好感度下げプレイ
Attention!!
引き続き、のっけから主人公がキレております。
ご注意ください。
お話的にはちょっとインターバル。
サービスもあるよ!
「お帰り下さい上級生様」
にっこり笑顔でお引き取りを願う。
すると、空条先輩の眉間のしわがさらにギュッと寄った。
あれ、これってあれか、青筋ってやつ?
教室の入り口での攻防は、もう3日目に入ろうとしていた。
だって空条、友美迎えに来るんだもん。
フラグを無事成立させ、イベントを成功させたからって、それだけでLLEDに辿り着けるかと言えばそんなこともなくて。
好感度が規定値に達していなければ、ED直結の告白イベントが起こらない事だって有り得るのだ。
今私が狙っているのはまさにそれ。
…友美の命を危険に晒すような奴は、人類にとっても敵です!
フラグ成立させない、って言ったろ!?
それなのに友美ったら…。
「も、もういいよ櫻ちゃん!わたし、先輩と行くから」
「え!?だって友美、これから二人でゲーセン寄って帰ろう、って。楽しみにしてたじゃん」
友美を釣るためなら何だって利用する。
コージさん紹介するって言ったのに、友美ったら先輩の方を取るの!?
「私が先に約束したんだよ?」
悲しそうな顔を作って引き留める。
……というか、実際友美が私より先輩取ったとしたら、ちょっと何するか分かんないよ?
「あ、で、でも…」
くっ、友美もつらそうだ。だが、ここは心を鬼にして…!
「央川、そのくらいにしといてやれよ」
何茶々入れて来てんすか、白樹君。
関係者以外立ち入り禁止、って空気が分からない君じゃないでしょう。
「……白樹君には関係ないでしょ。それより上級生の方は、みだりに下級生の教室に近寄らないで下さい。これ以上付き纏う様なら先生に申告しますよ」
「…!」
「好きで付き纏っている訳では無い。大体、携帯で呼び出すと必ずお前が妨害するから、わざわざここまで来てやっているんじゃないか」
何だか詰まったような白樹君の事は置いといて、とりあえずは目の前のこの男をどうにか撃退しなきゃ。
「当たり前じゃないですか。友美をわざと囮に使う様な人物に、安心して彼女を任せられるわけないでしょう。近寄らないで下さい」
「だからっ、その話はもう良いんだってば!ちゃんと説明してもらったし、ちゃんと守ってもらえたもの!だからもう良いの!櫻ちゃんも許してあげて、ね?」
あげて…、ってのも何か変だが、私は許す気なんて無いよ?
「そうやって友美がホイホイ許すからつけ上がるんだよ?私は許せないね。何でも許せる友美だから、これくらいの事は許せるだろう、なんて、勝手に線引きされちゃ堪らない。一歩間違えば彼女、死んでいたかもしれないんですよ?」
教室がざわめく。
何か事件に巻き込まれたことは知っていても、何があったか詳しくは知らないから、この発言は確かに驚いただろう。
まあ、別に隠す事じゃないし。空条は知らんが。
「死んでいたかもしれんのはお前の方だろう。もしくは、お前の行動のせいで、だな」
ぐっ
今度は私が言葉に詰まる番だった。
確かにあの時は友美の所に一刻も早く辿り着いて、彼女の無事を確かめることが最優先だったからな…。
お互い無言でにらみ合う。
「邪魔だ。どけ」
「お断りします」
まるで荒野に立つ決闘者の気分だ。
「ふん、先輩相手に礼儀をどこかに忘れて来た様だ。あまりに度が過ぎる様ならこちらにも考えがあるぞ。…そう言えばお前は、この前も何やら無礼な発言をしてくれたのだったな」
ふと空気が変わる。
何の事だ?ん?友美が誘拐されたって分かった時のアレ?
まくし立てた事は覚えてるけど、正直何を言ったか覚えてない。
「無礼?何て言ってましたっけ?」
私の発言に、白樹君がぼそりと言った。
「ハゲてメタボになって××××」
「そうそれ!」
思わず反射的に返してしまう。……あれ?
そのまま何も言わずに白樹君を見つめる。
すると白樹君が溜息を吐いた。
「…その、何でいるのって目で見るの止めてくれない?」
「え、でも、いる理由、無いよね?」
だって、関係無いんじゃなかったの?
「……もういい」
そのまま白樹君は去って行った。
気分悪くしたかな。
でも、こっちも好感度下げてる最中だから。
悪いけど、3月の終業式まではこれで行くからね。
「櫻ちゃん!もう、最近おかしいよ?」
「おかしくないでしょ。私は友美の幸福と安全の為に」
その言葉に、友美がキレた。
「今の櫻ちゃん、お父さんと一緒だよ!過保護すぎる櫻ちゃんの言う事なんて、わたしもう聞かないから!」
涙目?
それは一瞬の事だった。
たたたっ、と空条先輩の元へ駆け寄って、そのまま手を取り教室から飛び出して行ってしまった。
呆然とする私は、それを止める事も出来なくて。
一瞬後に、我に返る。
「友美が反抗期だと!?おのれ空条め、××ね!!」
「はいはい、それ位にしとこうね?」
なおも止めに行こうとする私を引き止めたのは、いつの間にか現れた椿先輩と観月先輩だった。
「行くぞ」
え?
私は、そのまま二人に、屋上のいつもの場所に連行されて行ったのだった。
屋上には、既にお茶会の準備がされていた。
「あの、これは一体…」
今日は定例茶会じゃ無かったよね?
「うん。何があって、どうしてこうなったのか、ちゃんと聞いておこうと思ってね」
にっこりと笑う観月先輩には妙な迫力があって、どうにもこの状況から逃げられそうに無かった。
「はい、これとこれとこれとこれ!キリキリイライラしている時には、やっぱり甘いものだよ!」
東雲君がケーキを盛って寄越す。
いや、そんな食えないし。
……気を使って、くれているんだろうな。
「央川さん、最近怒ってばかりだったからさ、お茶でも飲んで少しマッタリした時間を持った方が良いんだよ、きっと」
お茶を淹れてくれたのは木森君。
てっきり帰ったかと思っていたのに、いつの間に。
でも、こうやって他のメンバーと一緒に何かやろうって自主的に動くようになったって事は、木森君もティーパーティの一員だって自覚が芽生えたってことだよね。
内容はともかく、それは素直に嬉しい。
…私の事を案じてくれてるってとこも。
「明日葉の件は悪かったと思っているが、必要な事だったとも理解して欲しい。お前にとってはムシの良い話かもしれないが。もう、あんな風に危ない目には合わせないと約束する。どうかこのまま二人の事を見守ってやってくれないか」
珍しく椿先輩が饒舌だ。
でもその内容が、空条先輩のフォローだというのが、何事もまじめな先輩らしい。
「お前最近様子がおかしいだろう?言うだけでも心が整理されるって事もある。まずは口に出してみろ」
案じてくれているんだなあ、という優しい口調で大寺林先生に促され、私は例の事件発生前後からここ数日に至るまでの事をメンバーに語った。
「まあ、明日葉も悪いとは思うけどね」
観月先輩が苦笑した。
「あの二人は、もうほっといてもくっ付いちゃうんじゃないかな?」
「そーそー、今さら妨害してもただのお邪魔虫になっちゃうだけだって」
……それじゃ困るんだけど。困るから妨害しているわけで。
「ともかく、篠原とは仲直りして来い。今回のは央川の過干渉が原因なんだからな」
やっぱやりすぎたか…。
でも、あれだけしても空条先輩引かないんだもん。
そりゃ、ヒートアップする訳で。
「白樹の事だって、そう邪険にする必要は無いんじゃないか?」
椿先輩はそう言うが。
「邪険にしてるつもりは無いですよ。向こうが絡んでくるんです」
「白樹君後悔してるんじゃない?きっと、つい口に出しちゃっただけなんだよ」
「無かった事にしたい、という話は今のところ聞いてない」
クラスの様子を知る木森君の、フォローとアドバイスをスルーする。
後悔してる?冗談じゃない。
言葉質は取ったのだ。こうなったらとことん利用させてもらうまで。
私にとっても、白樹君の“あの言葉”は都合が良い言葉だから。
「櫻ちゃんて結構男の子に対しては線引くタイプだけど、穿った見方をすれば今回のって、“実は好きだった男の子に、絶交を言い渡されて逆切れしてシカトしてる”状態なんじゃないのかな~?」
は?
ナニソレ。
「白樹はともかく、好きって様子は見えなかったがなあ」
「でも、最近仲良かったのは確かですよ?アイコンタクトっぽい事してたこともあったし」
東雲愉快犯の突然の暴言に、大寺林先生と木森君がほのぼのと続ける。
いやいやいや、内容がほのぼのじゃねえ!死活問題だから!
特に木森、プライベート晒すなああああ!!
「なるほどねー。それなら納得、かな」
「そう言った意味で“こだわる”理由になるな」
先輩方も何納得してるんですかっ!
「ち、違います!あくまで向こうが接触拒否してきたからであって!」
「ん~、でもさ、それ僕たちだったらそゆことしないでしょ?」
東雲君が指摘する。
そりゃまあ、しないけど。
だって、そもそも好感度上がって無いし、イベント起きて無いし。
嫌われる意味が無い。
「じゃあさ、考えてみてよ。僕ならどう?」
「へ?」
「僕と付き合って、って言われたら君、どうする?」
へ!?い、いきなり何ですか!観月先輩!…そ、そりゃ勿論…、
「じ、実利を取るか体重を取るかで悩むと思います」
ぶはっ
周囲が一斉に吹き出した。
ゲラゲラ笑われる。
え?今の別にウケを狙ったわけじゃ無かったんだけど。
「ひー、ひー、じゃ、じゃあ僕はー?」
「お断りします」
「舜 殺!」
再び巻き起こる爆笑。
え、何、何のコントなのこれ。
「じゃあ僕」
「え!?えー、いや、友達、だよね?」
「あくまで“良いお友達でいましょう”ってか!」
愉快犯笑いすぎ。
「俺はどうだ?」
なんなの、この告白大会。
えー、でも、椿先輩かあ…………。
「あ、悩んだ」
「まんざらでもないのか」
「櫻ちゃん、三十朗みたいなのが本来の好みなのかな?」
「先輩ずっこーい」
「アハハ…」
いい加減むくれていいですか。
人をダシにして遊ばないで下さいよ、もう。
「なら俺はどうだ?大人の魅力で悦ばせてやるぜ?」
先生まで攻略中に見せる、口説きモード(後出し「な~んちゃって」の誤魔化し付き)で迫ってくる。
…そう言う事言う悪い大人には反撃です。
「元カノときちんと切れてからお越しください」
「!?おまっ、何で知ってるんだ!」
知ってるよ。元プレイヤーであるこの私と、この学園の女子の情報網なめんな。
「ちょっと…」
「ねー」
「うむ」
ひそひそと囁き合う他のメンバー。
「ちょっ、待て、いや違うんだ!」
先生の株、大 暴 落。
いたいけなジョシコウセーからかうからですよ。フン。
「まあ、ともかくね?」
観月先輩が仕切り直した。
「自覚が無かったかもしれないけど、櫻ちゃんは彼の事かなり気にしてると思うよ、って事が言いたかったんだ」
そりゃ気にしてますよ?何たって現在運命の分かれ道真っ只中なんだから。
「だからね、絶交は止めて、もう少し素直な気持ちで接してごらん」
う~ん……。
この意図的な“絶交”は、好きだから、とかそういう理由じゃないんだけどな…。
まあ、皆にも迷惑かけてるみたいだし…、何より白樹君が…。
やっぱ悲しそうなつらそうな顔を見るのは、こっちだって来るものがある。
きつく当たってる自覚はあるから、こっちも精神的負担が、とか、色々考えてしまう。
こちらとしては理由があってやっている事だけど(その理由も大概アレだって事も分かってるけど)、周りから見たら、私が悪い様にしか見えないだろう事も分かってる。
白樹君のはフラグを折った後の、念を入れての好感度下げプレイのつもりだけど、今そのプレイする必要あるのかな…。
「だって白樹君が、もう関わるな、って言ったんですよ」
最後の抵抗を試みたものの、漏れ出たのは自分が思ったより力の無い声で。
「央川さんのはそれを言い訳にしてるだけでしょ?」
木森君に突っ込まれた。…やっぱ、ばれるよなあ。
友美にも散々言われたし。
ここまで言われて、これ以上続ける意味あるのかな。
そう思うけど、心の奥で前世が囁く。
……このまま手をこまねいていて、万が一にでも告白される訳にはいかない、と。
「それでも私は、誰かと個人的なお付き合いする気は無いですから」
「…………」
皆黙ってしまった。
「央川、「好きに“なる”」んじゃない。恋は“落ちる”ものだ」
先生に頭を撫でられそう言われる。
何とも含蓄深いお言葉を頂いてしまった。
多分、皆の考えている事と、私が考えている事の間には、決して小さくは無い隔たりがある。
どこか噛み合わないそのずれを認識しているのは、きっと私だけ。
でも、先生の言ったその言葉に、人生2週目のサバ読み女子高生より、本物の恋愛を知っている先生は、精神的にはずっと大人なのかもしれない、と。
そんな風に思った。
と、言う訳で擬似ハーレムでござい。
主人公の方も、心情的に相当ぐらついております。
常識的に考えてこんなプレイ、ゲームじゃなければ長続きする訳無いですよねえ。
対白樹ツンターンは後1話。
ところで主人公、何か大事な事忘れてやしないかい?




