おせっかいって、楽しいかい?
10月も中旬に入り、いよいよ文化祭へ向けての準備が本格化してきた。
こうしてみると2学期って、結構忙しいんだよね。
今年は友美のイベント、……というかガーデンティーパーティーのイベントも、ここへ来て結構な回数発生しているから、なおさらかもしれない。
今年は生徒会会長になったばかりの空条先輩を筆頭に、主だった上級生の先輩達が悪乗りした結果飲食関係に力を入れるらしく、うちも当然その縛りの範疇に入る企画を出す事になった。
ちなみに1年は火気厳禁というもう1つの縛りも存在する為、結局準備と片づけが簡単な『カラオケ喫茶』という形になったのだが。
つーかお菓子の持ち込みアリの、ほぼカラオケそのものだ。
当日は接客役とさくら役、それに校内を巡回して宣伝する役の大まかに3役に別れて行動する事になった。
割と受け身な企画だけに、人がいないと始まらないしね。
それに、どうせなら自分達も盛り上がって楽しみたいではないか、という一石二鳥的な理由も存在する。……一応。
その分ステージのセットにはこだわるし、お客さんを飽きさせない様、随時景品有りののランキングや、イベントなども用意する予定。
とまあそこら辺まで決まって、後は細かい調整とセットの組み立てがほとんどという所までは順調に来たのだが、逆にスムーズに行きすぎて問題が発生。
ぶっちゃけダレた。
楽し過ぎは良くないよねー。おかげで日常でもサボるやつ増えたし。
まあ、中心になって率先してやってくれる人がいるから(誰とは言わんが)、何かするぞって時はちゃんとまとまって行動するんだけどさ。
「じゃあ後頼むな」
「は、ハイ…」
あーあ、先生も分かってて言わないんだもんな。
大寺林先生ってたまに、放任にも程があるだろ、って時があるよね。
まあ、高校生なんだから自分でどうにか、っていうのは分からない訳じゃないけど。
今先生に用事を言いつけられたのは、クラスの中でも比較的大人しいタイプの女子友。
まあ、友達って言うほど交流ある訳じゃないけど。
引っ込み思案で無口。いつも大人しく、人付き合い自体あまり無い子。
同じ活字中毒でも、彼女の場合はその内本当に本を食べかねない感じの真の文学少女だ。(偏見)
彼女は授業が終わった後のびっしり書かれたままの黒板を見て、それから自分の手の中を見た。
手の中にはさっき先生に渡された資料。
要するに多忙な先生に変わって片付けて来い、と。
で、それを2度。
つまり本日の彼女は日直で、さらにこの時間は『休憩なんて飾りです』な状態になった訳だ。
さて、相方はどうしたかね?大体想像はつくが。
見かねた私は手にしていた本を閉じ、ここでようやっと席を立つ事にした。
「どした?見てたけど大変そうだね?相方は?」
「あ、ええっと」
別に個人でいた方が気が楽ってのも分かるから、普段はこんな風にめったに話したりしないんだけど、それでも遠慮されるんだよねー。
いつまでたっても好感度あがってくんない。しくしく。
縮まらない距離がちょっと寂しいが、表面上は平静を装って話し続けた。
「見たとこ日直分業制でしょ?男子は遊びにでも行っちゃった?とりあえずさ、先生のとこ先に行って来なよ。こっちはやっとくから」
「えっ?あの、でも……」
「頼まれ事の方優先の方が良いんでない?」
「う、うん」
こういう子は畳みかけられると弱いのは知ってる。……自分の経験則ですが何か?
「お節介が過ぎると思うなら、後で何かあった時返してくれれば良いから」
「う、うん、じゃあ。お言葉に甘えるね」
「うんじゃあ、こっちは消しとく」
そう言って早速黒板消しを手に持つ。
「ありがとう!」
ぺこりとお辞儀をして、彼女は教室を出て行った。
これで少しは彼女の負担が軽くなったかな。
さて、こっちも消すか。とっととやんないと休み時間終わっちゃう。
「よ、っと」
う、あんのロリコンオヤジ教師、上までみっしり書きやがって……!背の低い我ら低身長者に対する挑戦としか……っ。
「こにゃろ、とうっ!!」
くっ、とか、ふぬっ、とか呻いていたら、後ろから声かけられた。
「央川、椅子使うって頭は無いの?」
「え、面倒」
「……そっちの方が面倒だと思うけど」
いつの間にか白樹君がいましたよ?
あれ?さっきまで他の子達と話してなかったっけ?
「俺も手伝おっか?」
「えー?いいよ?後半分だし」
「高いとこ大変そうだったけど」
笑いながら言うからあんまり誠意が感じられないんだけど?そこんとこどうなのさ白樹君。
「椅子持ってこようかな」
「ちょっと待って央川、何でそう頑なに拒否すんの」
やっぱりウケてるっぽい。まあ、狙ってやってる部分はあるけどね。
ティーパーティーという交流が始まって半年、白樹君と私の関係はこんな感じだ。
体育祭や夏休みの旅行、放課後も一緒に遊ぶ事があったし、そう言えば遊園地にも一緒に行ったっけ。
随分仲良くなったよね。……個人イベントこそ起こっていないものの、そろそろ距離を測る時期に差し掛かって来ているのかもしれない。
文化祭は、ルート決定イベントがある。
友美はともかく、私は“ルート成立させない為に”イベントを回避する必要があるからな。
もちろん一番良いのは、イベントそのものが発生しないで楽しく文化祭を過ごせる事なんだけど。あ、当然だけど私限定で。友美の場合はむしろ起こって貰わないと困る。
「別に良いよー?白樹君こういう時は忙しいの分かってるから、無理に手伝わなくても」
各祭やクラス旅行、皆で遊びに行こうって時まで、何かしらイベントがある度に白樹君は引っ張りダコだ。あっちこっちでお呼びがかかる。
ほら、今もちょうど良いタイミングで、いつも白樹君と一緒に居る女子が白樹君を呼んだ。
1人が声かけると途端にその周囲から賑やかな白樹君コールが湧き起こる。
うむ、さすが人気者だね。
中には私と話しているんだからと遠慮する声もあったみたいだけど、それにはむしろ私の方がスルーさせて貰おう。
さっきちらっとよぎった、フラグの管理が頭にあったのは否定しない。
「ほら、呼んでるよ?」
「そうだけど。でもさ、央川には体育祭の前の時の借りもあるし……」
「それこそ気にしなくて良いよ!」
いつの話だよ!?
まさかその話がここで出てくるとは思わなかったなあ。どんだけ律儀なんだ白樹君。
「大体これは元々私の仕事じゃなくて、私が勝手にやってる事だからさ」
気にしなくて良いんだよ?
パタパタと黒板消しを持っていない方の手を振ると、白樹君は一瞬黙って、
「……央川ってさ、そうやって人の事ばっかやってて、何か得あるの?楽しい?」
そうして浮かべたのは、皮肉げな歪な笑み。
「…………特に無い、かな」
予想外の事態に、特に表情の無いまま首を傾げる。
あれ?今ブラック降臨する要素、あったか?
白樹君はその名の通り裏なんかありませんよー、ってな爽やか系少年だが、その実屈折した心を隠し持ってる。……そういう設定だ。
友美の本当に裏表の無い純粋さに刺激されて、突きたくなる、というか壊したくなって、時々こんな風に意地悪な言い方をする。……というシナリオの流れ。
時期的には間違っちゃいないけど、……って事は、すなわち私への好感度も上がってる可能性があるという事……か?むむ?
……よし、私と友美は違うって事で、いかに私が自分勝手でダメなヤツかアピって好感度下げる事にしよう。うん、そうしよう。
「強いて言うなら、気分の問題?」
さっきの緊急脳内一人会議を表面には出さず、近くまで寄って来ていた白樹君の顔を見上げる。
「ふうん?央川って、イイヤツなんだな」
それが本心じゃないのは、その表情見れば分かるんだよ!小馬鹿にしおってからに!
まあそうやって好感度下げるのが目的だから、合ってるっちゃ合ってるけど。……腹は立つな。
「本当にイイヤツなら、気分が乗った時だけ手伝うなんて姑息な真似しないで、ちゃんとクラス委員にでもなってるよ」
本音を隠して営業スマイル。
いくら対人苦手でも、これ位は簡単に出来るのが大人ってなもんだ。
「でも、そうやってよく人の事手伝ってるだろ?やっぱイイヒトじゃん」
やけに絡むねえ。ん~?
お互い黒い笑みを浮かべて対峙する。
「肝心なとこは人任せの何処がイイ人?私、基本的にズルいヤツだよ。全然違うって」
これがネットなら草生えるレベルだね。
「前に央川『自分の事大事にしないと駄目だ』って言ってたけど、それそのままそっくり返した方が良いかな?疲れたりしない?」
……それはアレか、気遣ってるふりして根に持ってるとか?
そういえば、あの時もブラック降臨してたなあ……。
「…気になってるのに手伝わない方が気疲れするんだよ。むしろ」
力を抜いて苦笑する。
……何ヤケになってんだろ。急にバカらしくなった。
こんな会話とっとと打ち切って作業終わらせないと、こっちまで休み時間無くなっちゃう。
それに、そもそも会話しなければ好感度も上がらないしね。
「ほら、もう行った行った。呼ばれてるんでしょ?」
手を振って追い出す事にした。
「あっ、櫻ちゃん!……えっと、日直だったっけ?」
「あ、友美お帰りー。これはお手伝いかな。天野さん、先生に頼まれ事してたから、私が引き受けたの」
「そっかあ。あっ、わたしも手伝うよ!」
「うん、じゃあそっちからやって」
友美が教室に戻って来たって事は、そろそろ本気で時間無さそうだな。
申し出てくれたので、これ幸いと遠慮無く手伝って貰う。
「残念、篠原に取られちゃった」
背後で何か言ってる人がいるけど、割と無視の方向で!
そのまま白樹君は教壇から降りて行こうとして……、何故か振り返る気配がした。
さら
と、首筋に軽く触れた感触。
え?
あ、髪を触ったのか。
……え?
ええ!?
驚いてまじまじと見てしまう。ってか、そっちこそ何でこっちガン見なの。真顔でこっちみんな。
「央川ってさ」
指、離そうよ。
そんな真面目そうな表情で、そんな髪触られるとか、あの、首元から熱がこう、かーっと、ですね。
「ヘアスタイル変えないの?」
……何故それを今言った!?一体前後に何の脈絡が!?
暑くなり始めた頃に短くした髪は、まだ首筋くらいまでしか伸びて無い。
スプレーもワックスもしてない上に前髪ピンで止めてるだけの簡単仕様だから、髪に手間かける人からしたら手抜きと言えるかもしれないが……。
「………友美と出かける時くらいはそれなりにいじってるよ?……女の子ですから」
質問の意図が分からん。
あ、やっと手が離れた。
「学校じゃやらないの?」
あ、またブラックだ。何なんだ、もー。
「……ここは勉強をする所ですが」
あれ?何故か急に周囲からうめき声が。
つうか、皆いつの間にか見てんじゃねーよ。サーセンじゃねえよ。勉強しろおまいら。
「じゃあさ、今度一緒に出かけてみる?俺、“ちゃんとした格好の”央川見てみたいかも」
うめいた周囲に気を取られてたら、目の前の人が爆弾を投げつけて来た。
え?
「…………考えます?」
たっぷり30秒は硬直してた自信がある。
それぐらい動揺していた。
「ホントに~?まあ良いけど。言ったからにはちゃんと考えとけよな」
いつも一緒に居る女子に怒った様に呼ばれた白樹君は、そう言って今度こそ行ってしまった。
……今の笑顔は、ブラックじゃ無かったな。
………って、そうじゃなくて!ちゃんとした格好、って、お前夏の旅行の時私服見てたやん!あ、でもあの時は確か帽子被ってたから…、って、そうじゃなくて!!(2度)
「……今のって、デートって事だよね?すっごーい!白樹くんと」
「わあ!?ちょっと待て友美!とりあえずこれ、これ片付けちゃおう!!」
言うな!デートとか言うな!!絶対言うな!!
え、もしかしてこれってかなり、好感度、上がってる!?
だって、デートに誘われるくらいだよ!?
てか、どうせ誘うなら放課後にしてえええええ!!!(システム的に)
しばし友美とキャッキャウフフ(主にさっきの白樹君の発言で、テンションの上がった友美が)しながら黒板消しを終え席に戻ろうとすると、聞こえて来たのは私の事の様だった。
曰く、
「良い子ぶってるよね~」「見栄張ってるんじゃない?」「あるある」「白樹君の前だからってイイカッコしちゃってさあ」「何張り切ってんのかな~、わっかんな~い」
誤解だ。むしろ謝れ。
私は白樹君とは、というか、男子とは一定以上仲良くなるつもりは無いんだよ。逆に好感度下げたかったの!
……思えば小中の頃も、結構今みたいなのあったんだよ。
ほら私、年頃の頃の男女の区別ってあんまりしなかったからさ。
悪かったな初々しくも恥じらいも無い、体は子供頭脳は大人で。……だからビッチじゃねえっつの。
ちらちらと文句を言う白樹君の取り巻き達と私を交互に見て気にする友美を促し、ささくれた気分で席に戻ろうとしたその時だった。
「他人に任せきりで口ばかりの何もしない人よりは、どんな理由であれきちんと実行できる人の方が良いんじゃないの?」
ごくさりげなく、興味もない様に視線を上げる事すら無く言った白樹君の、あからさまに棘のあるその言葉に、今度こそ周囲が沈黙する。
…………いいのかな~……。
白黒2面性あるヤツだってここでバレちゃうのは、今後も含め、シナリオとしてどうなんだろう……。
「……白樹君て、ちょっとコワイとこあるんだね」
ひそひそと耳元で内緒話してきた友美に慌てる。
ちょっと待って!やっぱ今バレたらシナリオが崩壊する!?
今んとこ友美と白樹君の仲は進展が無さそうだが、分岐までは気を抜けない!
何がきっかけで、怒涛のラッシュで追い上げが起こるか分からないんだから。
それに元プレイヤーとしても、そこで引いて今後の人間関係にひびでも入られるのは本意では無いのですよ。
「白樹君て優しくて、正義感が強い人なんだね」
友美に向かってにっこり微笑む。
すると、友美も私に向かってにっこり微笑んだ。
「うんそっか、そうだよね。周りを良く見てる人なんだね、きっと。今も櫻ちゃんの事庇ってくれたし!」
……あれ?
何故かきらっきらした笑顔で見つめられましたよ?
あの、今のって、私の話でしたっけ?
で、例のおデートの件ですが、最初はお断りしようとしたんですよ。
というか最初の「考えます」だって、普通断りのセリフだよね!?
あの時も諦めてなさげだったなとは思ったけど、ホントに何故引き下がらなかったし。
「だって文化祭終わったら模試と資格試験あるし」
「資格!?気が早くないか?」
「そんな事無いと思うけどな?取れるなら今取っておいた方が後々楽になるかと思って。ダメなら駄目で対策とれるし」
「はー、相変わらず熱心だな」
「そうかな?」
そんな事無いけどな?
もしかしたら、目標がある分その為の行動も躊躇しないから、傍から見たら“ガンガン行こうぜ!”みたいに見えるのかもしれないね。
「んーじゃあさ、試験じゃない日で空いてる日があったら教えてよ。合わせるからさ」
「いや、そこまでして貰うほどのもんじゃないと思うけど……」
諦めてくれ。頼むから。こっちはこれ以上好感度上げたくないんだよ!
「ダメ?」
可愛くないから却下。そういうのは友美と東雲君の担当だろ?
「期末の勉強もしなくちゃだしね」
「「「後1ヶ月以上あるだろ!?」」」
耳ダンボ状態だったらしいクラスのほぼ全員が、同時に絶叫した。ノリが良いんだか何なんだか。
つかだから、その試験前にモチベを上げる為にだな。
「毎週試験ある訳じゃないだろ?……俺と行くの、そんなにイヤ?」
う゛。
「いや、そ、それは無いけど、あー、ほら、どうせなら皆で行くというのは、いつもみたいに」
今浮かべている笑顔は、絶対引きつってる自信ある。
「何篠原みたいな事言ってんの」
あれ、プチブラックって言うか、目が笑ってない気がするんだ、が?
結局、ごねてごねてごねまくって、『文化祭の後、皆で打ち上げに行く』って事になった。
男子やいつもの取り巻き連中に声を掛けたのが功を奏したっぽい。うん、私頑張った。
あのね、何度も言う様だけど、文化祭には友美の人生でとーっても大切な“ルート分岐イベント”があるんだよ!
言っちゃ悪いが、白樹君と遊んでるヒマねーから!!




