第五話 『悪役令嬢』
「……っ、ふぇ!? な……な!」
僕の言葉を聞いたステラワースは、驚きと混乱を極めているようだ。何か言葉を発したいが、情報処理が追い付いていないのだろう。愛しい婚約者の新鮮な反応に気分が良くなる。
恐らく落ち着く為だろう、ステラワースが距離を置こうとする。だが、彼女の腰には僕の腕が回っておりそれは叶わない。この場で、ステラワースにかけられている『冷血令嬢』というレッテルを剝がす必要がある。彼女は僕に必要不可欠で素晴らしい人物なのだ。
「僕だけ君の本音を聞いていたのでは、公平ではないだろう? 本音を伝えようと思ってね」
僕は慌てるステラワースを落ち着かせる為に微笑む。笑顔には相手の緊張を緩和する、リラックス効果があると本で読んだことがある。
「そ、それなら……ふ、普通に伝えていただければ……」
「ん? 僕はイヤリングから聞いたよ? 同じ状況にするべきじゃないかな? 先程、『ずるいです!』と言っていただろう?」
弱々しく抗議の声を上げるステラワース。今回の件を不満に感じているのだろう。精一杯睨み上げるが、陶器のように美しい肌を深紅に染めている顔では愛しさが勝る。
ステラワースの言葉に首を傾げると、僕は再び彼女の右耳へと口を寄せた。
先程、彼女は本音を聞いていた僕に対して『ずるいです!』と口にした。つまり、ステラワースに対して、僕の本音を伝えるのが僕の誠意である。
「うっ……。ろ、録音をしているのは良くないと思います」
耳元でステラワースに話しかければ、彼女は擽ったそうにするが堪えている。そして僕の行為について言及した。
「何故だい? ステラから贈られた言葉をとっておくのは僕の義務だよ?」
「くぅ……」
この状態で、冷静な言葉に僕は瞬きした。愛しい婚約者の言葉を保存し記録しておくのは、当然のことである。僕の言葉を聞くと、ステラワースは何か言いたげな声を上げた。
「……悪役令嬢なのに……」
ステラワースは顔を逸らすと、小さく呟いた。
「『悪役令嬢』?」
彼女の言葉により、先程までの温かい気持ちが急速に冷めていくのを感じる。自分の声であるが、自然とワントーン低い音へと変わった。誰が僕の大切で、愛しい婚約者であるステラワースを『悪役令嬢』などと、称したのだ。腹の底から怒りが湧き上がってくるのを感じる。僕の急激な変化に、ステラワースは驚いた表情で顔を向けた。
「誰がステラにそんな酷い事を言ったのかな? 教えてくれないかな?」
勘違いを与えないように、ステラワースに笑顔で質問をする。僕の気分が悪くなった原因は、大切なステラワースを『悪役令嬢』と罵られたことだ。決してステラワースが悪いわけでも、責めているわけではない。
「……あ」
ステラワースは自身の呟きが、僕に聞かれているとは思っていなかったようだ。コバルトブルーの瞳を見開く。その反応から、矢張りステラワースを脅かす者がいることを悟る。この場で抗議した卒業生たち以外にも、ステラワースを快く思っていない者がいるようだ。昨晩では調べ上げることができなかったが、その不届き者から脅され『悪役令嬢』と罵られているのだろう。彼女を害する者は許さない。ステラワースは僕が守る。
彼女から情報を得る為に、僕は笑みを深くした。




