタさんが僕のオーナーになったので、オーナー権限を解除します。製造者にしか許可されていない領域はあるんですけど、それ以外の質問には全てお答え出来ますよ」
「質問とは少し違う気がするけど、サブのオーナーは設定出来るかな? 俺がいない時に、俺の代わりにフューラに指示を出せる人物が必要だと思うんだ」
「はい、可能です。……アイシャさんですよね?」
「え、私? あー……いいよ」
あっさりと決めたな。これで俺が居なくてもフューラはアイシャの命令を聞き行動出来る。アイシャに対しては握手で済ませたフューラ。アイシャ自身もそのほうが気が楽だろうな。
そういえばフューラは大臣に就く時に王様とも握手をしていたな。もしかしたらあれも同じ理由なのかも。
――ひと息ついて、改めて質問を開始。
「それじゃ、まずひとつ気になった言葉があったから答えてもらうよ。フューラの本名に戦闘アンドロイドって入っていたよな? どういう事だ? フューラの用途って何なんだ? 戦闘用兵器なのか?」
フューラは近くの椅子に座り、目線の高さを同じにして答えてくれた。
「僕は元々、戦争を停止させる事を目的として開発されたアンドロイドです。戦争行為があると派遣され、自らの武装により両陣営共に無力化し、戦争行為そのものを行えなくさせる。そういうやり方で局所的に停戦させる戦闘アンドロイドという事です。本来ならば国際機関の持つ部隊に随伴し、停戦の合意がなければ僕が武装を強制解除させます。その後は随伴部隊の役目です」
「えっと、フューラが全員の武器を壊す事で、誰も戦えなくさせるっていう事でいいのかな?」
「簡単に言えばそうなります」
アイシャも理解した様子。というか、俺たちの会話に付いて来られるようになっている。
「僕のナンバーは54ですが、1から49まではテスト型であり、既に廃棄されています。そして50から54、つまり僕までが実戦型となり、僕は末妹であり、全ての機能を備えた完成形です」
「ロットか? シリアルか?」
「シリアルです」
シリアルナンバーか。そしてアイシャさんは一瞬で置いていかれた様子。
「既製品か特注品かの違いですよ。僕は一点物の特注品だという事です」
「あー、うん分かった」
「ここからは僕から進んでの情報開示は出来ません。カナタさんの質問が必要になります。質問された内容のみを開示します」
つまり一段深い部分に潜るという事だな。
「そうしたらフューラの世界はどうなっているのか。そしてどうやってこの世界に来たのか。何か目的があったりするのか、聞かせてもらえるかな?」
「はい。まずいきなりですが、僕のいた世界の人類は滅亡しかけています」
本当にいきなりだ。俺もアイシャも言葉に困ってしまった。
「質問がないので詳細は省かせていただきますが、これを防ぐ目的で過去へとタイムスリップし、世界を救うのが僕に与えられた命令でした。結果、タイムスリップしたつもりが世界を渡ってしまったという事です」
俺もアイシャも青くなってしまった。まさかフューラがそんな重い任務を背負っているとは。
「それじゃあ、今頃フューラの世界は……」
「だと思われます。しかし今の僕にはどうにも出来ません。……あーいえ、カナタさんから頂いたものを利用すれば、恐らくは一年以内に僕の持つ技術レベルに到達出来ます。異世界への転移装置が作れるかは別ですが、望みはありますよ」
「さっき少し泣いていたのって、望みを見出したからなのか?」
「あー……オーナー権限での質問でないのならば、そういう事にしてください」
こいつまだまだ隠しているな。しかし話したくないオーラがすごいので、ここで止めておこう。
――それから。
ひと息つくためにフューラが水を持ってきてくれた。フューラの場合、コップ一杯の水でも日常生活ならば一日中動けるそうだ。省エネだな。
「ねえフューラも戦えるんだよね? どう戦うの? 武器見せて」
「あー……」
アイシャの子供のような要求に、言葉を詰まらせおどおどしているフューラ。アイシャもそれに気付いた様子。
「うん、嫌ならいいよ。私も無理強いはしないから」
「いえ……武器を持つには戦闘用の姿になる必要がありまして、その服装というか格好が、情欲をそそるというか……」
「よし命令だ見せろ」「おいっ!」
即答する俺に即座にツッコミを入れるアイシャ。しかしいずれ見ることになる可能性もあるではないか。目の保養……じゃなかった、目を慣らすためにも先に見ておくべきだろう。
「カナタさんには目の毒かなと思ったんですが……命令と言われては、僕は逆らえません。行きますよ」
緊張した面持ちになったフューラ。するとフューラが黒い球体に包まれた。まるでシアの使う”しまっちゃう魔法”のようだ。というかそのもののように見える。
包まれたと思ったら数秒もせず黒い球体が消滅し、戦闘用になったフューラが姿を現した。
「えっと……こんな感じです」
その姿だが、一言で言い表せば水着だ。ビキニだ。髪の色と同じ水色のビキニをまとい、足・腕・肩・わき腹に黒光りするSF的な防具のようなものが装備されている。そしてお腹と背中は丸見えである。へそ出しである。普段の露出度ゼロの服装とは真逆だ。
「こりゃー男としては……据え膳だよな」
「あはは……なので男性の前でこの格好をするのには少し抵抗があるんですよ」
なるほど、嫌がった理由がよく分かる。すると最後に、冗談めかしつつも目が笑っていない表情で一言。
「……襲わないでくださいね」
「誰がだよ! 俺はそんな野獣じゃないっての」
当然だ。そもそもこいつはアンドロイドだぞ。アイシャは横で笑いを堪えているが、しかしどうもフューラの目が笑っていないのが気になる。
「次に僕の武器ですが……」
さて何が飛び出すかと思ったら、空中に浮く丸い球体と、そしてこちらも浮遊する一メートルほどの長さを持つ角材のようなSF的パーツが現れた。どちらも今のフューラが装備している黒い防具パーツと同じ感じだ。
「この球体は浮遊砲台だと思ってください。これを多数一斉に動かし、広範囲を一気に制圧します」
ファンネル的なアレなのか。砲台は完全に浮いており、それだけでも凄まじい技術力を有しているのが垣間見える。どれほどの重量まで耐えられるのかと思ったら、シアは乗ったがそれ以上は無理との事。あくまで自分の重量分だけ浮けばいいという事だな。
「次にこの棒ですね」
フューラが手にすると軽く変形して、銃のグリップ部分などが出てきた。
「ライフルだったのか、それ」
「はい。要塞攻略などで、施設に穴を開けるために使います」
するとそれが合計六本出てきた。
「でもこれの本来の使用方法はですね、飛行制御装置なんですよ。つまり装置兼武器ですね。自衛も一点集中もお手のものです」
説明の途中で本当にフューラが浮いた。種も仕掛けも……あるけどないな。見た感じ角材のような装置とフューラ自身が合体接続している訳ではなく、それぞれが浮いているという感じ。
「どう浮いてるんだ、それ」
「基本は反重力です。僕とこの装置も、目には見えなくても物理的に繋がっているんです。ここからは説明してもカナタさんでも分からないと思いますので、省略させていただきますね」
賢明な判断だな。これが工業系相手ならば分かるんだろうが、俺は違う。
「浮遊術かー。私は下手だから使っていないけれど、実は魔法でも空を飛べるよ」
「マジか! なんだ三人とも飛べるんじゃないか。すげー羨ましいんですけどー」
笑われはしたが、アイシャもシアもフューラも、俺の気持ちは分かってくれた様子。
「じゃあこれが最後。フューラが戦う姿はあんまり想像出来ないんだよ。どう戦うんだ?」
すると微妙に嫌そうな表情をした。
「僕の戦闘スタイルは、上空からの一斉砲撃による広範囲制圧及び極一点集中狙撃となります。僕が本気を出せば、この王都は一分以内に制圧出来ます」
フューラの表情の理由が分かった。俺にその命令を出される事を警戒したのだな。誰がそんなアホナ命令を出すものか。
「うーん、一分以内は無理だよ。だって私がいるからね!」
「……あはは、そうですね」
アイシャの一言で和めた。狙ってかどうかは分からないが、それも含めて勇者らしいな。
――ひと通り眺めた後。
服装をいつもの色気のない白衣姿に戻したフューラ。するとフューラは大きく溜め息を吐いた後、いきなり涙目になりながら、こう訴えてきた。
「……機械である僕からオーナへの要求は本来許される事ではないんですが、でもこれだけは正直に言わせてください。僕はみなさんとの、この関係を壊したくありません。お願いします!」
先ほどまでとはまるで別人、鬼気迫るその表情に、俺はフューラが、武装以外にもとんでもない爆弾を抱えているのではないかという不安に襲われた。だからこそ、フューラを安心させてやる事にした。
「正直確かにあの格好はすごいし、フューラの戦闘力にも驚いたよ。でもそれで俺が変な行動を起す事はないよ。それに俺はフューラを一人の人間として、一人の仲間として接したいんだ。ひとつではなく、一人として。だからフューラ、その心配は無用だよ」
「そうだよ。それに私もいる。もしカナタが変な事命令したら、私が叩っ切ってやるから!」
(うん! うん!)
フューラは指で涙を拭いながら、嬉しそうに安心した笑顔を見せた。
「みなさんと出会えて本当に良かったと、心からそう思っています。これからもよろしくお願いします」
こうして異世界から来たアンドロイドのフェムティフューラは、また別の世界から来た俺をオーナーと認めた。
「……ちなみにメイド姿にもなれますが」
「よしそれじゃあ」「駄目!」
一方俺のオーナーはアイシャだな。なんちゃって。




