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1.69 冒険者のわからせスタイル

 さてその次の夜もボクは冒険者を探して歓楽街をさまよっていたのですが、違うものを見つけてしまいました。三人組のチンピラが小さな酒場に入って行ったのです。近づいてみると中から椅子の倒れる音や怒鳴り声が聞こえてきました。その飲み屋の入り口にはおしぼり屋マークが貼り付けてあります。

 やれやれ、ボクも冒険者の端くれではあるわけで、たまにはお仕事しましょうかねぇ。自分で委託した仕事を自分で受注するというのも変な気分ですけど。魔法のピンを打って冒険者たちに事件発生の知らせと位置情報を送信しておいてボクはお店ののれんをくぐりました。


「そこまでです!」

 飲み屋に飛び込むとチンピラが店長らしき男の襟首をつかんで恫喝しているところでした。

「何だぁ、てめえ」

「広域指定暴力組織冒険者ギルドですよ。お前冒険者ギルドに喧嘩を売るってことがどういう意味かわかってますか? たかが田舎のヤクザの組の一つや二つ、吹いて飛ばしちゃいますよ」

「ああ? 何を寝言ほざいてやがる! お前のどこが冒険者──」

「姉御、遅れました!」

 チンピラが寝言をほざいているとちょうど冒険者たちが到着しました。この狭いお店の中に次から次へと入ってきます。ゾロゾロゾロゾロ、十人もいます。夜の町をウロウロしてたのが一斉に集まったようですね。冒険者たちはあっという間に三人を引き離して取り囲んでしまいました。


「な、なんだよぉ……」

 しかしこのヒョロ助たちと比べたら冒険者ってほんとゴツイですね。体の厚みが倍くらいあります。考えてみれば剣一本でクマと戦う蛮族ですものね、こいつら。その辺のチンピラなんかでは比べ物になりません。

 飢えた肉食獣のような男たちに囲まれたチンピラは虚勢を張る余裕もありません。見るからに縮こまっています。

 これはもうボクの出る幕はなさそうですね。見物に回りましょう。ボクは手近な椅子に腰かけました。


「オウこの店で暴れてるってぇ不届き者はお前か? お前だな。お前に決めた!」

「冒険者ギルドに喧嘩売るとはいい度胸だな!」

「そ、そんなつもりは……」

「ああ? ならどういうつもりだ、言ってみろや!」


「お前冒険者ギルド舐めてんだろコラ」

「い、いえ……舐めてません……」

「ハァ? 何だコラ嘘つくんじゃねーぞコラ」

「舐めてなかったらウチの看板がぶら下がってる店で暴れるはずがねぇだろうがコラ」

「そ、それは……その……」


「ウチのシマで暴れるってことはテメェさては自殺志願者だな? よし、幇助してやるから感謝しろ」

「違います、違います!」

「面倒臭えからもう殺しちまおうぜ。どうせ生きてたって他人に迷惑かける以外のことはしやしねえんだしよ」

「す、すいません!」

「やってから謝ったって遅えよクズが」

「お前の寿命は後三秒な。覚悟はいいか? 三、二、一──」

「ひぃいいいい!」


 冒険者たちは三人のチンピラをそれぞれに取り囲んでそれぞれに問い詰めてます。海の底の自分が生き残ることしか興味のない魚類のような人情のかけらもない目をした男たちに囲まれたチンピラたちはいい年して泣きそうです。と言うか目の端に涙が光ってます。哀れなカスどもですね。地上に舞い降りた慈悲の化身であるところのボクは蜘蛛の糸を垂らしてあげることにしました。


「まあまあ」

 いきり立つ冒険者たちをなだめるとみんな振り上げたこぶしをピタリと止めました。

「ちょっと待ってください、殺すのはいつでもできます。とりあえず話だけは聞いてみましょう。まあ結果として殺すことになるかもしれませんけど」

「そうなることを願ってますぜ。俺は今こいつらをブッ殺したくてたまんねえ気分なんで」

 と言いながら冒険者はチンピラの一人をボクの前に押し出しました。どうやらこいつが兄貴分っぽいですね。ボクには見分けがつかなかったのですけど。


「まあ座るですよ──。お前が立ってるとボクがエラそうにしてるみたいじゃないですか──」

「お、おう──」

 促すとチンピラはボクの向かいの椅子に座りました。が、座るやいなや隣の冒険者が横っ面を張り飛ばしました。いえ本人としては軽くはたいたくらいの気持ちなんでしょうけど力に差がありすぎて首がほとんど後ろ向いてました。


「姉御と同じ高さで座るバカがあるか! お前は床だ!」


 慌てて椅子を降りたチンピラは地べたに正座しました。冒険者たちの様子を見てこの場で一番エラいのが誰だかようやく気付いたのでしょう。すっかり萎縮しています。

「ねえ、お前」

「は、はいっ」

「お前、目が見えますか?」

「……はい?」

「このお店の入り口にうちのマークが貼ってあったのが見えませんでしたか? 『このお店は冒険者が巡回していますマーク』が」

「いえ、あの、だって……本当に冒険者が来るなんて思わなくて……」

「ふーん。脳みそはスカスカ、目は見えてても無意味、と。そんなビー玉、いりませんよね」

 ボクは指を手前に引く動作をトリガーにチンピラの右目に魔法をかけてメリメリっと引っ張り出してやりました。

「ああああ! す、すいません!」

 飛び出しそうな右目を慌てて押さえたチンピラは頭を下げました。が、後ろの冒険者がその下げた頭をガツンとぶん殴りました。まあ本人としてはコツンと小突いた程度の感覚なんでしょうけど力の加減がおかしくてチンピラは床に叩きつけられてます。

「謝罪って言ったら土下座だろうがボケ!」

「す、すいませんでしたぁっ!」

 這いつくばうような土下座です。まあ言われてからやったって遅いのですけどね。


「お前の親分は頭の下げ方ひとつ教えてくれなかったのですか? ん? 何ならそいつも一緒に教育してあげましょうか?」

 チンピラはすいませんすいませんと震えながら繰り返しています。殊勝ですね、ご褒美をあげます。ボクはチンピラの後頭部を踏んずけて軽くグリグリしてあげました。


「寛大にも今回は見逃してあげますけど、次は組ごといっちゃいますよ」


 ボクは足を頭から下ろして冒険者たちを促しました。

「お前たち、こいつらを組まで送ってやるといいです。暗い夜道は危ないですからね」

「ヘイ姉御!」

 冒険者たちはチンピラを両側からがっちりホールドしてお店を出て行きました。


「まあそう心配すんなよ、お前らみたいな使いっパシリをやっても意味がねぇからよ。取るなら組長の首だ」

「すいません、それだけは勘弁してください……」

 なんて会話してたので後ろから声を掛けます。

「潰さなくてもいいですよー……今日はまだ。あ、でもこのお店の修繕費と慰謝料はもらっておいてくださいね」

「かしこまり!」

 冒険者たちはすいませんすいませんとうわごとのように繰り返すチンピラたちを抱え上げるように連れて行ってしまいました。



 その夜の冒険者たちの『説得』が功を奏したものか、これ以降おしぼり屋マークがついたお店にちょっかいを掛けるチンピラはいなくなりました。また既存の暴力団などにみかじめ料を払っていたお店がこちらに鞍替えするケースも増えました。

 そりゃ定義の上での暴力団と本物の暴力者集団のどっちが怖いか頼りになるかって言いましたら、ねえ?

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