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空条先輩と小さなお茶会

個別イベントです。

序盤なので糖分控えめ。

対友美なので主人公的には糖分皆、無?

仲良くは、なるかも?

 しとしとと雨の降る、6月の少し肌寒い放課後の事。

 私はある目論見の元、屋上の温室を目指していた。


「あれ?空条先輩も来てたんですか?」

「ああ、央川か」


 いつもの席で本を開いていたのは、空条先輩だった。


「…珍しいですね、椿先輩は?」

「あいつは運動部の助っ人だそうだ」

「ああ、じゃあ白樹君と一緒なのかな?」

「なんだ、あいつもか」

「はい、バスケ部の方で練習試合があるとかで。友美が応援に行ってます」

「ああ、なるほどな。こちらも気になっていた。お前が一人とは珍しい、とな」

「ですね。まあ、バスケには興味無かったんで、こっち来ちゃいました」

 席を借り、鞄から出した文庫本をひらひらと振った。


 バスケに興味が無いと言うのも本当だが、真の目的は好感度調整だったりする。


 この時期に起こるのは好感度条件の無い、いわゆる(好感度)普通のイベントだ。

 通常はイベントを起こす為に好感度を上げて行く所を、序盤で起こるこの辺のイベントは、選択肢あるいはそのイベントを起こす事自体で好感度を大きく上昇させ、今後のイベント発生を楽にする為の、ボーナス的意味合いが大きい。

 ということで友美に「応援に行ったら?」と勧める一方、私自身は読んでる本がもうすぐ読み終わるから読み切ってしまいたい、という事で遠慮させてもらった。


 イベントが確実に起こる保証は無い。

 確認する意味合いでも一緒に居た方が良いんだろうとは思うんだけど、私は別に攻略対象(白樹君)の好感度上げる必要は無いし、ついて行った所で余計な事になってもそれはそれで面倒だ。

 イベント発生時にその場に居ない、というのも立派なフラグ放棄の方法だと思われ。

 ま、イベントが起きなかった時は仕方がない。縁が無かったと言う事で。


 それに、まだこの“ゲーム”は始まったばかり。挽回は十分間に合う。

 例え何も無くても好感度くらいは上がるだろうから、完全に無駄にはなるまい。

 白樹君だって、可愛い女の子から応援されて悪い気はしないだろう。例え内心どんな事を思っていようとも。

 

 という事で、待っている間どうしようと考えて思いついたのがここだった。

 同好会が(ある意味不法)占拠しているこの温室は、元々誰でも自由に出入りできる場所だ。

 定例会が無い日は他の人が利用しているのを見る事もある。

 美化緑化委員会が温室の世話に来ている時もあるしね。

 給湯ブースこそ同好会専用で例会以外封鎖されているが、私なら問題ない。

 図書室でもよかったんだけど、せっかくだから飲み物が欲しかった。

 とある目論見、それは。


「なんだ?それは」

「先輩知りません?マシュマロですよ」

 インスタントとは言えそこそこ値段の張るココアに、ぽんぽん、と2個マシュマロを浮かべた。

 ちなみに、マシュマロは給湯ブースに置いとこうと思ってこっそり持ち込んだもので、そうお高い物でも無い。

「いや、知っているが。お前でもそんなものを飲むんだな」

「失敬な。私だって甘いの飲みたくなる時くらいありますよ」

「茶会の時はいつも砂糖もミルクも入れないだろう?てっきり拘りでもあるのかと思っていたが」

「たまにはホッとしたい気分の時だってあります。それに、例会の時は観月先輩がこれでもか、って位お菓子用意するじゃないですか。あれに更に糖分追加なんて恐ろしい真似出来ませんよ!」

「ふはははっ、成程な」

 自分自身を抱き締めるポーズで大袈裟に怯える私の様子に、先輩が吹き出した。

 …ウケガトレテナニヨリデスヨ?


「と、言う訳でしばらくお邪魔します」

「うむ」

 椅子を引いた私に、先輩が機嫌よく鷹揚に頷いた。

「あ、まだマシュマロありますけど、食べます?」

「いや、いらん。安物だろう?」

「まあそうですね」

 別に言うほど安くも無かったのだが、まあ無理に勧めるのもアレだしな。

 それに観月先輩のお菓子に慣れちゃうと、そこらへんの市販のお菓子は食べられなくなるんだよねー。うんうん、わかるわー。

 ポテチなんかのジャンクなお菓子ならいけるんだけど。

 あれはあれでジャンルが違うからなー。


 それから二人とも無言で本を読み進めた。



 ~~~♪


 おや、友美からだ。終わったかな?

「先輩、終わったみたいです」

「そうか」

 んー…。これ、もしかして行けるかも?どうだろ?


 ゲームの頃は、自ら行動して起こすイベントは1日の内、放課後の1回のみ。

 週末には授業が半日と言う事で遠出ができるが、少なくとも平日の放課後に2回イベントを起こす、なんて事は出来なかった。

 でもここは現実で、時間さえあれば2回行動出来るんじゃないだろうかと思ってしまった。

 

 この機会を逃せば、今後身辺が落ち着かなくなる予定の空条先輩が、一人で屋上温室にいるチャンスが再び目の前に転がってくれるかどうかわからない。

 “放課後”“屋上温室”“椿先輩の不在”

 ……椿先輩の状態(不在理由)がどうだったかという所までは忘れてしまったが、少なくとも最低ラインの条件はそろってる。

 …念の為確認。


「…椿先輩の方はどうです?」

「あいつは剣道部だ」

 紛らわしいな!?オイ!

 でも、これでもうちょっと時間稼げるかな?

 ええい、ついでじゃ!空条先輩ともイベント起こしてけ!


「体育館寒かったと思うんで、友美に一服させてから帰ります」

 携帯をカコカコ操作しながら宣言すると、空条先輩が呆れたように言った。

「今からこっちに来るのか?カフェテリアの方が近いだろう」

 正確には、カフェテリアという名の学食、である。

 1階の端にあるカフェテリアは相応の大きさで、この学園らしくメニューも充実している。

 ドリンクバーもあるから飲み物に困る事も無い。

 確かに、ここに来るよりは向こうで待ち合わせた方が、友美には楽なんだろうけど…。

「ホッと一息」

 と今まで飲んでたマグを掲げてみせると、空条先輩は諦めたように溜息をついた。

「……好きにしろ」

 よっしゃ、勝ち!


「友美ー、こっちー」

「もう、櫻ちゃんたら、何でわざわざ屋上なの」

「別に急がなくても良かったのに」

「…空条先輩お待たせする訳にいかないでしょ?」

 急に耳元でひそひそされた。

 何か妙に焦って来たなあと思ったらそっちか。

 呼び出しに空条先輩の名前出したのは、確かにわざとだけどね。


「空条先輩は別件でここに居るだけだよ。はい、友美の分」

「えっ!?そうなの?…なんだあ」

 気が抜けたように席に着く友美を見て、空条先輩が声をかけて来た。

「二人とも、あまり煩くする様なら追い出すからな」

「「はーい」」


 とはいえ、会話が無ければイベントも始まらないわけで。

 もしかして、私がいるのも妨げの1つかな?

 本来なら“偶然”“二人きり”の状況だった筈だ。

 むむむ。

 会話のとっかかり…、私が離脱する理由…。

 こうしてる間にもここに居る理由の“一杯”が消費されて行く…。

「どうしたの?櫻ちゃん」

「んー…」

 眉根を寄せて考える。友美の質問に対する回答も…。

 まさか本人を目の前に、空条先輩イベント発生のとっかかりについて考えてますとか言えやしない、言えやしないよ、ふふふ。


 ふと、先輩のティーカップが目に付いた。

 そういえば淹れ直してるとこ見て無いな…。

 あれ?これ、良いきっかけじゃね?


「先輩、お茶淹れ直しますよ」

 自分の分を飲み干して席を立つ。

 これで自分のついで、という大義名分も立つだろう。

「かまわん、茶ぐらい自分で淹れる」

 ウェーイ、言うと思ったー。

 だから、

「ついでですよ」

 先輩のカップを奪取して強行突破。

「その間友美の相手でもしていて下さい」

「ええっ!?わたし!?」

 ふっ、これで条件はそろった。

 頑張れせんぱーい。(棒)


 私の暴挙にぐだぐだ言っていた二人も諦めたらしく、ぽつぽつと会話を始めた。

 当然耳はダンボで!

 時間稼ぎの為に水から湯を沸かし直し、イベント来い来い、と、わくわくしながら待っていた私の希望を打ち砕く様に、聞こえて来るのは定例茶会で話すような内容で。

 すなわち、


「ふむ、少しは勉強したようだな」

「あ、ありがとうございます」

 紅茶の茶葉の特徴と淹れ方とか、今聞きてぇのはそんな内容じゃねぇんだよ!!

 ゲームかっ!


 ゲームで定例茶会と言えば、攻略対象を1人選択し、彼の出す質問に答えていく質疑応答形式の、いわばミニゲームの様なものだった。

 正解数によって好感度が上下するのは言わずもがな。

 今回は無事に試練を乗り越え、好感度大upしたらしいが。


 …だから、求めてるのはそこじゃないって。

 失敗したかなあ…。くそー。

 …あーあ、お湯沸いちゃった。


「入りますたー」

 心持ちしょんぼりと戻って来た私の目の前にあったのは、

「何このお菓子の大群」

「えっ!?気付かなかったの?もー、じゃあさっきの話も聞いて無かったんでしょう。あのね、ここに来る途中で観月先輩と東雲くんに会ったの」

 悪かったな、それどころじゃ無かったんだよ。

 にしても、その二人かい。

「調理実習室を借りてこそこそ作っていたんだろう。いつもの事だ」

「こそこそってレベルじゃ無いですよ、コレ」

 先輩の言葉に、呆れて二の句が継げない。

 どんだけ籠ったらこれだけ作れるんだ、ってぐらいの量ですよ。


「で、会って幸いと押しつけられた訳ね」

 想像がついたよ。

「う、えっと、まあ」

 急いでた人に有無を言わせず押し付けるとは、観月先輩もたいがい良い性格である。

 東雲君に至っては通常営業だとしか。

「絶対面白がってるよね」

「うん…」

 友美が困り切った顔で同意した。


「とりあえず生モノだけ食べて、残りは持って帰ろうって言ったのに、櫻ちゃん全然話し聞いてないんだもん」

「う、ごめんってば。じゃあ、早速分けちゃおう」

 不自然だった沈黙をごまかす様に、手を伸ばして大量のお菓子を取り分ける。

「おい、俺の分は別に…」

「ノルマです」(キリッ)

 文句は観月先輩に言って下さい。


「小父さんが大暴れするだろうなあ」

「そうだねえ…」

 誰かに貰った、しかも相手は男性、だなんて知られた日には、確実に相手方に凸するだろう。

 それ止めるのか…。

 想像して、そろって遠い目をした私と友美で、生クリームとカスタードのダブルシューをむぐむぐと食していたら、友美がミスって中のクリームがぶにっと派手に零れた。


「ああ、おしぼり持ってくる!」

「あわわわわ」

「……クッ」

「「………」」

 真っ赤になってパニくった友美の表情が、先輩のツボに入った模様デス。


「先輩、酷い」

 恥ずかしさのあまり、真っ赤になったまま、空条先輩を睨みつける友美。

 ……カワユス。


「いやすまん、事故だな、笑ったりして悪かった」

「……う゛~~~」

 いや先輩全然反省してないでしょう。口元緩んでますよ。

「悪かったと言っているだろう。仕方のない奴だな、ほら、これでも食べて機嫌直せ」

 お。

「えっ!?」

 おおっ?

「ほら、口開けろ」

 手近にあったトリュフをつまんだ先輩は、それをそのまま友美の口元に運んだ。

 その意味するところは1つ。


「あーん」


 友美が泣きそうな真っ赤な顔でこっち見た。

 ああん?助け舟なんて出さねぇよ?

 にっこり笑って口を開け指し示す。

 すなわち


「あ、あ~ん」


 っしゃ!多少強引ながら、空条先輩好感度普通イベント「あ~ん」ゲットだぜ!


「っせ、先輩っ、も、もう良いです!櫻ちゃんもいるのに!」

 2個目を差し出した先輩に、涙目になった友美が抗議した。

「櫻ちゃんも見てないで止めてよ!なんでそのまま食べろって指示出すの!?」

 ありゃりゃ、本気で泣きが入りそうだ。

 一方の先輩は何かくつくつ笑いながら私達の方見てるし。

 『ただの後輩』から『いじると面白い後輩』くらいにはランクアップしたかな?

 うむうむ、よしよし。


 その後、椿先輩が空条先輩を迎えに来たところで、この小さなお茶会はお開きとなった。

 残ったお菓子は“4人で”山分けです。

 椿先輩には申し訳ないが、ノルマです(キリッ)しました。

 さすがに、「持って帰って誰かに差し上げて下さい」とは言って置いたけどね。


 椿先輩の参加した試合の結果?圧勝に決まってるじゃないスか。

 白樹君の方は、イベント内の細かいセリフまで合ってたか知らんが、無事に暴投ボールから庇われたらしいと帰ってから友美に聞いた。

 …無事に、って言うのも変だけど。

 ま、明日にでも一言あるでしょ、白樹君そういうとこはマメだから。


 さて、とりあえず、状況を整理しようか。

 うーん、気を付ける事は多々ありそうだけど、とりあえず条件さえ整えば多少不自然な状況でもイベントは起こるっぽいなあ。

 その不自然さの穴埋めとして、見た事も無いような事態が起こる可能性もある、と。

 東雲君と観月先輩にお菓子貰うのが切っ掛けとか、予想もつかなかったし。

 もしかしたらフラグの一種なのかも?

 それと、今回私がやった事はと言えば、友美をこの場に呼び出した事位。

 という事は、上手く友美を誘導できればその後の進行はほぼオート、って事で良いのかな?

 私がいなくても白樹君ともイベント起こったっぽいし、基本はそれで良いのかも。

 あまりこっちで、ごちゃごちゃ手を出さなくても良いのは有難いかな。

 自分の身の安全的な意味でも。


 となれば、私がこれからやらなければならないのはただ一つ。

 不自然にならない様気を付けつつ、友美に付き纏って付き纏って付き纏ってチャンスを逃さないようにする事!

 

 うん、ぶっちゃけストーカーだね☆


 まあいいや、友美にべったりはっついてるのはいつもの事だし。

 そう不自然にも見えないだろ。


 好感度が条件に絡んでくる頃には、友美の気持ちの変化も見えて来るかもしれないし。

 とりあえず結論!空条先輩と白樹君進展アリ、と。





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