1.73 当面の方針決定
「それから酒場じゃなくてレストランにしましょう。その方が格が高くなりますから女性にはいいでしょう」
と言うのもまた口実で、酒場がついてると騒がしくて眠れないのです。何しろこの辺りの建物は壁が薄いので、酒場の喧騒が収まったあとも男が女を連れ込んでたり女が男を連れ込んだりしてる声が響いて遅くまでうるさいのです。レストランだとそこまで品のないことはありませんけど。
それからボクってタバコの臭いはあまり好きではないのですけど、この世界って酒とタバコは大抵セットなのです。みんな飲みながら吸いまくるので酒場についている宿では部屋の中までタバコの煙が漂ってきます。というか部屋の中でも吸ってるので、前の客のタバコの臭いが消えないのです。でも女冒険者たちと飲んでいるときはそれほどでもありませんし、レストランではメニューの中にタバコが入っていて持ち込みのものは吸わないお約束なのです。コース料理のレストランだと最後におすすめの一本が供されて、その食後の一服しか吸わないくらいです。ボクは元々吸いませんけど。
「レストランも女性専用かい?」
「そっちは男が食べてもいいのではないでしょうか」
「うーん、本当にそれでお客が来てくれるかねぇ?」
「料理をおいしくすれば大丈夫だと思いますよ。まあ、どうしてもダメなようならその時は方針を変えましょう」
当面の方針が決まりました。料金設定はよくわからないのでお任せ、内装はボクのセンスで決めちゃいます。
「レストランにするとして、メニューはどうするの? レストランだと屋台の料理を持ってきて温めるだけというわけにはいかないよ」
「では作りやすくて屋台とはひと味違うレシピを開発しましょう。一緒に食べ歩いて他のレストランを研究しましょうね」
「なんだか贅沢な話だね……。それと従業員が必要だね。この規模のお店だとどう考えたってあたし一人じゃ回らないし、キッチンがあと二人は欲しいね。ホールも三人はいるね」
「ホールスタッフはどうせミラが一人は来るでしょうし、あとキッチンとホールが二人ずつですか。この世界──この町って求人はどうやってるのですか?」
「まずは家族や知人を当たって、あとは商業者ギルドに求人を出すことが多いかね」
「ハローワークもやってたのですね、商業者ギルド」
「はろ……? それはわからないけど、うちの娘がよそのレストランで女給やってるから、こっちに来てもらえないか声をかけてみるよ」
「経験者ですか。優遇しますよ」
足りない分は募集をかけましょう。
「あとはお酒だね」
とおばちゃんは言いました。
「要りますか?」
「酒がないと誰も来ないよ」
お酒って、あの酸っぱいビールのことですか? ボクがやるお店であんなお酢モドキ出したくないのですけど。