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1学期末勉強会

 

前フリ回です。

 改めて報告すると、あの体育祭の後にクラスの子達に相当な勢いで囲まれたのだが、幸いな事に私も友美も妙な因縁つけられたり、絡まれたりハブられたりといった事は無かった。

 別に先輩たちや白樹君が何かしたわけじゃなくて、単に空条の名前が大きすぎるだけなのだ。

 彼等絡みで何かあったらすぐ自分の親の会社に影響がある、もしくはその可能性がある、と考えればそうそう迂闊な事は出来ないだろう。


 中には骨太なお嬢さん方もいない訳じゃなかったけど、

「只の同好会の先輩後輩というだけです。例えば私に何かあった場合、先輩達がどんな対応をとるか私には分かりません」

 と言うと納得したかはともかく、誰もが去って行った。

 木森君辺りには「央川凄い」って言われたけど、別にホントの事だし。


 とまあ、酷い事にはならなかったけど、その代り根掘り葉掘り聞かれた。

 さすがにプライベート事情は(私の場合は、本来知っている筈の無い事まで)知っていても話していない。

 その代わり、個人の隠していない趣味、嗜好については情報の一部を開示させて頂いた。

 誰だって我が身が可愛い。


 そして学園の、特に私のクラスの女ハンターや女豹さん達が、情報をきっちり聞き出していった結果、ガーデンティーパーティーの男性メンバーに対する差し入れが急増した。

 元々そういうのを好まない大寺林先生や白樹君は、すぐに受け取り拒否をした様だった。

 椿先輩も途中でギブアップ宣言。

 観月先輩と空条先輩は受け取り拒否こそしなかったものの、下校時の荷物が大変な事になったらしく、後々軽く注意された。

 こちらとしても身内を売った事に変わりは無いので、素直に謝っておいた。

 観月先輩は「女の子同士だと色々あるよね」って慮ってくれたりしたんだけど。

 今回一番恩恵にあずかったのは東雲君だろう。

 二週間近く、お茶会の度にほくほく顔で貰ったお菓子類の自慢をしていた位だから。


 それから、友美関係で少し進展があったようだ。

 なんと、友美の初デート。

 とはいっても遊びに行った訳じゃなくて、空条先輩の付き人扱い、と言った方が正しいか。

 いつものお茶会で、椿先輩と観月先輩が私用でどうしても一緒に出かけられないという話題が出た。

 最初は白樹君辺りに代打を打診しようかって話だったんだけど、それを聞いて友美が暇だと推挙したのは、実は私だ。


 本来なら椿先輩が空条先輩と一緒に行くのは、警護目的っていうのもあるんだけど、今回は専門の人にお願いすればいい、それに彼女役に立ちますよ、と言ったら観月先輩も後押ししてくれた。

 まあこれで次のデートへ繋げ易くなるだろう。ちっとは、やる気出せヒロイン様。

 この時期まだ1回もデートしていないっていうのは、元プレイヤーからすればちょっと焦るんだけど、うーん、現実なんてそんなもんかなあ?

 入学直後から遠慮なく週一で、デートぶっ込んでくるゲーム主人公の方がどうかして、げふんげふん。


 学校帰りに同学年の友達(白樹君、東雲君、木森君含む)とゲーセンだ、カラオケだ、っていうのは何度かあるんだけど。

 この前もあったし。てか木森君イベント起きたし。


 でも彼等に声かけろ、って私に毎回言うの止めてくれないかなあ。

 せめて自分達でやって欲しい。

 気持ちは分かるけど、合コンじゃないんだからさ。



 そんな事があって7月に入り、私の周りは試験と夏休みの話題で盛り上がるようになった。

 試験まで後2週間きったばかりのある日、恒例のお茶会で自分、ちょっとぶちかましまして。


 「大寺林先生、勉強が、したいです」


 周りには美しく咲き誇る花々、手に持つのは淹れたてのストレートの紅茶、目の前には美味しそうなケーキ、というこの世の春を謳歌しながら、私が考えていたのは試験の事だった。


 大寺林先生はいたく感激して下さって(一年のこいつはこんな事を言っているのにお前らときたら的な)、めでたく臨時勉強会開催の運びとなりました。


 それなりに揉めた結果、参加は問題児2人(出来るのにやらない白樹君と、そもそも勉強しない東雲君)を含む1年のみ。観月先輩と空条先輩の二人は、同好会の趣旨に反すると参加拒否。

 椿先輩は、そんな2人の先輩達に付き合う形になった。

 大寺林先生は監督参加。と言う訳で科目は古文オンリーで。

 時間は放課後と言う事もあり30分で、終わったらお茶会に移行する、という条件。


「櫻ちゃんてさー、勉強に取り憑かれてるよねー」

 東雲君が盛大に溜息をついた。

 あー、5分持たなかったな。

「別に取り憑かれてるわけじゃ。試験控えてるのに、のんびりお茶してるのが落ち着かなかっただけだよ」

 東雲君に、聞き捨てならない事を言われた気がしたので反論しておく。

「央川って、授業の時だけ眼鏡かけてるけど、やっぱそれって勉強のし過ぎ?」

「うーん、どちらかと言うとインドア趣味の賜物って感じかな」

 ゲームとか漫画とかラノベとかねー。


「櫻ちゃん一旦集中すると凄いんだよ。この前一緒に勉強した時、音楽かけながらやってたんだけど、突然無表情で「ひゃほう」とか言い出すから、わたし吃驚しちゃった」

「ちょっ!?」

 晒された!?

「ぶはっ、何それー」

 うけた。

「どんな曲聞いてんの」

 観月先輩にまで笑われた。

「…どんなって、好きな曲ですよ」

 現在ぶすくれた声しか出ません。ちきしょう。

「この前カラオケ行った時は、皆知ってる有名(メジャー)な曲中心だったよね?」

 この愉快犯わざとか。

 先生のいる前でカラオケの話とかすんなよ。

 あと、カラオケは一般(カタギの)人が居るから気を使ったの。


「家にいる時は結構色々。ネットで聞いた曲とか」

「へー、マニアックなんだ」

 ぐっ。白樹君に言われると結構グサッとくるなあ。

「勉強してる時は結構ロックとか、激しい曲聞いたりしてるよ。コーラスの凄いの聞いたりとか優しい歌も聞くけど。後、わたし苦手なのに、かまわず怖い歌かけてくるの、ちょっと困るんだよね」

 だから晒すなって。


「怖い歌って―――」

 東雲君が挙げたのは最近ネットで評判の怖い歌。怖いっていうか殺伐としてる系。

「ああ、知ってる知ってる。あれって―――」


 しばしその曲の話で盛り上がった後、2人してカラオケモードに入り、速やかに3先輩に止められました。

 白樹君と先生が2人して、

「愉快が2人」

「タチ悪ぃ」

 とか言っているのが聞こえたけど、失礼な。あんな愉快犯と一緒にすんなし!プンスコ!



 30分はやっぱりあっという間だった。

 それから少し準備して、先輩方も混ざったいつものお茶会になった。


「2人は夏休みどこか行くの?」

 観月先輩が聞いてきた。

「いえ、今の所特に予定も無くて」

 友美がこっちをちらっと見てから答えた。なんだよ?

「篠原は暇か。…ふん、ちょうど良い。お前に仕事を与えてやろう」

 尊大な殿キター。

 コレは確定じゃないですかね、夏休みのイベント。

「お前、アルバイトの経験は――、年齢的に無いか。まあいい、とにかく植物園の近くに「アリス」という紅茶専門店がある。そこの喫茶ブースで接客をやれ」

 決定事項ですか、殿。

「え、ええっ!?」

 おろおろする友美。

「ああ、あそこの喫茶店、空条手を出すの?」

「俺個人で、だ。いいか、俺の顔を汚すような真似はするなよ」

「明日葉、脅迫になっている」

 先輩方は何の話か分かっている様だ。


「おい、お前らだけ分かってても、本人が分かっていないんじゃどうしようもないだろう。それに、拒否権くらい与えてやれ」

 先生がフォローに入るが、

「拒否?なんだ、用も無いのに断るつもりか?」

「い、いえッ、めっそうも無いっですっ!!」


 これは、夏休みに起こるのは空条先輩イベントで決定だな。

 好感度の差異は詳しく分からないし、空条先輩がこういう人だから他の人のイベントが潰された可能性もあるけど、後の事は友美の気持ちひとつだと思う。

 まあ、まだまだきっちり見守って行く所存ですがね!


「央川も暇なら手伝え」

「日にちによりますね」

 おい、本人の季節イベント(個別)だろ。何故無関係の私を誘う。

「用があるのか?」

 そうなんですよ椿先輩。

「模試と夏季講習があるので」

「いつなら予定あいてる?クラスの連中何人かで、夏休みどっか行こうかって話あるんだけど」

 白樹君が話に混ざって来た。


 え、そのイベント友美のだろ!?私に振るの!?

 あー、あれか、一応声をかけてみましたよ、って事か。


「いいなー、何?どっか行くの?」

「まだ、決まったわけじゃないけどな」

 ほら、すぐ離れた。

「僕も一緒に行って良い?」

「東雲が?いいぜ、他の連中に言っておくよ。央川はどうする?」

 戻ったし。だが済まない、私はお断りだ。

「この夏は“模試模試講習模試講習”の予定で、お盆の1週間だけ実家に帰るから、悪いけど行けないかなあ」

 あれ、沈黙が落ちた。


「央川は勉強の大切さを良く知っているな。でも偶には高校生らしく、皆と遊ぶことも必要だと先生思うぞ」

「やっぱり櫻ちゃんは取り憑かれてるよ」

 そ、そんなに心配そうに言われると、なんかショックなんだけど!

 そんな酷いかなあ?それに、いわゆる上位進学クラスとかある所だと、きっとこんなもんじゃないぞ?


「なあ、どっか1日でも良いから開かないか?泊まりで行くってわけじゃないんだし」

「うーん、お盆は家族が帰ってくるからダメだけど、そうだな、8月の頭あたりなら大丈夫かな?」

 そう言われてしまうと断る理由が無い…。

「行っておいでよ櫻ちゃん」

 うが、友美に満面の笑顔で言われてしまった。むう、これは行くしかあるまい。

「うんじゃあ白樹君、後で大丈夫な日教えるんでよろしくお願いします」

「オッケー、こちらこそよろしくな」

「やったね!」

 はあ、おかしな展開になったな。


「よかったね、櫻ちゃん」

「真面目なのは良いが、たまには息抜きも必要だ」

「バランスを考えなければいずれ自滅するぞ」

 私の事をどんな目で見てるんですか、先輩方。


「言うほどキツキつにスケジュール組んでる訳じゃないですよ、っていうか、東雲君や白樹君とは何度か一緒に遊びに行った事があるでしょう」

「そういえばそうだった」

「カラオケとかボウリングとか行ったよね、さっきその話ししたばかりだった、アハハ」

 アハハって。まったく。

「櫻ちゃん、学校帰りたまにゲームセンター寄るよね」

「しっ、先生の前でそんなこと言っちゃいけません!」

 友美がしまったと口に手を当てた。遅いよ。後可愛いからやめなさい。


「まあ、ほどほどにな」

 さっきの件があるからか、先生もきつく言わなかった。

 だから別に私、真面目じゃないですよ。


「ゲームセンターとか行くんだ?」

 そうか、先輩方は分からないよね。

「長居はしませんけどね。行ったらワンコインだけ、って決めてるんです」

「一緒に帰るんだから、たまには連れてってくれても良いのに」

 友美は1人だとさすがに気が引けるようで、皆と寄った時にしか行かない。

 ゲームもキャッチャーとかくらいしかやらない。

 プレイヤー的にはミニゲームより本編重視といったところか。

 でもごめんね、友美。

「あそこはお気にのイケメンがいるから、却下」


「えーっ!?」

 あれ、ほぼ全員に驚かれた。

「そんなにかっこいいのー?」

「通うくらいにはね」

 意外、といった感じで聞いてきた東雲君に返すと、また驚かれた。


 ゲーセンのイケメンことコージさんは、元のゲームでも“落とせないバグ”と言われる位人気のあったサブキャラだ。

 もちろん私も、攻略する度に数少ない彼のイベントを起こす位には好きだった。

 先ほど東雲君に言った通り、私がゲーセンに通っているのはサブキャライベントの為の好感度稼ぎ。実際に稼げてるかどうかは別として。


 でも、とここである考えがよぎった。

 ここは「現実」。そして私はゲームの主人公じゃない。

 ということは、

「フラグ探してみようかな」

 小さくつぶやく。

 本来攻略できない設定のサブキャラクターも、もしかしたら攻略できるかも?

 …少し頑張ってみるか。


 お茶がぬるくなってきたので淹れ替えようと、時間つぶしの単語帳を持って給湯ブースへ向かったら、

「おい、そこでまで単語帳開くの止めろ」

「央川ホント、必死だねえ」

 空条先輩と白樹君に言われてしまった。


 そりゃあ必死にもなるさ。

 実際にするかどうかはともかく、多分しないだろうけど、君達も就職試験で心ぽっきり折られる経験してみれば良い。

 でもそんな事言ったら、どこぞの愉快犯から

「そんな経験あるのー?ねえそれってどんな気持ち?」

 とか突っ込まれるから言わないけどね!

 

 

 



主人公は先輩達の事について、向こうが何をするのかは分からないし、もしかしたら何もしないかもしれない。

自分には分からないし、今は別に分かりたいとも思ってない。それ位浅い付き合いだと思ってる。


と言う意味の事を骨太お嬢さん達に言ったんです。

言葉足りてないよ主人公。


彼女の特技は、冷静に指摘と言う名の脅迫(本人無自覚)と、内心の駄目さを悟らせない鉄壁の顔面硬直。

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