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初めてのお仕事

 仕事がもらえる!そう思ったらいつのまにか涙は止まっていて、沈んでいた心も頑張るぞ!と前向きになった。


涙を拭き、男についていったリリーはその道中で男に質問をした。


「私はリリー・アイラ、あなたのお名前は?あと、私はどんな仕事をするの?」


壁のように大きな背中、服の上からもわかる筋肉の逞しさ、そしてチョコレートのように日焼けした肌にはいくつか傷があり、自分が請け負う仕事は危険な仕事かもしれないとリリーは二つ返事でついてきてしまったことを後悔する。


落ち着かなく手を組んでは解き、組んでは解きを繰り返すリリーをブチは隣を歩きながら心配そうに見つめ、男はリリーに振り返らずに答えた。


「俺はルードゥだ。森の木を切って、その木で家を建てる仕事をしている。お前に頼むのは切った木の加工だ。」


木の加工なら安全だし、どうにかなりそうだ。

リリーはほっとし、変わっていく景色に目を向ける。


大通りから外れ、入り組んだ道を進むごとに街の景観は変わっていく。それは華やかで活気づいた大通りとは大違いだった。


リリーは初めて見るその光景に言葉を失い、唖然とする。


道に地面に直接人が座っていて、その人たちは布切れのような服を纏い、土や埃で汚れな顔は骨と皮だけしか残っていないんじゃないかと思うほどに痩せこけている。

そう言う人が子供から老人までいた。


そして建っている建物は穴だらけ、隙間だらけの壁に、今にも落ちてきそうな屋根が不安定に乗せられている。


汚れても諦めがつくと旅立ちの際きてきたリリーの服はこの場所ではまるでどこかの姫君が着るようなドレスのように美しく立派に見える。


だから人々の視線はリリーに突き刺さった。


何故こんなところにいるのか、


馬鹿にしに来たのか、


哀れみに来たのか、


好奇心だけではない敵意の混ざる数々の視線に、リリーは体を小さくし、なるべく目立つことが無いよう下を向いてルードゥの後を歩いた。


まるで罪人になったような気持ちだった。


今まではどこにいくにも護衛がついて周り、父が納める領地を歩けばリリーを一目見ようと家の窓から、店の中から人々が顔を出した。


父は自身の納める領地の民を大切にしていたし、リリーもそんな父を見習い民には誠実にそして謙虚に接することを心がけてきた。


だから魔法の腕前や魔法学校の評価で後ろ指を刺され、笑いものにされることはあってもそれのほとんどは敵意からではなく、親しみが込められたのものだとリリーは知っていた。


まるで親戚や友人の娘に接するように街の人はリリーに接してくれた。


旅に出る前は背筋をピンと伸ばし、顔を上げ笑顔で手を振りながら街を歩いていたのに、今の自分は俯き、体を小さく丸めて隠れるように歩いている。


それがリリーにとっては虚しく悲しかった。


だけどアイラ家の一人娘としてこんなみっともない姿をアーウの街の人々に晒してはいけない。


勇気を振り絞り、顔を上げたリリーの目の前には朱色が広がっていた。


顔から思いっきりぶつかってしまったリリーの体はよろめき、尻餅をついた。


リリーがぶつかった朱色はルードゥの着ている服の色で、前を見ていなかったリリーは立ち止まったラードゥの背中にぶつかってしまったのだ。


尻餅をつき、痛みに巧くリリーをルードゥは呆れたように見下ろして、吐き捨てるように言った。


「何やってんだ、4級の魔法使いは前を見て歩くこともできないのか」


リリーは擦りむいてしまった手のひらを見つめ、ルードゥを見上げる。


太陽の光と重なり逆光となっているルードゥの表情はリリーには見えない。


見えないからどんな顔をして自分を見ているのだろうと思うと心臓がきゅうっと小さくなる。


ルードゥはリリーを見下ろしたまま声をかける。


「いつまで座ってんだ、立たなきゃ仕事もできねぇぞ」


突き放すような声にリリーは一度大きく体を震わせて、震えながら立ち上がる。


今まで当たり前のように差し伸べられてきていた手がどうしようもなく恋しい。


今すぐにでも家に帰りたい。


そう切望しながらもリリーはまた自身の両目から涙が溢れることが無いようにぐっと目に力を入れて唇を噛み締めた。


ルードゥはリリーが立ち上がったのを確認し、歩き出す。


ルードゥが立ち止まったのはここらへんでは珍しい立派な建物の前だった。


形の揃った壁の板には丁寧に漆が塗られ、隙間も穴もない。

屋根だって今までは木造や藁でできた屋根が多かったが、ルードゥが立ち止まった建物の屋根は大通りの建物と同じ瓦でできている。


「ここが、俺の仕事場だ。そしてお前が仕事をするのはここだ。」


案内されたのは建物の裏だった。


建物の裏にはリリー4人分くらいの長さのある大きな丸太がいくつも並んでいて、その横には板状に加工された木の板がいくつも積まれている。


「これが手順だ、終わったら店まで声かけに来てくれ」


そう去っていく背中をリリーは手渡された手順書を握りしめながら見送った。


完全にその背中が見えなくなったのを見て、リリーは手渡された手順書に視線を移す。


一度ざっと目を通し、今度はしっかりと目を通す。三度目は口に出しながら確認をしていく。


だけど何度確認しても手順書の内容はリリーには少しもわからなかった。


仕事を始める前に確認をしないと…


とリリーはブチを垂れて店の前まで歩く。


すると店の中からはまるで感情のまま暴れるような怒号が聞こえてきた。


「なんど言ったらわかるんだ!お前は本当に何をやらしてもダメだな!」


怒鳴り声に続き、何かが蹴飛ばされガラガラと雪崩のように崩れる音も聞こえてくる。


自分が怒られているわけでもないのに、リリーの心臓はバクバクと大きな音を立てて、体は凍りついたように動かない。


だけど怒鳴り声は続く。


「お前なんか辞めちまえ!!お前の代わりなんていくらでもいるんだからな!!」





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