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1000マール

 ガンタイはリリーに対して丁寧に誠実に接した。


リリーの魔法の腕前が思っていた以上に酷い物でも、見捨てず指導をし、リリーに理解ができないことがあれば例え話や実践してみせ理解できるまで根気良く相手をした。


だからリリーはガンタイをすっかり信用し、師弟の契約を結んでいないため師匠と呼ぶことはないが自身のことを敬称は無しで良いといい、リリー自身はガンタイを師匠だと思い敬っていた。

そんな二人の姿は紛うことなき師匠と弟子である。


足早に旅を進めるガンタイに何の疑問も持つことなくついて行き、ついたのはある街だった。


木造の建物が大通りにそうように並び、その建物の奥ではさらにいくつもの建物が見える。

大通りの建物は壁には漆、屋根には瓦、かかっている看板は艶やかな黒墨で雄雄しく店名が書かれている。


そんな店が立ち並ぶ大通りをガンタイとリリーは並んで歩いていく。


「ここは何という街ですか?」


アイラ家が納めている領地から遠く離れたこの街はリリーには名前も、どんな街なのかも少しも検討がつかない。


だけど食料品、布、魔道具、アクセサリー、お菓子などなど色々なお店が並ぶ大通りは目に映る物全てがリリーには新鮮で、客を呼び込む快活な声と街をゆく人の楽しげな声にリリーの心は弾み、あちらこちらに目をやっていた。


「ここは、アーウ。聞いたことは?」


「ありません。」


「学校では習わなかったか?」


ガンタイはリリーを横目で見て聞く。


「聞いていなかったかも知れません」


リリーは小さな体をさらに小さくし、恥じるように目を伏せた。


だけどそんなリリーから顔を逸らしたガンタイの口角は密かに上がっている。


「まあいいさ、とりあえず役場に行こう。」


「はい」


リリーは気を取り直し、頷きこの旅では怠けずしっかりと学ばせてもらうおうと気を引き締めた。


役場に着いたらまず二人は連絡板の確認をした。


街の連絡板には、店や家の手伝いの募集や魔物の退治、探し物、探し人などの情報が張り出されている。

旅人はこの連絡板貼られている募集から選び、仕事を請け負うのだ。


今までの道中では街についても役場に行き、連絡板を見ることはしてこなかった。

休憩のため立ち寄り、長居することはなくすぐに次の街へと出発するということを繰り返してきたため、リリーはついにか!と自分が請け負うことができそうな募集内容があるかと貼られている張り紙を見ていく。


その横でガンタイは何度か頷き、満足そうな笑みを浮かべてリリーの赤毛を見下ろした。


「そろそろ金も尽きる頃だろう。この街で何か仕事を受け稼いでこい」


はい!と返事をしたいところであったがリリーは困った表情でガンタイを見上げる。


「でも、どの募集も2級以上からで私が受けれる仕事はありません…」


級というのは魔法使いの等級を表すもので、級を取得するには各級の試験を受験をする必要がある。

そしてリリーは4級であり、4級は魔法学校のカリキュラムの中で受験する物でよっぽどのことがない限り落ちることはない。


「それなら広場に出て自ら売り込みをしてこい」


それが当たり前だというようガンタイは答え、役場を出ればリリーを広場に連れて行き、そのまま置き去りにした。


「無理です」「できません」「せめて一緒にいてください!何の手伝いもしなくていいので!」


そんなリリーの悲壮な声をガンタイは「それじゃ修行にならない」「一人前の魔法使いになるんだろう?」「俺の言うことが間違いとでも?」等々と雄弁に交わして、ひらひらと手を振りながらどこかに消えてしまった。


知らない街で一人取り残されたリリーの姿はまるで迷子のようだった。


何度も左右を見渡して、ふらふらと歩いては元の場所に戻り、時には行き交う人とぶつかり無視されればよいが、時には舌打ちをされ、もっと酷いと酷く怒鳴りつけられた。


邪魔にならないよう広場の隅、影の落ちる一角に身を寄せて力いっぱい握りしめていたせいで白く染まり冷たくなった自身の手を開いた。


覚悟を決め、前を向くがその手は僅かに震えているし、顔は歪み今にも泣き出しそうな表情をしている。


「一回1000マール(日本円で1000円ほど)で魔法でお手伝いさせていただきます。いかがでしょうかー」


突然そんなことを叫び始めたリリーを街の人はなにごとだと目を向けるがそれは一瞬で、すぐにリリーへの興味は失われる。


リリーには誰も自分を見向きもしてないと分かっていた。

だけどこうする以外売り込む方法が思いつかなかったためひたすらに声を張り上げる。


そうして少し、肩に木材を抱える屈強な男の人がリリーの前で立ち止まった。浅黒く焼けた肌を見るに外で仕事をしているのだろう。建築関係の仕事といったところだろうか。


「嬢ちゃん何級なんだい?」


軽い口調だが、その声には威圧感も敵意もない。

ただ気になったから訪ねているだけのようである。


「4級です…」


「じゃあ何か特別な魔法が?」


「そう言うわけでもなくて…」


質問に答えるたびにリリーの声と体は小さく縮こまり、男の声は大きく、バカにしたような口調に変わる。


そしてしまいには両手を叩いて笑い出した。

その笑い声は広場中に響き、視線を集める。


「そんなんで1000マールは高すぎだろう!ぼったくりじゃねぇか!」


ゲラゲラと笑い、両手を叩く男にリリー恥ずかしいやら悔しいやら悲しいやら不安やらでついに泣き出してしまった。


俯き石畳にポタポタと染みを作るリリーを相棒のブチだけが心配そうに見つめている。


まだ13にもならないであろう小さな少女を泣かせてしまい広場中の好奇の視線は男への非難の視線へと変わる。


男はやっちまったとでも言うように頭をかき、リリーに視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。


ブチは男に向かってこれ以上主人を泣かせるなとシャーシャー唸るが、筋肉質でまるで壁のような体を持つ男にはそんなの怖くもなんともない。


男は俯き泣き続けるリリーの顔を覗き込み、その大きな口を開けて笑った。


「悪かったって!仕事をやるから泣くなって!」







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