母のはなまる弁当
母「波里、行ってらっしゃい」
神崎波里「行ってきます」
高校生になった私は毎朝母が作ってくれた弁当を持って登校する。
先生「神崎さん、おはよう」
波里「先生おはようございます」
学校は・・・嫌いだ。
友達はいるけど授業はつまらないし成績は悪いしマラソンだっていつもビリだ。
クラスメイト1「どんくさ」
クラスメイト2「邪魔なんだけど」
仕舞いにはクラスメイトにいじめられる始末。
最初は仲良かった子も自分が標的にされるのが嫌で私を避けるようになった。
何だかなーと思いながら授業を受け、昼休憩になった。
教室の一番後ろの一番隅っこの席。
この教室の片隅に私はいる。
ご飯を食べている間だけは休息の時間だった。
弁当箱の蓋を開ける。
中には必ず"なると"のだし巻き卵焼きが入っている。
私の一番好きなお弁当の具だ。
味はもちろん美味しいのだけど、私がこの具を好きな理由はもう一つある。
上から見るとちょうど"はなまる"が見えるのだ。
勉強ができなくても運動ができなくてもいじめられていても
どんな時もどんなあなたも"はなまる"よと母に言われている気がして背筋が少しだけ伸びた。
母はそれを知ってか知らずかお弁当には必ず"なると"のだし巻き卵を入れてくれていた。
単純に夕食で出た際に私が美味しいと絶賛してからなのだと思うけど。
それでも冷たい学校生活の中で母の弁当を食べている時だけは温かさがあった。
あれから5年が経ち、今は彼氏と同棲中だ。
優雨「ねぇ、何で俺の弁当いつも"なると"のだし巻き卵が入ってるの?」
波里「嫌だった?」
優雨「ううん、好き」
波里「なら良かった」
優雨「だってなんかさ!この弁当見るといっつも俺ってはなまるじゃんって元気思えるんだよね!」
私の彼氏は嬉しい時はストレートに表現してくれる。
彼の良いところであり好きなところだ。
波里「そうだよ、ゆう君はどんな時だって"はなまる"だよ」
優雨「にひひ!ありがとー!」
その日の夕方。私は母に電話をかけた。
母「どう?最近は元気にやってる?」
波里「うん、ゆう君が"はなまる"のだし巻き卵気に入ってるみたい」
母「あらそうなの」
波里「元気もらえるって言ってた、お母さん私もね、あの時、勇気もらえてたんだよ」
母「そう、波里がそう思ってくれてて嬉しいわ」
ちょっぴり気恥ずかしかったけど母の嬉しそうな声にゆう君に習ってたまには素直に気持ちを伝えてみるのも悪くないかもなって思ったよ。