秘密の花園
今回少々短めです。
「うわあ、白樹くんすごーい!それじゃ櫻ちゃん初デートだね!やったあ!」
全部話して返ってきた返答がこれだよ!
違う、違うんだ友美さん、求めていたのはそんな内容の返事じゃない……。
帰宅後、友美の部屋で予習復習の為に2人してノートを広げながら、今日の事を包み隠さず報告した。……結果惨敗した訳だが。
妙に気に入って、もうずいぶん長い事使い続けている、折り畳み式で可愛い柄のテーブルもどきを挟み、ベッドを背に友美、部屋の入り口側に私が座っていたんだけど……。
「でも良かったあ、ちょっと前まで櫻ちゃん急に白樹君と仲悪くなるんだもん。どうしたら良いのかなって、ずっと考えてたんだよ?」
あー、まあ、かなり周辺の人達にはご心配をおかけしたのは、重々承知していましたが。
「明日葉先輩に相談しても、ほっとけって言われちゃうし…。でもでもっ、白樹くんの方から、ちゃんと仲直りしよって言ってくれたんでしょ?切っ掛け出来て良かったよね」
あれ?そんな流れだったっけ?あー、……ほぼ同時だった気が。
友美がベッドに腰掛けたのを見て、こちらもノートを閉じる。
何だかがっつり話す体勢になっちゃったし、今日の分の勉強は、あらかた終わっているからもう良いか。
そばに置いてあった白湯(お茶面倒)を一口飲んで、私もダベリモードに突入した。
「仲直りするつもりではあったんだけどさー…、ここまで仲良くなんてするつもりなかったし……」
正直したくない。
お付き合い?男女交際?断固お断りします!デート?冗談じゃねえや!
「ダメダメ、そんな事言っちゃ。んもう、せっかく空条先輩にも協力して貰って時間作ったのに……」
ん?何かぶつぶつ言いだしたぞ?
しかもその内容……。
もしかして、『オンドゥルル』?
『オンドゥルルラギッタンディスカー』?
……いやもう、そんな気はしてたけどね。
テーブルを回り込み、友美の隣に寄り添って、こてんと頭を肩に乗せた。
「何でそんなに熱心なの」
「なにが?」
今度は友美が私の方に頭を寄せて来た。
こんな時だけど、やっぱり嬉しいし、ちょっぴり幸せ。
「白樹君と私、くっつけよう、とかなら要らんお世話だからね?」
「えー?……でも、わたし白樹くんなら櫻ちゃんにぴったりだと思うのになあ?誘拐事件思ったんだけど、白樹くんずいぶん心配してたし、きっと櫻ちゃんの事、本気で守ってくれるんじゃないかなあって」
まったく、そんなこと考えてたのか。
嬉しいとは思うけどさ、私にはそんな気遣い必要無いよ?
大体、自他共にそうと認識されるであろうサポートキャラな私を、よりによってゲームヒロインがサポートとか、それもうゲームとして破綻してるから!
「それに……、最近の櫻ちゃん変だったでしょ?白樹君の事もそうだけど、明日葉先輩ともずっと喧嘩してるし。もうどうして良いか分かんなくて。でも、そんな時に白樹くんの方から歩み寄ってくれて、これはチャンスだって思ったんだ」
目を伏せて少し俯いてしまった友美の様子に、そんなに心配していたのか、と思わず目を見開く。
いくらヒートアップしていたとはいえ、感情の赴くままに空条先輩に突っかかって行ってしまったのは事実だ。
今なら、空条先輩側の事情を汲み取る位の心の余裕は出来ている。
……と言うか、白樹君の事で手いっぱいで、他の事に構っている余裕が正直無い。
……だから逆に、良い機会なのかもしれない。
以前ティーパーティーメンバーが言っていた様に、お互いの気持ちが通じ合っていて、後は完全にくっつくだけの状態であるならば、もう私が余計な手出しをするだけ無駄なのだろう。
そこまで考えて、溜息が出た。
「櫻ちゃん?」
「ああ、ゴメン、で?チャンスって?」
「そりゃあもちろん、櫻ちゃんに彼氏作るチャンスだ、って!」
…………実にイイ笑顔でした。
えー……。
「皆と仲なおり出来て、櫻ちゃんにカレシが出来たら、わたしのこの気持ちもきっと分かって貰えるんじゃないかな、って。…ホントはちょっとだけ、白樹くんが櫻ちゃんの事引き付けていてくれたら、明日葉先輩と一緒にいられるかもって思わなくもなかったんだけどね」
「……友美」
最後にはそう誤魔化す様に言ったけど、間違いなく前半の言葉の方が本心だろう。
「明日葉先輩の力になりたかったの。最初はね、それだけだったのに、ずいぶん贅沢になっちゃったね」
てへへ、と少し笑う。
無理に聞き出す事はあっても、自分から友美が空条先輩の事をこんな風に話すなんて初めてだ。
「だからね櫻ちゃん、櫻ちゃんが心配する事なんてないの。大丈夫だよ、明日葉先輩の事が好きで、ずっと一緒に居たいって思ったのは私なんだから。……だから、“わたしが自分で”ちゃんと頑張るよ」
過保護、ってこういう事か。
友美はとっくに、私の手なんて必要としていなかったんだ。
「わかった」
1つだけ溜息。それでお終い。
「もう先輩に突っかかるのは止めとく。その代り、自分で決めた事なんだから、自分でちゃんとやるんだよ?」
「うんっ!ありがとう櫻ちゃん大好き!」
飛びついて来た友美の頭を撫でて、ハイハイと返す。
「でも、1人で手に負えない様な事があったり……無かったとしても、何かあったらちゃんと報告する事。のろけでも相談でも、何でも聞いてあげるから」
「もちろん!!わあ!櫻ちゃんありがとう!!あっ、じゃあっ、空条先輩ともちゃんとお話してくれる?」
「空条先輩と?ああ、分かった。休戦協定結んどく。それで良い?」
「うんっ!」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられた。
……まあいいか、友美が幸せなら。
本当はちゃんと分かってる。キリキリするほど心配する必要も無い事を。
確かにあんな事はあったけど、元々誰より頼りになるのは権力を持った空条先輩だって、きちんと思い出したから。
……でも、一応もう一回念押ししとこう。
そんな事を考えている私の横では、友美がさっきから嬉しそうに「よかった」とか「やったあ」とか「うふふ」とかを繰り返している。
良いんだけどさ、やっぱり少し寂しいと思うのも事実で。
「寂しくなるなあ」
友美の肩に頭を乗せたまま、隠さずにそうぽつりと呟くと、
「そう?それじゃあ、今度の日曜日、久しぶりに一緒に遊び行こっか!」
友美が超絶可愛いスマイルでそう返してきた。
こっちは嬉しいけど良いのかな?
「空条先輩は?」
「うーん、今回はデート無しなの。お仕事忙しくなっちゃいそうなんだって」
ありゃ。
「でも、その次はバレエの公演連れて行ってくれるって約束してくれたんだ!」
さよかい。
でもま、それなら良いか。
「どこ行く?」
「んーとね、じゃあね、鳥南のモール行こうよ!」
「おっけー、空条先輩を一撃死させる位可愛い服選んじゃる」
「そんなに張り切ってコーディネートしなくて良いから!もー、そんな事言うと、こっちも本気出しちゃうよ!」
は?本気って何の?
「めいっぱい可愛くして、白樹くんキュンキュンにしちゃうんだから!」
そっち!?
「いや、そもそも、その前に(デート)行くし」
「?でも、その後も行くでしょ?」
ライブの話か……。
「ライブに可愛い服は危険」
主に物理的な意味で。
「じゃあじゃあ、その後!その次もデート誘うように、白樹君には言っておくから!」
その助言、要らねえから!!
ひとしきり次の日曜のお出かけの事で話し合ったら、結構な時間が過ぎてしまっていた。
「もうこんな時間か」
「早く寝ないと、だね」
「その前にお風呂、どっち先に入る?……なんならせっかくだし、一緒に入っても…」
「もうっ!入らないよっ!」
「えー?ちっちゃい頃は良く一緒に入ったじゃん」
「ちっちゃい時だけ、でしょ?ほら櫻ちゃん、先入って良いから!」
「お背中お流しますよ?」
「その話はもう良いんだってば!!」
可愛いんだから。
真っ赤になった友美を見ながらにやにやしてたら、何故か今度はもじもじし始めた。
「お風呂は駄目だけど、お泊りなら良いよ?今日は一緒に寝よっか」
何と!?
っしゃ!友美の部屋でお泊りGETだぜ!!
お互いの部屋に枕を持ち込んで、一緒のベッドで眠る「お泊り会」が始まったのは、家族が海外に行くことが決まって、私が篠原家にお世話になり始めてから割とすぐだった。
未だに帰国のめどは立っていないが、最短で来年にはこの同居生活が終わってしまう事も考えられる。
小さい頃は良くお互いの家でお泊りしてたのを思い出し、良い機会だから、と私の方から誘ったのだ。
今では何かある度に報告会も兼ねて泊まる事が多い。
枕抱えた友美が私の部屋のドアを叩く事もある。大抵相談ごとや悩みがある時だが。
「そういう事言ってると、今夜は寝かさないよ?」
分かってると思うけど、ガールズトーク的な意味です。
せっかくの機会だ、空条先輩の好感度が上がった時に連発される(筈)の甘々セリフを、どんなふうに言われたのか、具体的に何て言われたのか、全部口割らせてやる!
で、それをネタに……いや、空条先輩は二次でも隠さない人だったから、自分が返り打ちにあうだけだ。うん、やめとこ。
「えー!?……明日学校なんだから手加減してよ?もうっ」
でも、一度おしゃべりが始まってしまえば、そこは女の子同士の会話。
話題は中々尽きる事が無く、その日の友美の部屋の灯りは結構遅くまでついていた。
後日、定例会で空条先輩に会った時、こっそり呼び出して「友美とちゃんと話し合って、先輩に突っかかるの止める事にしました。先輩の事情も考えずに、捲し立てて済みませんでした」と謝っておいた。
「状況の読みが甘く、お前も含め危険に晒してしまったのはこちらの落ち度だ。それは認めよう。済まなかった。……それと、…今後もあいつの身に何かあるようなら“事前に”知らせろ」
「……可能な限りは、必ず」
含みを持たせるような言い方をした先輩に、それでも私は本心からの答えを返した。
気付いていて向こうから何も言って来ないのは、何か理由があるんだろうか。
でも、それを自分の方から突く事はしたくなかった。
こういう言い方をするって事は、私の事は“何故かこの先を知るもの”として利用するつもりなのかもしれない。
それはそれで構わないと思った。
だが一方私自身としては、メインイベントがほぼ終了した今、出来る事はほとんど無くなってしまうだろう。
でもあの子を守る為なら、周囲に目を光らせ、異変があったら先輩に助けを求める、それ位なら出来る筈だ。
そう考えながら差し出された空条先輩の右手を握った。
席に戻ったら、皆にやにやしていたのは気のせいかなあ?
タイトルは、「ガールズトークに“花が咲く”」ところから。
オヤジなシャレで実にすみません。
空条先輩は、「2次創作(同人作品)」では「隠さない(スケベ)」として扱われる事が多い模様ですw
あるあるwww




