手伝いの日々の中で
土を掘って、掘って、とにかくひたすら掘って。
それを運んで、運んで、とにかくひたすら運んで。
掘った場所の両脇と下を固く整えて、整えて、とにかくひたすら整えて。
そんなふうに、時に筋肉痛とも戦いながら、私は水路や溜め池を作るお手伝いをして数日を過ごした。
冒険者や職人さんはおろか、ウォーリスの街の男性陣の作業スピードよりも遥かに遅い私の作業に、皆さんは文句ひとつ言わず、『精が出ますね、その調子です』とか『頑張りますね領主様。ですが無理はなさらないで下さいね』とか、暖かい言葉と目で見守ってくれて、あまつさえ作業を手伝ってもくれた。
そんな優しい人達に応えるべく、私はひたすら頑張った。
……けれど、ちょっと頑張り過ぎたのか、ある日疲れからか私は熱を出してダウンしてしまった。
客室の掃除やベッドメイクに各作業場にいる皆さんの食事の手配や休憩時のお茶の配達など、普段より忙しいメルティナさんを始めとするメイドさん達に、この上ダウンした私の看病までを仕事内容に組み込むのは気が引けて、メルティナさんに『私は大人しく寝ているから、基本放っておいていいです。手が空いた時に様子を見るくらいで構いませんから』と言って心配するメルティナさんに断りを入れたけれど、結局メルティナさんは頻繁に私の様子を見に来て何かと世話を焼いてくれた。
私がダウンした事で、その日の私がやるはずだった作業も、他の人の作業に上乗せされてしまっただろうし……手伝うどころか、かえって仕事を増やしてしまったなんて、反省しなくちゃなぁ。
この反省を踏まえ、翌日からは変わらず手伝いを再開するも、私は無理をしないよう、三日ごとに一日休みを貰う事にしたのだった。
★ ☆ ★ ☆ ★
水路や溜め池を作るというのは、私が想像していたよりも遥かに長い時間がかかって完成するものらしい。
作業を開始してから、もうどのくらいの日数が経ったのかわからない。
それくらい長く、作業は続いていた。
その日も私は作業を手伝っていたけれど、小雨が降りだした事で風邪をひいてはいけないと考え、もう少し作業をするという他の人達には申し訳なく思いながらも、早めに切り上げさせて貰った。
少しでも雨を避けるべく、その日の帰り道は平原ではなく、街外れから続く森を経由して、木の下を早足で歩き続ける。
暫く進むと、前方の一本の木の根元に、黒ずんだ丸い物体がある事が視界に飛び込んできた。
「何だろう、あれ」
作業をしている誰かがここを通った際に落とした落とし物だろうか?
そんな事を考えながらそれに近づき、覗き込む。
するとその物体は一部が小さく上下に揺れている事に気づく。
う、動いて……る?
私はその場にしゃがみこみ、恐る恐るその物体に手を伸ばして、触ってみた。
感じたのは、ごわごわした毛玉のような触り心地に、濡れて冷えた中にもほんのりとした温かさ。
そっと毛玉を掻き分ければ、見えてきたのは閉じた瞼と、鼻と、やはり閉じた口。
「こ、子犬だ……捨て犬かな? こんなに小さいのに、可哀想に……!」
倒れているのだろう子犬は、呼吸の為に小さく胸を上下させる以外、ぴくりとも動かない。
たぶん、それだけ弱っているんだろう。
私は上着を脱ぐと、子犬をそれで包んで抱え上げた。
「う~ん……領主館って、動物OKかな? 怒られるかなぁ……? ……いいや、とりあえずこの子が元気になるまで、内緒で飼おう。それで元気になったら実はって打ち明けて、動物は駄目だって言われたら謝って里親を探そう……!」
どうか、この子が元気になるまでバレませんように。
そう願いつつ領主館に帰った私は、誰にも見つからないようにそーっと自室へと戻って行った。