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誤解

主人公は“ゲーム脳”。




 一応、最後の最後の選択として、告白時に振る、って言う選択は残ってる。

 そのチャンスに賭けるなら、今好感度下げプレイ(こんな事)をする必要はない。

 だけど、そうしない為のフラグぶっちぎり作戦だった筈だ。

 

 …それって、今の状況とどう違うって言うんだろう?

 どちらにしろ白樹君を傷付けることには変わりないんじゃないの…?

 そもそも告白されて断るの?断れるの?

 

 あー、もう訳分かんなくなって来た!


 最近勉強も手につかないし、このままじゃ成績落ちるのは確実だよ!

 マジ勘弁…。

 気分入れ替える為に市立図書館行こうかな…。

 この時間ならまだ空いているだろう。


 重い空気を払拭するように、私はわざと明るい声で皆にお礼とお詫びを言い、お茶会を辞した。

 その足で市立図書館へ向う。目指すは自習室。

 ここしばらくの分を取り戻してやるっ!






 いやー、知人が誰も居ない所で勉強すると集中できていいわー。

 あの空気が良いんだろうね、空気が。


 ほくほくしながら暗い夜道を家に向かって歩いていた私が、公園に差し掛かった時。


「わんっ!」


 え?


 振り向くとそこには白い物体、が。


「ぴーすけ?」

 え?今鳴いたのぴーすけ?

 ていうか、あれ!?ぴーすけまさかの脱走兵!?

 慌てて周囲を見渡す。白樹君は、いない?

 あ、良く見たらリードついてるや。

 ちょっとほっとして抱き上げる。

「ぴーすけェ、いきなり道路にダッシュしちゃいかんでしょー」

 思わず説教モードに入る。

「ぴーすけ庇おうとした白樹君が、転生トラックにぱーんされて陽炎に嗤われちゃうよ」

「なにそれ」

 あ。


「……相変わらず変な奴だな」

「…どーせ」

 あー、できれば会わずに帰りたかったなあ。

 腕の中でじたじたしたぴーすけを下ろすと、飼い主に向かって駆けて行った。

 ああ、もふもふしてあったかかったなあ。

 思わず両手をわきわきさせつつ、ちょっとだけなごむ。


「何やってんの、こんなとこで」

「図書館の帰り」

「最後まで居残ってたわけ?熱心な事で」

「…まあ、来たのが遅かったしね」

 そのまま歩きだす。

 …と、着いて来た。

 何故?

 帰宅途中の私がぴーすけの散歩に付き合っているっぽい、この状況は一体何だろう?


「えっと?」

「送ってくよ」

 あらま。女の子を立ててくれるわけ?

「別にいいよ、真っ直ぐ帰るだけだし」

「そう言う訳にもいかないだろ。何かあったらどうするんだよ」

「何もないよ?」

「……良く言うだろ、別れて角まがったら誘拐された、とか」

 そう言う心配、するんだ。

 軽く目を見張る。

 次いで、少し心が温かくなったような気がした。

 …どんなにひねくれてても、根っこの所は優しいんだね、君は。

 自然と笑みが零れる。

「ありがと。送られとく。ぴーすけもよろしくね?」

「ぴす!」

「なんでぴーすけまで…」

 だって、ぴーすけの方が頼りになるもん。


「……」

「……」

 沈黙が落ちる。

 まあ、ここ最近なんな雰囲気だったし。

 しばらくして、白樹君が口を開いた。

「…こうやって話すの、久しぶりだな」

「そだね」

「…なんで、あんな態度取るわけ」

「自分で言ったんだよ?関わるなって」

「そうだけど…。そうは言ったけどさ!」

 こちらを振り向いて声を荒げる。

「俺あんたのこと全然分かんねえ!言われたからって、はいそうですか、ってそこまで徹底的にシカトするなんて思わないよ!普通でいいんだよ!…おまけにあんたの弟妹(きょうだい)にまで物凄い目で見られるしさ」

「弟妹達の事は悪いと思ってるよ。あの後ちゃんと言っといた」

「……そりゃどーも」


 入院して2日目、家族が見舞いに来たのと同じタイミングで、ティーパーティメンバーが見舞いに来た。

 その時白樹君も一緒だったのだ。

 先輩達に引きずられて来たって言う方が正しいか。

 家族にはその時何があったのか説明していたので、白樹君が一緒に居た事も知っている。

 知ってて、物凄くガンつけたのだ。うちの弟妹達は。

 別に私が個人で好感度下げプレイしてるとかは言ってない。

 それに、病院に居た時には家族に心配かけないように、以前と同じ友達としての振る舞いをしていた。

 だが、弟妹達の白樹君への好感度はガタ落ちらしい。…何故だ。

 ちゃんと、白樹君は手伝ってくれたんだよ、何も悪くないよ、だから仲良くお話しなさい、って言ったんだけど、妙に反応鈍かったんだよなあ。


「それで、普通って?どこまで普通?挨拶はしてるよ?」

 ああ、急に大声出すからぴーすけびっくりしてるよ。

 ほらこっちおいでー。おっかないお兄さんから守ってあげるから。

 ぴーすけを抱き上げる。

「挨拶だってほんのちょっとだろ」

「今まで通りにしてたら、“関わらない”の意味無いと思うよ」

「だからっ、」

 …木森君の言うとおり、後悔してるとでも言うのか。

 させないよ?


「あのさ、白樹君だけじゃないんだよ」

「え?」


「仲良くしたくないのは君だけじゃないんだよ?」


 その言葉に白樹君が固まった。


 好感度下げプレイは今だ続行中なのだ。


「なんだよ、それ」

 絞り出すような、苦しそうな声。

 ……ちょっと、言いすぎた、かな。

 でも、本音、だし。


「……俺は、あんたに嫌われてんのか?」

「まさか!」

 あ、しまった。

 ここは嘘でも肯定しとくべきだったかな……。

「じゃあなんで!」

 その叫びに反応して、思わずぴーすけを抱きしめる腕に力が入ってしまう。

「そ、それは…」

 これ以上好感度稼ぎたくないんで下げてます、なんて、口が裂けても言えないよ!

 言葉に詰まった私に何を思ったのか、突然白樹君が謝り始めた。

「俺のせいで閉じ込められたから!?あんな事件あったら警戒するよな!二度とないように注意するから!ホントごめん!」

 うわ、マジで頭下げられた!

 いや、違う、違うんだよ!

 ああああああああ、すっごい罪悪感!!!

 ごめんなさいは私の方なんだよ!!


 あ、あれ?

 今、ふと思ったんだけど、

 この一連のイベントって、もしかして、


 ただの友情イベントなの?

 というか、“単に内容がイベントと同じなだけ”で、“実はイベントですらない”、とか?

 え?


 白樹君も、私の事なんて何とも思ってなくて、友情ならセーフで、ただのクラスメイトとして普段通り接する事が出来る、って事?

 好かれるのは問題だけど、嫌われるのはさすがに気まずいから、せめて普通に仲良くしよう、…って。 ただの友達だと思っているのに巻き込まれたならごめん、て、

 今の発言って、そう言う事だよね…?


 ここは現実で、あくまでゲームに似て非なる世界。

 今までだって、フラグだのイベントだの言ってても、発生条件は結構アバウトだったよね?

 だから、イベント=好きって図式とは限らない。

 …なのに、私がゲームと同じように考えて“イベントが起きたから白樹君は私に恋愛感情を抱いてる”って、勝手に勘違いして――――――!?

 

「ご、ごめん!」

「え?」

 お互いに謝り合う格好だけど、気にしちゃいられない。

「あの、私、勘違いしてたみたいで!」

 ぴーすけを抱えたまま頭を下げたから、さすがに苦しかったみたいだ。

 たしたししたので、抱えていたぴーすけを下ろす。

「あ、あのね、馬鹿なこと考えてるって思ってくれて構わないんだけど、私ずっと、君が私の事好きだと思ってて(フラグ的に)」

 あらためて顔を上げ、まくし立てる。

「好きなんじゃなくて、ただのお友達だったと思ってくれてたんだよね?そ、そうだよねー、そんなの、あるわけないよね」

 あはは、と引き攣った笑いが漏れる。

 笑い話に見せかけて、それから一気に謝った。

「ごめん!ほんっとーにごめん!」

 ぱんっ、と両手を合わせて拝んで謝る。

 いや、彼にしてみれば、これはそう簡単に許せない事だって分かっているけど、と、とりあえず誤解は解けたから!

 それだけでも十分だよね!?

「ほんと、ただの誤解だったの!あの、明日から普段通りにする!ちゃんと挨拶するし、ちゃんと会話もする!だから、その、ごめんね?」

 ね?だめかな?


 しばらくの間、白樹君は私の方を見て固まったままだった。


 長い沈黙の後、重苦しい声が聞こえた。

「誤解……?」

「そうなの!ほんっとごめん!」

「つまり、俺があんたを好きになったら問題で、友達なら問題無いって事?」

「そうそう!!白樹君とおんなじで!」

 分かってくれた!

 周りがぱあっと明るくなった気がした。

 

「同じ……?」

 あれ?低い声。

 誤解、解けたよね?まだ、許してもらえないのかな?

「……ふざけんな」

 白樹君のその言葉に、びく、と体が震えた。

「もういい。分かった」

 そのままぴーすけを連れて歩き出す。

 私の方を何度も振り向くぴーすけにじれたのか、最終的には抱えて行った。


 怒らせちゃった。

 まあ、当たり前だよね。

 私だって怒るもん。

 白樹君が私の事好きだなんて、なんて自意識過剰な女だ、って思われただろう。

 あーやだやだ、このまま顔合わせたくない。すっごくすっごく恥ずかしい!

 自分馬鹿じゃ無いのー!?

 うう、でも、今度はこっちが誠意を見せる番。

 明日学校に行ったらちゃんと挨拶しよう。

 ちゃんと話そう。

 私がとってた態度みたいに、無視されたって構わないから。






 そう思っていた時がありました。



「それじゃ、行ってらっしゃい」

 可愛らしく言ったってダメ!(おかーさん)は許しません!

 そんな事を言っても、無情にも時間過ぎる。

 友美はテコでも動かない。


 朝、友美に登校時間になってから告げられた言葉は、「わたし、明日葉先輩が車で迎えに来てくれるって言うからこのまま待ってるね」というものだった。

 いつの間にこんな策士めいた作戦を実行する様になったんだ!

 

 あの後家に帰って、友美ときちんと話そう、白樹君の事も相談しよう、って思っていたのに、結局夜遅くまで友美はこそこそ携帯で何事か話していた。

 そのせいで何っにも、何っにも、解決してないんだよ!!

 ぅおのれ空条め!!昨日の電話は貴様のせいか!きしゃああああああああああ(ミ○フィーの口が開く時の音)


「ほらほら、遅刻しちゃうよ!」

「櫻ちゃん、ね?」

 小母さんにまで促されたからには、出ていかざるを得ない。

 ほんとにもう行かなきゃ。

 うう、友美~~~。ぐすん。



 しぶしぶ先行する事5分。

 住宅街から商店街に差し掛かるまでもう少しの交差点で、いる筈の無い人を見た。

「やあ、おはよ」

 爽やかスマイルの男の子は、これまた爽やかに片手をあげ、私に向かって挨拶してきた。

「偶然だね」

 偶、然、なの?

 いや君、学園行くのにこっち来ないだろ?

 むしろ遠回りなんじゃ…。

 って、え?


 すたすたと近寄り、私の手を取る。

 そこには何の躊躇もためらいも無かった。


「え?」

 思わず茫然とその顔を見る。

 昨日すごく怒っていたよね?

 なのに、コレ?


 してやったり、という表情でくすりと笑う白樹君。

 器用だなオイ。

「それじゃ一緒に行こうか」

 今度こそ満面の笑みを浮かべ、彼はそのまま私の手を引いて歩きだす。

 え?え!?えーっ!?


「あ、あの!」

 軽くパニックに陥った私に、振り返った白樹君はこう告げた。


「ちょっと本気で攻略させてもらうんで」


 あのブラックな表情で、にやりと、笑いながら。









この世界は現実であるがゆえに、攻略対象もただ大人しく攻略されるのを待っているとは限りません。

年始で感じた違和感は、白樹君が若干やる気を出した事による違和感でした。

主人公は流しましたけどね。そして忘れてしまっています。



そんな、ちょいおニブな「央川櫻」という越えられない巨大な壁。

ドンキホーテの如く、その巨壁に立ち向かおうとする白樹少年の“無謀な”挑戦が、今、始まる!!


まさかの「央川櫻攻略ルート」スタート。

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