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3学期開始!

怒涛のイベントラッシュ、いっきまーす!

 あれから取り立てて何か事件があったわけでもなく、私達は無事に新学期を迎えることができた。

 私の家族の方も、無事向こうに着いたらしいと連絡があった。

 少し寂しいけど、その感覚も日々の忙しさに紛れてすぐに薄れてしまうんだろう。


 友美はこの冬休みの間、何度か空条先輩と出かけていた。

 クラシックのコンサートだとか、オペラ公演だとか。

 それ、モロ先輩の好みですよね?友美寝ちゃうんじゃ…。

 そんな事を思いながら友美の話にうんうん頷いていたら、まあ、寝はしなかったらしいんだけど、実際やばかったらしい。君、ゲームの頃からそうだったよね?

 まあ、空条先輩の趣味は高尚すぎてついてけないところあるからなー。

 私も興味がなければ似たり寄ったりの反応だろう。

 それでも、彼女は先輩の趣味について行こうと一生懸命だったので、微力ながら手伝うことにした。下調べなら任せろー!


 そんなこんなで3学期も始まって1週間ほど経った週末。

 いわゆる半ドン、というやつだ。

 こちらを振り向いた友美が、突然こう言い放った。

「あのね、明日葉先輩がこれからミュージカル連れてってくれるって!」

 たった今切ったばかりのケータイを片手に、キラキラした瞳でこっちを見つめている。

 うっ、すいません、…眩しいです。照明さんちょっと明る過ぎやしませんか。

「ミュージカル?」

「うん、この間櫻ちゃんと話してたやつ」

「ああ」

 内心のどうでもいい小芝居を表に出すこと無く、友美の話に相槌を打つ。


 ここ最近の先輩とのデート先であるオペラやクラッシックに馴染みが無いなら、もう少し友美の分かりやすいものにすればいいんじゃないかな、とそんな話をしたことがあった。

 名のある劇団主宰のミュージカルなら、先輩が婚約者連れでも違和感ないだろう。

 むしろ可愛い婚約者におねだりされたと、微笑ましく思われるかもしれない。


「何見に行くの」

「えっと、『獅子王』」

 友美が行くのはA席でも万単位で吹っ飛ぶ、有名な劇団のミュージカルだ。

 正直素直に羨ましい。

「まあ、ベタだけど良いんじゃない?私は『美女と狼人間』の方が見てみたいけど」

「えーっと、わたしも実は…」

 てへへ、と照れ隠しっぽく笑った。

 ……おのれ、可愛いんだっちゅうの。


「まあ、分かったよ。小父さんには私からも話しておくけど、遅くなるようなら必ず連絡しなさいね?それと、空条先輩だから大丈夫だとは思うけど、お泊りだけはダメ、ゼッタイおかーさんゆるしません

「そ、そんなことしないよ!」

 これだけは言っておかなくちゃ、と凄んだ私に、友美は顔を真っ赤に染め、ぶんぶんと手と首を横に振って否定した。

 君が大丈夫でも、先輩が大丈夫じゃないかもしれんでしょうが。

 それに先輩以外だって何してくるか分らないんだよ?

 時期的に、恐らく例のイベントが起こるなら今日だろう。

 そういう意味では先輩の事は信用するけど…。


「ほんっとーに気をつけて行ってきなよ?何かあったら必ず私に連絡すること。何があろうと、何処にいようと、必ず駆けつけるから」

「う、うん、分かった」

 本気(マジ)な私にさすがの友美も引き気味だ。

 でも、これくらい脅かしておけば、ちゃんと連絡するだろう。


 …その時はそれくらいにしか思っていなかった。


 この発言のせいで、後に大事になるとは夢にも思わずに。


「行ってらっしゃーい」

 友美を見送りふう、と息を吐く。

 カバンを持って図書館へ。

 本を返したら私も帰ろ。



「あの、ちょっと良いですか?」

 図書館を出たところで、クラスの女子の子に声をかけられた。

「?何かあった?」

「あの、話したい事があるんですけど…、ちょっと良いですか?」

 ……あれ、デジャヴ?

 

 いつぞやの、白樹君のことを聞いてきた女子が結構強引に連れ込んだのは、校庭の片隅にある体育用具室。

 片隅だけに普段は目立たない小さな小屋みたいな場所だ。

 そこに今回は仲間を呼んだらしい。

 えー、逃げられないじゃないですかー。うわー、心底帰りてー。


「あんたさー、何で呼び出されたかわかってる?」

 リーダーの女子が口火を切った。

「さあ、なんでしょう」

「とぼけんのもいい加減にしなよ!」

 想像はついたが確信があったわけじゃないので素直に聞いてみたところ、逆ぎれっぽく怒られた。えー。

「……白樹君の事?」

 呼び出した彼女の顔を見て言うと、相手はぐっと詰まったような表情をした。

 そして、思いの丈をぶつける様に私を責め始めた。


「……何にもない、って言っておきながら、白樹君とベタベタするの止めてくれませんか。明らかに友達以上に仲良いですよね?狙ってるなら狙ってるって、あの時はっきり言えば良かったじゃないですか!そんな、中途半端な態度、見ててイライラするんですっ…」

 気の強い子のグループにいる下っ端扱いの気の弱い子、かと思いきや、うーん、こ れ は…。

 同じ穴のなんとやら、的な?


 遠い目の私に構わず、彼女は話し続ける。

「……私、白樹君の事好きです、貴女が彼のこと好きじゃないって言うんなら、もうこれ以上彼に付き纏わないで下さい!」

 ……付き纏うって、ストーカーか何かか私は。

「……出来るならそうしてるよ、でもクラスメイトだし同好会も同じなんだから、ある程度の接触は仕方ないと思うけど?」

 フラグを何とかして折りたいと思っているのは、こっちの方なんだけどねえ…。


「同好会なんて辞めればいい話でしょ!?それくらいわかんないの!?」

「彼女と交代すればいいのよ!今すぐそうしなよ!」

 取り巻きが絡む。うっさいなあ…。後面倒。

 大体それ、交代した彼女を足がかりに自分たちもお茶会に参加しようって事でしょ?

 空条先輩とくっつきそうな友美には手を出せなくても、私なら良いって判断なのか。

 …まあそんなもんだよね、私の立場なんて。…うん、知ってた。


 それにしても、文化祭のあれっきりで終わったもんだと思っていたのに…。失敗したなー。

 ついでに言わせてもらえば、私自身は、取り立てて自分から仲良くしているつもりは無いんだけど…。友美絡みで注意して見てる、ってとこ以外は。

「交代は先輩達に聞かないと私の独断では決められないよ。できるだけ会話しないって言うならできるけど」

 譲歩案を出してみる。

 …ちなみに本人に理由を聞かれた場合は、素直に全部話すからね?


「なにそれ、馬鹿にしてんの!?」

「別に馬鹿にしてるわけじゃ、大体、あの時も言ったけど、仲の良い友人くらいしか思ってないよ」

 火に油かなー、と思いつつ反論を試みる。

 不意に思いつめた声色で、一見おとなしそうなあの彼女が言った。


「信じられない。だって、そう言いながら仲良さそうだったじゃない、あの時からずっと。私見てたんだから!」

 え!?何、突然!?

 いきなり大声を出された。

 あの時って、前にも話した夏の旅行の話?

 えー!?どんだけ根に持つんだよ!

「教会で、二人っきりで内緒話してた!あんな、あんなの、まるで二人だけで結婚式挙げたみたいな、…私見たんだから!」

 そっちー!?えー!?原因それかー!?くっそー、まさかあのイベントがここまで足を引っ張るとは!?ていうかそんな泣きそうな顔して言われてもー!?むしろ私が泣きたいー!!

 いくら何でも飛躍しすぎだからね、言うに事欠いて結婚式って!頭ん中お花咲いた発言だから!お願いだから正気に戻ってえええ!!


「もういいよコイツ、やっちゃおう」

 イライラした顔のリーダーが何か合図した。

 え、なに、


 がたんと背後の扉が開いて、どんっ、と突き飛ばされる。

「ぇ、わっ」

 たー、とか呻きながら、段差に足を取られ見事に尻もちをついた私の目の前で、両開きの扉が音を立てて閉まって行った。あ、しっかり鍵閉められたし。

「いこっ」

 リーダーの子の声と、「ばーかっ」って誰かの声を残し、数人分の足音が去っていくのが分かった。


 えー…、まじ?



 ……まあ、お坊ちゃんお嬢ちゃんの通う学園の生徒がやることなんて、実害ある方が珍しいよね。…一部除くけど。

 こんな事で精神的ダメージ喰らうとでも思ったんだろうか?

 ぬるいっすよ。

 大体鞄あるし、ケータイ取り上げられた訳じゃないし。

 どうすっかなー、とりあえず友美に連絡…は、駄目だ。ヤツはデートのはず。

 白樹君に連絡出来なくはないけど、さっきの今で連絡…?

 いや、なんか、それはそれで、彼に向ってどういう顔して良いか分らない。

 笑えばいいの?

 それにしても、まさか白樹君の事好きな女子に嫉妬されて倉庫に閉じ込められるなん……、って、ああ!?


 これ、白樹君のイベント!?イベントって言うか、前フリ!?

 え、って事は、文化祭のアレも、遡って夏休みの教会のアレも、このイベントの前フリだったって事!?


 わ、わ、わかるかー!!!


 自慢じゃないが、言わないだけで似たような呼び出しは何回かあったんだよ!

 いちいち覚えてられるかーーー!!

 大体教会イベントって、どんだけ前から手をつければよかったの!?

 くそー、何処までも足を引っ張りやがってー!くあああああ、あの時の自分を張り飛ばしてやりたいいいいい!!!!

 とりあえず白樹君に連絡はボツ!

 このまま白樹君が知らなければフラグ自然消滅だもんね!頼むから気付くなあああ!

 しかしそうなると、誰に助けを求めるべきか…。

 友美のお父さん(おじさん)はまだこの時間だと仕事だし、小母さんは―、微妙だな。買い物の可能性もあるし。でも居たとしても、いきなり閉じ込められたんで救助プリズ、って言ったところで、小母さんも困るだけだろうし…。

 ……よし、いったん保留。

 とりあえず、差し迫った事情は無いから、少し待ってみて、誰も来なかったら小父さんに連絡、かな?


 ……あ。……日が差し込んでてぬっくい。



 がたん、と音がした。

 ふと気がつくと扉が開いていて、外に誰かいるっぽい。

 ……怒鳴り声?


 時計を確認すると、セットしたアラームが鳴るまで後15分ほど。

 気づけば周りは早くも夕方のオレンジに染まり始めていた。

 カバンを持って外へ出ると、そこにはさっきの彼女と白樹君が立っていた。


 ……あの、彼女、すでに涙で顔がぐちゃぐちゃになっておられるのですが。


「……」

「あのさ、何ですぐ俺に連絡しないわけ?携帯持ってたんでしょ?まさかこの人の言うことまともに聞いたとかじゃないよね?閉じ込められて爆睡とか、どんだけ神経太いんだよ」

 いや、女の子泣かせたって睨んだのは私の方なんですが、白樹君。

 何故今君からねちこら怒られなきゃいかんのかね?

 つか、こういう気付かなくて良い時に限ってどうして気付くんだよ、むー。


「緊急事態だって判断しなかったからね。夕方になったら篠原の小父さんに迎来てもらうつもりだったし」

「はあ、あんたってたまにどっかズレてんだよな。もう少し慌てたらどうなんだよ」

「不審者も変質者も絶対来ない安全な密室で、救助も必ず来るって分かってるんだよ?慌てる必要がどこにあんの?」

 言い返すとむっとしたみたいだった。

 ああ、そうか。理解したので怒りも緊張もいったん解除。

「心配してくれたんだ?ありがと」

 笑顔は添えるだけ。


「別に、心配ってほどじゃねーよ。ただ、このバカのしでかした事であんたに迷惑掛けたから、悪い事したなって思っただけだ」

 バカ、の部分で彼女を睨むと、見られた方はびくっとした。

 あーあ、本性バレ(キレちゃっ)た。


「ふーん、悪い事した、ねえ?そう言えば君、貸し借り作るの嫌いだったもんね?」

「へえ、良く知ってんじゃん」

 わお、いつもの笑顔なのに爽やかさ0%ですよ、兄さん。

 完璧暗黒面に落ちやがった。はっはー。

「だからって、怯えられるほど泣かすのは良くないよ?」

「集団で追い詰めて逃げ場なくして閉じ込める方がよっぽど悪質だね」

 うわ、ばっさり。

 まあ、こればっかりは確かに反省してもらわないと。

 1対1ならまだ応援する気にもなるんだけど、集団で来られちゃね。

 それに何より、白樹君(ほんにん)にバレた。

 白樹君、こういうの大っ嫌いだったって言ってたもん。(ゲームで)

 フォロー?無理無理w


「……わ、私は、ずっと、ずっと白樹君のことが、好きで!」

 意地というか、ここまで来たら好きを免罪符にどうにか量刑を軽くしてもらおうってことなんだろうか。

 でも、そんな事は今の白樹君に通用するはずもなく。

「俺は君のそういうとこ嫌いだよ」

 またまたばっさり。これでいて、笑顔は崩さないって言うんだから、どんだけガードが固いのかって話だ。

 案の定相手は口をポカンと開けて絶句してる。

「大体ね、俺の為に好きになりそうな人を閉じ込めました、だから私を好きになってくださいとか、あり得ないよね?何、君、思考おかしいの?」

 ちょ、それ言いすぎ。

 ……でも止めないけど。

 私だって閉じ込められた恨みが無い訳じゃないんだ、是非とも懲りて私達に関わらないで下さい。…誰かのセリフじゃないけど。


「あ、あ、…あの」

「何?まだ何かあるの?先生の所に行くなら付き添い必要ないでしょ?それとも誰かと一緒じゃなきゃ職員室にも行けないような子供なの?」

「あ、」

 それが彼女の限界だった。

 くるりと踵を返すと、校舎に向かって走って行ってしまった。


「ご苦労様ー」

 説教モード終了と判断して軽い気持ちで労うと、すっごい目で睨まれた。な、何だよ。

「あんたもさ、馬鹿じゃないの?」

「何が?」

「呼び出しくらってホイホイついてくとこ。閉じ込められても焦らないとこ。相手に対して怒らないとこ。全部」

「全部って、ひどくない?」

「これが普通だよ。あんたって時々冷静すぎて気持ち悪い」

 があん。

 元2次元の住人に気持ち悪いって言われたー!っかー!ひっどーい!


「まあ、これに懲りたらもう2度と俺には近づかないことだね」

 その言葉に、すっと意識が研ぎ澄まされる。

 そうだ、イベントは続行していたんだ。


 今までフラグをうまく折り切れずに、ここまでずるずると来てしまった。

 “あの言葉”を逃せば、これから先、チャンスはもう無いだろう。


「さっきの子たちも言ってた。白樹君に近づかないで、って。でも何で君が言うの?」

「分かんないかなあ、こういうトラブルが起きるから迷惑だって言ってるんだよ」

 

 そして語られたのは、中学時代に付き合っていたモトカノの事だった。


 当時付き合ってた彼女は、実際には顔と金だけ目当てだったと言う。

 実際には「白樹君のカノジョ」というステータスも目当てだったんだろうと思うけど、そこまでは話に出なかった。

 で、その事を知った白樹君は見事立派に人間不信が成立し、友人知人の誰にもこっちに引っ越すことを知らせず、誰も知り合いのいないこの学園に来たのだとか。

 本人はそこまで言わなかったけど、モトカノさんも、さっきみたいな調子でこてんぱんぱんに言い負かして来たんだろうなー。


 って、それだけ!?他にもいろいろあんでしょうが、全部語れYO!

 いや、相当プライベートな話だから言いたくないのも分かるけど、あれ?ここで人間不信の原因全部分かるんじゃなかったっけ?これだけだと原因薄、ってなるじゃんよ!

 って、あああいかん、これから重要場面なんだ、集中しないと!

 集中!集中!

 早く来い来い!―――っ!


「だから俺はそういう面倒事は嫌いなんだよ。これまで当たりさわりなく人付き合いしてきたのに、あんたはそんなのお構いなしだ。悪いけど、ここまでにしよう」


「もう俺に関わるな」

「うん、わかった」


 こくりと頷く。


「―――――――ぇ?」




 っしゃあ、この言葉を待っていた!待っていましたとも!

 孔明の「いまです!」が聞こえた!いやもう、ばっちり!


 いーやっほおおおう!!フラグぶっちぎり大☆成☆功!!


 要件は済んだとばかりに白樹君に背を向け歩き出す私は、外に出さないだけで相当浮かれていた。



 その時の私は知らなかった。

 フラグをぶっちぎったという安堵と喜びでいっぱいの私が、とても大切な事を忘れていたという事に。


 ~~~~~~~~~♪



 その着信が、本当の始まり。


 メールを確認した私は、その浮かれた背中に氷水を流し込まれたかの様に凍りついた。

 それは、友美からの一通のメール。


 その本文の内容は、


「たすけて」







さて、ぶっちぎってみました、が…?



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