afterward
「ところで気になったらムカついて来たんだけど、櫻の好きだった人って誰だよ」
「え?」
あの後、いつまでたっても放そうとしない白樹君にいい加減我慢の限界に、てか、手があちこち行ってる気がする、というか行ってるよね!?
「それ以上すると当分口きかない」とにっこり笑顔付きで全力で止めさせた後、ホワイトデーと言う事で、綺麗にラッピングされた某有名ブランドのクッキーを頂いて(だから誰から聞いたの、それ私が好きだって事。また友美情報か?)から、一緒に帰る事になった。
強いて言うなら手の繋ぎ方が変わった位で(いわゆる恋人手繋ぎとかいうやつ。ホント遠慮も容赦もないよね。こちとら恋愛初心者だぞゴルァ)、取り立てて目新しさは無いものの、地味にカレカノ(しかも私にとっては初めてだ。うーん、ハツカレかあ…)になって初めて一緒に下校しているんだなあ、と感慨にふけっていたと言うのに。
少し暖かいせいもあって、直接繋いだ手のひらは、いつの間にか僅かに湿っている様に感じた。
どっちの汗かはもう分からない。きっとお互いだろうと思う。…と言うか思いたい。
私ばっかり緊張するのは、何かずるい。
年頃の男の子の少しごつごつした指が、私の指に絡まって、擦れる。
……手のひら、たまに撫でてるでしょ?わざとか?
こっそり様子をうかがっても、白樹君の顔にはその事について気にしてる様子は無くて、……どう判断して良いか分からん。
まあいいか。
どう反応して良いのかも分からなかったので、白樹君を見習ってスルーする事にした。
……にしても、それ、今蒸し返すんだ。随分ねちこく聞いて来るなあ。
うーん、いきなり現実に戻された気分。
まあ、いつまでもふわふわした気分のままよりは良いか。
つか、許可した覚えもないのにいきなり名前で呼ぶんかい。
いや、もういいけど……。
うん、最近諦め早くなったと言うか、随分と物分かり良くなったね、自分。
「先輩じゃ無いんだろ?……ずっと昔って、…まさか木森!?」
「違う違う」
思わず空いている方の手を振って否定する。
どっからそんな発想が出てくる。
「じゃあ……やっぱ年上の人?」
何を持ってそう言うのかが分からん。だから、どこから出て来たんだって、その発想。
ふう、と小さく息を吐いた。
「その人とは直接会ったこと無いんだ。それに、きっともう2度と会えない」
自分でも思ったより寂しそうな声が出た。
うーん、何だかんだ言って、ゲームの白樹君にも思い入れあったからなー。
いまだに立ち絵のイメージがすぐ思い出せるって、我ながら相当だろ?
……最近は、これはあの立ち絵の表情、って見ればすぐに分かっても、さすがに目の前に本人がいない状況で、その表情を思い浮かべろって言われても(そんな機会は無いが)難しくなって来た。
このゲームを最後にプレイしてから何年経つか覚えていないが、少なくとも生まれてから16年。
この記憶も良く保った方だろう。
「どうやって告白されたんだ?メール?まさか海外の人?もしかして亡くなったの?」
遠くを見るような目つきになった私を心配してくれたのか、矢継ぎ早に白樹君が質問して来る。
いつの間にか結構深刻な話になっちゃったなあ。
こんなにあの時の話、後引くなんて思わなかった。
まあ、付き合う事になったんだし、過去に好きな人がいたとなれば、普通は気になる物なんだろう。
私の場合は、事前に知っていたから気にならないだけで。
……そう言えばあの白樹君のモトカノさん、今どうしてるんだろうね?
それは兎も角、これが大寺林先生みたいに未練アリアリだったりしたら、また違う判断なり対応したりするんだろう。そもそもOK自体しないか。
とりま今考えてもしょうがない事なので、この思考はここでカット。
えーと、『昔告白された事のある、好きだった人』の話、ねえ。
仕方なし、あの時よりはまともに説明できると思うし、正直に話すか。
「……白樹君、私の趣味って何だ?」
わざと表情を消し、真面目な顔を作って言った。
しばし2人の間に沈黙が落ちる。
長考の末、何とも言えない表情になった(おや、新鮮)白樹君が、呟いたのは、
「…………まさか、2次元?」
「いえー」
表情は変えず、サムズアップを付けて返事する。
あ、くずおれた。
何か紛らわしいとか何とかぶつぶつ言いだした。おお、呪われとる。
しばらくの間その姿勢でいた白樹君は、突然がばっと立ち上がり、
「2次元禁止!」
「お断りします?」
「そこは断るなよ!しかも何で疑問形!?せめて2次元と3次元の混同を止めろっての!」
びしっと指差しまでされたよ。
「えー?してないよ?」
「えー、じゃない!絶対してるだろ!?」
失礼な。
2次と3次は別だって言うのは、いつもならちゃんと理解しているんだよ?
趣味的な意味ならなおさら。
そもそも、この件についてはこの世界の存在自体が悪いと思うんだよなー。
混同したくなくても、こう、絶妙な配分で混ざり合ってるんだもん。
むしろゲームプレイヤーであればある程引っかかるような気が……。
……この調子じゃ、それはそれとして、実は婿が別(ゲー)にいます、なんて言わない方が良い、んだろうな~…。
そこまで考えてそっと視線をそらした私に、白樹君の本気じゃないけど少し怒った様な、何処か焦った様な声が降って来た。
「こら!人の話聞けよ!!」
これにて終幕!
 




