バレンタイン~びっくりチョコレートと愛の告白 ~
まさかのリアルバレンタイン投稿になりました。
楽しんで頂ければ幸いです。
結局白樹君とはぎこちないまま。
告白の件に関しても現在棚上げ状態が続いている。
一応聞いたのだから、何かしら返事をしなければならないんじゃないかとは思うのだが、私も、そして白樹君もその事について触れようとしないのだからしょうがない。
正直どう返事して良いのか聞かれても困るので、便乗してこれ幸いと口を噤んでいる。
それでも一時期に比べればよく喋るし、何かあればすぐ心配してくれるのがくすぐったくて少し嬉しい。
その分一定間隔開けられて、以前の様にあまりべたべたと近寄らなくなってしまったのがちょっとだけ寂しい、と思ってしまうのは我儘なんだろうな。
……酷い事言った自覚があるだけに、もっと近くに寄っても平気なんだけど、とは言えなかった。
「(白樹君は一般人、白樹君は一般人)」
自分でも謎な呪文を唱えつつ、偶然視界に入った白樹君から視線が外せなくなって、そのまま見つめていた。
ゲームのキャラ、というフィルターを外して見る様に意識しているせいか、少し白樹君に対する意識も変わって来たように思う。
何がどうって上手くは言えないけど。
仲間に囲まれて馬鹿な事言っている『カッコいいけど普通の男の子』
頼りにされて少し無理しちゃう所がある、『クラスに一人はいるリーダー気質の明るい少年』
以前、ぴーすけを抱かせて貰った時に触れた、『現実に存在する少し硬い手』
最近は私の方が良く白樹君の事を見ているのかもしれない。
見るだけじゃ足りなくて、色々思い出したりもしてしまっている。
……走馬灯にはまだ早いと思うんだけどなあ。
それにこれじゃ、まるでいつかと逆だ。
溜息を吐いた拍子に目が合って、何故か逆に、真っ直ぐ見つめられた。
なんだろ?
その瞳が、妙に印象的だった。
そんな感じで日々は過ぎ去り、明日にはバレンタインですよ!
ちなみにその日は、同好会でパーティーを開催する事が決定している。
そこで私と友美の手作りチョコレートを他のメンバー全員に渡すのだ。
当然、いつもお世話になってますチョコだけど。
そんなんでも待ち切れなくなったのか、数日前から東雲君のテンションが振り切れていたよ。
期待されても困るんだけどな…。所詮は素人トリュフなんだし。
あ、当日は観月先輩もチョコ菓子作ってくれるって!
こっちは期待できそうで楽しみ!
「櫻ちゃん!」
「いや、でもさ」
「……」
「分かった、分かったって」
「嘘つき。全然分かってないよ!」
「えーと」
「今からでも遅くないから!ケーキ作るの!」
「……はあ、どうしても?」
「絶対!」
バレンタインデーの前日、作業に追われる私達は、同時に本命のチョコの準備も進めていた。
本命っていうか、要は友美の対空条先輩専用本命チョコレートケーキだった筈なのだが。
私は…、関係無いよねって言ったら友美がキレてこの有様である。
さっきから白樹君にケーキ作れってうるさいんだよ。
「いやでも、ずうずうしくない?」
「全然そんなことないよ!むしろ喜ばれるから!だから絶対作んなきゃダメ!」
倍になって返って来たよ…。
本命はチョコレートケーキが様式美、なんて、言わなきゃ良かったかなあ…。
「このままだと白樹君に櫻ちゃんの事諦められちゃうよ!」
「えー……」
それこそむしろ本望じゃ…?元々その予定だったんだし。
―――ああでも、それを本当に望むの?この状況で?
「櫻ちゃんは今のままだと絶対後悔するんだから!」
結局、友美の熱意に折れる形でケーキを焼いた。
ただ焼いただけのチョコケーキに余った粉糖かけただけの、人に贈るにしては本当に簡単なものだ。
まあ、失敗はしていないと思うけど、とケーキを見ながら溜息をひとつ。
渡すか渡さないか、そもそも渡せるようなきっかけがあるかどうかも未知数だけど、……渡さなかったら友美と食べればいいか。
つか、私にとってのメインはそこじゃないんだよね……。
ちょっと計画していたことがあったので、友美にバレない様にこそこそと、ちょっとだけいそいそと準備をする。
そんなこんなで成り行きまかせなバレンタインが始まった。
いつもの屋上のいつもの東屋。
勢揃いして妙に緊張した雰囲気の男性メンバー達(先生含む)が席につき、お茶の準備も整った。
そしてその背後から、「いつもお世話になってます」とか、「この1年、世話になりました」とか言いながら小さな小箱を配り歩くのは、制服にエプロン姿の私と友美。
色気は無いが、それでも空条先輩なんかはによついてたし、皆も笑顔を返してくれたから、まあ、良かったのかな?
「済みません、一つこの場を借りて報告したい事があります」
私と友美がエプロンをはずし、席についていざ乾杯、の直前になって木森君が立ち上がった。
皆が注目する中彼が告げたのは、来年度からしばらく海外に行く事になったという宣言。
……いつかは来るんじゃないかと思っていたけど、ここでか。
「ずいぶん急だねー」
「話自体は夏の終わりからあったんです。決心がつかなくて伸ばし伸ばしにしていたけど、先生や親とも相談して、結局行くことに決めました」
東雲君の言葉に、木森君が全員に向けて話す様に返事をすると、事情を知っていたのだろう大寺林先生が頷いた。
彼のルートに入らなければ起こるこの出来事。
それはもしかしたら、木森君なりに友美への気持ちにケリをつけたとか、そういう事情もあるのかもしれない。
彼のルートで明かされる、抱いていた仄かな恋心。
でも、この人生で友美は空条先輩を選んだ。
決定打は3月のホワイトデー。でも、ここまで来たらほぼ確定だろう。
居なくなるのは寂しいけど、でも、今生の別れって訳でも無いよね?
今ならメールを筆頭に、いつだって繋がれる手段があるんだし。
「行先は何所になる?」
「イギリスです」
「語学留学か何か?」
「あー……、いえ、その」
先輩達の質問に淀みなく答えていた木森君が突然歯切れ悪くなった。
「隠す事は無いだろう」
「木森?」
「言っちゃえ言っちゃえー!」
分かってなさそうな椿先輩にと白樹君が促し、何か面白そうな空気を嗅ぎつけた東雲君が囃し立てる。
「言え」
止めはやっぱり空条先輩だった。
「……僕、人形師になるんです」
「「人形師?」」
ぶはっ
先生と私を除くほぼ全員がハモった。
吹き出したのは私。
あ、木森君が真っ赤になった。
「……それ、胡散臭いどっかの協会じゃないよね?」
「一応、調べた」
あ、調べたんだ。
「きっかけは?」
「夏の大祭で勧誘された。何か、ネットにUPしてたヤツが目に止まったとかで……」
その言葉に爆笑する。
「あ、あははははっ、ミケか!よりによって!オメ!!」
「……」
あ、笑いすぎたか。木森君が真っ赤になってこっち睨んでる。
「もうっ、櫻ちゃんたら」
あ、友美にまで怒られちった。
「何の話か分かるか?」
「さあ……」
「僕何となく分かったかも」
あー、そう言う方面の情報に強い東雲君は分かったか。
もしかして例のお祭りで出会った腕の良い造形師さん、っていうのが今回声を掛けて来た人だったのかな?
なんにせよ、頑張れ木森君!
その話題が一段落したところで、改めて乾杯をした。
細かい所のある空条先輩なんかはお茶淹れ直すとかなんとか揉めかけたりもしたけど、ぐだぐだやってると遅くなるからってそのまま流した。
空条先輩は乾杯終わったら速攻淹れ直してたけど。
「友美、ちょっと」
空条先輩が席を離れた隙に、友美を誘う。
この機会を逃すと、次いつ席を離れられるか分らないから。
「なあに?櫻ちゃん」
……可愛らしい。
本当に可愛らしく首を傾げて近寄って来た友美を促し、東屋を出て正面の薔薇ゾーンに移動した。
本来この時期咲いていない筈の赤い薔薇は、暖められた空気の中で美しく咲き誇っていた。
ちょっと湿度と気温高いから、あんまり長居出来ないな。
それに、シチュは悪くないんだけど、像とか無いからちょっと寂しいかも?
まあ、ごちゃごちゃ考えても始まらないしね。
「友美」
友美の正面に立つ。
そんなに緊張する事もない筈なんだけど、これから言うのはとても大事な事だから、やっぱり少しは緊張しているのかもしれない。
「はい、これ、私から友美に」
「えっ、いいの?」
「うん、中身は“どっきりチョコレート”だよ」
用意していた特製小箱を友美に渡す。
中身は先輩達にもあげたトリュフ。
基本のミルクとビターに、椿先輩専用抹茶味と、友美専用として観月先輩にこっそり作り方を聞いておいたストロベリーの詰め合わせ。
どっきりと銘打つからには、いっそ外見を同じにしようかとも思ったんだけど、そこまでするのも意地悪だし、結局は男性陣にあげたのと一緒にした。
一緒に作ったんだから、中身はすぐに分かるだろう。
「ありがとう櫻ちゃん!あ、でも、わたし…」
「良いって、私が勝手にやった事だからさ」
友美からはもうすでに友チョコ貰ってるんだよね。
今日の昼休みに他の友人達とも一緒に、皆で友チョコ交換会をやったのだ。
うん、地味に体重が、ががが。
いや、気にすべきはそこでは無く。むしろここからが本番!
深呼吸をひとつして、私は話し始めた。
「“突然かもしれないけれど、『僕』は貴女の事が好きです”」
「えっ!?」
驚いた友美の様子に、クスリと笑う。
口にしたのは“観月先輩LLED”の告白台詞。
パクったとか言わない。どうせ今回は状況からして本人使わないんだから。
まだ驚いている友美の手を取り、チョコの箱を潰さない様上から握り込み、ちょっとづつセリフを都合良い様に改変しながら続ける。
「“出会ってから『1年』経ちました。その間君は、ずっとずっと『僕』のそばにいて支えていてくれたね。『僕』はその事に今改めて感謝しているんだ”」
「さく、ら、…ちゃん」
前世を入れればそれ以上の付き合いになるけど、ここでは割愛。ややこしくなるから。
「“願わくば、これからもどうか『僕』の隣にずっと一緒にいて欲しい。『僕』は君が好きだから。君と一緒なら、『パティシエになる夢に』向かって、どこまでも一生けん命に頑張れる気がするんだ。ねえ友美ちゃん?君は?『僕』の事、好き?”」
「う、うんっ、うんっ!!」
あ、泣かせちゃった。
ぽろぽろと涙を流しながら、一生懸命頷く友美に、こっちも胸が熱くなる。
こんなに泣くほど私の事、想っててくれたのかなって。
手を放し、指で彼女の涙を拭いながら心の中でつぶやく。
ごめん、もう少しだけ、と。
ここからは私自身の言葉で。
「友美、私は君がいたからここまで頑張れたんだよ。それは本当。ねえもしこの先、私が友美の役に立てなくなったとしても、そこら辺にいるただの女子高生になっちゃったとしても、変わらず友達でいてくれるかな?」
もうすぐこのゲームも終わってしまう。
そうしたら私は、“ゲームの知識”を失くした只の女の子になってしまうだろう。
いつかどこかで友美に大事なことを相談されても最適な答えが出せず、致命的な失敗をする、もしくはさせてしまうかもしれないし、あるいは彼女が危機に陥ったとしても、それを確実に助ける術は、もう無くなってしまうのだ。
でも、
「そんなのっ、当たり前だよ櫻ちゃん!!」
即答だった。
「ほんと?」
「ほんとうっ!!」
ああ、ぽろぽろがぼろぼろになっちゃった。
でもその言葉は、すっごくすっごく嬉しい。
きっと私は今、ものすごく幸せな笑みを浮かべているんだと思う。
「さっきはずっと一緒にいたい、なんて言ったけど、もしものいつかには離れ離れになる時が来るかもしれない。そんな未来がこの先あったとして、それでもせめて心は繋がってるって、いつでも、何をしてても友達でいる事に変わりは無いって、そう想っててくれるかな?」
「櫻ちゃんの馬鹿っ、当たり前だって言ってるじゃない!櫻ちゃんは!?」
「ん?」
「櫻ちゃんはどうなの、って聞いてるの!」
「馬鹿友美、そんなの当たり前に決まってるでしょ。私達は離れていても、ずっと友達だよ。たとえどんなに遠くても、どれだけ時間が掛かろうとも、いつか君のそばに必ず辿り着くから」
遠い遠い人生の果てに、再び次元の壁が二人を分かとうとも、私は君を見つけて、必ずもう一度君に逢いに行く。
そうしたらまた、君の恋を手伝おう。
今回の様に、遠い前世の様に。
多分また誰にも言えないけど、友美は私の大親友だった事があるんだぞ、って、心の中でこっそり自慢するんだ。
もちろん今の人生だって、出来る限りの全力でサポートもヘルプもするけどね!
「だったら聞かないでよっ!!」
「あはは」
逆切れ気味に飛び込んできた友美を抱きしめる。
一緒に選んだシャンプーの匂いがして、私はここが現実である事を強く実感した。
信じてもいない神様に、思わず感謝したくなるくらいに。
「友美、今まで有難う。これからもよろしくね?」
「うんっ、うんっ!!」
「それと、“ずっと一緒にいようね”」
それは幼い頃に交わした、いつかの約束。
「“うんっ!!”」
あの頃と変わらない、天使の笑顔がそこにはあった。
まあ、位置的に正面だったから、皆にがん見されてたんですけどね。
泣きながら抱きついた友美を抱きしめ返し、さっきまでいた東屋の方に視線を向ける。
おーおー、ちょー見られてるよ。
空条先輩も給湯ブースから戻って来てて、表情から察するに大方把握している様だ。
抱きしめた状態のまま、フッと嘲笑すらすると、途端にガタッってした空条先輩が首を横に振りながらの椿先輩に止められた。くけwww
いいですか?攻略対象の皆さん。告白って言うのはこういう風にやるもんですよ。おk?ここがボーダーって事で。
攻略対象と言うからにはこれくらいやってもらわなきゃ。
いや、むしろこれを超える様な感動的な告白が出来ない限りは、そうそう簡単に友美は渡せないなあ、渡さねぇよ?誰とは言わないけど。
ニュース速報
「なお犯人は『マリ○てごっこがしたかった』などと供述しており……」




