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今回のお茶会は、ちょっとした報告の場になった模様デス

増量2話目!

「今日は友美と私がお菓子の当番なんだ。だから、そんなに堅苦しくならないと思うんだよね」

「えっ!?……ええと、何の話?」

「参加してみない?って話」

「いやいやいやいや、無理だよ!!」

 2学期になってから何度かこうして木森君に声を掛けているんだけど……、手強い。


「今日のメインはクッキーやスコーンだし、そんなに甘くないから大丈夫だよ?」

「甘い甘くないの問題じゃなくてさ!」

「友美の手作りクッキー、美味しいのにな?」

 友美を真似て天然を装い、首を傾げてみる。

 お、何かに詰まった様に顔を顰めた。これはぐらついたな?

 しかし、

「ぼ、僕これから図書館に行かなきゃいけないんで!!」

 あっ、……逃げられたか。ちっ。


「もう、櫻ちゃんたら。あんまり無理に誘うのは駄目だよ?木森くんだって……」

 迷惑?いやあ、そんな事無いんじゃないかな?

 じゃなかったら友美の事、離れた場所から長い間じっと見つめたりしないだろう。

 片やキラキラしいティーパーティメンバーの、大事な大事なお姫様。

 片やただの幼馴染。

 この微妙に開いた距離を縮める、良い機会だと思うけどね。

「分かってるって。これは単なる私のお節介だから」

 本音は口に出さず、そう言って誤魔化す。

 木森君の今の心の内を恐らく正確に把握しているだろうと言う事は、友美にも言えない事だから。

 

 木森君に絶対参加して欲しいって言うのは、元ゲームプレイヤーとしてのこだわりみたいな物なのかもしれない。

 いて欲しい。いない事がおかしい。違和感と焦燥感。

 だから私は諦めない。

 例えそれが今、彼の心に出来かけている小さな傷に、決定的な楔を打ち込む事になったとしても。


 とはいえ、ここまで拒否られるって言うのは何かあるのかな?

 好感度足りてなさそうなのは何となく分かるんだけど……。

 個人イベントは今の所起きてる。

 けどやっぱりあの夏休みのデートイベント、微妙に潰したのが駄目だったのかなー?

 それに季節のイベントは体育祭以外はスルーだし、デートだってしてない。

 最近は皆で遊ぶ機会も減ったし。

 ……こればっかりは友美しだいで、こっちでどうにかなるもんでも無いからなー。


 友美は良くも悪くも一途だ。

 ほら、今だって―――

「空条先輩!!」

 輝く笑顔でお出迎えだ。うわあ。

 って、あれ?観月先輩だ。先輩が1年のクラスまで来るって珍しいな?

「友美ちゃん、櫻ちゃん、実習室確保したよ。オーブンの準備も完了。早くおいで」

「うわ!?済みません!!今行きます!」

「慌てなくて良いから」

 下準備やって貰ったと聞いて慌てた私に、クスリと笑う観月先輩。

「じゃあ、俺達は先行ってるから。またな」

「うん、白樹くんも、先輩も。またね!」

 白樹君が一言声を掛けてから、私達を抜かして空条先輩と屋上へ向う。

 なんか、あの二人並んでると学生って感じしないんだけど……。いいなあ、あのツーショット。

 そう思ったのは私だけじゃ無いらしく、気付けば廊下に出ていた女子は皆ガン見だった。でっすよねー。


 実習室でやるのはひたすら焼く事だけ。

 友美は観月先輩とクッキーのアイシングの作業中。

「いいのかなー……?」

 ネットで拾って来たレシピで作った、もろ家庭の味なのに。

 …ぶっちゃけアバウト制作だし、きっと大味だし。ついでに半日以上冷蔵庫で寝かせっぱなしだったし。

「そんなに心配する事無いよ」

 考え込む私に、観月先輩が声を掛けて来た。う、しまった、うっとおしかったかな。

「聞いた限りではおかしなところは無かったし、そうだなあ、気になるなら手でこねるんじゃ無くて、フードプロセッサとか使うのはどう?そうすれば手の温度でバターが解ける時間を減らす事が出来るし」

「そうですね……。今度作る機会があったら、それやってみようかな」

 あんまりフープロ使う機会が無かったから失敗が怖くて今回使わなかったけど、家で試すくらいなら良いかもしれない。

 今度小父さんに聞いてみよう。基本的に凝った調理器具は小父さんの管轄なんだよね、篠原家では。

 そういえば、パティシエのコンクールの話、あれからどうなったんだろ?

 一緒にクッキーの飾り付けをしている観月先輩と友美を見る。

 その姿はまるで、1枚の絵画の様。

 ほんと、絵になるなあ。心のフォルダに永久保存しておきたいくらいだよ。


「では」

「「乾杯」」

 空条先輩の掛け声でお茶会が始まった。

 お茶会で乾杯って。しかもメインのお菓子がスコーンというかビスケットとクッキーって。いや、それ以外にもちゃんと、観月先輩お手製のお菓子が並んでいるんだけれども。

 内心ツッコミの嵐だった私を置いて、会は和やかに進行して行く。

「ほお?美味いじゃないか」

「本当ですか?やったあ」

 早速クッキーを口にした大寺林先生からお褒めの言葉を貰った友美が、嬉しそうにはしゃいだ。

「ふっ」

 それを見た空条先輩は謎の笑み。

 あれか、『俺は以前から知っていたぞ』的な余裕の表れですかこの野郎。

 この前友美のクッキー全部独り占めした事、私は忘れてないんだぞ。(怨嗟)


「あんま甘くないねー」

「これはジャムやクリームを楽しむものです」

 言うと思ったよ、こぬ野郎。いい加減メタボになあれ!

「その通りだよ愉快。うん、外はサクッとして中はふわっとして、美味しいよ、櫻ちゃん」

 う、うわわ、観月先輩に褒められた!!

 ほわっとした笑顔で褒められたら、どうしたら良いか分かんなくなっちゃうじゃないですか!!

 ひー、顔が赤くなるー!!

「たまにはこういう甘くないのも良いな。クリーム付けて食べるとお茶が進む。むしろ止まらなくなるって言うかさ」

 それは単に口の中の水分奪われるからじゃないかなー?白樹君。

「…………美味い」

 ぼそりと言った椿先輩の方を向けば、無言で食べ進める先輩の姿が。

「先輩は何もつけないんですか?」

「俺は、これくらいがちょうど良い」

 そう言う先輩の消費ペースは割に早い。あ、また手を伸ばした。

 好評っぽくて嬉しくて、思わずテーブルの下でガッツポーズをした。


「そうそう、あれからね、色々アイディアが湧いて来るようになってね」

 何の事だろう?

 観月先輩のその言葉に、友美と2人、お茶の用意をしながら首を傾げた。

「ほら、前に実習室で相談に乗って貰った事があったでしょう?櫻ちゃんにはマンガも貸して貰ったし」

「ああ!」

 あれか!一瞬分からなかったよ。

 ん?でも待て、この前フリって事はもしやイベントか!?

「参考になったのなら良かったです。続刊出てますけどどうしますか?」

 貸しますか、貸しませんかと言外に問うと、観月先輩は首を横に振った。

「結局自分で揃えちゃったから良いよ」

 買 っ た の か。

「僕も恋をしたら、あんな風に素敵なスイーツが作れるかな?」

 夢見る様に少し遠くを見る観月先輩に、周囲は若干引き気味だ。

 というか、あのパティシエ漫画の恋愛って…それって失恋前提って事じゃないですか、ヤダー。

「輝夜はお菓子作りの事になると、すぐ周りが見えなくなっちゃうからねー」

 そう言う問題じゃないよ、しののん。


「素敵な恋が出来ると良いですね」

 さりげなくフォロー、と思いきや、バッと凄い勢いで全員にこっち向かれた。あれ?

「央川が、恋」

「櫻ちゃん、恋愛に興味あったのー!?」

「こりゃあ、認識を改めなきゃならんか?」

「……意外だ」

「同感です、椿先輩」

 ちょっと待てお前等(怒)。

「もうっ、みんな酷いよ!櫻ちゃんだって女の子なんだよ?恋に憧れたりするんだもん、ねー?」

「まあ、ね」

 友美の言葉に、ずず、と茶を啜る。

 否定はまあ、しませんよ。女の子だもの。

「恋をしたら世界が変わる、って良く言うじゃないですか。先輩の技術や感性がさらに向上する為なら、恋愛というのも悪くない手段だと思いますよ」

 そう言うと、周囲は今度はあからさまにほっとした。だからなんなの(怒)

「もう、そんな言い方よくないよ?」

「そう?」

「そうだよ!」

 逆に友美はご立腹の様だ。隣にいる友美の頭を撫で撫でする。

「恋愛なんて千差万別なんだし、友美ならきっと、夢みたいに甘くて幸せな恋が出来るよ」

「そんなの、分かんないじゃない」

「私が付いていて、友美を泣かせるような奴にむざむざ渡すと思う?」

「……私がそれでも良いって言ったら?」

「……どうにかするよ。必ず」

 友美が言っているのは、きっと恋に落ちてしまった後の事。でも私は、私なら―――


「確かに、恋は人を変えるな」

 私達を見ていた、見守っていた、のかな?大寺林先生がそう言って話を元に戻した。

 というか、恋愛の話が違和感あるのは、ここにいる半数の人が当て嵌まると思うんだけど。

 この人達ホントに恋愛ゲームの攻略キャラかよ?って程、普段の彼等に恋の1文字は縁遠いように思える。

 いや、ある意味これも一種のギャップ萌えか。

「えー、先生からそんな言葉が出るなんて思わなかったなー。ねえねえ、もしかして先生も実感した事あるのー?」

「しーのーのーめー?お前後で課題追加な」

「えーっ!?」

 余計な事言うから、……ざまあw

「良い事ばかりでも無いと思いますけどね」

「俺は、良く分らん」

 苦い口調の白樹君と実感湧かなそうな椿先輩に、空条先輩が口を挟む。

「新しい世界が拓けると言う事は、それだけ新たに成長出来る可能性が生まれる、という事だ。恋をして世界が変わるのなら、それもまた成長に繋がるという事なのだろう」

 俺はそんな不安定な成長はいらんがな、と付け加えながら。

 ……そう言う事言ってるヤツが一番恋に溺れるんだよ。やっはいフラグー。ヽ(゜∀゜)ノ


 まあでも、空条先輩の言いたい事も分かる。

「強くてニューゲームは確かに楽だけど、逆に言えば新鮮さはあんまりないんですよねー。計画的にフラグ管理しなきゃいけなくて、ヒヤヒヤしたりするスリルはあるんだけど」

 お茶を飲みながらどこか上の空で思った事言っていたら、何か周囲に見られた。

「それってゲームの話?」

 白樹君に突っ込まれたけど、本当の事なんてとてもじゃないが口に出せなくて、私は黙って眉根を寄せた。

 残念ながらこれは現実です。


「で、参考になったのは良いんですが、コンクールの方はどうなったんですか?」

 これ以上この話題はやりにくいなあ、と思ったので、ついでの様に聞いてみた。

 実際気になる所だったし。

「ああ、その話ね。ちょうど良いから話しても良いかな?」

 空条先輩と謎のアイコンタクト。ん?

 うむ、と鷹揚に頷いた空条先輩の許可を得て、観月先輩は話し出す。

「ええと、先日明日葉の家とうちの家族も交えて話し合いをした結果、今年の年末、パティシエのコンクールに出る事になりました」

 おおっ、と場が湧く。

 でも何で空条先輩?と言った空気もあったが、それはつまり、

「コンクールでの入賞を条件に、1年間の留学と空条グループでの修行が決まりました。ゆくゆくは専属も視野に入れて活動して行く予定です」

 おおっ、と再び湧き、ぱちぱちと拍手が鳴る。

 そっかー、ちょいちょい展開早い気もするけど、これで将来は決まったも同然だな。

 その後は文化祭で友美のお父さん(ラスボス)と初接触、個人ルートで友美が手伝いつつ愛を育む、と。

 今後の予定を思い浮かべ、その進行度合いに満足する。


 実際に空条が絡んでくるのは年末のコンクール入賞直後、留学が決まったという話と同時だったから、そこの所だけ予想外かな。

 離れる離れないでちょっと切ない、でもすぐに甘々な展開になった筈だ、本来の予定なら。


「わたしっ、先輩の作るお菓子が大好きなんです!もうすっごく大ファンなんです!だから先輩には、これからも頑張って行って欲しいです!」

 興奮のあまりテーブルに手をついて立ち上がった友美の、そのキラキラな笑顔に眩しそうに観月先輩が目を細め、微笑んだままかたん、と席を立つ。おおっ!?

 周囲はちょっと戸惑っているらしいが、その中で私だけが、期待に胸を膨らませつつ見守っていた。

 そしてその手は友美の手をそっと握り―――

「すごく嬉しいよ。他でもない君にこうまで言って貰えたのなら、必ずや期待に応えないといけないね。約束する、全力を尽くすって。君にもっと褒めて貰える様にね」

 にっこりと笑った。

 友美は突然の事に真っ赤になって硬直してしまっていたが、観月先輩の笑顔につられるようにふんわりと笑った。

 いやあ、さすが観月先輩!糖度高ッ!!

 友美もうっとり見つめちゃってるし。

「……そのくらいにしておけ、茶が冷める」

 友美の隣にいた空条先輩がそんな2人に声を掛けた。

 微妙に嫌そうなのは甘ったるい空気に辟易したからか……。

 いや先輩の事だ、普段なら友人をからかうくらいの事はするだろう。

 それが無かったって事は……。


 ゲームのこのシーンでは、好感度の一番高い人が乱入とかは無かった筈。

 そう、あくまで1対1のイベントだった。

 こういうのも現実ならではだな、とくすりと笑う。ヤキモチおいしいです。

 ニヤニヤしていたら、向かいの東雲君が不審に思ったのか声を掛けて来た。

「どーしたの?櫻ちゃん」

「どうも?仲良き事は良き事かな、とね」

 空条先輩と観月先輩と友美の△的な意味でね。

 後半の本音を口にする事無く、うっすら笑って誤魔化した。



「そうだついでに先輩方、ちょっと良いですか?」

「何だ?」

「どうしたの?」

 取合いってほどじゃないけど、微妙な(おいしい)空気になっている先輩方に声を掛ける。

「今すぐじゃなくても良いんですけど、メンバー増やしても良いですか?」

「メンバー?」

「このお茶会のメンバーです。あ、男子なんですけど」

 それを聞いた友美がちょっと顔を曇らせた。

 最近私が木森君によく絡んでいるから、すぐに気付いたのだろう。

「誰だ?そいつは」

「あー、私と友美の友人で、木森浩太君っていうんですけど」

「へえ、木森?何でまた急に」

「木森君って、あの?」

 名前を出したら、知ってる二人が不思議そうに反応した。


「最近ちょっと距離を感じてて。一緒に遊ぶ機会も減ったし、このままだと疎遠になりそうでなんか嫌だなって」

「櫻ちゃん、……でも…」

「友美だって嫌でしょ?」

「それは、まあ、そうだけど……」

 どちらの気持ちも分かるのだろう、友美は口を濁した。

「木森か……、2人は昔からの付き合いだったか?」

「はい、幼馴染です」

 大寺林先生はやっぱり先生らしく、詳しく言った事無くても大体の事情は把握している様だった。

「もしかしてー、好きなのー?」

 さっき恋愛の話をしたからか、東雲君がニヤニヤと話し掛ける。

「好きって言うか、フツー?でも、幼馴染ってカテゴリは外したくないんだよね。今日も誘ったんだけどお断りされちゃったし、遠慮されてるのかなって」

「そう言えば最近よく木森に声かけてたけど、それでか」

 納得したように言ったのは白樹君。

 白樹君的にはどうでも良いのかもしれないなー……。


「木森君、甘いお菓子とか確かに得意じゃないけど、もう少しだけでも話したいって言うか、仲良くしたいって気持ちがあるんですよ。で、ここはそう言うのちょうど良い場かな、って。せっかくだから皆とも仲良くなって欲しいし」

 私の我儘なのは分かってるんですけど、と気持ち小さく呟く。

 何というか、こだわっているのは自分でも理解しているんだ。


「良いんじゃないか?」

 最初に口を開いたのは椿先輩だった。

「え?良いんですか?」

「友人との繋がりを、無くしたくないんだろう?」

 じっと見つめられる。

 先輩、気にしてくれたのかな。……良い人だなあ、と心がじんわり温かくなる。

「僕も賛成!木森って意外と面白い奴だよね」

「知り合いが増える分には問題無いんじゃないか?」

 1年の2人も賛成に、いや、白樹君のは賛成と言って良いのか?キャラ的に。

「おいおいお前等、気が早くないか?」

 大寺林先生の呆れた声に心配になったのか、観月先輩が確認に入った。

「まだ本人の許可は取ってないんだよね?」

「あ、はい」

「だったらとっとと意思を確認して来い。話はそれからだ」

 空条先輩のその言葉だと全面許可とも言えなかったけど、これで少しは根回しになっただろう。


 観月先輩のイベントも無事終了したし、後注意しなきゃいけないのは、大きなところではとりあえず、先輩達の修学旅行イベントと文化祭だけ!

 他にも個別イベントがあるかもしれないし、注意は必要だけど、今はほっと気を抜いても良いよね?

 気合を入れ直して友美のクッキーを手に取った私に、隣からこっそり声がかかった。

「木森くん、ホントに参加してくれたら良いね」

 何だ友美、実はちょっと楽しみにしてるんじゃん。

 顔を見合わせて微笑みあった。





という訳で今回は観月先輩イベントその2でした。


半分主人公の根回しに持ってかれたけどな!

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