篠原友美誘拐事件 前編
櫻ちゃんが ブッ キレた。
Attention!!
今回本当に色々暴走しています!
内容として不自然にならない様にはしたつもりですが、
主人公の言葉づかいを始め、行動が相当ブッ飛んでいます。
こんなのありえねー!!等々あるかと思いますが、
ご承知置き下さいませ。
「何やってるんですか先輩!?」
あのメールを確認してから、速攻で空条先輩の携帯に電話した。
幸いにもすぐに繋がったが、開口一番先輩を責める私に対応する先輩のその態度は、ずいぶんのんびりした様子に思えた。
『いきなり何なんだ、央川』
「なんだじゃありません!友美はどうしたんですか!?」
『篠原か。待ち合わせの場所に来ない様だから、電話をしてみたが繋がらん。何かあったのか?』
この一言にブチ切れた。
「何かあったのか、じゃねーよ、このクソッタレ!!」
「ふざけんなてめぇ、一体何のために情報流したと思ってやがる!この役立たず!友美拉致られてんだよ、気付けこの野郎!馬鹿じゃないの!?もし万が一友美が死、んだら、一生恨んでやる!」
ちょっとだけでも想像して涙目になる。
声が震えたのが伝わったのか、先輩が焦った声を出した。今さらおせーんだよ、このカス!
『お、おい、待て、死ぬと決まった訳じゃないだろう』
「待てるかバカ!可能性があるだけでこっちは十分大問題だ!!」
『…大体、場所が分かっているのか?』
「ハァ?!そんなの鳥南市の廃倉庫に決まってっだろ!?場所も特定できてないとか遅すぎんだよ、このタコ!」
『お、おい、』
『…明日葉、どうした?』
先輩の後ろから椿先輩のくぐもった声が聞こえた気がしたけど、今の私には気にする余裕なんてなかった。
「もういい、あんたなんかに頼らない。小父さんと一緒に友美助けに行く!空条先輩のドアホ!……フラグ成立なんて、させない!ハゲてメタボになって××××!」
構わず電話をぶっちぎる。
次に掛けたのは小父さんの会社の電話。
数回のコールの後、女性が出たが、自分は家族の者で緊急事態だと伝えると、素直に小父さんに引き継いでくれた。
『どうかしたのかい?』
「小父さん、友美が誘拐されました」
『な、なんだってー!?』
「良いですか?小父さんの助けが必要なんです、落ち着いて聞いてください。友美は鳥南市の廃倉庫にいます。ただ、その何処にいるのかまでは、私にも分らないんです。なので、GPS検索できますか?さっきメールがあったから、運が良ければまだ電源入っているはずです。どんな手段を使ってもかまわないので、場所を特定して下さい。私は今から倉庫に行きます」
『ちょ、待ってくれ』
「待てません。とにかく友美が危ないんです!命の危機なんです!こうしてる間にも…っ!」
『わ、わかったから落ち着いて、今警察呼ぶし、そっちに向かうから』
「場所は鳥南市の廃倉庫です」
『……分かった…。とにかく気をつけて、それと絶対に、絶対に1人で突っ込むような真似はしちゃいかんぞ、そのまま倉庫の外側で待機していてくれ、…君にまで何かあったら拓さん(うちの父です)に何て言えば良いのか…』
「分かってます。小父さんも」
『ああ、わかった。こっちは任せておいてくれ。それと警察に連絡入れたらすぐに向かうから、くれぐれも、くれぐれも、無茶するんじゃないぞ!』
「はい!」
こういう時の小父さんほど頼りになる者はいない。
私は携帯を切って、とりあえず駅に向かって走り出した。と、そこへ、
「待って、央川!」
後ろから白樹君が呼び止めた。
「篠原誘拐されたって本当か?」
……すっかり存在自体忘れていたよ。
「本当、悪いけど急いでるから!」
じゃっ、と片手を上げて立ち去ろうとするも、再び止められる。
「待って、鳥南市だっけ?今親父の会社に電話して、近い所から車回してもらうから。その方が早い」
言いながら携帯を操作する。
「ありがと!白樹君、本当に助かるよ!」
この際だ、使えるものは何だって使おう。
素直に感謝を述べると、白樹君は片手をあげて応えた。
「ここの何処かにいる筈なんだけど…」
校門から出て少し先にある大きな交差点で、白樹君家の会社の車と待ち合わせをした。
すんなり廃倉庫まで着いたのはいいんだけど、正直こっから先が分らない。
イベント専用背景があったから知ってたけど、正確には倉庫じゃなくて倉庫群、だ。
この中のどの建物の中に友美がいるのか、一々探している時間も惜しい。
こうしている間にも、友美がピンチになっているかもしれないんだから。
もう一度小父さんに電話する。もう会社から出ているだろうから、今度は携帯に直接。
「もしもし、小父さん」
『ああ、櫻ちゃんか、もう着いたのか?』
「ええ。友美の居場所分りました?」
『ああ。こっちももうすぐ着くよ。今独りかい?』
「いえ、友人が一人付き添ってくれています」
そう、何故か白樹君も一緒についてきたのだ。
一人でも何とかなる、もう帰っていいよ、って言ったのに。
……誘拐だって言っちゃったし、心配してくれたのかな?
『そうか。ともかく、未成年二人に突入させるわけにはいかない。何があるかわからないからね。私が到着するまでそこで待機していてくれ』
「了解しました」
小父さんの手腕は大したもので、この短時間で本当に友美の居場所を突き止めていた。
「後は警察を待って…」
「行きましょう小父さん」
「櫻ちゃん!?」
「央川!?」
とにかく焦っていた私は、その言葉に頭を振った。
「中がどうなっているのか分からない現状、放置しておく方が危険です。……空条先輩に位置を教えておきますので、私達でせめて時間稼ぎしましょう」
「櫻ちゃん…」
小父さんの心配はもっともだが、私の脳裏には、あのバッドエンドの一面真っ赤な画面がさっきから張り付いて離れない。
…このまま黙ってここで指をくわえている訳には、いかない!
悔しいけど、正直本気で悔しいけど!…空条先輩なら絶対何とかしてくれる。…それだけの力ある人だという事は分かっている。
それに、イベント的にも彼が間に合えばどうにかなる筈だ。…きっと。
「それじゃ、行きますよ!」
「応!」
小父さんがややヤケクソ気味に3番目の倉庫、その扉をがたん、と大きな音を立てて開けると、驚いた表情の黒ずくめの男達、それに主犯の若い男女二人と、ずっとずっと逢いたかった友美がこちらを向いた。
「「友美っ!」」
反射的に駆け寄ろうとしたが、その腕を横から掴まれ、私はその場でたたらを踏んだ。
誰!?
黒づくめの男の仲間でもいるのかと思って振り向いた先には、白いジャケットを着た細身の長身の男。
……最悪だ。
「やれやれ、とんだ闖入者さんだ。大人しくしててくれよ?」
私の腕を片手で掴み、もう片方の手で小父さんを捕まえている。
白樹君は彼の相方であろう女性に牽制されていた。
……隠しの天上岬。彼が誘拐犯に与していたなんて。
……っとに、つかえねーな、あのクソ空条!
ギリギリと歯を食いしばる。
「明日葉ではないのか。かまわん、殺せ」
「ダメっ、その3人に手は出さないで!」
誘拐犯の一人、男の方の言葉に、友美が即座に反応する。
「うるさいっ」
「友美!私達の事はいいから、何も言わないで黙ってて!」
庇ってくれるのは嬉しいけど、逆上した犯人に何をされるか分からない。
お願いだから大人しくしてて!
ご丁寧に縛られた友美のそばには、いつだったか見た事のある気のする男と、自称婚約者の例の七星先輩がいた。
男は確か、…文化祭で空条先輩に因縁つけてた男だ。ええと、名前……なんだっけ?
……ま、予定通りは予定通りなんすけどね。
ただ唯一の問題は…、男の方がナイフ持ってるって事だけで。
「貴女が呼んだ助けはこの方達ですの?まったくもって邪魔ばかりしてくれます事。わたくしは、明日葉さんをお呼びしなさい、と言った筈よ。…でも、ふふ、こう捕まってしまっては、助けようにも助けられませんわね?」
そう言った七星……先輩、はもう良いかな。とにかく彼女の手には、友美の携帯が握られていた。
にゃろう、返せ!思わずもがく。
「はいはい、大人しく、ね?」
うごふ、無駄に耳元で美声聞かせないで下さいよ、天上さん。
思わず動きを止める。
首筋ぶわってした、ぶわって。
「貴女さえいなければ、わたくしが空条の女当主…。ふふふ、小娘ごときがわたくしの邪魔をするからよ。良い経験になったかしら?…でも、これでお終いにしましょう」
そう言って彼女が友美の携帯を放り捨て、新たに手に持ったのは、拳銃。
やばいやばいやばいやばいやばいやばい!!
この状況でモデルガンでした、などと夢を見るつもりは無い。出来れば夢であってほしいけど!
先輩マダー!?畜生おせーよ!!
もがいてももがいても、天上に拘束された手は放れてくれなくて。
「わざわざ愛想振りまいてやったのにあの朴念仁。よりによってこんなちんちくりんの小娘を選ぶなんて、許せませんわ」
……本音そこかよ!知ってたけど!まさか本気で思ってたとはね!
でもだからって、そんな理由で友美を害そうだなんて、絶対に許すか!!
「そんな事だろうと思ったよ。空条先輩が理由も無く女性を無視するなんて常なら考えられないもんな。あーあ、これだから女って…」
すごく、とてもとても冷たい声が傍らから聞こえた。
実感籠った白樹君のセリフに、思わず視線を合わせる。
まだ何か言いかけたのを尻すぼみに止めたのは、私と友美がいたからかな?
そうそう、世の中友美だっているんだよ、って。
「お黙りなさい、白樹の子倅!空条にくっついているしか能の無い癖に大きな顔を!ふん、貴方もこの小娘の信奉者という訳ね?どいつもこいつも人を見る目がなってませんわ!!」
いや、それを言っちゃお終いだと思うけどな。
状況も忘れ思わず遠い目になる。
「なって無いのはあんたの方さ。……俺達がここにいる時点であんた達終わってるって、何で気付かないかな?」
白樹君のその言葉には男の方が応えた。
「ふん、弱い立場の者がいくら吠えようと無駄だ。俺達が空条を手に入れれば全てが手に入ったも同然。今していることなど些細な事にすぎない。すぐ揉み消せる」
この根拠のない自信は、一体何処から来るんだろう。
この人達だって、チャンスはあった筈だ。
ここはゲームの世界でありながら同時に現実でもある。
この人生を選ばないという可能性は、きっとその辺に転がっていた筈だ。
現状に満足せず自らの力で何かを成し遂げようとする、その努力もせずに、こんな誘拐、あるいは殺人なんて安易で後戻りできない様な手段を選び、犯罪を犯さずに済む道が。
……でも、もう遅い。
……こんな状況なのに、危機はまだ去った訳では無いのに、前世の私と重ね合わせ、何故か哀れな気持ちさえ生まれてしまう。
「(手遅れだな、俺達が社の車を使ってここへ来た事で、白樹の会社…親父にもこの話は伝わっている筈だ。…今頃手を切る算段でもしているんじゃないか?)」
白樹君が何かぼそりと呟いたみたいだけど、小さすぎたせいで私にはよく聞き取れなかった。
仕切り直す様に七星が、殊更に声を張り上げて言った。
「とにかく、和都さんには申し訳ありませんけど、わたくしこの娘を生かして返すつもりは御座いませんの。ついでにそこの小娘もね。さ、覚悟なさって」
私と友美を交互に見やり、にっ、とその真っ赤なルージュをつり上げた。
「さ、櫻ちゃんには…!!」
「良いから黙ってて!!」
友美の悲鳴を遮る私。
余計な事言って残り時間を無駄に縮めるのは愚作。
ああもう早く、何か、何かチャンスさえあれば……!!
「と、友美~」
打つ手無しのまま、格好良い小父さんタイム終了か、と思ったその時、
「ここか」
「おい、いい加減そいつを離せ」
おっせーよ!先輩方!
ようやっと空条先輩と、椿先輩が到着した。
「うわー、予定ぐだぐだ…」
「え?」
背後で、天上のそんな呟きが聞こえた。
白樹君が何やら反応してたみたいだけど、私には何があったのか良く分らない。
でも、とりあえず注意はそれたらしい。
今のうちっ!!
手を振りほどいて友美に駆け寄り抱きしめる。ああ、友美だ、友美が無事でよかった!
「友美っ!!」
「櫻ちゃん!」
友美は動けないから仕方ないけど、手が自由だったら、きっと抱きしめ返してくれていただろう。顔を覗き込んで無事と安全を確認する。
「怪我はない?殴られたりとかしなかった!?」
「う、うん。縛られただけ、大丈夫だよ」
「本心ではありませんのよ、ちょっと脅かそうと思っただけで」
後ろでは七星のバカ女が、現れた空条先輩に必死でおべっか使い始めた。
……本心じゃない人は本物の拳銃なんて用意しないと思う……。
幾分冷たい目で女の人を見やった時、入口の方から途方に暮れたような声が聞こえた。
「うわー、人質が二人」
あ。
頭を抱えた天上に、私もやっと思い至る。
友美の事しか考えてなくて、一番やっちゃいけないことやっちゃった?
「あー(てへ)」
思わず頭が真っ白になった私は、先輩方を見て無自覚にへらっと笑ってみせる。
ご、ごめんつりー?え、ダメ?
続きます。




