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熟練魔法使い現る‼︎

 満月が照らす夜を切り裂くような速さで飛んでいく魔獣の姿はいつ見失ってもおかしくない。


もし魔獣を見失えばブチと再会を果たすことは絶望的だろう。もう会えなくなるかもしれない頭に浮かんだ最悪の想像に鳥肌が立ち、リリーの体は震えた。


見失わないようにしないと。とほうきを片手に握り直し、もう片方の手で腰に下げていた自身の杖を取り出した。杖に装飾された澄んだ宝石が月明かりに照らされて流れ星の一瞬の瞬きのように光る。


そして魔獣に標準を合わせて構える。


「ぴ、ピカピカ光れ!」


対象のものを発光させる魔法。だが魔獣に変化はない。

魔法っていうのは血液に流れる魔力にイメージを込めることで使うことが出来る。

だから自身の魔法により光る魔獣が想像できないのなら魔法は失敗する。


凄い速さのほうきを片手で操縦しているからだろうぐらりと大きくリリーの体が揺れる。

その一瞬の揺れが魔獣とリリーの距離をまた大きく開かせた。

この距離だとたとえ魔法がうまくいったとしても届かない、リリーは杖を握ったまま両手でほうきの柄を握る。速度を上げ、どうにか近づいてもあまりの速さにほうきから片手を離し、杖を構える余裕はない。


この状況をどうにかする打開策がリリーにはない。


こみ上げてきた涙が視界を曇らせ、ぐちゃぐちゃになった髪が顔に掛かる。

震えてひきつく喉を大きく広げて、無理やり叫ぶようにもう一度呪文を唱える。


「ピカピカ光れ!!」


先生やお父さん、お母さんは杖が無くても呪文さえ唱えればある程度の魔法が使える。同級生も簡単な魔法だったら杖なしで使えた。だけどぎりぎりで卒業をしたリリーにそんな技術はない。


卒業できればいいと真面目に魔法の練習をしてこなかったのは自分だ。


一人旅なんて楽しそうだと、憧れていた魔女のように旅の出発は夜がいいといってブチを危険にさらしているのも自分せいだ。


自分で決めた相棒一匹さえ守ることもできない癖に、楽な道を楽しそうな道だけを歩いてきたつけが回ってきたのだろう。


(だけどそれならそのつけを払うのは私がいい。)


リリーの瞳から溢れた涙は頬を伝いはせず、夜の空に消えてく。


加速した魔獣にその距離はさらに離れる。


その時だった。


「声を轟かせ 泣く子を照らせ」


月だけが光る夜空に大輪の花火が咲き、ドンッという重たい音が空気を揺らす。


赤 黄色 白 目も眩む(くら)ような暗闇を照らす光、そしてその光の中を一つの影が通り過ぎる。

その影が過ぎる速さはあまりにも速すぎてリリーにはそれが一本の線に見えた。


影はあっという間にリリーの横を通り抜け、リリーが瞬きをした一瞬、次に目を開いたときにはその魔獣は重力に従い暗い森に吸い込まれるように落ちて行く。


あまりの速さにリリーが認識できたのは風に乗せられて聞こえたその呪文だけだった。


「射抜け閃光、貫け頭を」


瞬きをした一瞬の間にリリーに圧倒的な差を見せつけていた魔獣は力なく落ちていく。

リリーは驚きで息を飲み、その手の中にいるであろうブチが無事なのか心配になった。


ほうきの柄を握り直し、落下していく魔獣を追いかけようとするが何かに引っ張られるような感覚とともにそれは阻まれる。

まるで後ろから腕を引かれるようなそんな感覚だった。


「嬢ちゃんの目当てはコイツじゃねえのか」


呪文を唱えていた声と同じ声だった。


お父さんみたいな優しい声でも、先生みたいな大人の声じゃない、低いのに同級生の男の子のようなそんな声。


その声に振り返れば満月を背にリリーを見下ろす眼帯の男がいた。

まるでお伽話の中の海賊のような風貌のその男の手に握られているものに、リリーの瞳から大粒の涙をこぼれた。

それはまるでダムを決壊させたような勢いだった。


「違う‼︎それじゃない‼︎」


小さい子が駄々を捏ねるようにリリーは泣き叫ぶ。

それもそのはず男の手にあったのはリリーには全く身に覚えのないペンダントだったのだ。





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