彼の願った娘
虚ろな瞳の少女が、椅子に座っている。
彼女の前には男が一人。
少女の瞳は動くことなく、焦点を結ぶこともない。
男は一つ、溜息をついた。
「やはり、駄目か」
少女の後ろに回ってスイッチを切ると、少女はすぐに瞳を閉じた。
今にも動き出しそうなほどに人に近いソレは、機械仕掛けの人形。
彼女を命あるもののように動かしたい。それが、男の望みだった。
未だ、上手くいったことはない。
「もう、諦めたらどうですか」
「…」
暗く、決して広いとは言えない室内に突如響く機械音声。
彼女もまた、彼によって創られた存在であり、人工知能だった。
「死者を人形のかたちに蘇らせることなど、諦めるべきでしょう」
「…確かに、そうなのかもしれないが…」
ぐっと唇を噛み締める男。
「…この研究がなければ、お前も生まれなかったんだぞ?」
「ええ、分かっています。
でも、きついことを言うようですがもし出来たとしても―」
「それは私の娘ではない、別の意識を持った存在だ。
分かってはいるんだ…」
諦めたほうが、やはりいいのだろうと男は思う。
コレに意識を与えることが出来たところで、娘と同じ姿かたちの別人が出来上がるだけ。
自分が改めて絶望するだけなのだ。
諦めたほうが、いいのだろうが―
数年の時が過ぎた。
「教授、ここに置いておきますね」
「ああ、ありがとう」
ずっと生なき“モノ”であったはずの少女は、まるで生きているかのように思える、くるくるとよく働く女性になっていた。
姿かたちも、数年前とは違い綺麗な女性となっている。
その身体に存在する意識は、人工知能の女性。
男は研究の行く先を変え、身体なしで存在していた彼女に、機械人形の身体を与えたのだ。
あの虚ろな瞳の少女はもういない。
“教授の娘”ももういない。
今そこに在るのは、助手として幸せに“生きる”ことが出来るようになった機械人形と、彼女を創り、身体を与えた男の姿だった。