1.67 おしぼり文化の伝道師
また自警団がやってきましたけど今度はお断りしました。正当防衛ですのにいちいち付き合いきれません。しっしっです。
「言いましたよね、次は手足じゃ済まさないって。お前たちちゃんと警告しましたか? ボクはやると言ったらやるエルフです。いいですか、次は生きたまま生皮を剥いで歩く人体の不思議展にしてやります。ヤクザが大切ならちゃんと箱の中にしまっておくことですね」
その後自警団はチンピラの残りを保護するためにボクへの殺人準備罪をでっち上げて逮捕しました。
構成員中組長を含めた二十人が再起不能、二人が入院、残りが残らず逮捕されたバガッド・ファミリーは壊滅しました。これにて町の清掃終了、めでたしめでたし──と思ったのですが……。
ところがまだキッチンの隅にこびりついた油汚れのような連中がしつこく残っていたのです。
二日後のことです。ボクはミラからデリバリーサービスの業務報告を受けていました。ちなみにこのサービスはこいつが全部一人で配送しています。便利ですね、分身。
「なんかさー、あちこち困ってるみたい」
とミラは言いました。
「何のことです?」
「ほら、リンスがバガッド・ファミリーを潰したじゃない? そのせいで縄張り争いが起きそうなんだって」
何でも今までバガッド・ファミリーはあちこちのお店からみかじめ料を取っていたそうなのですが、その代わりに一応庇護下にも置いていたわけです。ところがそのファミリーがなくなってしまったものですから、残されたシマをめぐって別の暴力団と半グレみたいな連中がにらみ合いを始めてしまったということのようです。暗黒街とはいえある意味均衡が保たれていたのにそのバランスをボクが崩してしまったのですね。
うーん……ちょっと責任感じちゃいますね。ここはひとつボクが乗り出して解決することにしましょうか。
と言うわけで翌日、ボクは早速商業者ギルドへと赴いて新しい会社を登記しました。名付けて『リンスおしぼりサービス』です。絹を卸している布問屋に大量の木綿の布を用意してもらって、お針子たちに大量のおしぼりを縫ってもらいました。この世界ではまだパイル地が発明されていないのでハンカチみたいになっちゃいましたけど。ついでにクリーニング業者も紹介してもらっています。
おしぼりを作ってもらっている間にボクはこれまでバガッド・ファミリーがシマにしていたお店を一軒一軒回って丁寧に『お話』して、おしぼりを納めさせてもらうことになりました。おしぼり1枚銅貨8枚でノルマは一軒当たり一日最低30枚、つまり銀貨3枚分です。おしぼりの納入と回収はデリバリーサービスの配送に乗っけます。使ったおしぼりはクリーニング屋さんに洗濯してもらってまた使い回します。洗濯代はおしぼり一枚銅貨2枚です。この時クリーニング業者を倉庫代わりに使うことで非店舗型の営業を実現しました(ボクの商業者カードだと倉庫を借りられないのですよね)。
押し売りみたいに押し付けたおしぼりですが、その代わり何かあったときにはサービスとして用心棒がついてくるのです。おしぼり代がみかじめ料の代わりということですね。とはいえ会社を経営しておしぼりを納入して時には用心棒をやるなんて、そんなかったるいことを自分でやるつもりはありません。経理は金髪に押し付け配送はミラに丸投げして、そして用心棒役は冒険者ギルドに委託しました。
つまりボクの会社からおしぼりを買っているともめ事が起きたとき冒険者がやってきて力づくで解決してくれると言うわけです。業務にしてしまえば暴力も許可されますからね。冒険者は基本的に犯罪出来ない一方で、冒険者とチンピラとではキレた象と牙を抜かれた子豚くらい戦闘力に差があります。酒場としてはこれほど役立つ用心棒はいないでしょう。確かな安心の代金として一日銀貨3枚は安いと思いませんか?
なお冒険者ギルドには業務委託料として毎日売上の3割を進呈しています。事実上バガッド・ファミリーが持っていた利権のいくらかをギルドに移譲したようなものです。何もなくても毎日お金が入って来るということでギルマスはニコニコしてました。
またおしぼり屋のマークを作って納入先のお店の入り口にペタペタ貼り付けました。「このお店でもめ事を起こしたら冒険者がやってきます」という目印です。
そして自警団を通して他のヤクザたちに警告してもらいました。そいつらのことを直接には知らなくてボクでは警告のしようがなかったので。
「いいですか、冒険者はやると言ったらやります。このマークがついたお店で暴れたら皆殺しにされても文句は言わせませんよ。今度こそちゃんと伝えてくださいね」




