戦隊ショーでダブルデート!
増量版第1話はここから。
「遊園地のチケット手に入れたんだけどさ、行かない?一緒に」
木森君にそう言われたのは、1学期期末試験の直後。
明日から2日間ほど試験休みに入るという事もあり、皆ほっとした表情だ。
一部にはもう気分は夏休み、って人達もいるみたいだけど。
「珍しいね、私を誘うなんて。友美にすればいいのに」
突然の事に思わず目を見張ってそう言うと、木森君が苦笑した。
「あー、はは、戦隊のショーとか篠原さんだと誘いにくいって言うかさ」
「あー……」
それもそうか。
“そういうジャンル”メインだったら、確かに友美より私の方が言いやすいよね。
でもだからって私も別に、お子さん達の群れにぽつんと“大きなお友達”として混ざるつもりはないんだけど…。
「他の友達と行かないの?」
「……遊園地に男だけで行くのはちょっと……」
「心底スマンかった」
我ながら良い反射でした。
「で?いつ?」
「えーと、7月中には行きたいなー、と…」
「7月の最終週…?週末なら模試無いと思ったけど」
携帯の手帳を開いて確認する。
「8月のアタマは駄目だよ、旅行あるから」
「あっそっか、皆で行くって言ってたね。あー、あんまり遅くなるのもちょっと困るし、そうだね、行くなら7月中だね」
そうそう、木森君にも夏の大祭というモノがあったのだった。
「うーん…」
でもそれだと、結構スケジュールキツキツだなあ。
そもそも木森君と2人きりって言うのが……。
「そう言えば今度の週末から中の人来るって告知あったよ」
「行くわ」
クマー!
戦隊と言えば、日本の伝統的特撮シリーズの一つである。
その歴史は光の巨人や、ライダー、他のヒーロー物に比べれば浅いかもしれないけど、私は小さい頃からこれが一番好きだった。
さすがに大きくなってからは自発的に見る事も少なくなっていたんだけど、うちには弟もいたし、日曜の朝と言えば姉弟そろってテレビ観賞数時間とか良くやってた。
中の人って言うのは、変身前の人間の役者さんの事。
場合によってはスーツアクターさんの事を指すんだけど、身内では大体それで話が通る。
木森君も特撮好きだから良く話題にするし、これで通じてしまうのだ。
篠原家でお借りしている私の部屋には、自分の家から持って来た小さなテレビが置いてあり(ほとんどゲーム専用機と化しているけど)、日曜の朝たまたま点けたタイミングが、ちょうどその戦隊をやっていた時間帯だったのだ。
最初は流し聞き状態だったけど、番組が終わる頃には座り込んでしっかり見てたっけ。
それからだ、毎週こっそりチェックする様になったのは。
木森君と毎週感想を話し合う内に周囲も参加して来たあたり、今年の戦隊は当たりだと言って良い。
「そっかあ、タッキー来るのかー」
「えっ!?タッキー!?」
近くで別の友達と話していた友美とその友人が、一斉にこっちを見た。
あー、うん、ごめんそれ“別のタッキー”だね。
この“タッキー”は身内にしか通じない今期のレッドの愛称なんで、女子の皆さんはガタッてしなくて良いです。
「そう言えば、さっき遊園地がどうとか言ってたよね?そこにタッキーが来るの?」
「ごめん、タッキー違い。ヒーローショーで好きな俳優さんが来るから行かないか、って話」
「へえ?俳優さんが来るの?最近のヒーローショーって侮れないんだな」
脇から首を突っ込んで来たのは白樹君。
さっきの“タッキー発言”が予想以上に波紋を広げてしまった様だ。
あれ?このクエ地形不安定だったっけ?(違)
「なんか面白そうだな」
「え、どうだろ?」
「趣味じゃ無い人が行っても、面白く無いかもしれないよ?」
興味を示した白樹君に、逆に戸惑う私と木森君。
言っておくが、カタギとマニアの壁は物すごく分厚いんだぞ、なめんな。
しかしそんな挙動不審になる私達に構う事無く、そばで黙って聞いてた友美が爆弾を投下して来た。
「じゃあせっかくだから皆で行こう?遊園地なんだし、ヒーローショーだけって訳じゃないでしょ?きっととっても楽しいよ!」
実に、イイ笑顔でした。
「いやあ、あっついわー」
ぱたぱたと手団扇で仰ぐ。
「友美は大丈夫?」
「うん。今日は楽しみだね!」
「……そうだね」
にこにことご機嫌な友美の様子に、つられて少しだけ笑顔になる。
はしゃぐにはちょっと気温高すぎ。
パフスリーブのTシャツに花柄のロングスカートの私と、カットソーのミニワンピースの友美。帽子は基本。
スカート丈的には釣り合い取れてるかな。
問題は友美の足が眩しすぎて目が眩むってだけで。
入場ゲート近くで待っていると、大勢の人の中から男子達がやってくるのが見えた。
話し合いの結果、追加で2人分のチケットを購入し、7月の最終土曜日、私達4人は遊園地へと遊びに来ていた。
私達、って言うのは私と友美、それに木森君と白樹君の2人だ。
白樹君は他の人達にも声を掛けたみたいだったけど、“ヒーローショー”で皆二の足を踏んだらしい。……そりゃそうだよな、高校生にもなってヒーローて。
一方オタ友人達は逆に気を使ったらしい。だからデートじゃないってば。
…………って言いたいとこだけど、これ、木森君のイベントだろうなー。心当たりありまくり。
本来のイベントと違うのは、何故か2人ほど余計なのが付いて来てる、ってとこ。ごめん友美。
まあせっかく来たんだし、イベント発生まで目一杯楽しみますか。
「まず何から行く?」
「あのパラソルみたいなやつは?」
とりあえず、入ってすぐに目についたアトラクションを指してみる。
高い所まで昇って、それから傘が開いてゆっくり下りてくるみたいだ。
あれなら友美もそんなに怖くないんじゃないかな?
「あんなに高いとこ、怖くないかな?」
それでもやっぱり少し怖いか。観覧車と違って脇空いてるもんね。
「ゆっくりだから大丈夫だよ」
どこかで見た事あったのか、何となく楽しみにしている自分がいる。
どうしても嫌なら止めるけど、どうせだったら色んなのにチャレンジしてみたくないですか?友美さん。
「パラソル畳めばスピード上がるけどね」
白樹君が前方のアトラクションを指して言えば、丁度そこにはしぼんだパラソルのゴンドラが急降下して行く様子が……。
「!?」
「ちょ!?それ言っちゃダメじゃん!!」
「櫻ちゃん知ってたのー!?」
ゆっくり降下で絶対スピード上げないなら、と言う条件で4人仲良く一緒に乗りました。
「よし、とりあえずジェットコースターで」
「まあ1回は乗らないとな」
おつまみにビール!と言ったノリで私が言うと、隣で白樹君が頷いた。
「ジェットコースター怖いよ……」
「僕も苦手で……」
苦手が2人か。白樹君と顔を見合わせる。
「待つ?」
「無理なら無理って言って良いんだからな?」
気遣った私と白樹君に、友美も覚悟を決めたらしい。
「う、が、がんばる」
両手を胸の前でぎゅっと握りしめた。カワユス。
絶叫平気な白樹君と、自主的に乗る分には問題無い私が先頭、その後ろに顔の若干引きつった木森君と若干強張った顔の友美が乗った。
ま、組み合わせ的にも今回の趣旨に合ってるし、これはこれでオッケーかな。
「ひゃっはー!!」「何その叫び(笑)!!」「きゃーーーーー!!!」「………」
終わった後、案の定足元がふらついてた2人の為に、ちょっと休憩を入れた。
木森君に至っては、若干貧血ぎみみたいだったし。
だから無理すんなって…、って、友美が乗るって言った手前、引くに引けなくなっちゃった感じかな?
妙な所で男らしいのは昔からだったけど、何もこんな所で発揮しなくても…。
「本格的な正統派お化け屋敷は初めてだなあ」
おどろおどろしい看板を見上げる。
機械仕掛けのチープな物じゃなくて、ここにはちゃんと中に人がいるらしい。
「おーい、突入するぞ、2人共」
「「うわああああああ!!」ん!!!!!」
「「早ッ!?」」
ホラー無問題な白樹君と、怖いけど読める、自主的以下略な私がそれぞれ絶対無理!!な2人について行くって決めたのに、結局4人一緒に回るハメになった。
こういう時、理性のある人間って損だよね……。
季節限定だから、って面白がって勧めるんじゃ無かったかなあ。
何とか無事に出て来た後、白樹君もちょっと疲れてるみたいだった。
うん、ダメな二人ががっちりしがみ付いていた揚句、事あるごとにギャーギャー騒ぎまくってたもんね。
ある意味満喫で良いんじゃ無い?こっちは大変だったけど。
「パス」
「パスで」
はい、男子2名のパス出ましたー。
と言う訳で女子2人のメリーゴーランドです。
「うふふふふ」
「友美、こっち向いてー」
斜め横で馬車に乗る友美に、携帯のカメラを向ける。
「櫻ちゃんお姫様みたーい」
「えー?」
「だって、貴族のお姫様みたいに座ってるんだもん」
私はと言えば白馬に横座りしていた。だってスカートだし。
いやでも、お姫様って柄じゃないぞ。
「友美、貴女こそプリンセスの称号に相応しい」
ちょっと声を低く作って王子様意識してみた。
「やだもー、櫻ちゃんたら」
櫻王子はお気に召していただけた様だ。
さて、問題のヒーローショーですよ。
時間になったのですり鉢状の舞台の上の方、隅っこから観戦(?)する事にした。
「うわあ、人がいっぱい」
「さすがに親子連ればっかりだな」
「ちょっと、恥ずかしいね」
“大きなお友達”はどうやら私達くらいのものだ。
もしかしたら探せばいるのかもしれないけど、こう人が多いとその気も失せる。
開演してすぐに目当ての俳優さんが現れた。
「おおっ、タッキーキター!!」
「へえ、結構カッコいいじゃん」
「世の奥様方にも人気高いんだよ、あの人」
「ああ、母親も一緒になって見てるって事か」
「あっちの人もかっこいいね!」
「ああ、ブルー?あっちも人気あるよ。あの繊細そうな所が良いんだって。個人的にはグリーン役の少年も…」
「イケメンばっかじゃん」
「最近の流れと言うか、流行りと言うか……」
舞台の方見てたから表情は良く分らなかったけど、鼻を鳴らした白樹君に、木森君が苦笑したみたいだった。
「あっ、あっ、ね、ねえ、喧嘩になっちゃったよ?仲間じゃ無いの?」
「あー、良いの良いの、あれはそういうキャラだから」
話が進むと、いきなりレッドのタッキーが味方をなじり出した。
あっという間に雰囲気が悪くなる。
そうこうしていると、気の強いキャラ設定のピンクのお姉さんがタッキーに詰め寄った。
「へえ、協力して敵を倒すだけじゃないんだな」
「最近の戦隊はシナリオも重視されてる部分があるからね。今期は特に評価高いよ。まあ、今の所は、だけど」
感心した様子の白樹君に、事情に詳しい木森君が冷静に解説をする。
「でも、レッドさんってリーダー役なんだよね?あんな捻くれた事言ってて良いのかなあ?」
心配そうに舞台を見守る友美。
「あれでも番組開始直後に比べたら仲良くなった方だよ。ほら、何だかんだ言いながら協力してるでしょ?」
「あっ、ホントだ、良かったあ」
どうやら完全に引き込まれている様だ。
「まあ、イケメンなら何しても許される、ってとこあるよねー」
何気なく生ぬるい目で舞台を見ながら呟いた、その時だった。
『イケメンなどこの世界から滅びるが良い!!』
「「キャーッ!?」」
背後から突然ワニっぽい怪人が現れて、あろうことか友美が捕まった。
周囲が若干パニックだ。あ、泣き出してるちびっこが。
わあ、敵キャラに予告も無しにいきなり人質にされるとかさすが友美、マジヒロイン。
ゲームイベントがあるだろうとは思ってたけど、舞台に集中しすぎてたのか、こっちもその事すっかり忘れてた。てへぺろ。
そっか、このタイミングか。あー、びっくりした。
ていうか怪人アクターさん、スネークに本気出し過ぎだろ!?
ぜんっぜん気が付かなかった!
って、あれ?白樹君が前に出て来た。え?これ、もしかして庇われてるの?
そっと覗くと結構真剣な表情。…………ノリノリやがな。あ、ちらっと木森君の方見た。小さく口パク?
木森君は『ムリムリ』?ああ、何かリアクションしろってか。ちょ、白樹君完全に面白がってるだろ。
友美の方を見ると、固まっていた表情が情けなく緩んだ。
どうして良いか分らなくてちょっと泣きそう、かな?
ここは白樹君を見習って、1つアドバイスをば。
『キャー、キャー』
口パクで悲鳴を上げる様に指示すると、友美は全力で首を横に振った。
えー、ダメ?
終演後、アクターさん達に付き添われ、舞台裏に招待された。
さっきのはやっぱり怪人役のアクターさんの暴走、もといアドリブだった様だ。
いきなり巻き込んでごめんねー、なんてぺこぺこ頭を下げられてしまえば、こちらとしても許すしかなく。
「こちらこそ楽しかったので気にしないで下さい」
「びっくりしちゃったけど、これはこれでいい思い出かな、って」
「友達に話す良いネタになります」
「むしろ自慢しちゃうかも、ね」
最終的にみんな笑顔でお別れする事が出来た。
そう、自慢と言えばスーツじゃ無い方の人間モードの役者さんとも全員握手出来たんだよー!!こ れ は 自 慢 !!
帰りの電車でも、その事で存分に盛り上がった。
惜しむらくは、あくまで特撮界で名が売れているってだけで、一般的にはあんまりメジャーじゃ無いって事かなー。
でも、知ってる人にはこれ以上ない有効な切り札になるだろう。
存分にドヤ顔させて貰う事にした。
ん?でも待て、イベントは起きたけど、あれ?
良く考えてみたら、成功は、してない、よね?
え、だってこのイベントは怪人からヒロインを庇う、ていうか連れ戻すってヤツで、でも実際に起こったのは、友美が捕まった後白樹君が……、えーと……。
え、うちらがいる事での、まさかの妨害?
うそおおおおおおおおおっ!!??
しばらくの間、木森君の顔を見ると罪悪感に駆られる症候群におちいりました。
ゴメン、ほんっとゴメン。心の底から土下座したい気分。
これが夏休み中に起こった事だったのは、良い事なのか悪かったのか……。
蛇足ついでにその後、後々各俳優さんと舞台スタッフ宛てに、お世話になったからと感謝の手紙を書いた。
どうすべきか悩んで、こっそりステマに気を付ける様に書いたのは……要らなかったかな?
とりあえずその後彼がどうなったのかは分からない。
今のところトラブルがあった話は聞いてないけど。
ま、余計な事だったかもしれないけど、何もしないよりはいいよね?
さて、何の戦隊が元ネタか分かった方はいるだろうか……。
当たっても何も出ません(苦笑)
作者の都合でレッドと6番目の戦士は入れ替えしています。
あいつレッドで本当に大丈夫か?
タッキー云々については実話。
なお、櫻王子のBGMはテッテレ(aaフリ付き)でお願いします(笑)




