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何よりも優先すべき物

 リリーにはその心の(まこと)がわからない。

だけど今も胸の奥でキラキラと光るのは先程見せられた魔法の数々で、リリーはこの人から魔法を学びたいとそう思ってしまった。


だけどもし、ガンタイと名乗るこの男に悪意があり、契約を結んだことで、アイラ家に、アイラ家がおさめる領地に被害がでることは絶対にあってはいけない。


それに先程は自分の怠惰のせいでブチを危険に晒している。これ以上自分のせいで誰かを危険に晒すようなことはしたくない。


「お誘いくださりありがとうございます。だけど師弟契約は結ぶことができません。」


苦渋の決断だった。

リリーにとって美しい魔法、心が踊るような楽しい魔法は神と信者のようであり、片思いの相手のようでもあった。


幼い頃の一度。息の仕方を忘れ、瞬きをする一瞬が黄金より価値があると思うほど美しく気高い魔法を見てからずっと焦がれていた。


魔法学校で扱っていた実用的な魔法には少しの興味もそそられずその練習には消極的だったが、美しい魔法や楽しい魔法にならいくらでも時間を費やしても惜しくないのにと常に思っていた。


実際は魔法学校で扱うのは実用的な物だけであり、リリーが焦がれた息を忘れるような美しい魔法を教えてくれる、教えられる先生がいなかった。


だからリリーにとってこれは千載一遇のチャンスであり、この機会を絶対に逃したくない。


でも、自分のせいで誰かを危険に晒すなら、迷惑をかけるならと思うと、諦める以外の選択肢はリリーには取ることができない。


劣等生であったが、良家の令嬢としての教育や、心あり方については生まれた時から常にレベルの高いものを教え込まれてきているからだ。


リリーの握りしめられた手はぶるぶると震え、常に穏やかなアーチを描いていた眉は眉間に皺を刻むほど顰められている。そして固く固く白くなるほど結ばれた口はわなわなと震え、今にも泣き出しそうな表情だ。


その我慢の姿にガンタイはこりゃもう一押しでどうにかなるかもなと楽しげに口角を上げる。


そしてさらに言葉を紡ごうとして息を呑む。


リリーが笑ったからだ。


悔しい、悔しい、諦めたくないそう切に告げる表情で口角を上げ瞳を揺らしながらガンタイにはリリーは笑いかけた。


「あと、一つ訂正があります。魔法学校の先生方は心を砕き、私の歩幅に合わせ歩いてくれました。だけどそれを無下にし、練習もせずに過ごしたから落ちこぼれだったのです。先生方はとても良くしてくださったんです。」


バカかとガンタイは思った。


そんなこと言う余裕なんて微塵もないと表情は告げているのに、自分が落ちこぼれなの先生のせいではない自分のせいだとわざわざ訂正をするなんて。


この落ちこぼれはバカで、素直で謙虚で気高い。


その全てがガンタイには眩しすぎて目がくらみそうだ。


(あぁ、騙されてバカにされてそんな気高さ折れて仕舞えばいいのに。)


ガンタイは立ち上がり、膝の汚れを払いリリーは見下ろす。


「それなら仕方ない、では契約はしなくていい、契約なしのお試しで私を旅に同行させてほしい。」


ガンタイの提案にリリーは椅子を鳴らして勢いよく立ち上がり、その双眸でガンタイを見上げた。


「いいの!?」


どうやら令嬢からバカな娘にもどったらしい。


「お願いさせてもらいたいくらいだわ」とぴょんぴょんと跳ねて喜びを全身で表すリリーは見た目より大分子供っぽく見える。ガンタイは「もちろん」と微笑んで言葉を返した。その腹の中で渦巻く暗い思いを一人知りながら。


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