2学期期末勉強会
ぴーすけを拾ってから、早1ヶ月弱。
今はもう12月、この人生における茶番劇も、残す所あと1/3となった。
あれから何故か、よく白樹君と視線が合う。それも割と頻繁に。
ほら、またこっち見てる。
とりあえずにっこり。……にゃろう、視線を逸らされた。
相変わらず、男女問わず囲まれまくっている白樹君を見つめて、不機嫌になる。
一体何なんだ。
でも、と気を取り直して考えてみる。
あの取り巻き達の内、何人が彼の「本当」を知っているんだろう。
時間は流れ、昼休み。
眼下の校庭では、大勢の生徒が思い思いに遊んでいた。
ふと、知った顔達を見つける。うちのクラスの男子生徒のグループだ。
ふうん、本日はサッカーですか。
どうやら他クラスの男子と一緒に遊んでいるらしい。
不意にこちらを見上げた白樹君の瞳と、視線がばっちり合う。わ、吃驚した。
「ねえねえ、そうしていると、まるでロミオとジュリエットみたいだね」
ふふっ、と可愛らしく友美が言った。
……ロミジュリにしてはトウが立っている気がしますよ?主にジュリエットの方が。
「……その心は?」
ジュリエットなんてガラじゃない、そもそもそんな関係になった覚えは無い。
言葉をのどの奥にぐっと飲み込んで、理由を問う。
「ふふ、わたし知ってるんだよ?最近の白樹くん、櫻ちゃんの事よく見てるよね?」
う、他の人にも分かる位見られてるのか。まあ、友美は私と一緒にいる事が多いから、その視線の先にも気が付いたんだろう。
白樹君狙いの子にばれてなきゃいいけど…。
つか、何かのフラグか?これ。変なヤツ認定されてるだけならまだいいんだけど。
自覚が無いわけじゃないし。
……ぴーすけの時は、フラグぶっちぎるどころじゃ無かったからな…。
それにしても、そんなにじろじろ見られるようなことしたっけかな?
友好の範囲内だよね?無駄に好感度上げる様な行為はしていない筈。してない、よね?
いやいや、まだまだこれからですよ!負けたらあかん!流されたらダメや!
「ジュリエットよりシンデレラ希望。そんな夢みたいな事言ってないで、ほら、勉強!」
目の前で顔を突き合わせ、ノートを広げている友美に、話題の強制終了を告げる。
期末試験は2週間後に迫っていた。
「えー」
そんな可愛くブーイングしてもダメ。
「成績落とさせないって言ったよね?」
笑顔に凄みを持たせて二ッコリ。
当然自分の分のノートも広げている。ちょっと休憩しちゃったから、少しでも進めないと。
「この時期になると恒例だよね」
木森君が近づいてきた。
1学期の期末にも、こうして皆で、よく昼休みにプチ勉強会を開いたものだった。
不思議なもんで、試験日が近づくにつれてだんだん人数が増えて行くんだよ。お前等ちゃんと事前に勉強しとけ。
木森君とは、数年ぶりにクラスが一緒になったんだけど、お勉強会は中学の頃からやっていたのでよく知っている。
何故か今、妙にしみじみと言われた気がするが…。
「そだ、いっそ皆で勉強会しようか」
良い事思いついた。
ガーデンティーパーティーメンバーで勉強会っていうのはどうだろう。
1学期末にもやったけど、その時は木森君居なかったし。
ただ、先輩方は良い顔しないんだろうな…。
すったもんだの末にこぎつけたのを思い出す。どうせならきっちりやりたいし。
「と、言う訳で図書館で勉強会したいなって思うんだけど」
定例茶会で発案してみる。
「俺は良いよ。中々やる気で無いから、声かけて貰えるのは有難いかな」
話せば至って普通の白樹君は、参加、と。
「ぶー、べんきょーきらーい」
「あはは」
「愉快は少し勉強した方が良いよ」
ぶー垂れた様子に木森君が苦笑いしたけど、観月先輩の一言で東雲君の強制参加が決まった。
3先輩は多忙につきパスで。
まあ、そんな事だろうと思ったから、最初から予定の中に入れてなかったよ。
誰も予定の無かった放課後を選んで、学園の図書館にて1年のみの勉強会の開催がここに決定した。
「ぶー」
東雲君だけはいつまでもふてくされていたが。
「まあまあ、たまには1年だけで集まる機会があっても良いだろ?」
白樹君が言う。普段は結構バラバラだもんね。
「内容がさー」
本当に勉強嫌いなんだなあ。
「はいはい、始めるよー、そこ、団体行動乱さない!」
自習コーナーの一角を占拠して、テキストとノートを広げる。
本日は先生も居ないから、お題は各自の苦手教科からチョイスで。
……いわゆる“ニガコ○”げふんげふん。
「ぴーすけくん元気?」
黙々とやってるうちに、自然と会話が始まる。自習室なので当然小声だ。
もちろん手は止めませんよ。止めんなっつってんでしょうが、そこっ!
「ああ、最近力付いてきたみたいで、最近はケージに入れて来るんだ。可哀想だけど、危ないからな」
友美の言葉に白樹君が苦笑する。
囲いの場所は広く取ってあるらしいが。そっか、元気ならいいんだ。
「毎日散歩とかしてんの?」
ティーパーティーメンバーにはぴーすけの事は話してある。
「まあ、家の近くだけ少しな」
まだまだ小さな仔犬の彼に、ずっと独りのお留守番は酷だろう。
「小さいうちに、社会性を身に付けさせるのって大事らしいからね。今のうちに、いろんな所に連れて行ってあげると良いよ」
「風邪引かない様に、あったかいカッコさせてあげた方が良いかもね」
興味を惹かれて2人で調べたにわか知識を、友美と二人で披露する。
「そうだな。平日はあんまり一緒にいてやれないからな」
おっと、こうやって引き留めすぎるのも良くないのか。
「うーん、今度から気を付けるね」
ごめん、と白樹君に謝ると、いいって、と手を振られた。
白樹君は内心はともかく、基本断らないから、うっかり失念してた。
仕方ない、短めに切り上げるか。
「そんなに小さい子だったの?」
詳しい経緯を知らない木森君が言う。
「どうだろう」
「まるっきり赤ちゃん、ってわけでもないけどね」
友美と顔を見合わせる。
「いってて4~5ヶ月じゃないか、って先生は言ってたよ」
病院で色々相談しているんだろう、白樹君が答えた。
「これからもっと元気に暴れまわるんだろうね」
木森君が遠慮がちに話しかけた。まだ慣れないなあ。
それはそうと、ぴーすけは今がちょうど育ちざかりって事か。
「そうだ、カリスマドッグトレーナーの番組知ってる?」
その手の話題に詳しい木森君が、参考にすると良いよ、と言った。
確かその番組は、海外のテレビ放送を流している専門チャンネルでやっていた筈だ。
「ああ、それ見てるよ。あれ、すげーよな」
「え?どんなの?」
僕見た事ない、面白いのー?と東雲君が言う。
まあ、あれは犬好きでも無いとチェックせんだろう。
しばし、そのテレビ番組の事で話題に花が咲いた。
仔犬が待ってる白樹君の為にも、勉強会を1時間位で切り上げ、皆で校門に向かう。
この時期は、油断していると、あっという間に辺りは真っ暗になってしまう。
うひゃ、風が冷たい、と首をすくめる。マフラーと手袋してても寒いものは寒い。
「そういえばさ、クリスマス皆はどうするの?」
東雲君が聞いてきた。
友美と私は顔を見合わせる。
「そう言う東雲君は?」
友美が関わらない東雲君のクリスマスは、どんなふうになっているんだろう。
やっぱり誰か女の子と、どこか出掛けるのかな?それとも家族と過ごすのかな?
「僕は今年、輝夜と一緒に空条のパーティに出る事になったんだ」
観月先輩は、もしかしてパティシエのイベントがらみかな?
友美がいなくても、着々と夢に向かって邁進している様だ。
一方の東雲君は、ホントだったら女の子とデートするつもりだったのにさー、と空を仰いで溜息を吐く。
うん、被害者が増えなくて何よりだよ?
「あの、私達も空条先輩のクリスマスパーティに招待されたの」
ねっ、と若干顔を赤く染めた友美が、私に同意を求めた。
赤らんだその表情は、決して寒さだけのものではない筈だ。
「最初に招待されたのは友美で、私はただのオマケでしょ」
せっかくだから櫻ちゃんも、と空条先輩におねだりしたんだそうだ。
まあ、こちらとしても、友美を独りであの魔窟パーティに放り込むのは不安だったので、二つ返事で承知させてもらった。
にしても、あの空条先輩が友美の要求をすんなり飲むなんて、ずいぶん甘くなったなあ。
「俺も多分そのパーティ行くと思う。毎年親父に連れて行かれてるからな」
白樹君は親の都合、か。
この分じゃ個別イベントは無いな、よっしゃ、ひと安心。
…となると、
「友美」
「うん」
2人して木森君の方を向いたまま、今後の予定を決める。
木森君が顔をひきつらせた。
「あの、僕は年末に予定が」
「知ってる。例のお祭でしょう?」
年2回のお祭りだ。時期的にも追い込み、いや修羅場かもしれないが。
多分木森君が及び腰なのはそんな理由じゃないんだろうな、と当たりを付ける。
「皆で行こうよ」
ね、と友美が笑いかける。ぐ、と木森君が言葉に詰まった。
「わたし、空条先輩にお願いするね?」
「と、あの、篠原さん、無理しなくて良いから!」
「大丈夫だよ、きっと」
きっとねー。
空条先輩の事だ、今さら招待客が一人増えた所でどうという事も無いだろう。
「困ったことがあったら、白樹君か東雲君に相談したらいいんじゃない?」
衣装とか、マナーとか。
まあ、若干丸投げな気もするけど、振られた2人は大して気にしていない様だった。
「で、でも」
「はい、そこ団体行動乱さない」
「う」
こうして、今年のクリスマスは空条先輩の家主催のパーティに全員で参加する事になった。
「もう年末かー、あっという間だね」
白い息を吐きながら歩く。
私と友美は商店街に用があったので、駅まで皆一緒の道だ。
「初詣はやっぱりこの辺の神社か?」
「まあね、多分友美と一緒に行くと思う」
寒い中出掛けたくないけど、どうせ友美の事だ。
「多分、じゃなくて行くの!2人で振袖着るんだから。お母さん張り切ってたよ」
ほらー。
「……着物重い。めんどい、寒い」
少し前にこの話題が篠原家で出た時、妙にテンションが高かったんだよね。
小父さんだけなら分かるけど、珍しく小母さんまではしゃいでいた気がする。
…着付けめんどいなあ。普通で良いよ。
「あはは、珍しいねー、櫻ちゃんがそんな風に嫌がるなんて」
「意外だな。着物着るの普通喜んだりしないのか?」
今回のは、誰かの為に着るんじゃないからなー。どうしても面倒くささが先に立つ。
まあ、柄とか見るだけなら綺麗だと思うし、好きなんだけどさ。
「まあ、家族も帰ってくるし、篠原家と央川家で一緒に初詣に行くと思うよ」
夏休みにちょっと会っただけの家族と、また会えるのは素直に嬉しい。
しかも今回は2週間だ。
「妹ちゃんも一緒に振袖着ようね!」
「あー、メールしとくよ」
投げやりな態度の私に、もう!と友美が膨れた。
「分かったって、ちゃんと連絡しとくから」
「あはは」
昔から変わらないやりとりに、木森君が笑った。
「たまに、こうやって央川さんがやり込められるんだよね」
変わらないなあ、とくすくす笑われる。
「普段は、央川が篠原の事うまく誘導してるみたいだけどな」
最近視線が合うだけあって、よく見てるなあ。
東雲君が、同じクラスで良いなー、と拗ねたように言った。
「そういう白樹君はぴーすけと初詣?」
「まあね」
嬉しそうな顔をした。多分その頃にはもっと遠くまで散歩に行けるだろう。
「この辺の神社なら会えるかな?」
「かもしれないね」
友美の言葉に白樹君が同意する。
思い出した。そういえば白樹君、年始にスチルイベントあったよね?
クリスマスの個別イベントはなさそうだけど、こっちは下手すると発生するかもしれない。
ぴーすけには会いたいけど、ううむ、悩むなあ。
友美と一緒なら良いのかなー?いや、これ以上仲良くなるのは危険な気がする。
ぼちぼち本気で距離考えないと。
「じゃ、俺こっちだから」
「またね」
バイバイと手を振る。
木森君と白樹君が別れてから、私達も道を折れる。
「じゃあ、私達もここで」
「また明日ね?」
「うん、バイバーイ」
駅に向かう東雲君と別れ商店街へ。
参考書の物色と、本日の新刊を買わなければ。
「クリスマスパーティ、皆一緒かぁ」
楽しみだね、と友美が私の顔を覗き込んで言った。
…だからあざといのは止めなさい、萌えるから。
「ちゃんと空条先輩に説明すんだよ?」
「大丈夫だよー」
友美は、皆で一緒に参加できるって、信じて疑わない。
この真っ白で真っ直ぐな性格は、どこまで続いて行くんだろう。
ずっと一緒にいるけれど、それでも時々眩しく思う。
願わくば、ずっとずっと先まで、彼女の心がこのままでありますように。
らしく無く、そんな願いを、誰に、と言う訳でもなく、
胸の奥に大切にしまい込んだ。




