1.96 コスメティック・ルネッサンス
「ミラって普通の顔してるからぁ、メイクが映えるよねぇ」
開店前の空き時間にウェイトレス組が集まって塗り絵をしていました。じっと座ったミラの顔の前でシーラが筆やらパフやらをせわしなく動かしています。
「シーラさん、お化粧がすごく上手いんですよ」
というマリーの顔は何だかまゆ毛がスッキリして目元がパッチリしてほっぺたがサラサラして唇がプックリ光ってました。
ボクたちエルフにも人間より明確に劣っている分野が一つだけあります。メイクの技術とコスメを作る技術です。ボクたちってメイクしませんからね。
冒険者もメイクなんかしません。元が悪い上にアホな男冒険者やゴブリン相手にアピールしたって虚しいだけですし。ミラもこれまでメイクなんかしたことなかったわけです。
どうなることやら、ちょっと楽しみですね。
「こういう顔って派手にするよりわ、ナチュラルメイクの方がカワイイのよー。……ホラできた!」
お、どうやら完成したみたいです。それではちょっと見てみましょう。
……うーん、違いがわかりません。
ミラは背が取り立てて高いわけでも低いわけでもなく、スタイルがいいとか悪いとか言うこともなく、ボクは人間の顔の美醜がよくわからないとはいえブサイクにも美人にも見えません。何というかすごく普通……普通の国からやってきた普通の子です。
そのミラがどう変わったかと言うと……うーん……進化論を超越してゴブリンがコビットくらいにはなったかもしれませんね? ミラは鏡を見ながら「これが、私……?」みたいなこと言ってますから何か違うのでしょうけど。
しかしこれは話しかけるきっかけになるかもしれません。シーラはボクと距離を置いているところがあります。前のお店を潰したからってそんなに警戒しなくても何もしませんのに。ここはひとつ歩み寄って、フレンドリーに接してみましょう。ボクはシーラの肩に手を置きました。
「おやおや、エルフのコスプレですか? せいぜい頑張るといいです」
「ねぇー、このエルフめちゃくちゃ性格悪いんだけどぉ!」
シーラが立ち上がってわめきました。何故でしょう?
それにしても人間何か一つくらいは取り得があるものです。ウェイトレスとしては挟んで捨てた方がいいようなクソ雑魚毛虫のシーラに他人の顔にメイクする器用さがあるとは思いもしませんでした。それも自分のメイクはケバいのにマリーやミラにはそれぞれに合ったメイクを施すようなDEX値が。
不向きな事を頑張って百点満点で五十点を取るよりは得意なことを伸ばして百二十点にした方がいい場合もあります。ここは転職を勧めてみましょう。
「お前いっそのことメイク屋さんをやるといいです。ウェイトレスは向いてないみたいですし」
「めいくや? 何それ??」
「コスメを売ったりメイクを教えたりするお店です。お金は出してあげますから」