ホワイトデーの告白~side友美~
いよいよ最終回です!
あのバレンタインデーの騒動からもうすぐ1ヶ月。
いよいよ最後のイベントの日が近づいて来た。
小父さん小母さんの話を聞く限り、篠原家の方にも空条先輩(個人)の丁重な根回しが行ったらしく、最近は渋々、渋々ながらも(大事なので2回)小父さんの小言も減って来た様だ。
フライングトラウマのある私としては、イベントぶち壊しにされちゃ敵わないと、一応それとなく見張っていたけど、今のところ空条先輩から決定的なアタックを受けた様子は無い。
無さすぎても困るんだけどね。
かと言って私から『ホワイトデーにはクッキー持って告白しろ』なんて強制出来るもんでもないし。
気を揉まない訳では無かったけど、信じて待つ事にした。
……何も無かったら、ヤる。
何だかんだ毎週末になるといそいそ出かけて行く友美を見送り、こちらも準備を進める。
……好感度の方はもう気にしなくて良さそうだと思いながら。
空条先輩も結構デレた雰囲気を隠さなくなって来てるし、この前さりげなく某電波少女の所に友美を誘導して行ったら、安心と安定のMAX判定だったので、最近はもうあまりこの2人の事には関与していない。
現状は空条先輩に丸投げでも良いかな、なんて。
友美の為にも爆発しろなんて言うつもりは無いけれど、……せいぜい自爆しない様に気を付けるが良いにょ(呪)
「それじゃ、行ってきます」
「遅くならないうちにね」
「はい、夕方には帰りますので」
「そう、車には気をつけてね」
「はい」
小母さんに見送られ家を出ると、目の前にはよく知った人物が。
「それじゃ、行こうか」
「うん」
手を取られるのもすっかり慣れてしまった。
ぴーすけと共に迎えに来た白樹君と、白樹君の家に向かって歩き出す。
友美と同じ、週末の1日デートはデートでも、こっちは自宅でお勉強会。
まさかのお家探訪とか、好感度MAXは伊達じゃ無かった模様デス。
『首洗って待ってろ』とか言うから何されるのかと思っていたけど、特別に何かあった訳では無く。
強いて言うなら遠慮が完全に無くなった様な。
あのかつての『攻略モード』復活、みたいな?。
最近は一緒に模試の申し込みに行ったし。
白樹君はやってもやらなくても出来るんだから、模試受ける必要なんて無いと思ったんだけど、どうもこの、自宅勉強会の布石だった気がしてならない。
誰だ策士は。
「…つうか、本気でその格好で行くの?」
「何か文句でも?」(にこ)
「……いや、無いッス」
嫌がらせの為だけに、このクソ寒い中ニーハイブーツとソックス履いて行ってやった。
当然ミニスカートですよ?絶対領域最強!
若干相手が挙動不審になってたので、効果はあった模様です。
白樹君本人に接触禁止令出した上で、ぴーすけと戯れまくりましたが何か?(笑)
そんなこんなでいよいよホワイトデーの日がやってきました!
昨日の夜のうちに、友美には空条先輩から話があると前フリされたらしい。
ふむ、なら先に移動しておいた方が面倒が無くて良いかな。
ゲームだと先輩を探して校舎の中を右往左往していた筈だから。
さて、無事に放課後になったので、イベントに備えて移動しようじゃないか。
「大丈夫だって。絶対貰えるって」
「そうかなあ」
あんだけべたべたしてて、お返しの1つも貰えなかったらむしろ私が凸するから。
それでもまだ不安そうな友美に、ちょっとしたおまじないを。
「…あのね、実はあそこにはちょっとしたジンクスがあってね」
「?なあに?」
「“屋上の温室で告白すると、そのカップルは永遠に結ばれる”」
「!!」
あ、真っ赤になった。
つか、攻略対象×主人公の事なんだけどね。
「だから、何とかなるよ。絶対、大丈夫だよ」
おう、言ってからでなんだけど、こっちもおまじないだった。
告白されるのを待つのも良いけど、それはそれとして友美の方からも「好きです」って言わせたかった。
やっぱ、乙女ゲームのLLEDなら相思相愛じゃないとね!
なんて、自己満足なんだけど。
さて、友美も無事予定地に移動したし、スネーク開始です!
「っあ、はいっ!」
今は誰もいない屋上のいつもの東屋。
友美はそこで、どうやら空条先輩からの電話を受け取ったらしい。
緊張しているのが丸分かりである。
んー、余計な副産物だったかなあ。
ゲームだとバタバタ走りまわってて、緊張している余裕なんて無かった筈だから。
まあ、ここまで来たら諦めて腹を括ろうか。
そんな私がいるのは同じく屋上、東屋と屋上入口の直線上から少し離れた、入口近くの植え込みの陰。
今友美がいる場所からは少し離れているけど、ここの植え込みは厚みがあるから、上手い事壁になって私を隠してくれるだろう。
しゃがみ込んでほっと息を吐く。
友美にはバレてないみたいだし、良い位置をキープ出来た。
後は先輩が来るのを待つだけ。
状況からして、恐らく階段の上から来るだろう。……っと、来た。
「待たせたか」
「い、いえっ」
友美ー、緊張ー!
「まずはこれを渡しておく」
どれだ?
角っこからこっそり覗いてみると、どうやらホワイトデーのお返しらしい。
……後でブツは確認しておくか。
気付かれないよう頭をひっこめる。
しばらくはsound onlyだな。
「話があると言ったのは他でもない、俺達の今後についてだ」
っしゃ、来たかな?
少々硬い出だしだから、もしかしたら友美は不安になってるかも知れないけど、大丈夫だからね~、と心の中で友美を応援する。
「は、はい」
「……」
少しの沈黙の後、空条先輩が言ったのは、
「友美」
「っひゃい!」
「……そう緊張されても困るんだが」
友美ェ…。
あーでも、空気が変わった気がする。
もしかして先輩笑ってない?
見たいけど…、今は我慢、かな。
むしろ先輩の緊張が解れたのなら、それはそれでアリだ。
「行くぞ」
「えっ!?は、はい!」
えっ!?ちょ、移動とか聞いてない!?
わたわたする私を余所に、先輩と友美は東屋を出て目の前の薔薇ブースの前までやって来た。
幸いにも見つからなかったみたいだけど、さっきより近い距離にこっちの心臓もドギバグだよ!
って、薔薇の背負って告白タイムとか、もしやバレンタインのアレ、パクられた!?
モブの告白ごっこ、しかもそれすら元ネタありきのヤツだ。
それをパクるとか、あんた攻略対象の中でも一番メインで一番人気だろ!?何やってんの!?
動揺していた私の耳に、不意打ちの様に空条先輩の珍しくも真面目な声が聞こえた。
「俺はお前が好きだ」
表情は分からないが、さらっと告げた様にも聞こえたその言葉は、私も、そしてきっと友美も望んでいた言葉で。
~~~っしゃあああ!!きたあ!!
内心喝采の嵐だった。
「正直央川の手の上で踊らされた様で、少々複雑だがな」
余計なひと言だよ!!
「そんな事、櫻ちゃんは…」
あああああフォローとかマジry。
「分かっている。あいつはお前の為に命を賭けるような奴だからな。今回の事だって、全部お前の為だけにやった事なんだろう?」
……そんな事も、ないですよー、だ。
出来る限り攻略対象には、この先の未来への道を示す事が出来たと思う。
友美と結ばれないという現実が、彼等の将来に影を落とさない様に、不幸せになってしまう事が無いように、と。
……まあ、結局の所これもやっぱり自己満なんだけれど。
「ともかく、俺は気がつけばいつの間にか、お前を手放す事が出来なくなってしまった」
お、再開した。
「最初は姦しいだけの小さな小動物か何かの様に思っていたと思う。それがいつの間にか、お前の優しさに絆され、何事にも一生懸命尽くす姿に、俺自身励まされることもあったと思う。そして何よりお前の、その花開く様な笑顔を、もっと近くで見ていたいと思う様になった」
言うじゃん言うじゃん先輩~~~!キャー///
本領発揮の先輩に、思わず顔を両手で覆った。ニヤニヤ笑いが止まらない。
うっはー、恥ずい~~!!でももっとやれ~~!!
「あの日、お前が誘拐された時、自分が決めた事とは言え心から悔やんだ。指示を出した筈の天上からの連絡は無く、後手に回り、…央川には相当怒られた」
だから余計ですってば。
「本当は誰よりも早くお前の元に駆けつけたかった。お前を助け出すのが俺の役目でありたかった。……女一人の為に、などと言ったが、あの時は“空条として”そう言うしかなかった」
「先輩……」
良かったね、友美。
そこまで言ってもらえてさ。
バレンタインデーの効果、あったかな?
「銃を突き付けられているお前を見て恐怖を感じていた。何としてでも無事に助け出さねばと焦っても居た。この俺が、だ。……あいつらの言う通りだ。“俺はその女一人にヤラレてしまっている。”俺の周囲はあんな奴らばかりで、今後も危険が及ばないとは限らない。
だが、それでも“お前が欲しと思ったんだ。……いて、くれるか?この俺と、こんな俺と共に”」
………ま、合格ラインでしょ。
きちんと重要なセリフも抑えていたしね。
「せんぱ…、先輩っ、わた、私も、先輩の事好きですっ!大好きですっ!」
お、こっちもか。
ひょい、と覗くと、泣き出してしまったらしい友美の目元に空条先輩が指を添えて…、
「友美」
あ。
確認だけしてすぐに頭をひっこめた。
一瞬だけ見た友美と空条先輩のキスシーンは、いつか見たEDスチルそのもので。
……良い物を見た。
友美には悪いが、これも私の一生の宝ものになるだろう。
こそこそとその場を離れる。
もう私がいる必要もないだろう。
帰ってきたら全部聞き出して、脳内で補完作業ですよー。
原作には描かれなかったちゅーの後の話もがっつり聞いて、によによしちゃる。
いっそメモを取るとか良いかもしれん。…来世で役に立つかもしれないし?
うんでも、良かった良かった。
………胸があったかくなる様な、幸せのおすそ分けを貰った筈なのに、何でかな、涙、零れた。
……きっとこれで全部お終いなのが寂しいんだ。
友美と出会って11年、ずっとこの日の為に突っ走って来た。
特にこの1年は、私にとってもとても重要で、大切で、濃密な1年だったから。
……まだまだ人生は続いて行くのに、これで気が抜けて、何も手に付かなくなっちゃったらどうするんだろうね?
零れた涙を手でごしごし擦って、ちょっとだけ苦笑した…………ら、何故かその手を急に引っ張られた。
え?
え?
「わあっ!?」
何事!?




