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バレンタイン~ケーキの行方~

「ほら友美、いい加減泣きやまないと、チョコしょっぱくなっちゃうよ?」

「いいもん、わたし塩チョコ好きだもん」

 ぐす、と鼻を啜った友美にティッシュを差し出す。

 何その反論。


 衆人環境の中で全力で泣いた事が、今さらになって恥ずかしくなったらしい。

 ぐずぐず言わせながら鼻を拭く友美に付きっきりの私を、いい加減我慢の限界だったらしい空条先輩がべりっと引き剥がした。

「いい加減離れろ」

「おーこーとわーりしますぅ」

 ちょっとLLED演出した位でコレとか、心狭いなあ。

 攻略対象(センパイ)に敬意を払って、ホワイトデーは残してやったろ?

 バレンタインのチョコ交換(今回は交換にならなかったけど)はむしろネタですよ?

 先輩の手を払いのけ、あっかんべーをしつつ再びべったり張り付いた私と、意地でも剝して友美の隣を確保しようとする空条先輩の攻防は、友美が「もう、二人とも止めてってば!」と言うまで続いた。 



「結局櫻ちゃんの愛の告白がメインになっちゃったみたいだね」

 会の終わりごろに観月先輩には苦笑された。

 まあ、間違ってないかな、私的には。

 あ、先輩の作ってくれたチョコのフルコースもメインでしたよ。

 友美もすっごく喜んでましたし。

 そうそう、友美へのチョコレートの件では大変お世話になりました!


「気を使ってもらって済まない。残りは帰ってから有難く頂戴する。それと、仲が良い事は良い事だと思う」

 専用チョコは、椿先輩には喜んで頂けた様だ。何よりですよ。

 それと、椿先輩にそう言って貰えて嬉しいです!

 良い事ですよね!ほらあ、どっかのお兄さんも睨んでないでこれ位言ってみたらどうですか。


「何だか素直に喜んで良いんだかどうなんだかフクザツ。でもありがとね?二人とも。僕も二人の事大好きだよ!」

 東雲君の事だから分かってると思うけど、義理だからね?それ。

 まあ、手は抜かなかった分が我々からの愛の分と言う事で。


「僕からもありがとう、大事に食べるよ。…2人とも、良かったね」

 木森君も甘いのそんなに得意じゃ無い方だから、入れてあるのはビターチョコだけだ。

 大事に食べてくれるのは嬉しいけど、何処かしんみりした風に聞こえるのは、さっきのお別れの話のせいかな?

 でも、良かった、ってのは激しく同意する。我ながら良いEDでした。


「今さら聞くのも野暮だとは思うが、お前ら本当に百合じゃないんだよな?」

 分かってて言ってるだろうけど違います、大寺林先生。

 あくまで友情ですよ。

 


「わたしっ、来年のバレンタインには櫻ちゃんに特別なチョコプレゼントするね?」

 気合の入った、それでいて楽しそうな表情で言った友美に、こちらも笑顔で提案する。

「じゃあ、私と友美だけの特別交換会ね」

「うんっ!!」

 ぱあっと明るい顔になった友美を見て、慌てて空条先輩が友美を引き寄せた。

 「冗談じゃない」とかなんとか聞こえたのは気のせいだったかな?

 でも、純粋に来年が楽しみだ。


 にこにこしている友美を引きずるようにして、空条先輩は友美と先に帰ってしまった。

 仕方なく、独りで帰るのかな、と思いながら昇降口まで行くと、そこには後半妙に口数の少なかった白樹君が待っていた。


「あー、良かったら一緒に帰らないか?」

「うん、別に良いけど?」

 改まって一体なんだろ?



 多少日が伸びたとはいえ、冬は暗くなるのも早くて。

 薄暗くなった道を、二人無言で歩いた。

 白樹君、さっきから何もしゃべらない。

 私何かしちゃったっけ?

 今回はまだ……。ええと、「告白(例の件)」以外は。


 住宅街に入って、もう少し行ったら篠原邸という所まで来たとき、ぽつりと白樹君が言った。

「……俺には、無いの?」


 えと、皆と一緒の(義理)チョコなら差し上げましたが。

「えっと」

「答え、聞いて無かったよな」

 あ……。

「駄目、かな、やっぱり」

 ここで答え、出すの?

 正直心の準備が出来て無かった。

 バレンタインは友美に告白してやるんだ、って、それだけで手いっぱいだったし、まさか本当に催促されるなんて思わなかった…、

 違う、“私が答えを出したくなかった”んだ。


 俯いて、考える。

 どうすればいい?どういう風に言えば良いの?

 あの「つきあわね」の告白から時間はあった癖に、考えるのが嫌で催促が無かった事を言い訳に、ずっと後回しにして来た。

 ―――でも、ちゃんと、言わなきゃ。

 ―――でも、何て?

 ケーキならある、けど持って来て無い。

 そう、正直に言えば良いのだろう。

 でも、それじゃ駄目だろう。

 それは“答え”じゃない。

 じゃあ、どう言えば…。


 気がつけばあっという間に家の前まで来ていて、私達は門の前で足を止めた。

「……」

 駄目だ、どうしよう、答え、どうしよう。

 ぐるぐる考えているようで、その実思考停止にも似た状態だった私の頭上から、ふう、と気の抜ける様な溜息が聞こえて来た。

「央川」

 その呼びかけに、おずおずと顔を上げる。

「ごめん」

「……」

 え?


「無理して答え出そうとしなくて良いよ。……それが、答え、なんだろ?」

 あ……。

「今まで無理言って付き合わせちゃってごめんな、もう、しないからさ」

 そう言ってへらりと笑った表情(かお)は、ゲームでも、この現実でも見た事が無い様な、どこか寂しげな、力の無い笑顔で……。


 思わずギュッと奥歯を噛み締めた。

「っ、待ってて!」

「え?」

 びしっと指差し白樹君に待機を命ずる。

「今すぐ持って来るからそのまま待ってて!絶対、そこから、動かないでよ!」

 そのまま身を翻して玄関の中に飛び込んだ。


 駄目だと思ったんだ。

 あの表情を見て。

 こんな表情させちゃ駄目だ、このままじゃもっと駄目だ、

 攻略対象(このひと)にこんな表情(かお)させる為にこの世界に生まれて来た訳じゃ、断じて無い!

 そう思ったら、とっさに体が動いていた。


 心の何処かで他の攻略対象(ひと)にも同じ様な状況で同じ様に行動するだろうかと、ちらりと考えたけど、違う、そうじゃない。

 今考えるのはそこじゃない。

 後悔したって構わないから、今はただ行動に移すだけ。

 冷蔵庫を開けて、―――閉めた。


「これっ、チョコレートケーキ!べ、別に、わざわざ作った訳じゃないけど、何て言うかついでなんだけど、友美が五月蠅いから作ったんであって他意は無いって言うか、でも、あの、昔っからケーキはほ、ほんめ…って決まって」

 ひいっ!てんパりすぎて思わず口がスベッタアアアアア!!!

「って、いや、もう、とにかく良いから持ってって、日持ちしないからすぐに食べて、でもチョコだからぴーすけには食べさせちゃ駄目だよ!」

 自分でも何が何だか訳が分からん。

「……えっと?」

 白樹君も茫然としてるっぽい。

 手に持った小さな箱をぐいぐいと押し付ける。

 恥ずかしいんだから早くそれ持って帰れよ!


 あの表情(かお)見たら、何でか渡さなきゃいけない気がしたんだよ!

 友美のセリフじゃないけど、渡さなかったら後悔すると思ったんだよ!

 何でか分からないけど、全然分からないけど!

 ああもう!


「良いから帰れ!」

 お猿さん並みに顔を真っ赤にして、硬直したままの白樹君をぐいぐい押し出した。

 それでも何故か動こうとしない白樹君に、こっちの我慢が限界を迎えて、再び玄関に飛び込んだ。

 勢いのまま乱暴に扉を閉めて、2階の自室に駆け込み、そのまま扉に背を預け、ずるずるとへたり込んだ。

 あー、小母さんいたんだった。悪い事しちゃったなあ。

 後で根掘り葉掘り聞かれそう。あらあらうふふ、って。


 しばらくその体勢だったけど、膝を抱えて何か呪ってたらちょっとだけ落ち着いたので、こっそり自室の窓から下を覗き込んだ。

 ここからだと玄関先の道路が見えるんだよ。白樹君いるかな……いたし。

 小箱抱えて硬直してる。

 さっきと姿勢が変わってない様に見えるんだけど、そんなにショックだったかなあ。

 もしかしてさっきのも口先だけで、本当はいらなかった?

 うにゅ。

 ちょっとだけマイナス思考がよぎったけど、このままだと風邪引いちゃうから、とりあえず家に帰る様に催促メール出しておく方が先かな。

 ……電話はさっきの今で勇気出ない。つか出るわけが無い。

 えーっと、何て書こう。

 かこかこと操作する。


『件名:白樹君へ

 本文:いい加減早く帰って下さい。風邪引く。チョコは今年1年一番お世話になったからそのお礼!それと、例の告白もどきの件は、本気にされたかったら相応の告白シチュエーションを用意する事!じゃないと一生ノーカン!』


 とりあえず本気でと(ら)れない様に義理の延長である事を明記。

 これなら、さっきの発言(チョコよこせ)が本気じゃ無かった場合、少しは向こうも気が楽になるだろう。

 それと、あんなちゃらいのが唯一の告白だなんて冗談!

 欲しい言葉(モノ)はあるけれど、それが何なのかくらい自分で考えろ!

 そしたら今度こそ真面目に考えてきちんと結論出してやらぁ、という、我ながら最大限の譲歩だった。

 

 メールを送った後恐る恐る様子を確認すると、暗くて良く分かんないけど何かガッツポーズされた?

 って、急に振り向くなよ!!心臓に悪いな!危うく目が合いかけたよ!

 慌ててしゃがみこんで回避する。

 あー、びっくりした。

 で、そのまま頭抱えた。


 どうしよう、何か取り返しのつかない事しちゃった気がする。

「フ、フフフフフ」

 1周回って不気味な笑いすら込み上げてくる。

 でも、不思議と悪くない気分と言うか。

 こういうの、肝が据わった、って言うのかな。

 ……もうどうにでもなあれ☆かもしれないけれど。


~~~~~~~♪


 !?

 え?え?何、何なの!?

 メールかよ!

 ……びくびくしながら開けると、案の定白樹君からのメールだった。

 本文一言だけのその内容は、



『首洗って待ってろ!!』




 え?


 ナニコレ。




 どうしてこうなった?





本命が“チョコレートケーキ”は『牧物』ネタ。

分かる人だけ分かって下さい。主人公のこだわりって事で。


友好状態からスタートとはいえ、正味1ヶ月で好感度好き、2ヶ月でMAXまで上げなきゃいけない、その上イベントでの好感度停止状態含むとか、主人公攻略ってこう考えると無理ゲーすぐるwww

初見殺しは確実。むしろ「フライング」は好感度足りなくて告白しても、攻略続行できる救済措置みたいな?


先生とき修とか1年とき文とかよりハードル高いんじゃないかな?と思うんですがどうでしょう?


次回本編最終話、一気に3月まで飛びます。


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