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1.83 酒は飲め飲め飲むならば

 ここは酒造メーカーですが事務所の隅に炉が切ってあってちょっとした鍛冶仕事はできるようになっています。オルドのコップは細かい槌目を打ち出した錫製です。口べりはやや内側に抱え気味で手のひらの形に添うように丸く作られています。きっとそこの炉で作ったのでしょう。


「錫は酒の味をまろやかにするのだ」

とオルドは言いました。

「また錫の器は使い込むほど味が出る。人の脂と馴染むんだな。昔から年寄りは錫の器を撫でるのを日課にするものなのだ」

「へー、ドワーフはそういうことをするのですね。異文化体験って面白いです」

「金属の器は熱を伝えやすいからな、蒸留酒はこうやって手のひらで温めながら飲むのだ。すると立ち上る香りがだんだん変化してくる。それを楽しむのだな」

 ワインだと美味しい温度が決まってますからなるべく熱を伝えないようにするものですけど、お酒が違うと飲み方も違うものですね。


 その時、ふと閃きました。錫のコップなら木のコップより衛生的ですし壊れにくいですから長く使えるのでは?

「ちょっと聞いてみますけど、それって量産できます? 人間用ですからもう少し小さいのでいいのですけど」

「こんなものでよければナンボでも作れるぞ」

「では注文します。とりあえず50個ほど。あ、ついでにビールジョッキもできますか?」

「ビールジョッキなら銅の方が良かろうな。うん、赤銅で作ってやろう。きっとビールが映えるぞ」

「それはいいですね! で、おいくらですか」

「知らん! 何しろワシらは金勘定がまったくできんからな。王都におった頃のワシは鍛冶屋をやっとったのだが、その時は工業者ギルドから紹介してもらった経理担当者が全部やっとったのだ。材料の仕入れ価格の決定から製品の値段付けから会計までなんでもな。経理を置けないような小さな鍛冶屋だと全部ギルドに任せてしまうくらいだ。注文を取ることまで、な。ここに来てからは鋤を打っては芋をもらい、鍬を打ってはビールをもらいと、千年も昔のやり方でやっとるがな。ワシらにはその方が性に合っとる」

「わかりますわかります。エルフもお金の価値がよくわかりませんからね。だって美しくないじゃないですか。交換の尺度としては便利ですけど、こんなものに魂を支配されるなんて人間の価値観はよくわかりませんよね」

「うむ。……いや、ワシは今までエルフと言うのはカッコばかりの生き物だと思っておったが、人間よりも話が合うな。この年になるまで良く知りもせず偏見に支配されておったとは恥ずかしい話だ」

「ボクもドワーフというのはウンコチンコマ〇コとしか言わない生き物だと思ってましたけど、美というものを良く知っているじゃないですか。それは尊敬に値することです」


 まあ、でも現実として今後のために値段をつけることは必要なので、これも専門家に丸投げすることで合意しました。そんなことより今はお酒を楽しみましょう!


「……ところで、こちらも一つお願いがあるのだが」

 オルドは何だかソワソワしています。ジジイがやるとちょっと気持ち悪いですね。

「なんですか?」

「いや、虫のいい話なんだが……。昨日のお前さんのワインな? 実はすぐに飲み干してしまってな……。まだあるならもう一本、都合してくれんかのう?」

これはDIYで何でもできる人の理屈です。

私はお金が好きです。

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