空条先輩と突然のクラシックコンサート
ホントはもっと細かいんだけど、文字数が、ががががが。
キリが無いので今回は分かりやすさ優先です。
すみません。
増量第3話目。
それは10月に入り、学園での文化祭準備が盛り上がりつつある、とある日曜日の事。
何処にも行く予定の無かった私と友美は、友美の自室でだらだらと過ごしていた。
まあ、たまにはそういう日もあるって事です。
いつもいつも何か起こってる訳じゃないんだよ。
お菓子買ってー、飲み物用意してー、ゲームとか起動させちゃってー、引き籠る準備は万端☆
こう見えて友美も、私の影響のせいか携帯機持ってるんだよ。で、現在まったりプレイ中。
一方私はと言えば『毒書の秋!』を満喫していた。
え?字が違う?違くないヨー。一般流通してるちゃんとした出版社の有名な文芸書だけど、中身は…ってやつダヨー。
ほら、読書の秋だけに秋の課題図書!みたいな!あえて毒書だけど……。
友美には絶対見せられないな、泣くわコレ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♪♪♪
「あ、もしもし?篠原です」
携帯が鳴って友美がとった。
誰だろ?と思ってたら、
「えっ?えっ?え、えええっ!?」
悲鳴か。
要するに、だ。
電話の相手は空条先輩で、その先輩が仕事の関係もあって急遽顔を出さなきゃならなくなったクラッシックコンサートとやらに、適当な女性を同伴させて行きたい、と。
んで、後腐れなさそうな、誤解とかしなさそうな友美に白羽の矢が立った、と。
でも友美が私に遠慮したそぶりを見せたので、めんどくさくなった空条先輩が私も一緒に連れてくことにした、と。
ここまで一切拒否権なし。
当然、席やお代についての細かい事はキニスンナ、と。
ドレスコードについては、先輩が一切責任を持つそうだ。
……太っ腹ってレベルじゃねーぞ。さすが世界の空条。
どこぞのピンクい背表紙のヒーローを彷彿とさせてくれるねッ。
あ、ちなみに椿先輩は家の方で用事があるらしく、今回は不参加だそうで。
あれ?もしかして今、椿先輩の家でイベント起こってる?…ってか、空条先輩の“コレ”も、もしかしてデートのイベント?……ハハハハハまさかねー。
空条先輩とのデートコースでコンサートとか、割とありふれた物だし。……やっぱ一応注意しとこか。
ま、とりあえずは気にせず楽しみますけどね。
せっかく海外からの来日公演、しかもVIP席、なんだし。……本来の意味で緊張しそうだけど。
「遅い」
開口一番それって、すでに殿モードって事スか。
「す、すみません」
「…遅くなりました」
私達2人が、ざっとではあるが身なりを整えた後の事である。
あの後すぐに車で迎えに来た先輩は、友美のお母さんにうっとりする様な丁寧な挨拶と事情説明をし、私と友美を拉致って行った。
空条のホテルでスタイリストさんと一緒に衣装と格闘し、何とか形になった結果がこの一言。
だが、
「…………まあ、見れなくはないな」
ぷい、と視線を逸らす。……デレたな。
注意深く見れば、耳元がほんのり色付いている様にも見えた。
さっきしっかり綺麗に着飾った友美の姿を視界に入れていたのを、私は見ている知っているのですよ。
「(良かったね友美、先輩照れてるみたいだよ?)」
「(ええっ!?……そうかなあ?)」
2人でひそひそ内緒話していたら、大人達との打ち合わせが終わったらしい先輩が、こっちを振り返った。
「とりあえず先に食事にするぞ。何をしている、早く来い」
「はい」
「はいっ」
慌てて後を追った。
「急で済まないが席はあるか」
「はい、ただ今……ッ!?」
顔色を変えたウェイターが走り去って行く。
そりゃそうだ、空条先輩が予約無しで突撃して来たんだもん……私と友美を連れて。
「ただ今お席を作らせて頂いております、それまでこちらでお寛ぎ下さいませ」
さっきの若いウェイターじゃなくて、それなりの責任者が出て来た……、っていうか支配人、何やってんスか。
「うむ」
鷹揚に頷く先輩に、顔を見合わせる私と友美。
先輩、もしかしてここが何処か分かってなくない?
周囲のセレブなお客も、私達の特別待遇にざわ…ざわ…し始めた。
テーブルに案内されると、すぐに軽く摘める物が用意される。
そのいつにない手際の良さに、さすがの空条先輩も何やら怪訝な表情を見せた。
っていうかいい加減気付こうよ。
かの空条本家もご愛用の、星がいくつも付くホテルのフレンチレストラン。
オーナーシェフはなんと、
「友美いいいいいいいいいいいいいいっっ!!!!!」
……篠原家の大黒柱、暑苦しい、五月蠅い、ウザい、の3拍子揃った“ガーデンティーパーティ”主人公の父親にして相談役、篠原奨その人である。
「やっぱりね」
「お父さん!もう、お客さんいるんだから静かに!!」
「……そういえば、ここのオーナーシェフは篠原奨だったな。そうか…篠原が…。」
「お、お、おお……!?」
普段なら、私達を連れて来たのが男だと分かった時点で決闘を申し込む位するだろう小父さんが、動揺しつつも憤怒の形相で済んでいるのは、さすがに相手が誰だか分かっているからだろう。
相変わらず“娘の機微”には賢しい人だ。
“空条”先輩だからじゃない、先輩に当たり散らして“友美が”機嫌悪くなるのが分かっているから止めたんだ。
……後、さっき去り際にこっそり先輩に気付かれない様、黙ってウィンクしてったお茶目な支配人に、静かながらにこんこんと説教されるのが分かるからだな。うん、あれは怖い。
「どうも小父さん、忙しいのに済みません」
「忙しいだなんてとんでもないよ櫻ちゃん!!可愛い娘たちの為なら、小父さんいっくらでも時間作っちゃうからね!!」
……オーナーシェフがそれで良いのか?あ、支配人が厨房から顔出した。あの顔は…おk、後で〆る、ですね?
「もう、お父さん!ちゃんと仕事しなきゃダメだよ!」
「だ~いじょうぶ~♪わかってるよ~、とびっきりの美味しいもの、腕に寄りをかけて御馳走しちゃうからね~」
でれっでれだ。
見た目だけならナイスミドル選手権で某総裁とタメが張れる位かっこいいのに、見事なまでの残念っぷりである。
あ、ナイスミドルにはまだ早いか、年齢的に。
ちなみに、お手製娘人形を持っていないのは確認済みだ。
「シェフ、支払いは俺が持つから問題無」
「お席の準備が整いました」
金の問題と聞いてカチンと来たらしい空条先輩を遮るように、席の移動を促された。
ナイスアシストです、支配人。
他の客席から隔離される様に配置された一角で、小父さんが直々に注文を取る。
まあ離れないだろうなーと思ったら案の定だよ。
こっちとしては助かるけどね。多少なりとも我儘言えるし。
「ここにはよく来るのか?」
しばらくして料理が運ばれ、食事が始まった。
うん、いつ来てもここの料理は美味しい。
頼んだのは軽めのランチコース。
前菜にスープ、メインは魚。先輩は肉と魚の両方でデザート抜きのチョイス。
「そう、かな?小さい頃は良く来てたよね。…最近はあんまり来なくなっちゃったけど」
「家族ぐるみで来る事が多かったんですよ。うちの家と、篠原家で。良く誕生日パーティーとか開いて貰ってました。今は…、うちの家族が海外に居るので」
個人で来るようなお店でも無いしね。
「なるほどな」
「お嬢様方には、いつも御贔屓にして頂いております」
空条先輩が納得した様に頷くと、傍にいて料理を取り分けていた支配人がにっこりそう言った。
「ふうむ、本当に馴染みなのだな」
「小さい頃からのお付き合いなので……」
ホントにねー、長い付き合いだよ。えー、かれこれ、何年?
古参の人なら、顔見て直ぐに小父さん呼ばれる位には対応慣れしてるよ。
「……ふむ、そうしていると普通に社長令嬢の様に見えるな」
奇麗に切り分けた白身にフォークをそっと差し込もうとしたタイミングで言われ、その姿勢のまま止まった。
「それどういう意味ですか」(怒)
びしっ、と背後で効果音鳴ったぞ、今。
テーブルマナーくらい幼い頃からきちんと躾られてますよ。
特にこの店には何度も来てるんだし、当たり前だっつーの。まったく失敬な。
「普段のお前が規格外過ぎるからだろう」
「……ほっといて下さい」
自覚がない訳では無いので、自然と視線は明後日を向くし、言い返す言葉は小さくなる。
「そうなんだよねえ。普段の櫻ちゃんて、私達とあんまり変わらないんだもん。お嬢様って気がしないんだよねえ」
小さく首を傾げて言う友美。くっそ、可愛いから許す。
「お前もだ、篠原。今までは気にしなかったが、ここのレストランのオーナーシェフの娘だと本当に気付かなかった」
「ええと、言わなくてすみませんでした…?」
「……いや、気付かなかった俺が悪い」
おや珍しい。
友美がどうとかでは無くて、空条の子息として、周囲に注意しなかった事を責めているんだろう。
「わたしのお家は、ただの一般市民の家ですから。本当なら、櫻ちゃんや空条先輩とは釣り合わない家柄なんですよね」
「君は実に馬鹿だなあ。今さら何気にしてんの、そんなの悩む事じゃないよ。だってもうとっくに友達じゃない。でしょ?」
改めて考え出して、落ち込んでしまった友美の言葉を、間髪入れずに否定する。
「そうだな。身分だ資産だ、などと下らない事で俺達が人を判断するような奴だと思うか?それに、天下に名だたる天才料理人の娘の何処が一般市民だと?ずいぶん低く見られたものだな、お前の父親は」
「え、あ……」
先輩のその言葉に、友美がハッとした様に顔をあげた。
「もしそうであれば、今ここでこうやって共に食事をする事も無いだろうに。それ位気付け」
「あ…、す、済みません」
「謝んなくて良いって。でもそういう事だから、友美は気にしないで良いんだよ、おk?」
「うん、……ありがとう、2人共」
そう言って友美はふんわり笑った。
空条先輩も、まんざらではなさそうな表情してる。
……ところでさっきから、厨房の方でガタガタ音が五月蠅い件について。
止めにぱこん、とプレートで何かを叩くような音がして、物音は止んだのだが。
「お父さん……」
友美も何が原因か察したらしく、厨房の方を向いて呆れた様に呟いてた。
…オッジッサーン/^o^\
その後、腕に寄りをかけて作ったという、小父さん特製のデザートが運ばれて来た。
私のクレープシュゼットを仕上げる為に小父さんがフランべした際、勢い余って空条先輩の方まで熱が行ったとか、それを見た支配人が慌てて駆け寄ってきて銀プレートで小父さんの頭を叩くとか、ちょっとしたハプニング(?)はあったけど、とにかく美味しかったので全部チャラ!!
小父さんは時々テレビに出て評論したりするくらいの食通で、気に入らない物を食べるくらいなら自分で作った方が早い、と言い切るような人だ。
実際、若い頃ちょっと修行した事があるらしく、甘い物を作らせてもその腕前は天下一品である。
最初にこの話を聞いた時、実は天才なんじゃないかと思った。
考えてみたら、例のパティシエコンクールにも、ゲスト審査として呼ばれるくらい凄いんだもんね。そりゃそうか。
出る時にもまた一悶着あって、支配人がプレートをステンバーイした所ですみやかにレストランを出発し、私達は無事(なんとか?)、時間通り会場へ到着した。
演奏は、素晴らしかったと思う。……クラシックの良し悪しなんて未だに良く分らないけど、所々で鳥肌立ったくらいだったし。
全てのプログラムが終了して会場の外に出ると、辺りはすでに真っ暗だった。。
まあどうせ、後は先輩の車で送られて家に帰るだけだ。
「央川、お前寝てなかったか?」
「寝てません」
友美を真ん中に挟んだ席順で、友美と先輩がお互い演奏の合間合間にこそこそ話してたから、私は途中から大人しく目を閉じて聴いていた。
「目を瞑っていただろう。クラシックは苦手か?」
だから寝てないっつの。そんな小馬鹿にするみたいにニヤつかれても。
まあ、馴染みがあるかって言うと微妙なとこだけど、思い入れがあったり気に入ってたりする曲が無い訳じゃない。
『ニュルンベルクのマイスタージンガー』とか、『くるみ割り人形』とか、『愛の挨拶』とかねっ。
吹奏楽部の友人の“アンサンブルコンサート”に、応援に行った事だってある。でも、
「確かに、普段は気が向けば聞く程度ですね。ほとんど作業用BGMと化してます」
「睡眠学習か」
「寝てません!」
もー。
しつこい先輩に、渋々理由を説明する。
とはいっても、大した事じゃないんだけどさ。
「……目が疲れるじゃないですか、ステージ見てると眩しくて。目ぇ閉じてて、耳だけ聞いてる方が楽だったんですよ」
その言葉に反応したのは、むしろ友美の方だった。
「えっ!?櫻ちゃん大丈夫!?もしかして具合悪い…、きゃ」
慌てた友美がバランスを崩した。
こっちも慌てて支えようとするけど、それより一瞬前に抱きとめた腕があった。
……まるで、空条先輩と友美のイベントアニメを、画面の向こうから見ている様な錯覚。
「大丈夫か?まったく、そそっかしい奴だな」
「す、すみませんっ!!」
状況を理解したのか、分かりやすく真っ赤になる友美。
「あ、あの、大丈夫…っ」
「おい、足を見てやれ」
「ハッ」
顔を顰めた友美の様子に、すぐに気付いた空条先輩があらぬ方向へ声をかけると、闇から現れる様に黒い服のゴツイサングラスのおっさんが、スプレーとテープを持ってやって来た。今夜だけど……そのサングラス、見えるのかな?
「失礼いたします、お嬢様」
ささっと近場の車止めのコンクリに布を広げ、手際良く友美を座らせるとそのまま手当を始めた。
「どうやら、お嬢さんには高いヒールの靴は、まだ早かった様だな」
どこぞに携帯で連絡を取っていた先輩が、からかうような声音でそう言いながら振り向く。
「うう、す、すみません……」
「今代わりの靴を用意している、それまで待ってろ。大丈夫だ、今度はちゃんとお子様向けのヒールの無い奴だからな」
「うー…」
落ち込んだ友美だったけど、…待てよ?
「先輩、低いヒールを履くのは何も小さなお子様に限った事じゃありませんよ」
「何だ?」
「妊婦さんって可能性だってあります」
あ、二人とも固まった。
「……なるほどな。その場合……父親は俺か?」
さりげなくセクハラです、先輩。友美の腹を見るな。
「なっ……!?櫻ちゃん!先輩も!いい加減にして!」
フォローのつもりだったんだけどなあ……。
黒塗りのリムジンに乗って待つ事しばし。
「明日葉様」
「来たか」
黒服その2の人が、真新しい靴の箱を持ってやって来た。
早速その場で開ける2人。
「友美、足、大丈夫?」
「うん、手当が早かったからかな?全然痛くないよ」
隣で微笑む友美に、空条先輩が爆弾を落とした。
「だが無理は禁物だ。後で痛くなるかもしれんからな。ほら、足上げろ」
「え……?」
来たか。
長かった。ゲームのイベントではほんの数分、でも現実だとそのシーンに辿り着くまで、色んな事が起こるもんだ。
……友美だけかもしれないけど。
「で、でもあの」
「いいから早くしろ」
友美が救いを求めてこっち見た。でも、ゴメーンね☆
「友美、こう言う時は素直に甘えておけばいいんだよ。せっかく空条先輩が、手を貸してくれるって言ってるんだからさ」
イベントの為だ、甘んじて受け入れろ。
衆人環境での羞恥の為か、涙目で顔を真っ赤に染めた友美は、跪いた先輩に足を取られ……。
「ふむ、サイズは合っている様だな。痛くは無いか?履き心地はどうだ?」
「だ、大丈夫です~~~~っ」
「そうか。今後は十分気をつけろよ。……こうされない様にな」
隙アリとばかりに友美の足首に口を寄せた先輩のその表情は、いつもの傲岸不遜な王者の風格を漂わせる事も無く、悪戯が成功して楽しいとでも言いたげな、年相応の明るい男の子のような表情をしていた。
う~ん、スチル乙。
「も、もういいです、いいです、良く分りましたから!!櫻ちゃんも見てないで何とか言ってよ!!」
限界を迎えた友美の悲鳴が、車内に響き渡った。
こうして無事、空条先輩のデートイベント回収に成功した。
夏の木森君イベントの時は、白樹君(あ、私もか)がいた事もあって上手く行かなかったからなー。
出来るだけイベント本番時には、空気に徹していようと心掛けたのが良かったのかな?
結局友美の足の痛みは一時的な物で、悪化せずに済んだ。
でも、その時“助けなかった”事で、しばらく友美からねちねち言われる事になるんだけどさ。
唯一つ気がかりなのが、先輩に纏わり付く女の人の影。
会場の駐車場から車が出る時、不意に視界に飛び込んで来たあの髪の長いドレスの女性。
暗くてよく見えなかったけど、あの女の人、もしかして――――――。
―――あの人は、どこまで気付いているんだろう。
私達がいる事に。
篠原パパについて
オーナーシェフ、という事で厨房内の立ち場的には料理長さんです。
今回みたいな場合、メイン料理に携わる事が多い(というかそれが本来)のですが、友美や主人公が来ると本気出した揚句(メニューにない創作料理とかに手を出し始める)間に合わないんで、大人しくお菓子作りさせられてます(支配人判断)
フロア全体を仕切る支配人さんには、基本頭が上がらない。
銀盆で叩いちゃらめえ(衛生的な意味で)
という事を本文の中に入れようとして挫折orz
詳しくは登場人物紹介にて。




