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乗り越えた先

あれから一週間。まだ鹿島が死んだことによる変化は治っていない。今もあの空席にいつか鹿島が帰ってくるだろうと思っている。あいつはいつもそうだ。いなくなったと思ったら平然とした顔で次の日、俺の前に現れるような人間だ。

佐伯が不審者に追われているのを助けて以来、何か恩を返そうとしているのは見えているが、いつもの佐伯とはまるで別人のように何かそわそわしている。

俺は鹿島の時と同じ失敗を二度としないように、少しの間、考えた。だが何も出ない。


そんなことを繰り返している内に彼は新しい『罪』を背負ってしまう。


休日。俺は学期末試験前なので佐伯の家に行き、勉強を教えてもらうことにした。教えてもらうと言っても俺の苦手な数学を補うためにだ。

「あのー、佐伯さん?」

俺は思いきって聞くことにした。

「な、何?」

上の空だったのかボーッとしていたのか、少し驚き気味の表情をしている。

成績優秀の佐伯に勉強を教わっているのに、その先生が上の空で生徒を教えていないのではここにきた意味がない。

「ここはどうやって解くん・・・だ?」

・・・やはり集中していない。解き方を聞いてから数十秒経ったところで佐伯は反応した。

「ふぇ?あ、ここね。ここは・・・」

話始めるといつも通りの佐伯が入るがそれまでは全くもって勉強をせず、窓から見える景色をずっと見ている。余裕なのか、集中してないのか。

「これで答えになるの。わかった?」

「あぁ、次はここを」

そう言って俺は次の難関を見せた。



私の想い、気付いてるのかな?

私は今日、上杉君に勉強を教えている。私と上杉君の成績は言ってしまうと大差できている。特に今教えている数学は上杉の苦手分野だ。上杉は他の教科だと私と僅差だが、数学だけは赤点ギリギリだ。

話は変わるけど、私はあの一件以来、上杉君に好意を抱いている。今朝も上杉君のために普段着ているのボテボテのパジャマをそれなりの服装に着替え、あちらこちらに散らかっていたファッション雑誌や少女漫画を本棚に入れ、床の雑巾がけまで全て一人でこなした。

そして今、上杉君が来て、私の目の前で勉強をしている。顔を見れない。たまにこちらを見るので少し恥ずかしくなってくる。上杉君が来るギリギリまで鏡を見て、平日は絶対しない化粧や香水をして、髪も整えたんだ。大丈夫、大丈夫、今の私は・・・

「あのー、佐伯さん?」

「な、何?」

「ここの解き方だけど」

私は声をかけられて少し驚いた。ちょっと考えすぎてたのかな。

でも、こうやって上杉君が私を頼りにしてくれると思うと嬉しい。

「ふぇ?あ、ここね。ここは・・・」

今少しの間、集中してなかった。今は上杉君に数学を教えているんだ。だからそれに集中しなきゃ!

そう心に言い聞かせ、それから何時間か勉強を教えていた。


気がつくと、窓の外は暗くなり近くの街路灯は光っていた。

「あれ?もうこんな時間なの?」

「さすがにいすぎたかな。すまないな、休日の時間を使っちゃって」

「いいよ。その代わり、テスト終わったら」

私はそのあとの言葉が出せなかった。

「テストが終わったら・・・何だ?」

「いや、何でもない」

「あ、じゃあテストが終わって数学の点数が良かったら、何か奢るよ。もちろん佐伯の好きなシュークリームでもいいよ」

「マジ!?」

「あぁ、約束だ。勉強を教えてもらったお礼としてな。それじゃあ、今日はありがとう。また明日、学校で」

「うん!じゃあね」

私は上杉君が見えなくなるまで、まるで無邪気な子供のように手を振っていた。


学期末テストの点数は二人とも良く、特に今回は難しいと先生が強く言った数学のテストも平均をはるかに越えた点数だった。

そして俺は佐伯に有名な店のシュークリームを奢った。それなりの金額だが、痛くない。テストで赤点をとるよりはましだ。

「どうだ?味は」

佐伯は美味しさのあまり、ベンチから立ち上がって旨いと言った。俺も意外とグルメな佐伯の舌を旨いと言わせたためホッとした。

「美味しいよ!本当に、ありがとう。上杉君!」

「赤点回避できたし、それを考えればこれくらいの金額など大丈夫だ」

やはり心にダメージはきてないが財布にはすごいダメージだった。クリティカルヒット、効果はばつぐんだ、会心の一撃と連続で続くくらいの痛さだ。

俺は心と財布に「赤点をとらないよりはましだ」と何度も言い聞かせた。

俺は少し周りを見た。気になったことが一つ。

俺たちははたから見ると、恋人同士やカップルと見えているのだろうか。

休日に店前の公園で、シュークリームを食べる女子とそれを見て感想を聞く男子。どうなのだろうか?少し疑問に思う。

「どうしたの?上杉君」

「え?あ、何?どうした?」

「・・・やっぱりまだ」

「いや、何でもない。ちょっと考え事してたたげだ」

「でさ、このあと用事ある?できたらちょっと寄ってほしいところがあるんだけど。大丈夫かな?」

「大丈夫だよ、予定もないし」

「少し遠いんだけどさ」


俺らはバスに乗り、ある山に着いた。

町から少し離れたところにある山だ。

「着いた。やっぱり気持ちいいなー」

「ここがその目的地か?」

辺りには草と木に囲まれ、道の端にバス停がポツンと立っている場所に着いた俺は佐伯に着いていった。

「こんな山のなかに何があるんだ?」

「もう少し歩けばそこに着くから。ついてきて」

俺は佐伯に言われた通り、佐伯の後についていった。そこには石造りの階段が上の方まで続いていた。少し上の方に赤い何かが見える・・・鳥居か?

「なんとなくここだけでどこに行きたいかわかったでしょ?」

「なんとなくな」

階段を登った先には小さな寺があった。寺へと続く道は誰もいないのに整備されていた。

「昔、ここで友達とよく遊んでたんだ。その友達は今、この世にはいないんだけどね。ここに来る度思うんだ。またいつか平気な顔して帰ってくるんじゃないかって」

「・・・俺も佐伯がその友達を思うように未だに鹿島があの教室に帰ってきて、また二人で話せるんじゃないかなって思うんだ。薄々、クラスのみんなも鹿島が死んだってことに気付き始めてるのは知っている。でも、俺だけは鹿島は死んだという現実を受け入れられないんだ」

「わかるよ・・・私も」

佐伯は寺の前まで行くと何度が手を叩く。

「今もこうして願ってる。帰ってきてって」

俺もそれに続いて、手を叩いた。

「・・・やっぱり帰ってきてって?」

「いや、これ以上あいつによる被害がないようにってな。ことの発端はあいつだ。あいつが・・・」

俺は絵里が鹿島を殺したと考えられない。鹿島が死んだ理由はあいつ自身が語った。上杉が悪かったと。

でも、


「でも、何ですか?上杉君・・・」


後ろから俺の名前を呼ぶ声がした。そこには気味の悪い女がいた。

季節に合わないブレザーを着て、顔には何も書かれていない、穴一つ開いていない面を付けている。

「お前・・・誰だ?」

面を付けた女は鼻で笑うと、面をとった。


「君に迷惑電話をかけた本人、絵里です」






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