被害者同士の助け合い
あれから一週間が経ち、上杉君は元気を取り戻したみたいだ。私はあれから毎日、昼休みは彼と昼食を食べている。
彼を悲しみから助け出さないと、と思ってしまう。私も体験したことだから・・・
朝のホームルーム後、友達の前原が話しかけてきた。
「最近、よくあいつと昼休みいるよね?どうしたん?たまには一緒に食べようよ」
「今はちょっとね・・・。ほら最近上杉君、悲しい顔してるじゃん。だから・・・ね?」
「ね?って言われても・・・。そう言えば最近、鹿島学校来てないよね、どうしたんだろう。佐伯知ってる?」
知っているけど言えない。今、言ったら上杉君の考え通り、パニックになってしまうだろう。
「私も知らない。どうしたんだろうね」
私は軽く受け流し、その場から逃げた。
放課後、私は山野先輩に学校近くの図書館に来るよう言われた。入り口から現れた 山野先輩は前見たときとは別人のように変わっていた。変わってないことと言えば、本を抱えていることくらいだろうか。
「どうかしましたか?また図書室のことで」
「いや、違うわ。上杉君についてよ」
「上杉君が、どうがしました?」
山野先輩も上杉君のことを心配しているのだろうかなんて考えながら話を聞いていた。
どうやら放課後に図書室でよく話すのだが、最近は元気がなく、いつも窓からの景色を見て、ボーッとしているらしい。
それに上杉君にかかってきた電話について知っていたら情報を欲しいということだ。
「私もあまりは知らないのですが、最近上杉君の元気がないのは大親友の鹿島君が学校に来ないからみたいです。電話やメールをしても返事が無いらしくどうしたのかなって」
「・・・そうなの、なら仕方ないわね」
山野先輩は一度口を閉じると、また話を切り出してきた。
「佐伯さん。知らないってのは嘘でしょ?」
「え?」
「上杉君の元気がない理由、それは彼の大親友の鹿島君が死んだからでしょう?」
「!・・・聞いたんですか?」
私は軽く驚き、冷静に対処する。
「誰から?私はいつも通り、図書室から帰っているときにそれを見ただけ。別に上杉君から聞いて知っていたとかではないわ」
「あの場にいたんですか?」
私は少し強い口調になる。
「何を警察の取り調べっぽく。そんな熱くならないで。私は本当のことしか言ってないから。それにここは図書館、いつもの学校じゃないわ」
そう言い、山野先輩は席を離れた。 数分後、山野先輩は分厚い小説を持ってきた。
「ここに呼んだのはこの小説が読みたかったからってのもあるし、他人に聞かれてはいけない話をするからだったの。まぁ一番目を優先してここに呼んだんだけどね」
山野先輩は分厚い小説を開くと、小さく笑った。
「私はいつもあなたみたいな子になりたいと思ってたの。誰からも愛され、みんなの意見に耳を傾け解決の手助けをしてくれる。そんなアニメのヒーロー的存在になりたかったわ。まぁ性別的にはヒロインかな」
「私がヒロインですか?」
「えぇ。最高の、ね」
山野先輩はそれ以降、読書に集中し始めたのかこちらに目線をそらさなくなった。
私は椅子から立ち、山野先輩に一礼すると図書館を出た。
「自分に誇りを持ちなさい。佐伯 麗さん」
図書館から出ると、知らない男性が夕方のオレンジ色の空を見て独り言を呟いていた。
男性はTシャツに長めのジーンズと青いサンダルをはいていた。頭にはつばの広い帽子をかぶっている。
「何で、空は青いんだろう。何で、空はオレンジ色なんだろう。何で、空は黒いんだろう。ねぇなんでかなぁ?」
色を言う度にどんどん声が大きくなり、最後は私の方を向き話しかけてきた。
「ねぇ、君は何色が好き?」
こちらを見るギョロリとした目は、まるで私を吸い込みそうだ。
「オレンジ・・・ですかね?」
思わず答えてしまう。
男性はにこりと笑うとロボットのようなカクカクした動きをしてこちらに体ごと向ける。
「そうか。・・・てことは君はその色と反対で何か・・・マイナスなことがあったね?例えば、最近ここらで死んだ人が君の友達だとか」
「!」
体が震え、鳥肌が立った。
「自己紹介をしてなかったね。僕はシシ、数字の四に子供の子で四子ね。よろしく」
関わってはいけない人だ。そう思い逃げようとしても足が動かない。それ以上に体が動かない。
私はこの人の顔をよく見て思い出した。
この人は中学校のころ、私の友達を殺した犯人だと
※
中学校の頃、私はいつも小学校からの大親友、六本木と帰っていた。六本木とは途中まで帰り道が同じで、あるところまで来るとそこで別れていた。そこは木々が生い茂る山道で夕暮れになると、木が光を遮り暗くしてしまう。そのため、女子一人で歩かせるには少し危ない道だった。
そしてある夕暮れの日に事件は起きた。
別れ道手前の車の停まらないような場所に車が止まっていた。そこに乗っていたのが四子だった。私たちはそれに警戒しながら、いつものところで別れた。その日ばかりは六本木の明るい表情は少し不安げな表情に変わっていた。
そして別れたとほぼ同時に四子の運転する車は山道に消えていった。私は六本木を通りすぎたのを見て、少し安心した。だがそれが六本木にとって命取りだった。
次の日、六本木は学校に来なかった。六本木の親の話によると帰ってないらしく、帰りに行きそうな場所を探したがいなかったと話していた。私のところにも六本木の親が来たらしいが私はそのとき寝てしまい何も言えなかった。
そして数日後、その山道茂みから私と同じ中学校の制服を着た少女の遺体と血だらけのかばんが見つかった。遺体に付着した液体から犯人は特定できたが、最終的に警察は犯人を捕まえることはできなかった。
今、目の前に犯人がいるというのはわかっている。だが、体が動かない。叫ぼうにも口が閉じたまま、動きそうにない。
「君・・・どこかであったことあるよね?」
四子は私の顔を見て何かを思い出した顔をした。
「あ、あのときの小娘さんか。かわいくなって」
四子は私に近寄ると立ったまま動けない私に顔を近づけてきた。
横から匂う煙草と酒の混ざった気持ち悪い臭いは私を更に凍りつかせる。
「こんなにかわいくなるなんて、あのときこっちを捕まえとけばよかった」
四子は乾いた唇を舐める。
頭のなかで助けて、助けて、助けて、と何度も言った。
「彼女、嫌がってるじゃないですか!」
聞いたことのある声。私はその方向を向いた。
そこには片手に携帯を持った上杉君がいた。
「彼女?あぁ、君の彼氏かい?」
四子は上杉の方を向くと、さっきまでギョロリとしていた目を尖らせる。
「おい、兄ちゃんよぉ」
上杉君は四子を無視して私に近づき、私の手を握った。
「走って、佐伯さん!」
そして手を引っ張り、走った。
「あ!てめぇ、待て!」
四子はすぐに追いかける。
私たちはすぐに学校に戻り、無事に帰ることができた。
「あの人は何だったんだ?」
上杉君は私の顔を見て、それ以上聞かなかった。
私の目からはなぜか涙が流れていた。