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第九十三話  四分五裂

 ――リサさん視点。

 南西に向けて飛行し、既に一時間ほどは経ったでしょうか。未だに森を抜けません。という事は、かなり奥地まで飛ばされてしまったようです。

 「こうなったら……」

 今までは通常出せる最高速度で飛んでいたのですが、最終手段です。

 わたくしは姿勢を低くし、強くカミエータを握りました。ブースターが発動し、甲高い音と共に急加速!

 正直寒空の下でこれほどの速度を出せば、凍えてしまいそうなほどの寒さになるのですが、今はとにかく……っと、明かりです。


 森の中にぽつんと一軒だけある小さなログハウス。どうやら木こり小屋のようですね。

 「すみません、誰かおりますでしょうか?」

 「……あー?」

 中から声がしました。どうにか最悪の事態だけは避けられたようです。

 ゆっくりと扉が開くと、かなり大柄な魔族の男性が出てきました。年齢は恐らく五十代。角には毛糸のキャップをはめており、お髭がワイルドな方です。

 「夜分遅く申し訳ございません。先ほどロステレポしてしまいまして、ここが何処なのかお教え願えますか?」

 「……入りな」

 そう一言、男性はわたくしに背を向け小屋の中へ。

 ……ええ、ここまで来て何を怖気づく事がありましょうか!

 「し、失礼致します……」



 ――木こり小屋。

 小屋の中では暖炉に火がくべてあります。

 広さは……アイシャさんの昔の家ほどでしょうか。そこかしこに斧やのこぎり、ナタのような大型の刃物も置いてあり、ちょっとだけ恐怖心が出てきます。

 「……座りな」

 「はい」

 椅子と言えるような立派なものはなく、木箱の上に座らせていただきました。暖炉の火が暖かい……。

 「……あの」「飲みな」

 話の続きをと思ったら、飲み物が出てきました。これは……紅茶ですね。

 香りに妙な点はないので、薬が混ぜてあるという事は無いでしょう。

 「……ありがとうございます。いただきます」

 ずっと外を飛行していたので、実は指の感覚がなくなっていたのですよ。明るいところで見ると真っ赤ですもの。


 「……ここから南に五キロ程度で村に着く」

 「分かりました。……あの、フィノスのトゥーレフまではどれくらい掛かりますでしょうか?」

 と、男性が奥から地図を持ってきてくださいました。

 「出身は?」

 「チェリ……グラティアです。これからトゥーレフまで向かうところだったのですが、ロステレポによりこちらまで飛ばされてきたのです」

 じっとわたくしを見つめる男性。……冷や汗が出てきました。

 「……ここからトゥーレフだと、間違いなく凍傷になる」

 「だとしても、わたくしは行かなくてはならないのです」

 男性はじっとわたくしの目を見てきました。ならば、わたくしも強く見返すまで。


 軽く溜め息をついた男性は、地図を指差して細かく教えてくれました。

 「ここいらがこの小屋。トゥーレフは……ここだ」

 ……あまりの遠さに一瞬躊躇してしまいそうになりました。直線距離で五百キロ近くは離れているのではないでしょうか……。

 「急ぐにしろ何にしろ、まずは村に行け。あんたも俺みたいなのと添い寝はしたくないだろうからな」

 しっかりと考えてくださっているのですね。どうやら悪い方ではないようです。

 「お気遣いありがとうございます。しかしわたくしには魔族や小人族の友人もおりますので、何も気にする事はございませんよ」

 「……俺は男だぞ?」

 「あ……ははは……」

 その意味を理解し、思わず苦笑い。

 すると男性は次に、帽子と手袋を渡してくださいました。どちらも茶色い皮製ですね。中は毛皮が張ってあり、ふかふかで暖かそうです。

 「それ飲んだらこれ着けて行け」

 「しかし」「予備ならいくらでもある」

 ……ならば、わたくしはありがたく頂くまでです。


 「……一つ、よろしいですか?」

 「なんだ?」

 わたくしは、今のうちにフィノスの内情を知っておかなければと思いました。

 「あなたや村の方々としては、フィノスが方々に戦争を仕掛ける事を、どう思っているのですか?」

 聞いた後になって、気分を害する質問だったと反省いたしました。


 「……勘弁だ」

 「そうですよね。この質問は無しに」「そういう意味じゃない」

 ……という事は、やはり。

 「この国で華やかなのは帝都周辺だけだ。他は最低限度の生活さえも厳しい。ここ最近の皇帝たちは、俺らなんか見ちゃいない。今のだってそうだ。俺ら貧乏人から絞れるだけ絞り取って戦備増強ばかりしては、兵になればいい生活が出来るぞなんて謳いつつ戦争にうつつを抜かしている。誰がその兵が食う肉や野菜を作ってやってるのかなんて考えてすらいない。……知ってるか? この国で一番多い死亡理由はな、餓死だ。しかも死ぬのは決まって幼い子供。……俺の娘もだ。出来る事ならばこんな国はさっさと捨てたいが、外国に渡る金も稼げないんだよ。ここはそういう国だ」

 「……戦争のために民をないがしろにし、今や兵を支える力さえも無いと?」

 「無いな。地方に行けば兵でさえも餓死する始末だ。……まあそんな話、皇帝の耳に入る前に、どこかに消えるけどな」

 ……末期ですね。


 だからこそ、今ここにわたくしがいるのでしょう。わたくしがこの時代に呼ばれたのでしょう。わたくしはそう確信いたしました。

 わたくしは残った紅茶を一気飲みし、カップを男性に渡しました。

 「お話ありがとうございました。紅茶とても美味しかったです。それではわたくしは友を助けに行かなければいけないので、これで」

 「……頑張りなさい」

 「ええ、もちろんですとも」

 少しばかりのお礼に、笑顔でそう答えました。

 外は少しずつ明るくなってきています。急がなければ。



 ――フューラ視点。

 こちらは何処かの海岸です。雪がないので相当に遠くへ飛ばされてしまった様子。

 そして、僕の目の前には様々な武器を持った魔物の群れ。ゴブリンやコボルト、オーガにオークに……少々毛色の違うのもいますが、よく見るタイプが大半で、一見して三十ほどいるでしょうか。レーダー上では……その倍近くはいます。

 「さあ、いつでもどうぞ」

 「ンゥギャアアアッ!」

 一気に来ましたが、僕には一瞬たりとも触れる事は叶いません。

 ……少し遊んであげましょう。

 僕はライフルを二丁持ちし、乱射を開始。一瞬で終わらせるのは少々もったいないですからね。


 「1、2、3、4――」

 前衛はあっさりと倒れますね。

 ……おっと、レーダーに新しい影。僕の左右から合計で五十ほど。挟まれてしまいましたねー。ふっふっふっ。

 と思ったら頭上に照明弾が。……あれも魔法ですね。

 「とつげきいいいっ!!」「うおおおおおおっ!!」

 「おっ!? あ、へえー」

 何処かの兵隊が現れました。先ほどの追加はこの方たちでしたか。……もしや、訓練場か何かなのかも。一旦空に上がって様子を見る事にします。

 「一匹も残すなーっ!!」「うおおおおっ!!」

 勇猛な方々ですね。


 それから三十分ほどで戦闘は落ち着きを見せました。兵隊側の圧勝です。

 っと、一名僕に向かって手招き。他とは装備が違うので、恐らくは隊長さんでしょう。敵対する気はないので、呼ばれたのだから素直に従う事にします。

 「貴様、どこから来た?」

 怪しんでいる口調ではありますが、敵意はないですね。

 「えーっと、フィノスにいたんですが、ロステレポでしたっけ? あれになってしまったようなんです」

 「ふむ。……分かった、ならば説明が必要だな。ここはルサル国のタルガット島と言って、島一つが丸ごと、我ら栄光あるルサル騎士団の訓練施設なのだ!」

 「初めて聞く国ですね」

 おっと失敗、口を滑らせました。その証拠に隊長さんがガッカリしています。

 「……そうか。まあ仕方ない。ルサル国はナーシリコの南東にある小さな島国なのだ。大陸出身者ならば知らなくても仕方がない。仕方がないので気にしなくても構わないぞ」

 ……そこまでガッカリするものなんですかね?

 「ともかく、か弱い女性をこのよう場所に放置する訳にはいかない。我らの寄宿舎に案内しよう」

 「ご迷惑をおかけします」

 間違いなく彼ら全員よりも僕のほうが強いんですけどね。



 ――寄宿舎。

 といっても普通の長屋ですけど。

 道中話を伺ったところ、彼らは夜間演習の最中であり、あの魔物は近所のダンジョンで捕獲したんだそうです。一気に全滅させなくて正解でしたね。

 僕は隊長さんに連れられ、一旦食堂へ。

 ここで隊長さんはようやく兜を脱ぎました。……結構なイケメンおじ様ですよ。まあ僕には関係ありませんけど。

 「すみませんが、僕は急ぎ戻る必要があるんです。転送魔法が使える方はいますか?」

 「申し訳ないが、ここにはいない。本島ならばいるのだが、この島には我ら騎士団以外は上陸を許していないのだ」

 「ならば本島まで飛んで行きます」

 「……船でも丸一日かかる」

 という事は、おおよそ二百キロ程度ですか。僕ならば一時間程度で着きます。


 「方角は分かりますか?」

 「行くつもりなのか!? ……人の命を守る者として、それは承知出来ない!」

 さすが、と言いたいところですが、今は押し通ります。

 「ならば余計にですよ。僕はこれから濡れ衣を着せられた二人の友人を助けに行くんです。恐らく二人は今日中にも断頭台に上がる。それだけは必ず阻止しなくてはならない」

 難しい顔の隊長さん。ならば駄目押しです。

 「……それに僕はこれでも強くて頑丈なんです。隊長さんくらいならばあっさりと伸してしまいますよ?」

 眉毛を片側だけ上げて驚く隊長さん。

 「……はっはっはっ! 分かった! その雄弁さに免じよう。そうだ、ちょっと待て」

 なおも軽く笑いつつ、隊長さんが食堂から出て行きました。


 ――それから五分ほどで、手紙を一通と方位磁石を一つ持ち戻ってきました。

 「いいか、まずは西に進め。小島が見えたら北だ。そうすれば直接に都へと行ける。あとはこれを見せて事情を話せばいい。方位磁石は転送屋に預けてくれれば問題ない」

 つまりこの手紙は紹介状ですね。騎士団の隊長さんならばどこに行っても顔が利くんでしょう。

 「ありがたく受け取らせていただきます。……あ、今はお返しするものがないんです。すみません」

 「ははは、気にする事はない。騎士団の規約には、助けた人から金品を直接受け取るのは禁止となっているのだ。その心だけで充分お返しになっているのだよ」

 「……分かりました。では慌しくて申し訳ありませんが、僕は行きます」

 「ああ。ほんの少しの出会いであったが、応援しているぞ。頑張れ!」

 「はいっ!」

 ……久しぶりに火がつきました。僕が元兵士だからでしょうかね?

 ともかく、後は全速力で向かうのみです。



 ――ジリー視点。

 あたしがいるのは何処かの地下室。んでガイコツが転がってて虫がワサワサしててで、もう……発狂しそうっ!

 「壁ぶっ壊すぞおおーー!!」

 もう反応ゼロだから好き勝手適当に暴れさせてもらう! じゃないと泣いちゃいそうなんだよっ!



 ――そしてモーリス視点。一応は第三者視点である。

 獣人族のお宅にロステレポしてしまい、家主から話を聞いてすぐさま飛び出したモーリスだが、ではどこに行けばいいのかというと迷ってしまう。

 「あーいたいた!」

 先ほどの獣人族の女性が追いかけてきた。

 「場所、分かってるの?」

 (……ううん)

 「やっぱり。それだけすぐに飛び出すって事は相当急いでいるんだろうけど、まずはちゃんと周りを見ないとだよ?」

 (はい……)

 軽く叱られたモーリスは大きく深呼吸し、気持ちを落ち着かせた。


 「うちの兄貴が船持ってるから、……この時間だとまだちょっと早いけど、港にはいるはず。隣の島まで乗せてもらえるようにしてあげる」

 (――――!)

 「あーいいのいいの」

 女性が歩き出し、軽く手招き。モーリスもこの話が本当であると分かったので、素直に従う。

 「……っていうか君、喋らないね」

 (――――、――――――)

 「え!? そんな呪いあるの? いやぁ……大変だね」

 (ううん。――――――。――――)

 「みんな優しい……私も? あはははは! 私ね、歳の離れた弟がいるんだ。丁度君くらいの歳。だから重ねてるのかな? ……んんーっ! ふっふっふーんっと」

 体を伸ばす女性。今日の用事が決まったようである。



 ――港。

 「ちょっと待っててね」

 女性は停泊している小さな船へ。

 (いい人みたい。安心した)

 今更ながら警戒心を解くモーリス。

 (だって、あんな事の後だもん。……ふわぁーぁ)

 警戒心を解いたら緊張も解けて、そして眠くなってきたモーリス。それもそのはず。徹夜ですから。


 「大丈夫だってー……って、寝ちゃってる。……仕方ないなぁ」

 仕方ないと言いつつ笑っている女性。そしてモーリスの頭を軽く小突き……起きない。

 「はあ。こんな事するの、何年ぶりかなっと」

 女性はモーリスを背負い、船へ。

 「兄貴、よろしくー」

 「あいよ。……って、ははは。寝ちゃったのか」

 当然ながら女性の兄も狼っぽい獣人族。そして妹の背中で寝ているモーリスを見て優しく笑った。

 「なんかすごく必死だったからねー。私にも警戒してたみたいだし、気疲れだね」

 「んじゃ、ちょーっと荒く動かすか」

 「あはは! やめなよ? 私が落っこちるんだから」

 「むしろ落とす」

 というような仲のいい兄と妹の会話で出航。

 辺りはまだ暗いが、夜も明けきらない早朝から漁に出るここの漁師にとっては、充分船を動かせる。



 ――隣島。

 船が接岸。

 「着いてもまだ寝てるのか。こりゃー参ったな」

 「んー、そろそろしっかり起こそうか。おーい君ぃ、起きなさーい」

 (……んー……ん? あっ!)

 強めに揺すられて、ようやく目を覚ましたモーリス。それを見て笑う狼兄妹。

 「はっはっはっ、寝坊助め」「あはは。おはようさん。もう隣の島には着いたよ」

 (――――? ――――!)

 「そんな謝る事じゃないって。それに私もこっちに用事があるから、そのついで」


 船を降りたモーリスは、そのまま女性の案内で転送屋へと向かう。

 道中ちょっとしたイタズラ心が芽生えるモーリス。

 (……――、――――?)

 「ん? え、私の用事を当ててみせるって? ……いいよー当ててみなさーい」

 自信たっぷりの女性と、そしてこれまた自信たっぷりのモーリス。

 (――――――、―――――――。――――?)

 「弟が学校の寮に……って、すごいね! ホント大当たり!」

 それもそのはず、モーリスは心を読んで全てお見通しなのである。

 (えっへんっ!)

 威張ってはいるが、つまりはイカサマである。


 「実家がさっきの島でね、学校とかがあるのはこっちの島。他にも何個か小さな島があって、海が荒れたら登校が出来ないから、小島の子はみんな寮生活するんだよ。私もその経験者。卒業後は頭のいい子はそのまま大陸に渡ったりするね」

 (……――――――)

 「羨ましい、かぁ。でも寮生活も大変だよ? 門限守らなくて怒られたり、隣の部屋で喧嘩が始まったり、料理の量がおかしいのがいたり」

 それを聞いて、自分の現状を当てはめてみるモーリス。

 (……ぶふっ)

 そして吹き出し笑い。女性もなんとなぁーく察した。

 「あ、ここが転送屋。それじゃあお別れだね。ポストキーもらって、いつでもまた遊びにおいで」

 (うん。――――!)

 絶対に来ると自身満々に答えるモーリス。

 「あはは。……君が何をそこまで必死なのかは分からないけど、どうにかなるように願っているね。それじゃ」

 (――――)

 女性と別れ、島のポストキーを手に入れたモーリスは一路……どこに向かうの?

 (グラティア王宮)

 に、向かった。



 ――グラティア王宮。

 到着したモーリスは走りそのまま玉座の間へ。

 (トム王様! ……って、誰もいない)

 時間が早過ぎた様子。

 (……大丈夫!)

 きびすを返し、モーリスは勝手に王の寝室へ。しかし道中あっさりと兵に見つかった。

 「おいそこの! って、モーリス君じゃないか。どうした?」

 (――!)

 「緊急? 分かった。広間で待っていなさい」

 ちょっとだけ小走りの兵士を見送り、モーリスは指示のとおり広間に移動し待機。


 「あーいたいた!」

 ドタドタと焦り走ってきたトム王と、丁度そこにいた兵士たち。

 「緊急ってやっぱり何かあったんだね?」

 アイシャたちがフィノスに出向いた事は兵にも知れ渡っており、この事態は想定されていたのだ。

 (うん。――――、―――――――、――――)

 「……二人が? ……分かった。でも他の人は?」

 (――――――――、――――)

 「意図的にロステレポか……」

 難しい表情のトム王。その心中はモーリスも分かっている。

 「……正直に言うとね、まあモーリス君ならばもうオレの心を覗いてるんだろうけど、こちらとしては難しいんだよ。これは一つ間違えば戦争に繋がる事態なんだ。申し訳ないんだが、すぐに動く訳には行かない。あちらもそこいらへんはしっかりと考えているはずだからね」

 (……うん)


 次にモーリスはトム王に指示を仰ぐ事にした。

 (――――、――――)

 「え? オレが? ……ならば、まずはロステレポした四人と合流する事を優先だね」

 (うん)

 「……リサさんは魔法で飛べるし、フューラさんも機械で飛べる。とするとジリーさんを最初に見つけ出すべき。だけど……うーん……どこにいるのか分からないのでは探しようが無いよね」

 (うーん……)

 と、話を聞いていた兵士の一人が何かを思い出した。

 「あ、謝肉祭で不正した連中みたいに、二人一組の何かがあれば繋げて場所特定出来ませんかね?」

 (二人一組……あっ!!)

 モーリスは思い出した。フィノスへの渡航前日にジリーからプレゼントをもらっていた事を。


 「……白いウサギのブローチ?」

 (うん。――――――、――――。――――――!)

 「白兎……ジリーさんは黒? ちょっと貸してもらえるかな?」

 頷きブローチをトム王へ渡す。

 「……これ、手作りだね。これならば充分行けるよ」

 (分かった!)

 トム王からブローチを受け取り、強く握り集中するモーリス。

 そして――。

 「ははは。愛とは何と素晴らしいものか。……よし、こちらはこちらで出来る事をやるぞ! 前王や大臣をかき集めろ! 戦争なんてさせてたまるか!」

 「はっ!!」



 ――どこか。

 転送に成功したモーリスは、暗闇の中暴れ叫び続けるその腕を掴み、すぐさま再度転送。

 「あああああああ!!!」

 転送し明るい場所へと出た二人だが、ジリーの叫びは止まらなかった。

 「あああああああ!!!」

 泣き叫びもう近寄る事も出来ないほどに大暴れするジリーを狙い、モーリスは一つの魔法を放った。

 「あああ……ああ……あー……んー……」

 膝から崩れ落ち、顔面から地面に倒れたジリー。

 (……どうにか効いた。お兄ちゃんに使った気絶魔法)


 「……はっ!!」(……えっ!?)

 数時間は起きないはずの気絶魔法だったのだが、ジリーは倒れてから、たった十秒程度で意識を取り戻してしまった。

 そして……。

 「んあああああああああ!!!」

 倒れ顔を地面に向けた状態のまま叫んだ。

 (……うん)

 モーリスはそんなジリーを、後ろから抱きしめ、引き上げ座らせた。地面に突っ伏したままではジリーの視界は暗いままなのだ。

 そしてモーリスは、そのままより強く抱きしめた。声は出ないが、大丈夫だと何度も言い聞かせる。

 体中の筋肉という筋肉が強張り、がちがちに固まっているジリーの力が少しずつ抜け、叫び声も少しずつ小さくなっていく。

 (よし)

 手を離し前へと回り込み、そしてモーリスはバチーン! と平手打ちを一発。


 「あ……痛い……」

 (……戻った。もう安心)

 モーリスの表情からも力が抜ける。そして正面から抱きついた。

 「……あ、白兎。……あ……ああ、あははは、あんがと。もう大丈夫。明るいから」

 (うんっ)

 安心したモーリスが泣いてしまったのだった。


 こうして四人はバラバラにではあるが、一点へと歩を進めた。




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