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性格

夕日が刺す寺に現れた気味の悪い女は、自らの名前を俺に迷惑電話をかけた張本人の名前、絵里と言った。

「絵里・・・だと・・・」

「はい。まぁ君たちの二つ先輩でむしろ絵里さんと呼んでもらいたいけど、結構です。絵里でどうぞ?」

「で、何で絵里がここに?」

「君がどちらを選ぶか知りたくてね。見てましたよ、君が山野さん目当てにいつも図書館に通っていたところを。悲しそうでしたね、それを見た君の友達、鹿島君は。それに恨みも抱いてましたね」

「・・・何を言いたい」

俺は強がっていた。鹿島のことだけで俺の精神は破壊されそうだ。

「言いたいことってのはつまり、鹿島君を裏切り、山野さんを裏切り、最終的にはその隣にいる好意を抱く佐伯さんも裏切るってこと」

「裏切る?どういうことだ」

「ふふふ・・・何を言ってるのか。今日も裏切ってるでしょう?山野さんとの約束を。所詮は薄い関係ですからね」

絵里はにたりと笑った。

「確か今日はある小説の発売日でそれに付き合うという日でしたね。まぁ佐伯さんの約束した日より一週間も前に約束していたことで、君の脳の片隅にもなかったでしょう?」

俺はそれを聞き、思い出した。今日は付き合うことになっていた。

「あなたは昨日きた電話でドタキャンしましたよね?それが本当に悪いことってのはわかりますよね?」

絵里はまたにたりと笑い、少し前に出る。

「あの心の弱い山野さんが、休日は平日のために体を休める山野さんがした約束を君は他の女子のために破った。ひどいですね、今ごろ山野さんは


部屋で死体になっているのでは?


俺はすぐに電話をかけた。何度か音を鳴らすと『おかけになった電話番号は・・・』と言い始める。

「・・・どうやら遅かったみたいですね」

「そんな・・・嘘だろ・・・」

俺はショックのあまり、電話を落とした。

「嘘じゃないですよ?今確認したじゃないですか」

絵里はまたにたりと笑い、前に出た。

「山野さんが死んで誰も恋のライバルはいませんよ、学校のアイドル、佐伯さん?・・・君は上杉君に好意を抱いているのだろう?二人も人を殺した上杉君をね。昔、友達を誘拐して殺した犯人から助けてくれたことでさらに"好き"という気持ちは増しただろうが、話を聞いていてガッカリしただろう?」

「・・・・・・」

佐伯は視線を下にして黙り込む。

「さぁここで少し過去の話を教えましょう。ここにいる上杉君、剣道が上手いというのは知ってましたか?それはもう部活に入っていないのが惜しいくらいで」

「その話は聞いてるけど・・・それと何が」

「あなたの友達、いや、元友達ですか。彼女は習い事で何をやってましたか?」

「確か、剣道だった・・・まさか」

「そうです。あなたの友達が通っていた道場には隣にいる上杉君がいて、二人は付き合ってたらしいですよ、まぁ中学生なりの恋でしたがね。上杉君は覚えてますよね?ある日を境に来なくなった六本木さんのことを」

俺はそれを聞かれ、急に震えが止まらなくなる。あのときのことを絵里が知っているなら・・・

「それ以上は言うな!」

おもわず、声が出てしまった。

それを聞き、絵里はさらに笑う。

「いえ、言います。そのとき、上杉君はここ言いました。どうせまたズル休みだろう、とね。まぁそんなこと言っても仕方ないですよね。どうせ遊びだったのだから」

絵里は鼻で笑うと、俺を指差した。

「あなたは変わりません。昔からの自分のことしか考えない自己中心的な性格は。そのせいで友達を傷つけ、友達を殺した」

・・・何も言い返せない。当たりすぎている。俺は何度も言われていたことがあるから

「性格ってのは、人を傷つける武器にもなる、また反対に人を守る武器にもなる。君の性格はどう扱ってもケガをするばかりの兵器だ。その心では誰も守れない、佐伯も、山野も、友達も、家族もな」

俺は絵里の威圧と言葉の強さに、膝から落ちた。

「俺は・・・」

そのとき、隣にいた佐伯が行きに登った階段に向かって歩き出す。

「お、おい。佐伯・・・さん?」

「ごめんね、上杉君。もう支えられない」

佐伯は鳥居の下で振り返った。

「君といても私は、幸せになれそうにないから」

佐伯の目からは涙が出ていた。

「ま、待ってくれ・・・」

佐伯は俺を見ると、目を押さえながら階段を下りていった。

「・・・残念だね、支えの佐伯さんも消えて」

「何でこんなことをするんだ・・・」

俺は涙をこらえ、立ち上がった。

「俺に何の恨みがあってこんなことをする!俺がお前に何をした!」

「何をしたかって。本当に忘れたんだね、私の名前を。荒木 絵理という名前を」

「荒木 絵理・・・!」

「思い出したか。もう遅いけどね」

荒木 絵里。その名は心の奥深くに刻み込まれていた。


昔、俺が車にひかれそうになったとき、助けてくれた人だ。自分の足を犠牲にして。


「君はあの剣道の大会終了日、車にひかれそうになった。そこを私は無意識に助けた。でもその恩は最後まで返さずに君は道場から消えた」

荒木はこれまでの顔とは真逆の憎しみまみれの顔で俺に言う。

「私はあの日から君にこの恨みをどう渡そうか考えていた。そんなとき、君はこの学校に入学してきた。そしていつも幸せそうな顔をしていた。それが私からしたら迷惑だった。それならあのとき助けなければ良かったって。もしもあのとき助けなければ、剣道を続けられたし、こんな不自由な生活を送ることはなかった。あの日から私の人生は変わった。だから君も道連れにしたかったの」

絵里は隠し持っていた短刀を懐から出すとその刃を俺に向けた。

絵里はそのとき涙を流していた。その言葉や涙は俺に全ての恨みや妬みを放つようだった。

俺は何も反論できなかった。あの後、俺は何も言えなかった。感謝の言葉も謝罪の言葉も。怖かったんだ、あのときの


彼女の顔が・・・


俺はそのまま、何も言わずその刃に込められた絵里の気持ちを受け止めた。


所詮、人間は罪を重ねる生き物だ。その性格や神経や固定概念により、罪を重ねる。生涯、一つも罪を持たずに生きたものはいないだろう。


そして俺は罪を死をもって償うと決めた。



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