第九十六話 勇者と魔王の奇妙な絆
――シア視点。
「……んはっ!!」
がばっ! と布団を吹き飛ばす勢いで起きた。
こ、ここは……?。
「おはようございます」「うわっ! ……へ? トム王?」
「何を仰いますか。私はプロトシア様の執事のトムです。王ではありませんよ。随分とうなされていたご様子でしたが、悪い夢でもご覧になられましたか?」
「……そうか、夢か」
ここは私の屋敷、私の部屋。そこに見慣れた顔の執事。
……とても楽しい夢だった。出来る事ならば、あの夢の続きを見たいものだ。
「……ん」
気付けば私の瞳からは涙がこぼれ、布団に円形のシミを作っている。
「ど、どうなされましたか!?」
執事の焦り声で意識がしっかりした。
「心配する事はない。夢を思い出していただけだ。よし、今日の予定を聞かせろ」
「承知致しました。本日は十時よりユチッダ様と――」
目覚ましにハーブティーを一杯。懐かしい味だ。……ん? 懐かしい?
「プロトシア様?」
「あ、ああすまない」
しまった。予定を聞きそびれた。……まあ、私が覚える必要は何も無いか。
鏡に向かい、三人のメイドが私に服を着させる。
赤髪・黄髪・緑髪の三人はいつも仲良く、まさに三位一体。
一方の私は、やはりあの夢が気になり思い出そうとする。が、ぼやけてしまう。
「プロトシア様、どうかなされましたか?」
「さては好きな人でも出来ましたか?」
「晩御飯を気にするには早いですよ?」
この三人は、全く……。
「今朝方の夢を思い出していたのだ。何気ない日常の夢だ。だが、なにか重要な事があったようにも思えるのだが……」
「夢というものは思い出そうとしても中々思い出せませんからね」
「そう……だな」
今は夢よりも、この先の事を優先すべきだ。
赤髪のメイドは実直で笑顔が可愛い。私が目線を飛ばせば、必ず笑顔で返してくれる。
「……はい。終わりました」
「ああ。……ん? 角はどこに行った!?」
私の言葉に、黄髪でハーフエルフのメイドが笑った。
「角? ふふっ、プロトシア様も冗談を言うんですね。プロトシア様は魔族じゃありませんよ」
……そうだったか? あれ??
「きっと、夢の中では魔族だったですよ。それを引きずってるです」
「そ、そう……か? うーん……?」
背の低い緑髪の獣人メイドは語尾がどこかおかしい。
「本日もご公務が詰まっていますよ。はい、さっさと次に向かいましょー!」
うーん……まあいいか。
私は大陸王プロトシア。このプロトシア王国の主である。
大陸全土を掌握し、今まさに順風満帆の王様人生を歩んでいる、はず。
まずは朝食を……食べた? 食べてない? うーん……?
「プロトシア様、こちらへ」「あ、ああ」
何かおかしくないか? 色々と腑に落ちない。いっそ執事に確認を取ってみるか。
「なあ、何か変ではないか?」
「長期のご公務から帰ってきたばかりなので、そのせいでしょう」
「そう……か? うーん……」
あっさりとした返事。
以前の公務? 何をしたのか……んー? はっ!? まさか記憶障害!?
いやいや、さすがにまだ三十半ばのか弱き乙女……もう乙女ではないか。ともかくまだ若いのだ、ボケてなどいられない。
執務室へと入り、椅子に座り、ノートパソコンの電源を……え?
何故この時代にノートパソコンがあるのだ? というか、やはり何か色々とおかしい。
……夢、なのか? にしては妙に現実味がある。自分の意思で動けるし、物を持つ事も出来るし……。
と思っていると、バンッ! と扉が開き、執事が飛んできた。
「プロトシア様!」
「何だ騒々しい」
「魔王軍が攻めてきました!」
「はあ!?」
――気付けばそこは戦場。
え? えっ? あれっ!? 私はどうやってここに来た??
「プロトシア様、あれが我らが大陸を侵略してきている魔王軍です」
「お、おう。……確かに相手は魔族のようだな」
見たところ数万から、多くて数十万……ん? 今増えなかったか? ともかく、かなりの数だ。
「こちらの戦力は?」
「一億をご用意しております」
「い、いちおくっ!?」
「これは最終決戦なのです。しかるに大陸中の兵を全てかき集めてまいりました!」
……それならば一億の兵がいても……いいのか?
と、唐突に声が響いた。
「はーっはっはっはーっ! 我こそが魔王軍の総大将、魔王アイシャだぞー! どうだ強そうだろう!」
後ろから頭一つ抜けているその総大将がやってきた。
「……っておいっ!」
思わずツッコミを入れてしまった。
総大将は小柄な子供であり、兵と思わしき金髪の女性に肩車されていたのだ。そしてその手には、いわゆるメガホン。黄色の本体に傘の部分が白い、運動会などでよく見るアレだ。
「どうしてそうなる! 剣と魔法の世界には不釣合いであろう!」
「くーっくっくっくーっ、それはですね、僕が発明したからですよ」
思いっきり棒読みの高笑いを決めて、白衣を着た青髪の女性登場。
「あ、フューラ出番間違えてる! もっと後!」
「え? あ、お呼びでない? これはまた失礼いたしましたー」
引っ込んだ。
「あーもうっ! 何なのだこれは? どうすればよいのだ!」
「あはははは。ごめんねーこっちも慣れてない事してるから、とっちらかっちゃって。えーっと……」
と、本を取り出し何か確認してる総大将の魔王。
「……あれ? ねえ、どこまでやったっけ?」
なにやら人が集まり相談している。何だ何だ全く……。
「ここ?」「こっちでは?」「前のページのはずです」「いやそっちじゃなくて」「駄目だこりゃ」「あはは」
「んんんっ! ええい貸せっ!」
もう全然駄目駄目。腹が立って台本を奪い取り、私自らが確認!
「……ここで総大将登場だろう? 次のページでは……ん? いきなりシーンが飛んでいるような……あ、おい、ページの番号が飛んでいるぞ? 乱丁ではないか!」
「え? ちょっといい? ……あ、ほんとだ。だからなんかおかしかったんだよ。んもう」
なぜか私も混ざり、そこにいた七人で一斉に溜め息。
「んよし、そうしたらね、えーっと……途中省略して、全軍とつげきいいぃぃっ!!」
「おいっ!?」
とツッコミを入れる間もなく本当に戦闘開始。
なのだが……えーとだな、我々大陸軍はなぜかスポンジ状でふにゃふにゃした色とりどりの模造刀である。スポーツチャンバラに使うような奴だな。一方魔王軍は本物の剣。
「うおーやられたー」「骨が折れたー」「足首をくじきましたー」
なんというやる気のない棒読み。なんという茶番丸出しの構図。
「………………」
呆れて声が出ない。というか、切られているはずなのに兵士どもは出血もせず、ただパタリと倒れるのみ。どういう……?
「お覚悟おおー!」「うおっ!?」
敵兵の一人が果敢にも切りかかってきたので、とりあえず避けた。そうしたら相手が勝手に転んだ。
「やられたー」
いや、私は手を出していないぞ。というかこの剣……。
「……おいこれ、プラスチックのレプリカではないか!」
「だって本物危ないじゃん!」
確かにそうだが、それでも一応は剣であるし、これは戦闘。当たれば痛いはずである。
戦闘はなんとなぁーく進み、一億いるらしいこちらの兵はバッタバッタと倒されていく。これが逆無双という奴か?
「かっかっかっ! 大陸王よ、絶望を見るがいい! 我が魔王軍の誇る四天王の出番だ!」
む? という事は強いのが出てくるのか。
「四天王の一席、フューラ! なんとかロイドですんごく強い!」
「アンドロイドです。いつになったらしっかり覚えてもらえるんでしょうね?」
「あ、さっき間違って早く出てきちゃった奴か!」
「……恥ずかしいから言わないで下さい……」
なるほど。何がと言われても困るが、なるほど。
「四天王の二席、リサさん! 色々魔法が使えてすんごく強い、はず!」
「はずではありません。これでもローザクローフィで」「はいはい分かった分かった」
シルバーフォックスか。珍しい。
「四天王の三席、ジリー! 肉体派ですんごく強い!」
「説明が適当じゃねーか? んーまーいいや」
「いいのか?」
「言っても始まらねーからね。それに間違いではないし」
という事は肉体派なのだな。
「四天王の四席、モーリス! 人の心が読めるからすんごく強い!」
「夢だから普通に喋れまーす!」
おおっ! ……って何故私が喜ぶのだ?
「そして最後に四天王の五席、レイア! 私に対してはすんごく強い!」
「何故か私も借り出されちゃった。てへっ」
うん、可愛いから許す。
「というか四天王なのに五人いるぞ?」
「よくある事じゃん! 気にしない気にしない」
よくあるのか?
「さあ蹂躙せよ同志たち! 我らが力を大陸のものどもに思い知らせるのだー!」
「ですって」「仕方がありませんね」「めんどいなー」「普通に喋れるんだよ!」「アイシャ、ノリノリだね」
「はっはっはっ、四天王は随分と冷めているのだな」
テンションの落差に思わず笑ってしまった。
「やる時はやりますけどね。それじゃあ僕から行きます」
まずは一席が出陣。
武器はライフル銃か。そして……コルクがはまっている。あれが弾なのか? 完全に縁日の射的ではないか。
射撃の腕前はさすがは四天王と言ったところで、百発百中であり撃たれた兵は次々に倒れていく。そして撃っては落ちたコルクを拾って銃口に詰めている。
「……シュールだ……」
「それではわたくしも」
第二席が出陣。魔法が使えるとの話だったが?
「スパークレイン!」
「お? ……おっ!? あっ! あちっ!! ちょっ、焦げる焦げる!!」
火花が降り注いで熱い! こりゃたまらんので一旦退避!
「……あー服に焦げ穴が……。なんという地味に凶悪な魔法だ……」
森で使えば大炎上間違いなしだ。
「っしゃ。それじゃーあたしもやるかなー。夢なんだから盛大にふっ飛ばしてもいいよな?」
「いいけど、ネタバレ発言禁止」
「カタい事言うなって。もうどうせバレてんだろうし」
という三席と魔王との会話が聞こえ、そして……。
「うるあっ!」「ひえええぇぇぇ……」バアアアアンッ!!
ま、マジか!? 強烈な一撃で宙を舞った兵士が、花火のように炸裂、色とりどりの火花で大輪を咲かせた!
「っへー、綺麗なもんだ」
「おいっ! 完全に死者が出たぞ!」
「あー大丈夫。あいつ自身が炸裂した訳じゃねーから」
……そうなのか。というか、いい加減頭が痛くなってきた。
「はーい! モーリス、いきまぁーす!」
おっ、第四席が動くか。ちなみにその声だが、一見して女の子にも見間違えそうな容姿に負けず劣らずの女の子のような可愛い声だ。
「子供とて容赦はせんぞおおっ!」「うおおおっ!」
一気に五人がかり。大人気ないっ!
「へへーん! 当たる気がしないよー!」
と余裕の発言をぶちかましてくれているのだが、これが見事に真であり、当人は短剣の二刀流で動きも中々に素早く、瞬く間に五人を倒してしまった。
「いやーモーリス実はなかなか強いんだね。見直した」
「じゃあ結婚してください」
「それは……ってこっちみんな!」
怒られたっ!
「最後は私だけど、パス。私そもそも武器職人だからね」
「うん。じゃ代わりに私が行く」
総大将のご登場だ。
「覚悟っ!」「うおおお!!」
一斉に十人以上の兵が飛び掛った! が、次の瞬間には全員が一刀両断されていた。何が起こったのか私の目ですらも把握出来ないほどの早業だ。
「はっはっはーっ! 私の狙いは一人だけだよ。シア! 私と真剣で勝負しなさい!」
「……ふっ、よかろう! その誘い乗ってやろうではないか!」
これ以上兵を疲弊させる訳にも行かない。真剣でというからには、私も本気になろう!
――大陸王プロトシア対魔王アイシャ。
……なのになんでこちらは相変わらずスポンジの模造刀なのだ?
「全く、こんなふにゃふにゃでは攻撃に……って! そっちは本物ではないか!」
「くっくっくっ、よく気付いたな大陸王! この剣は……んー……あ、魔剣ユグドラシルなのだ! 今付けた名前なのだ!」
「今付けたとか言わんでもよろしい」「はあっ!」「って待て待て!」
構える前に攻撃してきたぞ!? さすがは魔王、卑怯な奴だ!
「とりゃっ!」「はっ! ……って、そうなりますよねー」
魔王の攻撃をこちらの剣で防いだのだが、まあスポンジなのですっぱり綺麗に切れた。断面も鮮やか百点満点、などと言っている場合ではないな。
「待て、適当な剣を拾ってだな……って、何故皆一斉に逃げる!?」
敵も味方も兵士が一斉に逃げてしまった。
「あははは! あんた裏切られてばっかりだね」
「…………またかっ」
思わず出たその言葉。私は、私が思う以上にこの光景に気落ちしてしまったのだ。
「はーぁあ。ようやくあんたの素顔が見れた」
「……何がだ」
「取り繕うのはもうやめにしなさい。だから、私たちももう茶番はおしまい。みんな」
何だと言う前に、私はあっさり五人の四天王と魔王に囲まれた。
「いくらなんでも六対一は卑怯だぞ?」
「これのどこが六対一? さっきも言ったけど、これは私とあんたとの真剣勝負。周りはギャラリーだよ。レイア、シアに剣渡して」
「知らないよ? はい、どうぞ」
渡された剣は……特にこれと言って特徴のない、普通の鉄の剣だ。金額にして二シルバー程度だろうか。
「いい? これが夢だろうとなかろうと、私は本気で行くよ。覚悟しなさい」
「元よりそのつもりだ」
強く剣を握る。今度はスポンジでもプラスチックでもない、本物の鉄の剣だ。
睨み合う両者。
「そっちから来なさい」
「余裕だな総大将。ならばお言葉に甘えさせてもらう!」
元々私は剣術など一夜漬けも同然。なのでとりあえず突っ込む!
「はあああっ!」
と振り下ろした剣は、こやつにあっさりと防がれた。結構な力を入れているのだが、あちらは身じろぎ一つしない。
「普通そういうのは余裕の表情で避けるものであろう!」
「そう? まーいいじゃん。んじゃ反撃!」
と言われたので急いで離れる。
全く、あやつは顔色一つ変えてなどいない。本当に恐ろしい勇者だ。
……ん? いや、魔王であろう? 何故勇者と?
「予告。私は三撃目であんたのその剣を折る」
なんて思っていたらこれだ。
「ふっ、ではこちらは、その答えが虚空である事を予告してやろう。来い!」
なぁーに、三撃目を空振りさせれば済む話!
「なんて思ってたりする?」
「モーリスでもないのに人の心を読むな! 全く……」
さて気を取り直して剣を構える。あちらもわざわざ待っていてくれたようだ。
どう来る? ……真っ直ぐ突っ込んできた!
「一撃目!」
いきなり左から右へと腹部を狙われた。こりゃたまらんと剣で止める!
「っ!? 重っ!」「二撃目!」
休む暇無しか!
二撃目は私の剣を支えに逆回転! いきなりだったので体勢が崩れ、反ってしまった……。反った私の目線からは、水平に構えられ確実に私の首を狙う剣先が見える。
んんーっ! ここはもっと反るしかあるまい!
「んがあああっ! ひいいっ!」
まるでリンボーダンスかというほど無理に反った体勢にならざるを得ない私。その私の鼻先を、皮一枚をめくるかというほどの、ほぼ当たっている距離で剣が通過。
「三撃目!」「なああっ!」
そのまま体勢が崩れ仰向けに倒れた私。眼前には青空と、そして飛び上がり、そのまま私へと本気の三撃目を食らわさんとする総大将。
こうなれば私は剣で防ごうとする他あるまい。だって避けられる体勢じゃないんだもん!
……って、待て待て! この勢いでそのままに剣が折れてしまえば、その下で倒れている私はどうなる!?
「待て! 私はまだ――」「死ねえっ!」
止める間もなく勢いよく振り下ろされた総大将の持つ魔剣ユグドラシルは、こちらの持つ普通の剣をまるで豆腐でも切るかのようにあっさりと両断。
そしてその剣先はそのまま私の眼前へと迫り――。
「……んはっ!!」
がばっ! と布団を吹き飛ばす勢いで起きた。
こ、ここは……?。
「おはようございます」「うわっ!」
その声に驚き、ベッドから転げ落ちて尻と、壁に頭も打った。
「ったぁーい……」
そして目を開けると、先ほどの四天王が揃って私を覗いているではないか!
「やっ、やめろぉおぉおぉ……」
涙目大焦りで壁際まで這って後退。あ、八方塞になりました。
とりあえず足で抵抗しつつ手で顔をガード! 痛いのはもうごめんだ!
「………………ん?」
何もしてこない。
薄目で確認してみると……って顔近っ!!
あ、いかん……ちょっとちびったかも……。
「シアさん、僕の事分かりますか?」「ひいいっ!」
「もう一度聞きますよ。僕の事は分かりますか?」
「あ、あれであろう! 四天王の一席!」
「四天王?」
そしてまた四人で相談している。
小さいのが光文字で何か書いて、周りが納得した様子。
「あ、なるほど。あはは、そういう事ですか」
……あ、目線がっ! ってかこっち来た! や、やる気かっ!?
「シアさんは夢を見ていたんですよ」
「……ゆ、夢? いや、あれほど現実味のある夢など……いいや、さては幻術使いだなっ!? こちらこそ夢なのであろう!」
「あはは、残念夢じゃありません。現実です。こちらが現実です」
そ……い、いや……いやぁ……それはそれで、あの場面が夢ならば、助かる……のだが……。
「んにゃっ……ふわああぁぁあ……」
ん? もう一人いるのか? ベッドを這ってこちらに顔を出したのは、あの魔王ではないか!
「あ、起きたんだね。大陸王」「魔王アイシャっ……」
と、周囲の四人が大爆笑。何が何だか……。
「あはは! なぁーるほど、そういう夢でしたか」「あはは! それならばわたくしたちを恐れても仕方がありませんね」「あはははは! た……たいりくおうって……んはははは!」(あっはっはっはっ!)
――んで。
そのままベットから転げた状態で今までの全ての話を聞き、私もしっかりと思い出した。そしてベッドに戻り、アイシャも私の隣へ。
何だかんだで私とこいつとは仲が良いのだ。というか、アイシャから私の手を握ってくる始末。可愛い奴め。
「はあ……全く、私は夢で皆に殺されかけたのだからな?」
「あんた殺したのは私でしょ?」
「そうだが……というか、何故それを知っている? 夢で私が大陸王と呼ばれていた事も知っていたし、貴様まさか夢に入り込む魔法でも使ったか?」
「あはは! んねぇー? いやー私だって不思議だよ。私の夢ではシア以外の五人とレイアが魔族になってて、私が魔王。……まー途中から、フューラが台本間違えた辺りで、私もこれが夢で、もしかしたらあんたの夢の中なんじゃないかって思ったんだ。でも普通そんな事ありえないからさ、私なりに楽しませてもらった訳。んで、あんたを両断したところで目が覚めましたー」
「私は本当に夢と現実が逆転していると思っていた。私は大陸を仕切るプロトシア王国の王であり、人間族であった。それで色々あって、戦場でアイシャと勝負をして、剣を折られて切り殺された」
「待て! 私はまだ死にたくない! って叫んでたよね」
「……そこまで合致すると気味が悪いぞ」
思わず冷静に一言。
するとジリーが軽くにやっと笑った。
「それきっと、フューラのせいだね」「え、僕?」
「そう。フューラあん時、シアとアイシャの手を繋がせたじゃん」
「……まあ、そうですけど」
納得していないフューラ。
先ほどその時の話も聞いた。アイシャが私に被さるように寝入ってしまったので、ベッドを横付けして寝かせた。その時にフューラが無意識に私とアイシャとの手を繋がせたのだ。
「シアは体は回復したけど意識はずっとないままだった。それって自分で自分が死んだと思い込んでたから起きなかったんじゃね? んでアイシャがシアを助けたいっていう想いが、繋いだ手からシアの夢に意識をもぐりこませて、さっきのとおり脅して「死にたくない」って言葉を引き出させた。まー自分で言っても何だこりゃって感じの、文字通りの夢物語だけどさ、あると思うよ? あたしは」
まさか……と、横を見るとアイシャと目が合った。そしてニヤリと悪どい笑顔を見せてきた。
「あんた、私に感謝しなさいよ? 何たって魔王を救った夢の中の魔王なんだからね」
ああ、これには冷ややかな目線を送るほかない。
「確かにアイシャは私の命を救ってくれた。感謝する。しかしだな、その表情でその発言はどうなのだ?」
「えへへー」
……可愛く笑って誤魔化された。
ともかく、アイシャも無事で本当によかった。あの努力が……これはいいか。
(――――、――?)
あ、モーリスには聞かれていたか。
「そういえば夢ではモーリスも喋ってたよね。可愛い声だったよ」
「ああ、申し訳ないが服装が違えば完全に女の子だったな」
(…………)
黙して語らず。その理由は分かる。
地雷を踏んでしまったかと皆と目を合わせ、この話は終わりにする。
(――、――――?)
「ん? ああ。えー……んまあいいではないか。過ぎた事だ」
ああいう事は何も言わないのが一番なのだ。
と思ったら、リサさんがバンッ! とベッドに手を突きつつ、思いっきり睨みを利かせてきた。
「何ですか? お二人ともまだ体調は万全ではないのですから、隠し事はわたくしが許しませんよ」
「ひいっ、スパークレインは勘弁だ」
「おや、その魔法をご存知とは」
リサさんの表情が一瞬で興味へと変更。
「あるのかっ!? 夢でリサさんが使って大惨事になっていたぞ?」
「大惨事……ふふっ、確かにあれは場所を考えないと大惨事になりますね。スパークレインとは見た目は炎ですが実は雷属性の、火花を雨のように降らせる広範囲攻撃魔法なのですよ。森で使えば一瞬で火の海の完成です」
夢のとおりの魔法だ。まさかリサさんまでもが私の夢に影響していたとは。という事は実は皆も……?
「それで?」
おっと、いつも通りのアイシャの質問だ。
「……言わないと駄目か?」「駄目」「うっ……」
あまりの即答振り。どうしようかと迷う隙も与えてはくれないようだ。やれやれ。
「分かった。今回アイシャは拷問されたか?」
「ううん。体調が悪くて牢屋で意識失ってて、気付いたらあんたと二人で公衆の面前に裸で吊るされてた」
「……そうか」
よかった。やはり私の努力は無駄ではなかったのだな。
「そうだな……んー」「全部」「分かったから睨むな」
「まず最初に、私は直接拷問室に飛ばされたのだ。そこで拷問を受けた。途中あの皇帝が来て、アイシャがまだ拷問を受けていない事と、そして皆が処刑はされておらず、ロステレポにより遠くへと飛ばされただけである事を知った」
皆少し下を向いてしまった。アイシャも同じだったのだが、私が話を続ける前にうつむいた顔を上げた。
「……分かった、そういう事か。吊るされて目が覚めた時、ちょっと変だなって思ったんだ。シアは死にかけてるのに私は無傷。小人狩りのつもりでわざとかなって思って納得したんだけど、あんたが粘って、私に拷問時間が来ないようにしたんだね」
「ご名答。といっても怪我はしてしまった様子だな。申し訳ない」
と、軽く頭を下げた私に、アイシャの平手打ちが飛んで来た。
「あんた! 私に頭なんか下げてんじゃねーよ! 頭下げんのは私なんだよ!!」
激怒である。そして泣いている。
「それで平手打ちは酷くないか?」
「あんたのせいだろ!! あんたのせいで私が謝るタイミングなくなったんだよ!! どうしてくれんだよ!!」
「ははは……」「笑い事じゃねーから!!」
アイシャは一旦ベッドから降り、私の傍らへ。
口がへの字に曲がっている。そしてやはり怒っている様子。
「……これは、アイシャ・ロット個人としても、そして勇者アイシャとしても、どっちでもの、本当の気持ち。しっかり受け取りなさい」
やはり不満げな表情は崩さず。
「……ありがとうございますっ!!」
全力で振り降ろした頭から風が来た。そしてすぐまた顔を上げる。
「そして……ごめんなさいっ!!」
また風が来た。
……床にぽたぽたと水の滴る音。ならば、私も答えよう。
「私を救ってくれてありがとう。そして巻き込んでしまいごめんなさい」
「あんたを信じたから巻き込まれてやったんだよっ。だから、あんたが謝る事は無いのっ」
泣き声のままに怒られてしまった。
「僕も、シアさんを信じています」「わたくしもですよ」「もちろんあたしもだ」(うん!)
……そうか。これが、信頼か。
「私は何があろうともアイシャを、そして皆を信じている。裏切る事などない」
「その言葉そっくり返すっ!」
「ははは」
私は、それが分かってもらえるのであれば、他には何もいらないのだ。
大変な部分を抜けてペースが上がっていますが、しかしすぐ減速します。多分。




