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1.7 冒険者の宿

 カードにはボクの顔写真と名前その他が載っています。職業はちゃんとキラキラインスタグラマーになってますね。ただし裏面の色はまだ白色です。これが仮登録ということなのでしょう。

 さっそく町の入り口に戻ってさっきの門番たちに出来たてのギルドカードを見せました。

「お、カードを作ったんだな。おめでとう」

「武器は持っているか?」

「預けてきましたよ」

 二人はうんうんうなずいて道を開けました。

「ようこそイーデーズへ!」

「楽しんでいってくれよな!」


 ようやく町に入ることができました。生まれ変わって初めての人間の町ですよ!




 町の道路は一面石畳です。これまで通ってきた街道とは違って痛んだ石は取り替えられているようで、土がむき出しになったところがない代わりのようにところどころ石の色が新しいです。白い壁に黒い屋根の建物が多くて街並みは何だかモノトーンです。三角屋根に瓦葺で壁は漆喰が塗ってあります。ガラスの嵌った窓というのは珍しく、ほとんどの家は雨戸か鎧戸です。

 観光旅行気分で町をグルグル回ります。異国情緒のてんこ盛りです。特に名所というのでもないのですけど、どこを見てもエルフの森とはずいぶん様子が違っていて、物珍しさから思わず左右をきょろきょろ眺め回してしまいます。我ながらお上りさん丸出しですね。まあ文明度はうちの森の方が圧倒的に高いですので、どちらかというとお下りさんかもしれませんけど。


「エルフ」「エルフだ」


 すれ違う人々がみんなボクの顔を見て足を止めます。『初めて見る顔だな』という顔です。なるほど、きっとこの街に出入りする人間はほとんど変わらない顔ぶれなのでしょうね。ボクのような新顔は珍しいのでしょう。門番がボクだけ呼び止めたのも納得です。

 まあ、ボクが可愛すぎるので見とれているのかもしれませんけど。



 ところでどこに泊まりましょうか。昨夜は夜通し歩いたことですし、どうせですから今日は外の世界の宿屋とやらを堪能してみたいのですが。そしてせっかくですから一番いいホテルに泊まってみたいのですが。金貨がジャラジャラあることですしお金は大丈夫でしょう。

 というわけで道行く人に尋ねながらこの町で一番値段の張る高級ホテルにたどり着いたのですが……。


「大変申し訳ございません。こちらの金貨は当館ではご使用いただけません」


 一見さんは料金先払いだというので例の金貨を出すと宿泊を断られてしまいました。

「え……何でですか?」

 屋台では使えましたのに……。問いただすと初老のフロントマンは慇懃な姿勢を保ったまま答えました。

「お客様は森のエルフでいらっしゃるかとお見受けいたしますが、いかがでしょうか」

「そこの森の奥の生まれですけど」

「それではあまり人間の社会のことはご存じないのではないかと拝察いたしますが、こちらの金貨は現在このザール王国で流通している貨幣ではございません。そして定められた通貨以外の使用は国法で禁止されているのでございます」


 言われてみればそりゃそうです。日本でドルが使えるかって言ったらドンキくらいでしか使えません。そしてここはドンキじゃないのでしょう。

 というわけで両替してきてくださいと言うのですが、一番もよりの両替所がスズナーンとかいう歩いて六日もかかる南の方の町にあるそうで、つまり何をどうしようと今夜このホテルに泊まることはできないようです。

「何しろこのイーデーズはあらゆる国境から一番離れた町でございまして、両替とは縁がないのでございます。大変申し訳ございません」

 どんな田舎ですかこの町は……。


 ボクはトボトボと町の入り口の方へと帰りました。

 ……はーつっかえ! カルス使えないです! なーにが『記念品なら一個でいい』ですか無駄にかっこつけて! なんとなくこれを使えという意味ではなくてサンプルでくれただけのような気もしますけどそれはそれとしてカルスつっかえ!

 あー、屋台で使えたから油断してました。まさかちゃんとしたところでは逆に使えないという罠が待っていようとは……。


 しょうがないです、今日は野宿ですかねぇ……と思って門番たちに「持っているお金が使えませんでした」と立ち話をすると「冒険者ならギルドの宿舎にタダで泊まれるぜ」と教えてくれました。

 タダですか……。スマホの実質無料みたいにタダのものって落とし穴があると相場が決まってるのですけど。

 まあいいです、これもひとつの経験です。話のタネに泊まってみることにしましょう。


 というわけで冒険者ギルドに舞い戻りました。受付にまださっきのおっさんがいましたので声を掛けます。

「すいませーん、ちょっといいですかぁ?」

「お、早かったな。イーデーズの町はどうだった?」

「お金がなくてなにもできませんでした」

「うん、まあ、その何だ、頑張れ」

「ホテルに行ったのですけど泊めてもらえなかったのです。それでですね、ギルドに泊まるところがあるって聞いたのですけど」

「馬小屋を使いたいのか」

「馬小屋?」

「冒険者用宿舎の通称だ。冒険者ならある時払いで泊まれるから今金がなくても大丈夫だぞ」

「何だタダじゃないのですか」

「といっても格安だぞ」

「ちなみにおいくらですか?」

「一泊五アントだ」

「安っ」

 ちなみにアントは銅貨の単位です(屋台のおばちゃんに聞きました)。お昼に食べた羊の串焼きの半額ですね。


 宿泊の手続きをすると馬小屋とやらに案内されました。冒険者ギルドに併設されていて、入り口は外に向けてついていますけどギルドの建物からも出入りできます。一応男女別れてるみたいなんですけど、何故か普通に女性部屋に通されました。もういいですけどね。

 寝床はほぼ棚でした。三段ベッドと棚の合いの子みたいな棚が壁にずらっと打ち付けてあります。カプセルホテルみたいなものですかね。数えてみたら左右の壁に合わせて二十七人分ありました。いかにも金のなさそうな若い女が一人、死んだように眠っているほかは誰もいません。


 なお布団は棚に毛布を敷いただけのものでした。うーん、硬いです。

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