年が明けて~冬休み~
大接近!
何事も無かったかのように冬休みに入り、年を越し、年始を迎えた。
年末は弟妹たちとゲームしながら過ごし、年始には予定通り篠原家と央川家の合同で初詣に出かけた。
家族と篠原家の勧めを断る根性と勇気は、私には無かったのです。
振袖を着て綺麗に髪を結った友美は、そりゃあ可愛かったけれど、今年15になる妹も負けてないと思う。
欲目とかではナイヨ?
女子3人で記念写真を取る。家族にデジカメで撮ってもらってから、自分達用に写メで撮った。
この間弟ぼっち。
可哀想なので、弟も混ぜて子供達だけでもう一枚ずつ。
最近こういう時に抵抗するっていうのはあれか?羞恥心?
そうかいそうかい、君も微妙なお年頃突入直前って事か。
ふっふっふ、これはイジり倒せと言う事ですね?
不幸中の幸いと言うか、前フリか、前フリか!?と内心怯えていた白樹君とは会わずに済んだ。
ほっとしたよー。
このままフラグがフェードアウトすればいいのに。
そう思っていた時もありました。
年が明けて3日目。
久々の日本で、ゲームとアニメと漫画とコタツにズブズブと、肩どころか頭の先まですっかり浸かっている弟妹に、
「姉からの宿題追加とお外で遊ぶ、どっちが良い?」
と、ビキビキしながら聞いた所、しぶしぶ散歩と言う返事が返って来たので、近所の公園に出掛けました。ぴーすけを連れた白樹君に会いました。
……えー。
「明けましておめでとう、ぴーすけ、白樹君」
神社じゃないから新年初詣イベント(スチル有)じゃないとは思うんだけど、うう、何か嫌な予感する。
ぴーすけが先なのはわざとですが何かー?
「あけおめ、央川。なんでぴーすけの方が先なのさ」
笑って言う白樹君。
さて、さっきのわざとに果たして気付いているのか。
このヒトのことだから気付いていそうだなー。
ぎこちない笑顔の自信あるし。
「櫻姉ちゃん、このヒト誰?」
「ハイそこ指さない。同じクラスの白樹君だよ」
自重しない弟に、軽くチョップを喰らわせる真似をしつつ説明。
先に自己紹介したのは妹の方だった。
「…妹の(美々)です」
「……えと?」
ぼそぼそとした自己紹介が聞き取れなかったらしく、白樹君が聞き返した。
…何故そこで屈辱的な顔をするかな。”美しいが二つ”で良い名前でしょうが。
「美々、ちゃんと挨拶しなさい」
「……したもん」
こいつは…。
家の中では自己主張ちゃんとするくせに、初対面の相手とは中々打ち解けられないと言うか、人見知り激しいと言うか。あ、こら人の背中に隠れんな。
「美々ちゃん?へえ、お姫様みたいな可愛い名前だね」
私には見えるッ、その背中のキラキラオーラが!
しかしなにもおこらなかった!さすが私の妹。あ、ぷいってした。
まあ、ずいぶん小さい頃に、怪しいおじさんや知らないお兄さんについて行くとどうなるか、若干具体的すぎる話をしたせいかもしれないが…。
いや、だって、本当に何かあったら怖いじゃないスか。
「オレは進之介、小学6年ですっ」
某嵐を呼ぶ幼稚園児リスペクトな我が弟が、元気よく発言した。
中学女子には効果が無かった効果も、小学生をたぶらかす事には成功したらしい。
「あの、この子なでてもいいですか?」
たぶらかしたのは犬の方だったか…。
ぴーすけは、初対面の人間が目の前にいるにもかかわらず、吠えるどころか、尻尾を盛んに振っている。
挨拶だけして逃亡を図る事は、これで出来なくなってしまった。
恐るべし、わんこの吸引力。
「いいよ。まだ小さいから優しく撫でてやってくれな?」
「はい!」
いい返事だなあ…。寒い中家から出るの嫌だって、ごねてた時と雲泥の差だよ。
「うはー、やあらけえなー、ちっさー」
……ぴーすけじゃなくて、「シロ」にすべきだったかな?
戯れる弟とピー助を見ながら思った事は、正直どうでも良いことだった。
「……あの、わたしも」
「どうぞどうぞ」
……何のコントだよ。
あー、見てて羨ましくなったのか。良いよね、もふもふ。
「……」
じっと白樹君を見つめてみた。
「……」
「央川も撫でれば?」
許可が出たのは嬉しいけど、言い方ってものがさー。
むーっとするけど、そんなのはぴーすけのもちもちぽんぽんを撫でれば、すぐに吹っ飛んで行ってしまった。
「ぴーすけって名前なんですか?」
「そ。ちなみに名付け親は、君達のお姉さんだから」
妹の質問にニコニコしながら白樹君が答えると、弟妹の視線がすごい勢いでこっちを向いた。
「えっ!?」
「なんで!?」
「なんでもなにも、白樹君がぴーすけを飼うきっかけになった現場に、私も居合わせたからだよ」
そんなに驚く事じゃない。
「そうなんだ…」
「お姉ちゃんのネーミングセンスって、謎…」
うっさし。
ひと通り撫でて気が済んだので、手を離して立ちあがった。
3人がかりで撫でまくったので、ぴーすけはすっかり仰向けになってしまっていたが…。
「……」
地面に仰向けに寝転がったまま、尻尾をぶんぶん振っている。
そのつぶらな瞳からのびる視線は、完全に私達の方を向いていた。
「何か、期待してるみたい?」
「人懐っこいってレベルじゃないよね」
「………あざといのがまた増えた」
「え?なんか言った?」
思わず出てしまった、私の低くて小さな呟きに、白樹君が律儀に問い返す。
「あー、いや、うん」
なんて説明したものか…。
そう思いつつも、再び手は下へ。
お腹から胸、あごの下から耳の後ろ、背中を滑る様に尻尾の付け根をぐりぐり。
最後に背中から腹側まで大きくナデナデ。
「えーと?」
「……ちっちゃくって可愛いって最強だよね」
「あー、うん」
誤魔化し半分、若干恨みがましい(吸引力的な意味で)本音が半分の返答に、飼い主さんはどう答えたらいいのか分からないと言った様子で同意したのでした。(わんこ風)
お互い散歩している者同士、一緒に歩こうっていう話に自然となって(弟と白樹君の間で)、弟はぴーすけのリードを譲って貰って、嬉しそうに歩いていた。
「あはは、テンション上がり過ぎこいつ!」
「進ちゃん、走っちゃダメ!遠くに行かないの!」
その後ろを妹が追いかける。
私は白樹君と最後方でゆっくり歩いていた。
「わがまま言ってごめんね?」
「いいよ、これくらい」
こうしてみると、白樹君て寛大で良い人っぽく見えるんだけどなあ。
何処まで本心なのか、未だにわからない時がある。
まあ、無理してる訳でもないみたいだし、いいかな?
「結局初詣は篠原と行ったの?」
「まあね、予定通り」
並んで歩く。話題は先日の初詣の事。
「着物着たんだ?」
「…着させられた。あれをお断りできる人は、そういないと思う」
顔をしかめて言う。けど、
「まあ、友美と一緒に晴れ着の写真撮れたのは、いい記念になったかな」
「写真撮ったんだ」
「家族も一緒だったしね。特に篠原の小父さんが凄い乗り気で」
「ああ、分かるかも」
クリスマスに会った小父さんの事を思い出したらしく、少し笑った。
「写メなら、あるよ」
いつの間にか目の前に来ていた妹が、初詣の、友美と妹と写っている写メを見せた。
うおっ!?ちょ、晒さないでー!!
私のその心の叫びが言葉になる事は無く、妹に携帯を借りた白樹君は、しげしげと写真を見つめた。
「へえー、クリスマスの時にも思ったけどさ、央川、大人っぽい格好似合うよな」
なんか、しみじみ言われた気がする。
「え、そうかな?」
自分では、可愛すぎるのが似合わない事くらいは知ってたけど、そんな風に言われるとは思ってなかった。
大人っぽい恰好を意識した事はあまり無い。
普段は年相応の服を心がけていたし、それを楽しんでもいたから。
今だけしか着られない様なミニの服とか、貴重だし?
そんな事を考えていたら、携帯を妹に返した白樹君が、こっちをじっと見つめて、
「俺は好きだよ。そういうの」
そんな風に言った。
「…ふうん?」
あれ?
わずかに感じた違和感も、よく分からなければ、すぐに霧散してしまう程度のものでしかなく。
結局その話は、それだけで終わってしまった。
「なんか、俺と散歩する時より元気なんだけど」
不服そうな白樹君に、はははと若干乾燥気味の笑いを返す。
ぴーすけのリードは、未だ弟の手の中。
名は体を表すの通りお調子者の弟につられ、ぴーすけも羽目をはずしている様だ。
「今日帰ったら爆睡じゃないの?」
「だな。まあ、静かなのは良い事だ」
って事にしとこう、と、白樹君は自分を納得させるように呟いた。
「って、あいつら先行き過ぎ」
妹の声すら聞こえなくなった事に気がついて、慌てて前方を確認すると、当人たちはだいぶ前に進んでしまっていた。
「行こう」
白樹君に声をかけて、先に行きすぎた弟達を慌てて追いかける。
「ぅわっ!?」
ごく普通の布靴のつま先が不幸にも石畳のわずかな段差にひっかかり、突然転びそうになった。
「央川!?」
「……っぶな…」
かろうじて無様に転ぶことは回避する。
「大丈夫か?」
覗きこまれた事に気付いたのは、一秒たってから。
「う、うん。…ありがと」
有り難うと言ってから気がついた。
あれ、手、腕が、お腹に。
「あああ、ありがとっ、も、大丈夫だから!」
思考が爆発する。
こんなに至近距離で、同年代の男の子と触れ合った経験なんて無かったから、挙動不審になるのはしょうがないと思うんだ!
慌てて回された腕をはずす。
「お姉ちゃん!?」
「櫻姉ちゃん大丈夫!?」
騒ぎに気付いた弟妹達が、引き返してきたのが見えた。
「あー、あの、ほんとにありがとね?」
「もういいって、さっきから何回言ってるんだよ」
恥ずかしさをごまかすのに必死な私は、さっきから同じ言葉を繰り返す。
返す白樹君も苦笑を隠せない様だった。
これ以上は逆に失礼かと思いなおし、改めて白樹君の顔を見る。
『あ…』
睫毛長…。
意外に距離が近くて、顔の細部まで見えた。
つい、まじまじ見てしまう。
こうして白樹君の近くにいられるのも、もうすぐ終わりになる(筈、ていうかする!)
そう考えたら、少しもったいない気がしてしまった。
ついでに、元々攻略キャラとしては2番目に好きなキャラだったんだ、って事まで思い出した。
……ちょっと見るくらい、良いよね?
「央川サーン?俺の顔何かついてる?」
じっと見つめていたら、さすがに注意されてしまった。
「ごめんごめん、改めて白樹君て整った顔してるんだなーって思って」
その本音は自重しない。リップサービスみたいなもんだと思って、今ガン見したのチャラにしてよ。
まあ、こういう言われ方が好きじゃない、っていうのは織り込み済みな所はあるけどさ。
白樹君の黒い歴史について、心の中で触れてみる。
そうだよ、こういう時にこそ、好感度微妙に下げる様に意識した発言しないと。
自分の思考に勇気づけられる。
そうだ、これはピンチなんじゃなく、チャンスなんだ。
「何だよ急に、そういう央川こそ顔整ってるだろ?」
「私のは整った部類に入ってないよ。せめて友美みたいに可愛くないと」
わざと作った薄っぺらい苦笑と自己否定も混ぜる。
何処か媚びたように聞こえますように。
「篠原と央川は違うだろ」
案の定少し不機嫌そうに返される。
「それでも、だよ」
その異論は認めないなあ。
越えられない壁はあるものだよ。
小さい頃からあれこれ口出していたから、友美の現在の顔立ちやスタイルは、“ワシが育てた”と言っても過言ではない。
もっとも、磨けば磨いただけ光る元々の素養があったからこそなのだろうけど。
なにせヒロイン様なのだし。
それに比べ私自身はと言えば、必要最小限の事しかしていない。
顔立ちは平均を自負しているし、髪も痛むから全く染めて無い。
気にしているのは肌つやと歯の白さ、髪の傷み具合、それと体型。
あくまで現状維持が最優先だ。
「でも、褒めてくれてありがと」
スマイルは0円ナリ。
あきらかにそれお愛想だろ?って顔で白樹君の顔を見ていたら、髪に綿毛みたいなものがあると気がついた。
……気になる。
「ついてるよ?髪の毛にごみくずっぽいの」
結局我慢できずに指摘する。
「え?どこ?」
「ここここ」
「……どこ?」
仕方ないなあ。
小さい子にするみたいに、ひょいっととってあげる。
小さい子と違うのは、腕を伸ばさなきゃいけない所だ。
おのれ高身長者め、かえしてください、かえして、かえしてー。
「ここ」
「あー、さんきゅ」
内心はともかく無事取ってあげると、戸惑った様なお礼が返って来た。
あれ?白樹君寒いのかな?顔赤い?
そうだね、私達と会う前から散歩してたんだろうし、程々で切り上げなきゃダメかな?
遊歩道の終わり、公園の出口で別れる事になった。
「ありがとー、お兄さん」
「ぴーすけくんも、ありがと」
最後にまたナデナデする。
ぴーすけが2人に「ぴす!」と鼻を鳴らした。
「ぴーすけ鼻炎?」
思わずぴーすけを指して確認してしまう。
「先生に薬出して貰ったんだけどな、結局直んなかったよ」
「ありゃ、慢性かー」
その名の通りぴすぴす言いながら生きて行くのだろう。
「それにしても、ほんとに鳴かないね」
「そりゃ躾けてますから」
何というドヤ顔。きっと聞き分けのいいお犬様なんだな。
知ってたけど。
「じゃあ、そろそろ。それじゃ新学期にね」
2人がぴーすけから手を離したのを見計らって、声をかける。
「また会うかもだけどな」
「はは、そうかも」
これ以上のイベントとかマジ勘弁。
「今日は有り難う」
「ありがとうございました」
「ぴーすけまたなー」
「こちらこそ楽しかったよ。な、ぴーすけ」
白樹君がぴーすけの方に屈んで声をかけると、「ぴす!」という、いい返事が返って来たので、皆で笑ってしまった。
「それじゃね、ぴーすけ。ほんとに風邪引かない様にね?」
鼻の下がわずかに光っていたので屈んで袖口でぬぐうと、白樹君が慌てた。
「央川、いいって、汚れるぞ」
「ん?もう手遅れ」
ぱっと立ちあがって袖口を見せる。
「まあ、これ位なら大丈夫でしょ」
「お姉ちゃん、さすがにそれは、無い」
「無頓着すぎだろ」
「五月蝿い。気になったんだからしょうがないでしょ」
「あー、…気ぃ使ってくれてありがとな」
白樹君は微妙な顔をしたまま、「それじゃ」と、公園の外へ出て行った。
なんだ?
「お姉ちゃんて、おうちと学校じゃ、全然違うんだね」
「そうかな?」
「うんうんそうだよなー、わかるわかる」
帰り道、弟妹に絡まれた。
したり顔で大人ぶって頷く弟の頭を、調子に乗るなとばかりに叩いていたら、妹にさらに突っ込まれた。
「そうだよ。家だったら、もっとすごい事言ってた。男の子みたいな」
ネットなんかでよく見るネタの事だろう。家族の前では結構男言葉も気にしなかったし。
「おっかなくなかった!笑ってたもん!でも、おほほって笑い方だったよな」
う…、家の中では怖い人なのか…気を付けよう。
後、大口開けて笑ってるって事?それ。おほほって何だよ…。
「どんなだそれは…」
2人の追及に、私は終始脱力しっぱなしだった。
夜、眠る前。ふとした拍子に思い出した。
『俺は好きだよ。そういうの』
口元は弧を描いているのが分かるのに、目元もいつもと同じ優しげなのに、笑っている様に見えなかったのは何でだ?
その時の意味深な表情が気になったけど、結局それも、夢に紛れて忘れてしまった。
主人公は、この世界がゲーム設定を元にした世界であると言う事を前提に行動しています。
しかし、ここは現実。ただゲームをなぞるだけの世界ではありません。
別ゲーに搭載されている事はあっても、かつての「ガーデンティーパーティ」という元のゲームには存在し無かった“大接近”というシステム。
実際にはシステムでは無く、偶然の積み重ねではありますが、触れられると言う事がどんな感情の変化を起こすのか、彼女はその事について考える事は無いでしょう。
だって、元のゲームには無かった事ですから。
またそれとは別に、ささやかで重要なヒントがこの世界から提示されました。
それについても、主人公は違和感を感じつつスルーしています。
今回は様子見、といった所でしょうか。
主人公の反応が鈍かったので、安心半分、がっかり半分、といった所です。
ちなみに…。
白樹キャッチでスキンシップ1 ボディタッチ
スキンシップ2 顔をじっと見つめる
スキンシップ3 髪に触れる
はい、主人公、アウト!




