ホワイトデーの告白~side主人公~
手、と言うか腕を引っ張られて屋上を後にする。
「ちょ、痛いんだけど!?」
って、文句も腕もスルー!?
その無言が怖い!一体何がしたいんだよ!?
ちらりと見えたその横顔は、何か思い詰めた様な、すっごく怖い顔で…。
何!?何!?何か“また”やらかしたの自分!?
「にょあっ!?」
階段を下りて、手近な空き教室の中に放り込まれる様に入れられて、これまた手近な机に背中を押し付けられる。
「ったた」
ちょっと背中打ったじゃないか、と視線を上げると、
目の前には、何だか怒った様な白樹君が……。
って、近い近い近い近い近い近いーーー!!
ちょ、離れてえええええ!!!
顔、もうちょっとでくっつく!くっつくから!マジヤバいって!
「好きな人って、先輩?」
声ひっく!?
「へ!?」
「前に言ってたろ、好きな人がいるって」
え?そんな話したっけ?
「……嘘?」
「あー、あー!思い出した、あれね、あれ!」
なんかヤバげな雰囲気に、脳味噌がフル回転した。
あのなんちゃって告白の件ね、あれね、……いや、あの、好きだって言ったのは“2次元の白樹君”だなんて、どう説明しろ、と?
「央川、言えないの?」
なんかブラックより怖ええええええ!!!
「ちが、そんな訳ない!さっき目出度くカップル成立してたでしょうが!」
「それとこれとは別だろ?実はあんたも空条先輩が好きだった、って可能性だって…」
「私が好きなのはむしろ友美の方だって!」
あれ、何か沈黙が落ちた。
「俺篠原に似てんの?」
あ、なんか肩の力抜けたっぽい。今のうちに抜けだせないかな?
仰け反り状態に近い体制の私の目の前で、交差気味に白樹君が机に両手を付いてがっちり捕縛されているものだから、こう、なんというか、背中痛い。
「似てる似て無いじゃなくて、別枠って言うか、特別?」
「念の為に確認しておくけど」
「あくまで友情です」
このテの問答は中学の頃から散々やって来てるんで、すぐ分かるんだよ。
「恋愛の訳無いでしょうが。至って嗜好はノーマルです」
「だよな、あー、何だっけ、ゲーセンのお兄さんだっけ?後、店員?イケメンに弱いのかって思ったんだ」
ぶつぶつ呟く。あのね、聞こえてるんだけど。怒って良いかな?
と思ったら、急にがばって喰らい付いて来た。
「って事は誰!?俺に似てて年上のイケメンが好きなの!?」
「わあっ!?」
あ。
あまりの勢いについに肘が屈した。
バランスを崩し白樹君を巻き込む様に落下する。
「ったー……背中打った…」
「悪い、大丈夫か?怪我、してない?」
急に、耳元で、本当に直接囁かれるみたいに、吐息が、耳をくすぐって……。
「いいいいいいいいや平気!平気だから」
離して!!
よりによって白樹君の腕の中にダイブとか!!
「し―、白樹君の方こそ」
必死で突っ張って離れようとするけど、あの、何故か腹筋と胸筋に力入ってませんか!?
あの、腕、抱きしめて私の背中がっちり抱えてるその腕、今あからさまに力込めたよね!?
ああああうあうあう!実際に男性の、こ、こういう体に直接?いや、服着てるけど、こう、服の上からでも分かるとか、感覚が分かるっていうか、そういう接触なんて今までした事無いから、ああもうぶっちゃけこんなに近くでぎゅうぎゅう抱きしめられた事無いから、殿方の筋肉生触りした事無いから、頭沸騰してんだよ!!
い つ だ っ て 見 る 専 で し た が 何 か !?
「俺は平気、なんともないよ。それより」
「ちょ、ま、それより離してぇ!!」
半泣きなのは仕方ないと思うんだ!
顔?とうの昔に真っ赤を通り越してるよ!
多分相当情けない顔してると思うけど、仕方ないじゃん!
こんな状況想定外過ぎて、どうして良いかなんて分かんないよ!!
「無理ダメ俺あんたの事好きだから放せないつきあってください」
ワンブレス、だと!?
「白樹君必死すぎ!」
思わず叫んだ。
「必死にもなるよ!ここで逃したら、あんた絶対付き合ってなんてくんねーだろ!?」
ぐっ、良く分かってる。
友達付き合いはすると思う、あるいは出来ると思う。
でも、4月を過ぎて落ち着いたら、きっともう誰からの告白も受け入れる事は無いだろうと思う。
それくらい、この1年は特別だったから。
来年からは多分本当に勉強一色になる、というかその予定だし。
「俺、嫌だ。ここまで来て、ただの友人とか、ただの知り合いみたいに振舞われるのも、空気でも見る様な目で見られるのもイヤだ」
ぎゅ、とさらに腕に力入った。
私の肩に頭をもたれて力無く言うそのセリフに、心がちょっとぐらつく。
あー、私白樹君のこういうとこ見ると放って置けなくなるのかな?
大丈夫だよって頭撫でたくなった。つかちょっとおまいもちつけ。
実際には、ちょっと苦しいよ、って腕タップするに留めたんだけど。
タップに気付いて少しだけ離れてくれたけど、依然としてほぼ変わらない姿勢でしゃがみ込んだまま。
抱いた手は離れたが、今度はその手で両腕を拘束された。
……意地でも離さないつもりらしい。
「――どうしても駄目?友達にしか思えない?」
真っ直ぐに見つめて来るその真剣な表情に、誤魔化した意見なんて言えなくて。
少し俯いて考える。
考えながら、話し始めた。
多分このままだとバレンタインの時みたいに、ぐるぐると考え込むだけで、答えが出ない気がしたから。
「…………正直、好きかどうか自分でもよく分かんないんだ」
「分かんないんだったらとりあえず付き合って!」
「ちょ、はやっ!?」
こら待て!
ちょっと深呼吸。
……ったく、もしかしてこれが“この世界の白樹君”のデフォルトか?
2次元の彼に“キュン死に”してた私に謝れと言いたい。あー、頭痛くなって来た。
再び距離を詰めて来た白樹君を押し戻す。
だから近いって言ってんだろ!?
「…えっとね、それでも特別には思ってる、と思う」
溜息付きながらなのは仕方ない。
なんかもういいや。
これがデフォルトだって言うんなら、諦めるのは私の方なんだろう。
友美の方はちゃんと“乙女ゲー”だったのにねー……。
良いよもう、別に“すいーつ(笑)”でも、“TL”……は、さすがにちょっとまずいか。
「考えてみたんだけどね、例えば他の先輩方に告白されて、断るかどうかは未知数だけど、絶対自分の事優先する自信がある。椿先輩絡みでピンチの臭いがしたら逃げるし、観月先輩絡みで何かあってもそんなに熱心に取り組まない、と思う」
断言できない自分が憎い。
……でも憎い、って事は、それだけこの“告白”に真摯に向き合おうとしている表れなんじゃないか、って。
我ながらちょっと都合良すぎかな?
この状況に至ってさえ、今現在彼に恋愛感情抱いているのか、簡単に判断出来ない。
それ位、私は経験が無い。
萌えなら感覚で分かるのに。
でも、いわゆる恋愛特有の切なさとかとは今だ無縁な気がする。
この気持ちは友愛の延長みたいな物じゃ無いのか、って言われたら、反論するだけの材料が、その余地が、私には無かった。
「それ、ほんと?」
「うん」
言った事自体は本当なので素直に頷くと、再びぎゅうっと抱きしめられた。
え?何?
「――ごめん、やっぱ離せない」
「え?」
耳元が、胸のあたりがぞわぞわするのを抑えて問い返す。
「だって、そんなこと言われたらさ、期待するじゃん。好きじゃ無くても好きになって」
真剣な眼差しに見つめられ、視線が、思考が、息すらも絡め取られる。
抱きしめられた腕に、少し力が込められた。
そのまますれ違う様に私の肩に顔を埋めて、直後、耳元で少し掠れた声がした。
「……お願いだから“このままずっとそばに居て”」
――――――それは私が望んだ“白樹去夜トゥルーEDの告白セリフ”そのものだった。
胸がいっぱいになって、顔が熱くなって、少し目元が潤みさえした。
思わずぎゅっと白樹君の背中に手をまわして制服をつかんだ。そのまま身を預ける。
仕様だとか、イベントだとか、そんなのはもうどうでもよくて、でも、
「結局、正解、掴んじゃうんだもんなあ。…ありがと。嬉しい。やっぱり、だいすき」
ちくしょー、私の人生設計返してくれ。
何か色々な物がこの一言のせいで吹っ飛んじゃった気がする。
自分で言っててアレだが、この「だいすき」が恋愛の好きなのかどうか、改めて聞かれると自信無い。
けど、もういっそ両方で良いよね?萌えと好きと両方で。
考えるの疲れた。丸投げにしてやれ。どうせ大分前からこの状態だったんだから。
「やった!」とか言いながらぎゅうぎゅう締めてくる白樹君。
痛い痛い、それもうベアハッグの域だから!
「ちょ、本気で痛いって」
抗議するために顔をあげた途端に爆弾投下されました。
「ごめんごめん、じゃあキスしていい?」
ぎゃあてめえ、それ謝ってねえだろ!?
「や、えー、いや、えー!?」
ダメ?なんて何可愛く首傾げてんの!それやって許されんのは友美みたいな可愛い子だけだから!!
「えー、じゃあ手を繋ぐだけなら?」
この距離で手を繋ぐ意味は…?とも思ったけど、
「ま、まあ、それくらいなら」
恋愛超超超初心者にいきなりちゅーはハードルたっかいんだよ!
下がったハードルに安堵して、手を差し出した瞬間。
「つかまえた」
意味深な目をした白樹君の表情に、え、と思ったのもつかの間、手を引かれたと理解出来たのは、あり得ない位置に白樹君の目を瞑った顔があったから。
「~~~~~~~~~!!!!!!」
え!?ちょ、思わず身を引こうとしてしまったけど、いつの間にかがっつり顎固定されてる!?
感触、感触がおかしい!!
思わず息が止まった。
顎の下の(くすぐられたんじゃないかと思う)こそばゆい感覚に気付き、思わずぎゅっと目を瞑ると、その衝撃で息が漏れた。
「ん、ふっ」
ぎゃああああああああああ!!!!!
その呼吸の音に我に返り、思わず相手を押し退けようとしてしまったが、思ったより力入らないと言うか、予想外に体を固定していた白樹君の腕の力が強かったと言うか…。
ああもう、CERO仕事ーーー!!!
「~~~~~~っ、ノーカン!」
相当情けない(きっとぐちゃぐちゃな)顔をしていると思われる私は、思わずそう叫んでいた。
しかし目の前の人は、そんな私にも容赦が無かったのです。
「ああうんダメ。ちゃんと数に入ってるから。納得できないなら2回目するよ?」
だからなんでそこでブラック降臨なんだよ!?
今度こそ完全に力の抜けた私は、目の前の白樹君にもたれかかった。
「……口臭タブレット、買ってこよう」
その言葉に白樹君が吹き出した。
「ぷ、ははっ、やっぱあんたずれてるよ!気にするとこそこなんだ!?」
五月蠅い。女の子だから気になるんだよ。
――――――好きな人とちゅーするのに、口臭かったら問題だろ?
ああ、どうしよう、思考が甘酸っぱい物で汚染されて行ってる気がする……。
いい加減この空気、恥ずかしくて耐えきれない!!
……まさか自分が自分に爆発しろ、なんて思う日が来るなんて!!
世の中なんか間違ってるよ!!
タイトル詐欺になりました事をここに陳謝致します。<(_ _)>
作者、主人公連名




