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1.89 ゴッホも、ゴーギャンも、ないんだよ

 お酒の商品名は『琥珀酒』に決めました。オルドに作ってもらう30mlのカップで提供することにします。

「ところでこの琥珀酒、いくらで仕入れたらいいですか?」

「卸値は醸造元で決めておくれよ」

「作るの専門で商売はズブの素人なのです」

「うーん……ワンショット1プライドルで設定するとして、この樽は30グレン(※約54リットルです)のだろ? そうすると、えーっと」

「1800杯分ですね。1800プライドルは75メリダです」

「じゃあ原価率を20%として──」

「それはオルドに失礼ですよ」

「ええ? うーん……なら40%、一樽30メリダ! これがギリギリ限界だよ。もうぜんぜん儲けにならないからね」

「それって高いのですか? 安いのですか?」

「こんな高級酒を使ってたら採算が取れないよ……」



 次の日から建物の改装も始まりました。客室をリニューアルして、ラウンジのソファーとローテーブルを取っ払ってレストラン用の椅子テーブル席にして、インテリアもあれこれ変えて、それから厨房に手を入れました。ここはもともと料理に力を入れていたお店ではありませんでしたので厨房設備はちょっと貧弱です。ここが一番大きく直すところとなりました。手配したのはおばちゃんでボクは横から口を出すだけですけれども。


 左官屋さんが来てお店の外壁を塗り直しています。ぼんやり汚れた壁の上を左官さんのコテがスーッスーッと左右に動いて一面真っ白に生まれ変わってゆきます。

「漆喰ですか……」

 漆喰と言えばあれです、フレスコ画。この異世界において不自由する事といえばシスティーナ礼拝堂のミケランジェロの最後の審判が見られない事です。エルフという究極美ならあるのですけど。

「あっリンスさんがまた余計なことを思いついた顔してます」

「余計な事とは何ですかこの全体的に地味な街角に親切にも彩りを添えてあげようと言っているのですよ」

「いだだだっ! ギブアップ! ギバーップ!!」

 横から余計な茶々を入れてきた栗毛の頭をグーで挟み込んでグリグリしてやります。本当にもうこの栗毛は……ボクのことを何だと思っているのでしょうね?


「壁に絵を描きます」

 ここは一つエルフの美意識と技術力を見せつけてやらねばなりません。レストランですしごはんを食べている絵がいいでしょう。この町の料理って微妙にイタリアンぽいですしあのお店のイメージで。

「もっとサイゼリヤ~レストランの壁だーからーフフンフフンフフーン♪」

 鼻歌交じりにベタベタ絵の具を塗ってゆきます。うーん調子が出てきましたよ!筆をたくさん魔法で飛ばして倍速魔法を使って乾燥魔法で絵を乾かして分身も駆使して超絶技巧を凝らして──


 お日様が傾き始めて金色に色づく空気の中、完成した壁画がキラキラきらめいています。しゃあっ最後の晩・餐! 湿度の高い環境でテンペラ技法を用いたレオナルド・ダ・ヴィンチの傲慢さは好感が持てます。

 壁画を見たおばちゃんは微妙な顔をしました。

「テーマのわからない絵だね……。この真ん中のおっさんは誰だい?」

「それは遠い異世界に伝わる偉大なる魔法使いです。体はパンとワインでできていて魚を無限に増殖させたことから飲食店には縁起の良いモチーフとされています」

「へぇー」

 イチジクを呪ったことはナイショです。

イエスは答えられた、「ワシ……裏切り者の正体に心当たりがあるんや。パンを浸して与える者や!」

『ヨハネによる福音書』第13章21,26節(猿語訳聖書)

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