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1.91 この世界の形について

 人間世界は大きく分けて東大陸と西大陸、そして南大陸からなります。オーマの森やこのイーデーズがあるのは東大陸です。はるか太古、プレートテクトニクスにより西大陸から分離した東大陸は東の果てで別のプレートにぶつかったため、東海岸側には長大なバーデン山脈が存在します。

 西大陸は前世の単位で言えば北緯40度から南緯35度の間に広がる大地で、三大陸の中で唯一赤道をまたいでいることから中央大陸とも呼ばれます。西大陸は人類発祥の地とされます。つまりエルフ、人間、ドワーフやコビット、ゴブリンやオークに至るまでのヒト族の祖先はすべてこの地で誕生し、それぞれの土地でそれぞれに別の進化を遂げました。ちなみに北極圏にも南極圏にも大陸は存在しません。加えて大陸同士がくっついていないために海洋熱循環がスムーズに起こり、温暖化の原因の一つとなっています。


 人類の祖先がほんの1万年前まで西大陸に留まっていたのに対しボクたちエルフの祖先はおよそ35万年前に西大陸を脱出しこの東大陸へと進出しました。またそれより早く、今からおよそ60万年前に他の人類グループから離れて南大陸へと移住した一群がいました。これがドワーフとコビットの祖先です。当時の人類はまだ航海技術を持っていなかったはずですので何らかの魔法を使ったのでしょう。

 この南大陸はめちゃデカくて前世のユーラシア大陸より巨大です。東大陸と西大陸を併せたよりも大きいのです。あまりにも広大なため大陸中央まで雨雲が到達できず大部分は砂漠化しています。その砂漠を越えた南側は南極圏に近く、こちらも荒涼とした大地が広がっています。

 ドワーフとコビットはこのような過酷な気候に適応して進化しました。男も女も短躯で短足で猪首で筋肉質、ひげ面で毛深く、子供の頃から顔中しわくちゃで赤黒い肌をしています。乾燥と紫外線への適応と考えられています。人間よりも寿命が長くコビットは100年弱、ドワーフは150年以上生きます。肝機能が異様なほど発達していて薬物に強く、アルコールの他にタバコをはじめとした各種の麻薬への抵抗を備えています。

 彼らの文化では穴居生活が標準で今でも木の家を好みません。オルドの工場が板張りの床でなく土間なのもその方が落ち着くからなのでしょう。

 この二種族は筋肉質すぎるために水に浮かぶことができず、まったく泳げません。そのためか船を発明しませんでしたので他の文明との接触は人間からの来訪を待つこととなりました。


 この古い大地は金属資源の宝庫でもありました。開拓者たちが移住した頃には手つかずの金属の露頭がそこかしこに散在していたのです。やがて移住者たちの中からそれらの金属を採集して加工・利用する者たちが現れました。のちのドワーフの祖先です。やがて進化したドワーフたちは地表の金属を取り尽くし地中の金属を求めて穴を掘るようになりました。このような進化の成り立ちのために今でもドワーフの職業は大きく分けて鍛冶師系、鉱山技師系、石工系の三種類のどれかに属しています。

 また乾燥した気候に合わせてイネ科の植物が多彩な進化をとげていました。移住者たちは長く自然に生育した穀物を採取して食料としていましたが、コビットはその中から大麦や小麦や米などをより分け、それが栽培できることを発見し、人類種で初めて農業を発明しました。およそ3万年前のことです。あ、エルフはもっと早くから森の恵みを自分たちの都合のいいように育てて利用してましたよ? ただ何故かエルフのやり方は人間には全然広まらなかったのですよね……。

 それはともかくドワーフは工業を、コビットは農業を。この二種族は肉体的にも文化的にも違う進化を遂げながらお互いを補い、役割を分担する形で長く寄り添って生きていたようです。


 農業が文明を育てるパワーはすさまじく、人間の祖先が西大陸でウホウホアーアー言いながら獣を追いかけ回していた頃にはドワーフ・コビットは既に一大王国を築き上げていました。世界唯一のミスリル鉱山ミスルを中心に成立した、今も記憶にその名の残るドワーフ王国です。人間たちが最初に接触したのもこのドワーフ王国の住人たちでした。彼らの種族の本来の自称は"Khazad"であったようなのですが、ドワーフ王国の住人はすなわちドワーフ人でしたので、人間たちはそれが種族名であると誤認したのです。コビットも別の呼び方があったようなのですが何か著作権的にまずいようでしたので適当につけられました。


 ドワーフたちが人間の船に乗って彼らにとっての新大陸へと進出を始めたのは3200年ほど前のことでした。その頃ようやく人間たちの航海技術も発展して、大地を強く信奉する(要するに泳げない)ドワーフたちも船に乗ってみようという気分になったのでした。屈強で金属器という文明の利器をもたらしたドワーフ、農業という新しい、そして素晴らしい知恵を持つコビットたちは、頑迷で人類と決して同化しようとはしなかったものの争うことのない隣人として受け入れられ、人間たちに入り混じって暮らすようになりました。


 しかしこれらのドワーフの歴史についてのエルフの記述はおぼろげです。お互いに嫌い合っていたためです。ほとんどの知見はドワーフへの取材によるものではなく考古学的資料と遺伝子解析からの類推によるものです。ボクが知っているこれらの話はこの前オルドと飲んだときに酒飲み話に聞いたのです。もしかしたらエルフの中で今ボクが一番ドワーフについて詳しいかもしれません。


 そんなエルフでもドワーフが古い故郷を失った人類史上の大事件については知っています。

 900年前、長く繁栄を誇ったドワーフ王国に突如終わりの日が訪れました。彼らはあまりにも深くミスルを掘りすぎてしまったがために地の底に眠っていたいにしえの魔王をよみがえらせてしまったのです。魔王は破壊と殺戮の限りを尽くし、一夜にして王家の血筋と、それがそのまま王城であったミスル鉱山は失われました。以後ドワーフたちは長い放浪の旅路につくこととなったのです。

エルフ式農法は気が長すぎて成果が出る前に人間の寿命が尽きるために普及しませんでした。

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