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領地へ

翌朝早く、私は馬車に乗り、ウォーリスの地へと出発した。

かの地へ辿り着くには、数日かかるらしい。

その間ずっと馬車に揺られるようだ。

数日間ずっと同じ体勢で、一人馬車の中。

窓の外を流れる景色を見て過ごせば、退屈もせず飽きることもたぶんないだろうけど、同じ体勢っていうのはキツくなる気がするなぁ……仕方ないけど。

……まあ、それはともかく……馬車の周りにいる彼らは、何なのかな?

私は一度思考を止め、窓の外に視線を走らせた。

窓の外、この馬車の周りには、立派な体躯の馬に跨がった男性達が四人、並走している。

全員重そうな鎧を纏い、腰には剣を刺している。

その格好から見て、たぶん騎士だろう。

馬車の周りを守るように並走する彼らは、普通に考えれば"領地に旅立つ新領主の男爵"の護衛だろう。

けれどお飾りの領主でしかない私としては、それはまるで"途中で投げ出し逃亡しない為の見張り"のような気がして仕方がない。

まあ、どっちだろうと別にいいけどね。

せっかく住む場所が貰えて、しかも大変そうな領主の仕事は補佐官さんに任せてやらなくていいって話なんだから、逃げ出すつもりなんて毛頭ないし。

領地に着くまで守って貰えるなら、ありがたいし。

しかも騎士さん達は四人ともそれぞれタイプの違うなかなかの美形で、目の保養だし。

景色を眺める事にもし飽きたら、領地に着くまでの退屈しのぎに、美形の騎士に守って貰えるお姫様ごっこや、騎士に連行される囚われのお姫様ごっこをこっそりやって楽しもうっと。

……あの王子様の言ったように、私は雑草のような娘、なのかもね。

雑草は、どこへでもたくましく生えてくるものだもん。

私もそれに倣って、どこででもたくましく生きて行くんだ。


★  ☆  ★  ☆  ★


数日後、ウォーリスへ着くと、馬車は高台にある大きな建物へと向かって進み、そこへ横付けする形で止まった。

騎士さんの手によって扉が開かれ、私は次いで差し出されたその手を少し照れながらも取り、馬車を降りていく。

この行為は、途中の休憩地点や宿泊の際など、馬車を降りる度に繰り返されてきたけれど、何度やっても慣れなくて、恥ずかしいし、照れてしまう。


「お待ち致しておりました、新領主様! ウォーリスまでの長旅、お疲れ様でございます!」

「ん?」


足が地面につくと同時に聞こえた声に顔を上げると、正面にある建物の扉の前に、短く整えた金茶の髪に深い蒼の瞳をした男性が立っていた。

ピシッとしたシワひとつない服をきっちり着こなしていて、"できる男"だという雰囲気を十二分(じゅうにぶん)に醸し出している。

……もしかしなくても、この人が補佐官さんかな?

なるほどね、確かに有能そうな感じ。

そんな事を考えながらその男性を眺めていると、次第に男性は笑顔のままだらだらと冷や汗をかき、顔色が青ざめていった。


「……あの……失礼ですが、確認させて戴いてもよろしいでしょうか? 貴女は、新領主様……なのですか?」

「……あ~、はい。一応そうです」


男性が恐る恐る尋ねる言葉に、私は頷いて肯定を返す。

……まあ、聞きたくなる気持ちはわかる。

私はとても領主なんかには見えないだろう。


「……あの……一応、というのは……?」


私の答えを聞くと男性はますます顔を青くさせ、今度は怖々とした様子で尋ねてきた。


「え、だって私、お飾りの領主をやってくれって言われてここに来ましたから。なら、一応でしょ?」

「は……っ!? お、お飾りの、領主……!?」

「はい。ここの領主補佐官さんはとても有能な人物だから、お飾りの領主でも大丈夫だって。仕事はその補佐官さんに任せて、何もしなくていいって言われました。その補佐官さんて貴方ですか? そういう訳ですから、頑張って下さい」

「!!!!」


私の返答を聞くと、男性はがくりと崩れ落ち四つん這いになった。

地面を見つめたまま、小さな声で『やっと、やっと新領主様が就任なさると思ったら……』とか、『私一人に押しつけるだなどと……』とかブツブツと嘆きの言葉を吐いている。

う~~~ん、なんだか可哀想になってきたけど、私には何にもできないしなぁ。

でもあの宰相さんは『問題はありません』って言い切ってたんだし……この補佐官さんは、ただ自分に自信がないだけの人って事なのかな?

ならなんとか励まして、やる気だして貰えばいいだけだよね?

ええと…………。


「……顔を上げて下さい、補佐官さん。貴方がとても有能な人物だって言ったのは、この国の宰相さんなんですよ? 宰相さんていったら、国の政務を取り仕切る人でしょう? そんな人に有能だって認められてるなんて、凄いじゃないですか! 宰相さんは問題はありませんって言い切ってたんです。きっと貴方ならできるんですよ! 領主代行! 自信持って、頑張って下さい!」

「は……? ……宰相様が……? ……私を、そんなふうに?」

「はい!」


私は四つん這いになった補佐官さんの前へ行きしゃがみこむと、思い浮かぶ"励ましの言葉"の中で一番有効そうなものを選んで口にした。

すると補佐官さんは怪訝な表情でゆっくりと顔を上げて私を見て、とても信じられないとでも言いたげな口調で言葉を返してきた。

私はそれに笑顔で頷いて、本当の事だと暗に告げる。


「………………。……少し、考えます……。……領主様、貴女のお部屋へはメイドが案内しますので、あとは彼女にお聞き下さい。では、失礼します……」


けれど補佐官さんはそんな私の顔を数秒じっと見つめた後、そう言ってノロノロと立ち上がり、フラフラ歩いて建物の中へ消えてしまった。

……う~ん、イマイチ効果、なかったかな?

でも私がお飾りの領主で、実際の仕事は彼がやる事はもう決定事項だろうし、あとは彼自身にふっ切って貰って、頑張って貰うしかないよね、うん。

私は自分の中でそう結論付けると、ここまで送ってくれた馬車の御者さんと騎士さん達にお礼を言い、控えていたメイドさんの後について、自分の部屋へと向かったのだった。

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