白樹君とデートその2 ライブ編
白樹君の猛攻は、一向に止む気配がありません。
誰かどうにかして…。orz
あのプラネタリウムの一件から1週間が過ぎ、2月に入った。
日曜の夜にはコージさんとこのライブがあるんだけど、それまで送って来たこの1週間は、ホント濃密だったよ!
基本的に、え?そこまでせんでも良いんじゃね?ってくらい、ひっついて来るんですわ。
毎日の登下校は当然として、時間があると人の席にまで顔出しに来る、夜は夜でメールのやりとりしてて、2日に1回電話までかかって来るとかさ、…ヒマなの?
別に嫌とかじゃ無いんだよ。
ただ……、人の目が、めがっさ気になる。
めっさ、とかじゃないねん、めがっさやねん。
…実にどうでも良い事でしたね、うん。
とまあ、こんな風に気を紛らわせていないと、白樹君の猛攻にうっかりこれがいつもの日常風景なんだと流されかける自分がいるのも確かで…。
必死で自分を保つように鋭意努力中です。……慣れたら終わりな気がする。
……既に一部手遅れな気もするけど。
そんなこんなでやっと1週間消化しました!
やっと終わっ…、でーとです。orz
……つきそい、付き添いだから!白樹君は私の保護者代わりなの!!
……自分が一番誤魔化されてくれないって何なの。
今日はライブなんでこの前よりは地味目の服装です。
好感度無駄に上げなくて済むのは良かったかなー。……もう意味も無い気するけど。(遠い目)
今回の会場となるライブハウスは仁羽市から少し遠いので、電車で移動…、はいいんだけど…。
「あの、だいじょぶだよ?そんなにくっついてなくても」
「こういうのは男の仕事、だろ?」
「私別に気にしないし、混んでるから仕方ないよ」
「そっちこそ気にすんなって、俺が勝手に気にしてやってるだけなんだからさ」
議論は平行線。
私の正面には白樹君、背後には車両移動のドア。
私を挟み込んで、そのドアに両手をついているのは白樹君…。
……オトコノコに電車で庇われる体験をしたのは初めてデス…。
どうしたら良いのか分らなくて、赤くなった顔のまま、少し視線を落とす。
正面見れない。見たら目が潰れる、ってのはさすがに言いすぎか。
むしろ自ら潰したくなるかも。爆発しろ的な意味で。
……ホントにこんなの気にしないのになあ…。
「良い位置が取れたよな」
「そうなの?」
不意にそう、呟く様に白樹君が言った。
ライブの入場、そんなに良い位置だったのかな?
そんなに大きく無いハコで当然立ち見だけど、入り方によっては、やっぱり良い場所とそうでない場所があるわけで。
…と、白樹君が不意に目を逸らした。
「や、そっちじゃなくて、っていうか」
もごもごと口ごもる。
あれ?何か赤くない?風邪かな?
手袋してなきゃ触って確かめるとこなんだけど。
無理してこのまま私の事庇って具合悪くしたら悪いし、最悪このまま帰るって事も…。
それは、ヤかな。せっかく来たんだし、楽しみたいし。
「気分悪くなったら無理しないで必ず言ってね?それと、そこまで庇ってくれなくても良いから」
う、しまった、言い方がアレだな。
慌てて訂正する。
「嬉しいんだけど、有難いんだけど、それで白樹君が具合悪くなっちゃったら元も子もないでしょ?だからちゃんと申告してね?私そういうの疎い方だからさ」
攻略対象だった人達は、立ち絵の面影のある表情をする事があるからまだ分かりやすいんだけど、基本的に私は人の機微には疎い方だと思う。
他人に対して興味が無い部分があるから余計かもしれない。
重ねて言うが、攻略対象は別枠。
「あ、や、具合悪いとかじゃなくて、その、…何でもない。…央川は?」
「私は大丈夫、白樹君がガードしてくれてるから快適だよ」
にっこり笑顔も付ける。実際楽だし。
…すっごく緊張はするけど。正直落ち着かないけど。何となく周囲の空気が生ぬるい気がするけど!
「ならそのままな」
何故かニヤリと笑われた。あう。
結局降りる時までその状態だったよ!
……白樹君とのほんの僅かな空間が、あそこまで緊張感を生み出す事になろうとは…。何てオソロシイ……。
コージさんとこのライブは盛況だった。
人気あるんだなあ…。
話には聞いていても実際にはどれくらいの認知度があるのか知らなかったから、この盛り上がりは正直予想外だ。
中段の手すりにつかまってコールを送る。
コージさんの生歌とか、この世界に生まれる事が出来てホントに良かった!!
バンド『S・Y・K』(おそらく市街征服的な意味合いだと思われ)は、ボーカルをコージさんが担当し、黒と緑の中華な衣装の男性がドラム、派手な金髪でトークもノリノリなチャラ男風がギター(顔の割にその腕はマジもんだった)、そしてこだわりなのかイロモノ枠なのか、髪の毛から衣装、靴に至るまで肌以外全身真っ白な最年少っぽい男の子がベース担当。
キーボードは今回ゲスト(女性)っぽい。最後に紹介されてた。
ジャンルはハードでパワーなロックからメタル、アコギバラードまで様々。
演奏曲の流れを見るに、メインのジャンルはロックなんだろうと思う。
ただ、途中でチャラ男ギターとドラムによる、妙に力の入った小芝居付きの「これがあの女の“ハウス”ね!!」(kbのお姉さん大活躍、しかも出来が良いし)とか、コージさんとベースの子による“小袋”とかが入って、それはもう明らかなネタ枠だったけど、皆に爆笑されてた。
……どうでも良いけど、メタルになるとウケるのは何でだろう?あれって何故か笑いが込み上げて来るんだよなー。
デスボとか喉痛めないか心配だけど、中間に挟まれたクリーンパートは鳥肌立つくらいカッコ良くて、流石のイケメン枠だと思った。
「っと、ごめん」
はしゃぎ過ぎてぶつかってしまった。
「へーき」
軽く返してまた正面を向く白樹君。
良かった、笑顔みたい。
……あれ?なんとなくこの位置どりは、もしかしてまた庇われちゃってるのかな?
手すりを片手でつかんでいるとはいえ、その位置は私の斜め後ろ。
……後でお礼言っておこう。今はまだ、ライブに全神経を投入したいから。
「挨拶行かなくて良かったのか?」
「うん、楽屋人いっぱいいたし。差し入れ置いて来れたから、多分向こうも気付いてくれると思う。それにこれ以上だと遅くなっちゃうしね」
学園前駅からだと白樹君が遠回りになってしまうのは分かっていた。
でも、帰るコールした先の小父さんからちゃんと送って貰う様に言われたのもあって、今回は素直に送られる事にした。
駅からてくてく歩く。
辺りはもう真っ暗だった。
「結局付き合わせる形になっちゃってごめんね?」
「何言ってんだよ、俺が強引にチケット貰ったからだろ?」
「なんだ分かってるじゃん」
「……ちぇ」
「ああそだ、ライブ中私の事庇ってくれてたみたいだったけど、…ありがとね?おかげで安心して見れた」
「大したことしてないけどな。央川はすげーはしゃいでた」
「そりゃあ、ライブだからね。全力でノリますよ」
さっきまでの喧騒と興奮は過ぎ去り、私達の間には落ち着いた雰囲気が漂っていた。
……まあ、この辺が住宅街だって事もあるんだろうけど。
「あのさ、央川」
「んー、何?」
白樹君が切り出したのは、あの誘拐事件の時の話。
「今さら蒸し返すのも変だと思うけど、これだけは言って置きたくて。…央川が無事で本当に良かった」
……いつかの、友美の『すっごく心配してたんだよ』、の言葉が浮かぶ。
こっちを真っ直ぐ見るその瞳には、茶化すような色は、欠片も見えなくて。
「…捕まった篠原の所に行った時には驚いた。あんたホントにあの子が絡むと後先考えなくなるのな」
不意に視線がそれると、そのまま彼は歩きだした。
追って、今度は追いついて、並んで歩き出す。
「あー、あれは、その、…ごめん」
あの件の事を言われると痛い。
未だに各方面頭が上がらないからな。
「犯人挑発した時にはほんとひやひやしたよ。後で自分がどうなるか考えなかった訳?」
微妙にその言い方ブラック入ってませんか?…暗くてよく分かんないけど。
「あー、うん。なんか、むしろ笑えたって言うか…。黙ってらんなかった」
「ほんっとーにネジ吹っ飛んでたんだな」
溜息吐かれた!?
「…ハイ、理性ほとんど無くて直感で動いてましたデス」
言い訳も出来ず、正直に言うしかなかった。
不意に、白樹君の声のトーンが変わった。
「すっげー心配した。殴られてぐったりした央川見た時、頭真っ白になって、どうしたらいいか全然分かんなくなって。…焦ったけど、俺の力じゃどうにもならなくて…。だからもう、あんな無茶、絶対やんなよ?…頼むから、するな」
凄くまっすぐな強い瞳でこっちを見る。…見つめられる。
……攻略対象にこんな風に心配して貰える日が来るなんて…。
心が、震えた。
「ん。分かった。もう無茶しない。分かってたつもりで、軽く考えてたかも。皆にも散々言われたけど、今のが一番効いた」
「……ならよし。絶対だからな?忘れるなよ?」
「うん。忘れないよ」
きっと忘れられない。
ゲームクリア特典の回想やスチルのアルバムも、ヒロインがこんな風に、忘れられない想い出をいくつも積み重ねて残すものなんだろう。
あの頃はただの特典、おまけに過ぎなかったけど、私は今日初めて「思い出」の事を、そんな風に実感した。
まあそんなイイハナシダナー、も、帰って来たら家の前で友美が空条先輩といちゃいちゃしてた事で台無しになったんですがね!!先輩カエレ!
「友美、大丈夫?空条先輩、一体ここをどこだと思ってんですか」
「あうあう、櫻ちゃああん!!」
顔真っ赤にさせちゃってさあ。っとに空条先輩は…。
……抱きついてきた友美は可愛いから悪くない。うん、悪くない、可愛い。
「言っときますけど、CEROは順守して貰いますからね」
「CERO?ちなみに聞くがどのCEROだ?」
ニヤリと笑う空条先輩。
知ってて言ってやがるのか、タチ悪ィな。
「当然Aですよ当たり前じゃ無いですかいい加減にしないと小父さんに2階から花瓶落とされても文句言えないと思って下さいね当然ですが庇いませんが何か?」
我ながらワンブレスでした。
「ほら友美、大丈夫だから、ね?もう遅いから今日は一緒にお風呂入って寝よう?そうしようよ?ね?」
「おい央川、何さらっと同衾宣言してる」
「え、二人って、一緒に風呂入る様な仲なのか…?」
五月蠅いよ外野。白樹くん連れて先輩は帰って良いから。つか帰れ。今何時だと思ってるんですか。
「櫻ちゃん…、それはそれで恥ずかしいよ……」
ああもう、キュンキュンする……!!
「ほら、友美もこう言っている事ですし、空条先輩はもうお引き取り下さい。あ、白樹君、今日はありがとね?」
「うっわ、俺の扱いかっる!?」
恥ずかしがって私の胸に顔を埋めた友美を抱きかかえ、顔だけ向いて白樹君に挨拶する。
「もう、ダメだよ櫻ちゃん」
お、復帰した。
「分かってるって、ちゃんと挨拶……って、どした?」
「あー、いや」
やっぱ風邪かな?暗いのに分かるくらい顔赤いって相当だよね?
「やっぱり具合悪かったんじゃ無いの!?言ってよもう!」
慌てて顔を覗き込むと、凄い勢いで逸らされた。え?何?
「ちが、……ずっと思ってたけど、央川と篠原の仲の良さは異常!」
「?お風呂云々はともかく、大体いつもこうだよ?」
「ねー?」
友美と二人して顔を見合わせた。
「……おい、去夜、まさかお前さっきの風呂の…」
「ちょ、空条先輩!!」
白樹君が珍しく本気で慌てた。…って、ん?
「ちょっと、まさか“友美の”想像したんじゃないでしょうね?」
聞き捨てならない言葉に、思わず白樹君に詰め寄る。
「だから違うって!俺が想像したのは央」
「白樹くん」
友美?
「じゃあ、わたし達ここでお別れね?バイバイ」
友美にぐいぐいと押しやられて玄関をくぐる。
え、何?何が起こったの?
よく分らないなりに後でフォローメールを出したら、後で丁重なお詫び電話を頂きました。
だから何なの。
まあ、あれしきの事でめげる白樹君では無かったという事なんですよ。
…次遊園地行こう、って誘われた。
いい加減週1で遊びに行くルーチンが出来上がってるのはこう、ねえ…。
勉強だってしたいしさ。
それに、君ん家同居人いるだろ。放っといたらまずいんでない?
という事で。
「ぴーすけほっとくの駄目だよ。まだ小さい上に普段居ないんだから、週末の居られる時くらい一緒にいてあげなきゃ」
とかなんとか説得すると、放課後、白樹君と一緒のぴーすけの散歩が日課になりました。
…どうしてこうなった。
正確には、一度白樹の家にお邪魔してお茶で一服。その間白樹が着替えて、落ち着いてからぴーすけの散歩、をしがてら私を家まで送る、が一連の流れ。
白樹君の家に上がるのは気が引けたんだけど、寒い中外で待たせる気は無い、と白樹君にごり押しされて…。押しには弱いんだよねえ、我ながら。
まあ、ぴーすけにつられた、ってのもあるんだけどさ。
最近、悪くないと思っている自分がいる。
4月に目標を定めた時より、確実に自分の気持ちが変化している事にも気付いてる。
……もし、このまま、告白されたら。
私は、断れない気がする。
でも、それは私が白樹君の事を好きだから、じゃなくて、単に今の関係が自分にとって都合が良いからそう思うのかもしれない。
……それはきっと、この世界に対する冒涜で、最大の裏切りになるだろう。
絶対にやっちゃいけない事なのだと、どこか頭の片隅で警鐘が鳴る。
私は、どうすべきなんだろう―――
まだ答えは出ない。
頭の中をぐるぐるかき混ぜるその思考を、強制的にストップさせる、いや、思考そのものを根本から破壊するような一言を
白樹君が言うまでは。
自分からわざと近くに寄っているけど、やっぱ照れ臭い、でもちょっと役得。
そんな白樹君。
S.Y.K.は完全にセルフサービスネタです。
ライブの内容に関してはこうだったらいいなーという妄想純200%。
元ネタについて詳しく知りたい方はググって下さい。
ダルデレを落とすのは時間がかかりますが、その価値はある!と力説。
知ってる方は想像つくと思いますが、そう言った理由からコージさんとキーボードのお姉さんはお付き合いしています。
そういった意味でも攻略不可です。
楽屋に行ってそれが発覚するシナリオも考えたんですが、長くなるので割愛。
コージさんのダルダルっぷりを見かねた世話焼き女房なお姉さんだったが、いつの間にかお付き合いするようになって、ドラム涙目。(不憫枠)
ギターは最初口説いてたりもしたんだけど、外から見ていたほうが面白いと傍観体制に。白い子は姉弟愛に近い親愛。
kbのおねーさんを巡ってはそんな関係だったり。
どうでも良いですね。




